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今村拓馬

きょうだいリスク化社会 新たな「世代内格差」が生まれる

2016/02/10(水) 08:55 配信

オリジナル

無職の弟、非婚の姉......。
雇用不安や非婚化で、自立できない大人たちが増えている。高齢の親に代わって彼らのセーフティーネットになるのは、同世代のきょうだいだ。だが、きょうだいを支え続けることで、自分や子どもの将来が危うくなる恐れもある。
(ライター 古川雅子/Yahoo!ニュース編集部・AERA編集部)

弟への仕送りをやめる

埼玉県に住む男性(49)は、4歳年下の弟への仕送りを続けてきた。ともに独身で、それぞれ別のところで一人暮らしをしている。男性は、非正規で週3日働く弟に、「光熱費」という名目で月1万円の仕送りを続け、ボーナスの時期にはさらに上乗せした金額を送ってきた。

だが、男性自身が厳しい状況にさらされている。ここにきて、自分が勤めている会社の体制が二転三転して、正社員から契約社員に切り替わってしまったのだ。さらに、事業再編により勤務先の子会社が閉鎖されるため、今後は退職して派遣のエンジニアとして働く予定だ。

「そもそも自分の将来もわからなくなってしまった以上、もう弟への送金は続けられない。弟には自助努力でなんとかやってもらうしかない」

弟への仕送りをやめることを決意した。

児童のいる世帯の平均児童数の年次推移

親は親で、かれこれ20年以上も弟への資金援助を続けていた。父はすでに亡くなり、弟の国民年金の支払いを母が肩代わりしてきた。そのうえ、母が管理しているアパートの家賃収入の半分を弟に仕送りしている。それでも足りない分を、兄である自分が補ってきたつもりだった。

親と同じような援助ができるのか

親亡き後、自立できないきょうだいの暮らしをどう支えるか――。

少子化できょうだいの数も減るなか、老親介護をどう乗り切るかというステージを飛び越え、さらにその先に横たわるリスクとして「きょうだい同士の扶助・援助・介護」という新たな課題が見えてきた。ある程度は年金に守られた親世代のサポートとは違い、ほぼ「同世代」であるきょうだいの将来的なサポートについては見えにくい。親が全面的に援助してきた独り身の子ならば、今度はきょうだいに「親亡き後、親になり代わってそれまで親がしてきたような援助を続けられるのか」が問われてくる。

児童の有(児童数)無の年次推移

「働けない子どものお金を考える会」を主宰する、ファイナンシャルプランナーの畠中雅子さんによると、最近増えてきたのが、中高年に達したニート、ひきこもりの子を抱える老親からの相談だ。いま相談を受けている最高齢のひきこもりの本人は60代に達しているが、すでに親は亡くなり、きょうだいが相談に訪れているという。

親亡き後の「サバイバルプラン」

こうしたケースでは、本人が働けない状況が続く前提で、本人が親亡き後も生き延びていけるようなプランを考えていく。畠中さんは「サバイバルプラン」と呼ぶ。相談を始めた当初は、相談者の9割以上は親が亡くなってからも子の暮らしが生涯にわたって何とか成り立つ設計ができたが、最近では成立しそうもないケースも多く見られるようになってきた。そうすると、きょうだいの理解が必要になってくる。

「ひきこもりの人の将来設計は、きょうだい関係がうまくいけば、ほぼ成功すると言っていいぐらいです」(畠中さん)

まだ親が元気なうちから、老親介護問題をスルーしてひと世代またぎ、「同世代のもう一人の家族」であるきょうだいの行く末を心配するというのも、やるせない社会状況だ。それだけ、働き盛り世代の暮らしは不安定で、将来不安が強いということだろう。

フリーランスで働く女性(47)は、高齢出産した息子(0)の父親とは「パートナー」として共同で育児をしているが、結婚や同居はしていない。都内にある実家に住み、仕事と子育てを両立している。

「母が70代で父は80代。両親とも頭ははっきりしているけれど、耳が遠くなったり身体の無理がきかなくなったりして、老いを感じます」

親と同居の壮年未婚者数の推移

息子が何人を支えるのか

実家には、独身の兄(51)も住んでいる。以前は正社員として働いていたが、仕事が肌に合わず、転職を繰り返し、いまは非正規だ。年金生活者の親が元気なため、親が兄にお金を貸したりしている。何かあったら助け合うのが本来の家族だとは思うが、兄に頼られすぎても......という不安はある。

「兄は仕事が不安定なうえ、家事などは実家の母に頼っている。せめて生活面で自立してほしい。兄の介護までは考えたくないですが、子どもの将来を狭めるかもしれないというリスクは感じています」

息子が将来、「海外の大学に行きたい」などと夢をみたとしても、自分が健康でなかったり、兄より先に逝ったりするようなことがあれば、息子が「僕が唯一の近い親族だから、伯父さんの面倒をみるために夢を諦めよう」とも考えかねないからだ。

今からリスクばかりを考えていても仕方がないが、「息子1人が、いったい何人を支えることになる?」と想像すると、うーんと考え込んでしまう。お金だけでなく、介護の問題もありうる。かといって、高齢出産でやっと1人産んだところ。息子のきょうだいを増やすという選択も難しい。行き着くところ、こう思うのだ。

「私が頑張って働いて、元気で長生きするようにしよう。貯金もしよう」

家族という「舞台」で起きる依存

従来、家族のセーフティーネットといえば、代表格が「配偶者」「子ども」であった。ここにきて、新たなセーフティーネットとして浮上してきたのが「きょうだい」だ。自立できないきょうだいを「ほぼ同世代の別のきょうだい」がどう支えていくか。2月12日に発刊する新書『きょうだいリスク――無職の弟、非婚の姉の将来は誰がみる?

では、雇用不安が広がり、非婚化で単身者が急増し、少子高齢社会の真っただ中にいる私たちが新たに直面する社会課題として問題提起している。さらに見方を変えれば、「世代内」の格差問題でもある。

どちらか一方のきょうだいが他方を「丸抱え」した場合に、共倒れしてともに困窮する事態も考えられる。家族や介護を専門とする社会学者の平山亮さんは、同著でこう指摘している。

「日本の社会保障の仕組みは、『依存状態』のきょうだいを支えることができるようには、必ずしもできていない。『依存状態』のきょうだいに対する他のきょうだいのジレンマは、家族主義の『舞台』の上だからこそ起こっている。言い換えれば、これはきょうだいに対する『気の持ちよう』の問題などではない。『舞台』の上に『あるべきもの』がないことによる、構造的な問題なのです」

「きょうだい」をリスク化させないために、私たちの社会ではそもそも家族主義ですべてを支えるべきなのか、だとすればその「舞台」に何を用意しなければならないのか。新たな構図を描いていくべき時期に差しかかっている。

[写真] 今村拓馬
[モデル]佐藤泰造(兄)・龍造(弟)


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