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稲垣謙一

平凡でも特別でも学生時代は生きづらい――尾崎世界観と花澤香菜が回想する、中高生時代の「どうにもならない日々」

2020/11/07(土) 09:45 配信

オリジナル

「生きづらさ」がクローズアップされがちな昨今だが、今をときめく人気者でも例外ではない。2013年以降のオリジナルアルバムはすべてベスト10入りし、2014年と2018年には日本武道館公演も成功させた人気バンド・クリープハイプのボーカル・尾崎世界観。『化物語』の千石撫子役や『ニセコイ』の小野寺小咲役など、数々の作品で人気を集める声優・花澤香菜。若い年代のファンから熱烈な支持を受けているふたりが、幼少期から抱えてきた「違和感」を振り返った。(取材・文:山野井春絵/撮影:稲垣謙一/Yahoo!ニュース 特集編集部)

「自分と遊んでて、この人、楽しいかな?」

花澤 尾崎さんは、どんなお子さんだったんですか?
尾崎 変な子どもでしたね。同級生と遊ぶのがつまらなかったんです。公園で遊ぶとか、家に行ってゲームをするとか、決まったことしかしてないなと思って。一緒にいても、「自分と遊んでて、この人、楽しいかな?」と思ったり。でも、大人の話は面白く聞いていました。父親が仕事から帰ってくると、母親に「電車でこんな人がいた」とか、仕事のこととか、そういうのをいろいろ話していて。早くもっと理解したいし、そういう話ができるようになりたいなと思っていましたね。そういう違和感を持ちながら友達と一緒にいて、自分はちょっとおかしいんじゃないかなと不安でした。

尾崎世界観

花澤 面白い! 尾崎さんのそういう下地が、音楽だけじゃなくて文章の肥やしにもなってきたんでしょうね。
尾崎 花澤さんは子役からスタートされているので、幼い頃から目立って元気な子だったのでしょうか?
花澤 小さいときは目立ちたがり屋で、すごく生意気だったと思います。子役は特別なことをしているという感覚があって、あるとき仕事の内容を友達に言ったら、「香菜ちゃんが自慢してきた」って広まって、そこで「ああ、これはまずい」と思ったんです。そのときから急激に、目立たぬように……と気をつけるようになりました。高校生のときには、同級生にはっきりと「香菜みたいにはっきりしない子は嫌い」って言われたこともあるくらい。
尾崎 目立っても、おとなしくしても叩かれてしまう、大変だ(笑)。
花澤 なんか反抗期もなく育ってきたんですよ。言いたいことを言葉にするのが難しくて、「目立つぐらいだったらおとなしくしていよう」みたいな感じだったので。
尾崎 それでも、やっぱり表現者としての仕事を選んだんですね。
花澤 はい。高校生の頃は、仕事ももうポツポツという感じで、大学で新しいことをはじめようかな、と思ってました。アニメのレギュラー仕事があったんですが、そこに「もう仕事は全部辞めます」と伝えたら、「声がいいから辞めないで」って止めてくださった方がいて。私はそれまで、「おまえの代わりはいくらでもいるから頑張れ」みたいな言われかたが多くて、あまり「いい」って言われたことがなかった。「こんな私を必要としてくれる人がいるなら」とハッとしました。その止めてくれた方が、たまたま声優事務所の人だったので、そこから声優人生がスタートしたという感じなんです。

花澤香菜

変なあだ名をつけられながらバイトを続けていくのかな

27歳でメジャーデビューした遅咲きの尾崎と、幼稚園時代から子役として活躍してきた花澤。尾崎は悩み多き学生時代を過ごしてきた。

花澤 小さい頃から今のようなご自分をイメージできていたんですか?
尾崎 できてないですね、僕は。勉強も運動もできなかったので、何もできないというコンプレックスがずっとありました。学校にいる限りは絶対に評価されないから、早くそこをスキップしたかった。中学に行ってもダメ、高校もダメ。卒業してバンドを始めてさらに地獄になったので、もうこれは覚悟を決めるしかないって思いました(笑)。10代後半から20代半ばぐらいまでは、ほんとに「このままずっと、バンドしながらバイトを続けて、陰で変なあだ名とかつけられるのかな……」と思ってました。
花澤 具体的ですね(笑)。
尾崎 「あいつ、また休みかよ」「売れないくせにライブなんかしてんじゃねえよ」って言われながら……。
花澤 どうやって自分の気持ちをキープしてたんですか?
尾崎 妄想ばかりしてました。「武道館でライブ」とかじゃなくて、もっと現実的に、例えば「次のライブだったら、お客さんの中にこういうレコード会社の人がいて、声をかけられるかも」とか、かなりリアルに。その妄想ができる限りは続けようと思っていました。いまだにそうですね。目標があるときは、必ずちゃんと明確に頭の中で考えて具体化します。
花澤 すごい。

尾崎 花澤さんは、どういうふうに自分のやりたいことに向かって考えを持っていくんですか?
花澤 私の場合はひとりで何かをするのではなくて、作品の一部として必要としてもらうために、自分の引き出しを増やそう、深めようと、ずっとしている状態で。モチベーションは「もっと上手になりたい」とか、そんなシンプルなものだと思います。
尾崎 そうか、花澤さんと僕は、子どもの頃からそういった部分は真逆なんですね。人が作ったものに入っていくのと、自分が作ったものに入ってきてもらう。それぞれに違ったむずかしさがありますよね。
花澤 尾崎さんは、若い頃のご自分に何か声をかけるとしたら、何と言いたいですか?
尾崎 「今、悔しかったり負けてると思ったりしてるやつに、全員勝てるぞ」って言いたいです。
花澤 わあ!
尾崎 花澤さんは?
花澤 私は、「何とかなるって思ってるかもしれないけど、自分で踏み出さないと、何ともならないよ」って言いたい。若い頃は、周りの状況に甘えていたなという自覚があるので。
尾崎 真逆のアドバイスですね(笑)。
花澤 それでもなんとか今、どうにかなっているのはありがたいことかなって。
尾崎 そう。今も、心のどこかで先々について、どうにかなると思っていますね。
花澤 それぞれに「どうにかなる日々」がある。
尾崎 そうですね。

嬉しすぎておなかが痛い

ふたりの会話に出てきた「どうにかなる日々」とは、志村貴子原作の漫画のアニメーション映画のことだ。それぞれの事情を抱えた登場人物たちの恋心を、淡く繊細に描いたオムニバスショートストーリー。4話で構成され、花澤は冒頭のエピソードに登場する「えっちゃん」という女性を演じている。「えっちゃん」は学生時代も、現在も女性に恋をする。また、主題歌を含め、すべての劇伴音楽をクリープハイプが担当。クリープハイプにとって初の挑戦だ。

花澤 「えっちゃん」の感情をうまくコントロールできない感じに、すごく共感しましたね。もやもやしちゃったり、電車の中でふと涙が出てしまったり。そういう気持ちになることは、今でもあるなあって。
尾崎 実は、アニメの主題歌をやらせていただくことに、けっこうコンプレックスがあって。これまで、あまりいいことがなかったんですよ。音楽を担当することで、その作品を壊す恐ろしさがやっぱりあって。でも、この『どうにかなる日々』であれば、もう一度挑戦してみたいと思えたんです。
花澤 挑戦していただいて本当によかった。主題歌の『モノマネ』はもちろん、どのシーンの曲にもすでに思い入れがあります、私。

花澤は大のクリープハイプのファンとしても知られている。実は、この取材が2人の初対面。尾崎が花澤に「寝巻にしてください」とプレゼントしたのはクリープハイプのTシャツだった。粋な計らいだ。

花澤 対談が決まって、ずっとソワソワしていました。こういうお仕事をしていても、なかなかファンである方とお会いできる機会ってないんですよね。ほんとにもう、嬉しすぎておなかが痛いっていう。クリープハイプを聴くと、歌声と気持ちがピシャーッて出てくるというか、なんて言ったらいいんでしょうか……。
尾崎 ピシャー(笑)。
花澤 もやもやした気持ちを自分では言葉にできないけど、歌に乗せてどこかに出せるような気がするんです。だから聴いているだけで胸が熱くなる。寄り添ってくれるっていうのとはまた違って、一緒に闘ってくれるような感じがするんですね。
尾崎 一緒に闘う、ああ、それはすごく嬉しい感想です。
花澤 「イノチミジカシコイセヨオトメ」という曲が特に好きで、カラオケでも絶対に歌います。20代の頃、もう仕事も恋も、何もうまくいかないというときがあって、あの曲に支えられたんです。

明日には変われるやろか
明日には笑えるやろか
花びら三枚数えたら いつかは言えるか スキキライスキ
――クリープハイプ「イノチミジカシコイセヨオトメ」

尾崎 あの歌は自分の中でも大きくて。かつて、メンバーがいなくなったときに、ひとりで弾き語りライブをやってたんです。ライブ前日に眠れなくて、ふてくされながらもギターを弾いてたら、たまたまできた曲が「イノチミジカシコイセヨオトメ」です。ふだんはゆっくりと作るんですけど、あの曲だけは歌詞もメロディーも全部そのまま出てきたんです。翌日のライブですぐに歌いました。お客さんは少なかったけれど、みんな「あれ何の曲?」「すごいいいね」って言ってくれて、そこから変われましたね。その曲で花澤さんを救えたなんて、とても嬉しいです。
花澤 今回、映画『どうにかなる日々』の音楽をクリープハイプが担当すると聞いて、「ああ、もうぴったり過ぎる!」って思いました。このお話は、いろんな人たちのちょっとモヤモヤした、なんとも言えない日常を描いてる物語。だからこそ、クリープハイプの音楽は絶対に合うと思ったんです。

30代、でもエゴサーチはしてしまう

多感な時期を乗り切って、尾崎はバンドマンとして、花澤は声優として大成功を収めた。しかし、ふたりとも気になってしまうものがあるという。インターネット上での人々の声だ。30代を歩む現在、SNSが生む「生きづらさ」とうまく付き合わないといけないのだという。

尾崎 花澤さんは、エゴサーチとかしないですよね? 僕は心のトレーニングだと思って、たまにやるんですけど。
花澤 私も、気になるときはしますよ。
尾崎 花澤さんなら、文句を言われたりはしないですよね?
花澤 ……めちゃくちゃ言われますね。
尾崎 ええっ? それを見てるんですか。
花澤 気にするときもあれば、しないときもあるんですけど。
尾崎 花澤さんでも言われるんだったら、じゃあ、言われてもいいか(笑)。何にでも言う人はいるんですね。
花澤 そうなんですよね。意外な形で受け止められることもあるんだなって思いました。
尾崎 気づかせてくれてありがたいと思いつつも、ただの悪口じゃないかそれ、というのもある。でも、SNSをあからさまに悪くいうのも良くないとは思います。いいことも悪いこともいっぱいあるので。いい意見をときどきスクリーンショットしてるんですよ。カメラロールにそれが溜まってるときは、精神的にヤバイときです(笑)。
花澤 いやいや、本当に、褒められるのが一番うれしいです。
尾崎 そうですね。
花澤 そうですよ。

尾崎世界観(おざき・せかいかん)
クリープハイプのボーカル、ギター。1984年、東京生まれ。2012年アルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャーデビュー。2016年に自身の本名を冠した小説『祐介』を刊行、作家としても活躍する。『どうにかなる日々』では、バンドとして初めて劇伴歌を含め、映画音楽を担当した。

花澤香菜(はなざわ・かな)
声優、女優、歌手。1989年、東京生まれ。子役として活躍した後、『LAST EXILE』で声優デビュー。出演作品は『物語シリーズ』『PSYCO-PASS』『ニセコイ』など多数。『鬼滅の刃』の甘露寺蜜璃役としても注目を集める。現在公開中のアニメーション映画『どうにかなる日々』には「えっちゃん」役で出演。


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