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長谷川美祈

「離婚後、子どもに会えない」――親たちの切実な悩み、新たな共同養育というスタイルも

2020/07/14(火) 18:00 配信

オリジナル

日本の法律では、離婚後、どちらか一方にしか親権が認められていない。親権を得た側は必要以上に一人で子育てしよう、しなければと思いがちで、相手との面会を避けてしまうこともある。しかし、子どもによっては「双方とつながっていたい」と思うときも。そうした中、離婚後も「共同で養育する」という動きが広まりつつある。離婚後の子育て問題に直面する人や、共同養育を支援する団体などを取材した。(ライター・上條まゆみ/Yahoo!ニュース 特集編集部)

子どもに会えない

千葉県在住の会社員、宇津木みどりさん(仮名、38)は、小学6年生、5年生、3年生の子どもの母親だ。3年前、夫の長年の女性問題が原因で、3人の子どもを連れて家を出ようとした。

しかし、直前に夫に見つかってしまった。夫は下の子2人を実家に連れていった。残った長女はみどりさんと暮らしていたが、あるとき「弟や妹に会いたい」と出かけて、そのまま帰ってこなかった。

「子どもたちを迎えに行きましたが、鍵をかけられ、中には入れてもらえませんでした」

宇津木みどりさん(仮名)(写真:編集部)

みどりさんは家庭裁判所に、子どもの引き渡しと、どちらが子どもの面倒を見るかを決める「監護者指定」を申し立てた。しかし、決着する前に子どもの転校手続きが取られ、知らない小学校に通わされていた。転校先を突き止めるも、学校側は同居親ではないことを理由に、みどりさんの来校を拒絶。みどりさんは面会交流を求めて、調停を申し立てた。

次第に子どもたちはみどりさんに会いたがらなくなった。同居する親の影響を受けて、別居親を拒絶する「片親疎外」が進んでいたようだ。現在は月に1回、みどりさんから子どもたちに手紙を送り、相手からは子どもの写真が送られてくるという交流を続けている。しかし、先日受け取った写真には、みどりさんが送った手紙にハサミを入れている子どもの姿が写っていた。

「父親にそうしろと言われたのかどうかはわかりませんが、少なくとも写真を撮ったのは父親です。ひどすぎますよね」

月に一度、手紙を送る。少しでも子どもが喜んでくれるように、かわいらしいカードを手作りする(画像は一部加工しています)(写真:編集部)

養育費の受け取りを拒絶

東京都在住の田部洋一郎さん(仮名、50、会社経営)は、7年前に元妻と別居して以来、長男(16)と長女(14)にほとんど会えていない。

当時、元妻は職場の同僚と不倫をしていた。それが発覚し、口論が絶えなくなると、元妻は子ども2人を連れて長野県の実家に帰ってしまった。子どもたちの転校手続きもされていた。

洋一郎さんは、子どもと離れて暮らすことに耐えられず、弁護士を立て、家庭裁判所に同居調停(夫婦関係調整調停)を申し立てた。しかし、計6回の調停を経ても同居はかなわず、元妻は洋一郎さんを遠ざけ、子どもたちにも会わせなかった。

「通っている小学校まで運動会を見に行ったら、警察を呼ばれたりもしました」

夫婦関係の再構築は諦めるにしても、子どもには会いたい──。洋一郎さんも家庭裁判所に面会交流調停を申し立てた。

「面会交流を申し立てて5カ月後に試行面会60分、2回目の試行面会が2カ月後に60分。その他に、当時は私も親権者だったので、運動会や学芸発表会を6回見に行きましたが、きちんとした面会交流は7年間で1回だけです」

正式に離婚が成立したのは、昨年夏。子どもの親権は「監護継続性の原則」から元妻が持った。元妻は今も面会交流に消極的である。

「僕が養育費を払わせてくれと頼んでも、受け取ると子どもに会わせなくてはならないと思うのか、受け取らないです。子ども名義で振り込み用の銀行口座を作り、キャッシュカードを郵送したのですが、何度も受け取り拒否をされてしまいました」

子どもに会えないつらい日々。洋一郎さんは、いつか会いに来てくれる日を思い浮かべ、毎月子ども名義の通帳に貯金をし、ブログに思いを書きためている。

写真はイメージです(写真:イメージナビ/アフロ)

「単独親権」の弊害

日本の民法には、未成年の子の父母が離婚する場合、どちらかを親権者に決めなければならないと定められている。いわゆる「離婚後単独親権」制だ。離婚後も父母の両方が親権を持ち続ける選択肢はない。

この問題点について、現代の家族のあり方を研究する明治学院大学の野沢慎司教授は次のように話す。

「離婚後に親の一方が親権を必ず喪失する制度は、『親権をもつ親が一人で子どもを養育するもの』という誤解を生みやすい。親権をもつ親が『自分が親権者なのだから』と別居親のかかわりを拒んだり、親権のない別居親が養育費を払わないとか、子に会おうとしないなど、親としての責任から逃れたりすることが許されるような印象を与え続けている」

別居親が子どもとのつながりを継続する手段の一つに、面会交流がある。しかし、厚生労働省の「2016年度全国ひとり親世帯等調査」によれば、母子家庭の46.3%、父子家庭の32.8%で面会交流が一度も実施されていない。

離婚後、自ら面会を避けるケースもあるが、先に登場したみどりさんや洋一郎さんのように、相手との関係がこじれてしまい、会えなくなったケースもある。

2017年の離婚件数は約21万件で、そのうちの約6割に未成年の子がいる。人数にして約21万人。父母の離婚によって、一方の親とのつながりを断たれる子どもは少なくない。

写真はイメージです(写真:アフロ)

離婚後の面会交流を支援

父母の感情的な対立が激しく、当事者同士の話し合いでは面会交流がうまくいかない場合に、間に入って面会交流を支援する民間団体が増えている。2008年には8団体だったが、2012年に民法が改正されて、子どものいる夫婦が離婚する際に取り決める事項として、面会交流と養育費の分担が明文化されると、各地で多くの団体が設立された。現在は全国に50ほどの団体がある。

その一つが、東京と神奈川を中心に活動する「りむすび」だ。代表のしばはし聡子さん(46)は、2016年の設立以来、これまでにのべ2000件以上の相談や面会交流の支援をしている。また、弁護士と連携して、円満な離婚をサポートするプログラムも提供している。

しばはしさんのベースになっているのが、「共同養育」という考え方だ。父母が別居・離婚した後も、ともに子育てにかかわる。「親権」を喪失したからといって親であることに変わりはないし、両親がともに養育責任を果たすことが子の利益になる。共同養育をするためには、争わずに「夫婦」から「親同士」へと、関係をシフトしていくことが大切だとしばはしさんは考えている。

しばはし聡子さん(撮影:長谷川美祈)

共同養育で気持ちが楽に

東京都の会社員、藤原えみさん(40)は「『共同養育』という言葉と出合って気持ちが軽くなった」と話す。「りむすび」のサイトでその言葉に出合った。

藤原さんは2年前、4歳の娘を連れて夫と別居。双方弁護士を入れての話し合いを経て、離婚した。別居を開始したときから、休日には娘を会わせていた。娘は、父親に会うと帰り際に寂しがって泣いた。「どうして一緒のおうちに帰らないの、いつからまた一緒に暮らせるの」。実家の母には「こんなに悲しい思いをさせるなら、いっそ会わせないほうがよいのでは」と言われた。藤原さんはこう振り返る。

「離婚したら女手一つで子どもを育てるのが当たり前、それでも立派に育っている子どもはたくさんいる、別れた父親と子どもの交流がイメージできない、というのが親世代のスタンダードだったのだと思います」

しかし、父親を慕う娘の姿を見ると、会わせなくてよいとは思えない。子どもにとって、別れた夫との面会はどれくらいの頻度が最善なのか。本を読んだりインターネットで調べたりしたが、「月1回2時間が平均」と書いてあるかと思えば、「海外では週末のみならず平日にも行う」とも書いてある。迷いが深まった。

そんなときに「りむすび」のサイトで「共同養育」という言葉を見た。相談に行くと、しばはしさんは「子どもが会いたいと思うだけ、何回でも会わせてください」と即答した。「子どもが両親から愛されていると実感できることが子どもの心の安定につながりますから」。藤原さんにとって、その説明は納得できるものだった。

藤原えみさん(撮影:長谷川美祈)

今、娘は土曜か日曜のどちらかは父親と過ごす。保育園の行事などもこまめに父親に知らせ、積極的に参加してもらっている。娘には「パパとママは離婚したけれど、パパはパパだしママはママだよ」と伝えている。

「お休みの日には一日中たっぷり父親と過ごせるので、娘の表情が明るくなった気がします。私自身、娘から父親を奪ってしまったという罪悪感から解放されて楽になりました」

ただし、藤原さんが当初悩んだように、別居親に会わせることでかえって子どもの気持ちが不安定になることもある。しばはしさんはこう言う。

「会わせる際には、相手の悪口を言わない、子どもを通して相手の詮索をしない、子どもを伝言係にしないことが大切です。また、子どもが親に聞きたいことがあったときは質問できるような雰囲気づくりも、子どもの気持ちを安定させます」

写真はイメージです(写真:アフロ)

自治体が支援に乗り出す

「共同養育」という言葉こそ使っていないが、別居・離婚後の子どもの養育支援に積極的に取り組んでいるのが、兵庫県明石市だ。2014年に「こども養育支援ネットワーク」をスタートさせた。

同市役所の市民相談室課長の村山由希子さんは、こう話す。

「親の離婚によって子どもが受ける不利益をできるだけ少なくしたいという思いから始まった取り組みです。調停となれば夫婦の双方に弁護士がつくのに、子どもにはつかない。『どちらが持っていくか』などと、親権をめぐって子どもがまるで荷物か何かのように扱われることもあります。夫婦の争いにおいて、子どもの気持ちは置き去りになることが多いのです」

「こども養育支援ネットワーク」では、離婚をしても親の双方が養育に責任をもつよう啓発に力を入れている。離婚前に夫婦で話し合い、子どもの養育計画を決めるよう促す。

明石市では、「こどもの養育に関する合意書」と「こども養育プラン」という2種類の用紙を作成。市役所に離婚届を取りに来た夫婦に配布している。

「合意書」には、いくらの養育費をいつまでどの口座に振り込むか、面会交流はどれくらいの頻度で場所はどこで行うかなど、具体的に書き込めるようになっている。「養育プラン」はお互いの意見を書き留めたり、合意をまとめたりするためのメモとして使う。市への提出義務はないが、調停や裁判の資料として使うことができる。

「この用紙を配布し始めたことで、離婚届の『養育費と面会交流の取り決め』のチェック欄の記入率が上がりました。全国で約60%のところ、明石市では約70%になっています」(村山さん)

明石市役所(写真:市役所提供)

2016年からは面会交流の支援にも乗り出した。

子どもが明石市在住で中学3年生以下ならば、子どもと親の同意のもと、交流日程の連絡調整や子どもの引き渡しの仲介をする。親は月1回、無料で利用できる。2016年9月にサービスを開始し、これまでに17組の親子が利用した。

乳幼児から小学校低学年の子どもがほとんどで、市の子育て支援センターの遊戯室などで、別居親と数時間から半日ほどを過ごす。親同士が顔を合わせないように、待ち合わせ場所や時間をずらすなどの工夫をしている。利用者からは「支援のおかげで定期的に面会交流ができるようになった」「無料なので経済的に助かる」などの声が寄せられている。

「しばらく親子が顔を合わせていなかった場合、幼いお子さんだと『この人誰?』という反応をすることもあります。それが、回数を重ねるごとに、会った瞬間にうれしそうな顔を見せるようになります。面会交流支援をしてよかったと思う瞬間です」(村山さん)

子どもの利益をどう守るか

「りむすび」や明石市のような取り組みは少しずつ広がっているが、みどりさんや洋一郎さんのように、子どもに会えない親は依然として存在する。父母が離婚した後も親子が交流することは、親の権利というよりもむしろ子どもの権利だ。

前出の野沢教授は「離婚で親の法的責任が変化する現在の制度が、共同養育を遠ざけている」と話す。

「子どもの貧困や虐待などの問題をきっかけに、離婚後の子どもの最善の利益をどう守るかが問われています。社会の枠組みを、子ども中心の視点で変えていくことが重要です。父母が離婚した後も両方の親から経済的、精神的ケアを受け続けられるように、社会が保障する仕組みにすることが大切です」


上條まゆみ(かみじょう・まゆみ)
1966年、東京都生まれ。教育・保育・女性のライフスタイルなど、幅広いテーマでインタビューやルポを手がける。近年は、離婚や再婚、ステップファミリーなど「家族」の問題を追求している。

[写真]
撮影:長谷川美祈
写真監修:リマインダーズ・プロジェクト
後藤勝

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