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石橋俊治

「大きくなったら、ジョイマンになりたい」――パパは一発屋、娘に明かせない高木に迫る時限爆弾

2019/04/21(日) 08:58 配信

オリジナル

筆者の職業は、漫才師。コンビ名を髭男爵という。10年ほど前の2008年に、“まあまあ”売れたが、現状はさっぱりの一発屋。と同時に、この春、小学校に上がった一人娘の父親でもある。
今のところ、僕は彼女に自分の本当の職業を教えていない。基本的には、“とんでもなくフレキシブルに働くサラリーマン”で通している。理由は一発屋。
別に恥じているわけではない。一発屋という言葉に含まれる「負け」や「失敗」といった苦み成分に、娘を触れさせたくないだけである。親の仕事を知らぬまま成長するのは、教育上どうなのかとの不安もある。
他の “一発屋”たちはどう対処しているのだろうか。
(取材・文:山田ルイ53世/撮影:石橋俊治/Yahoo!ニュース 特集編集部)

お笑いコンビ・ジョイマン。高木晋哉(写真)と池谷和志のお笑いコンビ。NSC東京校の卒業生で、2003年4月に結成。現在、ルミネtheよしもとや大宮ラクーンよしもと劇場を拠点に活動中。

1児のパパ・ジョイマン高木晋哉

「でもそれって、ストレス溜まりそうだなー」

筆者の窮状を聞き終え、そんな感想を述べたのは、ジョイマンの高木晋哉(38)である。

「だって、いつか聞かれますよ。『何であんなうそついてたの』ってなるでしょう」

一応、芸人としては彼の方が後輩。しかし、父親業では先輩である。少々上から目線が気になるが真摯(しんし)に耳を傾けるべきだろう。

お笑い芸人、ジョイマン。

今から10年ほど前、「クリントン 20トン」「柴咲コウ 尾行」など、意味が通らぬ韻を踏み、「脱力系ラップ」と評され人気を博すも長くは続かず。
ほどなく一発屋と化した。

「限定50人のサイン会」を開いたところ、客が一人も来なかった……通称、「サイン会0人事件」という、どん底の泥をすすった経験を持つ。

一発屋と呼ばれる芸人たちの中でも、彼らほどの辛酸をなめたものはいまいが、幸いその人気もここ数年は回復基調である。

昨年「ルミネtheよしもと」で開催した単独ライブは、満員御礼。テレビの露出も一時期よりは確実に増えた。そんなジョイマンの“韻を踏む方”こと、高木もまた、筆者と同じく娘を持つ父親である。

パパの正体「娘は知ってます」

高木の娘は、現在、小学2年生。
昨年、ずっと続けていた公文をやめたいと言い出したそうな。

「国語と算数の2教科やってて。もう算数がつらいと。一応、諭したんですよ。公文で小学校の勉強を先取りしてるんだから、授業中ちょっと手を挙げられたでしょ? とか、テストでちょっといい点取れたでしょ? とか」

何とか説得を試みたが、
「結局、算数はやめて。ちょっともう国語もつらいと。難しいですねー……」

叱ること、怒ることが大の苦手だという心優しきパパに、なすすべはなかった。

「普段から、こわもて役は妻に任せっきりで……」
と反省はしているが、いざママに叱られた娘が自分のところへ駆け寄ってくると、
「よしよし、怖かったね!」
とつい甘やかしてしまう。

「そうするとまた妻が怒るんです……」
と愚痴るが、それは当然だろう。

……などと、ごく普通のパパの悩みを一通り語ってくれたが、そんなことは今どうでもよい。

筆者が知りたいのは、パパが一発屋であるというデリケートな情報の取り扱いである。
すると、意外な答えが返ってきた。

「お笑い芸人だということも、ジョイマンだということも娘は知ってます。たま~に、テレビで“なななな~♪”みたいなことを言う人って認識かと」

拍子抜けする筆者に、
「明石家さんまさん、ダウンタウンさん、千鳥さん、メイプル超合金さん、ジョイマンみたいな感じに思ってますね。いや本当に」
と続ける高木。

「大御所×2」に「売れっ子×2」、そして「ジョイマン」……トランプでいえば、明らかにジョーカー。

“パパ”というより“ババ”である。

しかし、無垢(むく)な子どもの前では、みな平等。

違いなどない。

何より、この無邪気な横並びは、彼の娘の気づきが、“パパはお笑い芸人”という外堀までで、“一発屋”という本丸には到達していないことを意味している。

他人事ながら、僕は胸をなで下ろした。

正体がバレた訳ではない

先述の通り、ここ1〜2年は、「ジョイマン、再ブレーク?」などと持ち上げるネット記事を見かけるほど、仕事の調子は上向き。

おかしな物言いだが、本人の言葉を借りれば、“たま~に”テレビに出ることも増えた。

そんな雄姿の一つを娘が目にし、
「あっ、パパだー!」
と正体がバレてしまった……という話ではない。

「まあ、僕は出てないんですが。ネタが、CMで使われたんです」

高木によると、発端はとあるCM。
しかも、ジョイマンは出演していないという。

覚えているだろうか。

一昨年、 “深キョン”こと深田恭子が、“なななな~♪”とジョイマンのラップネタの一節を口ずさみながら、高木の動きを模倣したダンスを披露し話題となった、あのCM。
マツコ・デラックスや大谷亮平も出ていた、あれである。

そういえば、つい最近も、ジョイマンの十八番ネタである「ありがとう オリゴ糖」を歌う男性の声をBGMに、女優・新木優子が“なななな~♪”と踊っているCMを見かけた。

どうも、クリエーターたちが、
「いいとこ突いてるでしょ?」
と己のセンスを誇示する際、ジョイマンは“ちょうどいい”素材らしい。

「あれが結構、ワッと世間に広まって。僕が“なななな~♪”ってやってることは、娘も知ってたんで、『CMでやってるあれって、たーちゃんのやつだよね?』って。大谷亮平さんのとこ、『たーちゃんでもよかったんじゃない』みたいな」

ちなみに、娘はパパのことを“たーちゃん”と呼ぶ。
高木の“た”で“たーちゃん”らしいが、その説でいくなら家族全員“たーちゃん”だ。

大谷亮平うんぬんに関しては、
(ええことあるかい!)
と心の中でツッコむにとどめておくとして、今、看過できないのは、
「僕が“なななな~♪”ってやってることを、娘は知ってた」
という箇所であろう。

開き直るジョイマン、迫る時限爆弾

なぜ、「パパは芸人」、「パパはジョイマン」の前に、「パパは、ああいう格好で、“なななな~♪”って言ってる人」との認識が先にくるのか。
言ってみれば、“皮をむかずに実だけを食べる”ようなもの。
順番が違うし、何より不可能である。

いぶかしむ筆者に、
「ちょこちょこ、家でも見せてたんで……」
(ん?)
何やら雲行きが怪しくなってきた。

「……あと、あやすときに“なななな~♪”ってやってましたし。5歳くらいのときは、ジョイマンだっていうのは、まだたぶん認識してませんけど、舞台衣装の僕の姿は写真とかで見せてたんで。隠すの苦手なんですよねー」

いや、苦手と言うより、隠す気が無い。

ネクタイを緩め、ワイシャツのボタンを外したクラーク・ケントが、下に着込んだヒーロースーツの胸元の「S」をチラチラ見せてくる……むしろ、アピールしたいとしか思えない。

(本当は娘に言いたくてしょうがなかったんじゃ……)

率直に疑念をぶつけると、
「だって、娘にナナって名前付けちゃったんですよ」
……“だって”じゃない。

これはもう、開き直りである。

賢明な読者はもうお察しだろうが、「ナナ(実際は漢字)」の由来は先ほどから頻出している“なななな~♪”。

実はこの男、わが子の名前に自分のギャグを埋め込んでいたのだ。
元ネタが“なななな~♪”で事なきを得たが、筆者でいえば、「ルネ子」と命名するようなもの。

とんだキラキラネームである。

名付けの経緯はまだ娘に伝えていないらしいが、もはや、時限爆弾と同じ。

いずれ彼女が自身のルーツに興味を抱き、
「“なななな~♪”と“ナナ”は何か関係があるの?」
と尋ねる日も来るだろう……などと筆者が心を痛めていると、
「たぶん、自分から取ったんだと思ってる」

高木が妙なことを言い出した。

「なななな→ナナ」ではなく、「ナナ→なななな」。
要するに娘は、「パパは、“ナナ”が大好きだから、わたしの名前をヒントに“なななな~♪”というギャグを編み出したんだ!」と思っているというのだ。

まさかの、「逆輸入」である。

愛ゆえに……という点ではおおむね間違っていないが、親子のベクトルは真逆。
(いずれ、大惨事を引き起こすのでは……)
とますます心配になる。

しかし、この筆者の懸念も、とうに周回遅れだったらしく、
「“ナナ”には、どういう思いが込められているのと聞かれたことはあります」

事態は切迫していると、溜め息をつく高木。

答えに窮した彼は
「すごく画数がいいんだよ! って言ってます。意味とかじゃなくて、画数だと!」
ひたすら名前の“性能”をアピールしてごまかしたという。

「だって、いつか聞かれますよ。『何であんなうそついてたの』ってなるでしょう」

冒頭、筆者に贈ってくれたあの台詞(せりふ)は即刻クーリングオフ、返品させてもらうとして、結局、高木も似たようなもの。

筆者と同じく、一発屋という呪詛(じゅそ)からわが子を守るためには、隠し事もやむなし……そういう方針に違いない。
(自分だけじゃなかった!)
と気持ちが楽になる一方で、なかなか問題解決の糸口を見いだせぬことに落ち込んでしまう。

すると、
「いや、っていうか、今のところ(娘は)僕のこと尊敬してるんですよね」

(……尊敬!?)

思わぬ急展開。

筆者の安心と落胆、その両方が吹き飛んでゆく。
詳しく聞かねばなるまい。

小学生相手の“賭け”

「一度、娘の小学校でネタをやったことがあるんです」

高木の娘が通う小学校では、毎年、文化祭のようなイベントが催されている。
子どもたちの演目の合間に、歌や落語などの出し物を鑑賞するのが恒例で、学校側は何か披露してくれるプロを探していたそうな。

幼稚園や小学校の行事には、
「行けるときは全部行ってます。やっぱり、行きたいんで」
と積極的な高木パパ。

「自分から(ジョイマンですと)は言わないけど、入学式とか授業参観とか行くと、やっぱり、バレるんですよね……」

おのずと彼の存在は、学校や保護者たちの知るところとなり、白羽の矢が立ったというわけ。

「先生に『やってください』ってずっと頼まれてて。6年間あるんで、どっかでやんなきゃいけないだろうなと。『断ったらしいよ』とうわさが回って親たちの間で気まずくなるのも嫌だったし……」

と引き受けたはいいが、今回の客は全員小学生。

ジョイマンがブレークしたのは、その時点から8年ほど前の出来事である。
最高学年の6年生でも、当時4歳。
低学年の子どもたちに至っては、生まれてさえいない。
つまり、彼ら相手に知名度は頼れない。

「(娘が)小1のときにやるのはちょっと勇気が要りましたね。もし、滑ろうもんなら……なんせ、(小学校は)6年間ですから」

“全校生徒の前でスベッた芸人の娘”……そんな烙印(らくいん)を押されて過ごす6年間は通学というより、懲役である。

わが子に肩身の狭い思いはさせられぬ、と迎えた本番。

「これは賭けだ」
と意を決し、舞台に飛び出すと、

「そしたら“うわー!”って、盛り上がって」

ジョイマンの芸が面白いのはもちろんだが、それ以上に、
「僕たちが来るってことは分かってたから、YouTubeとかで、予習はしてくれてたみたいで」

各家庭における事前のレクチャー、援護射撃が功を奏した。

「YouTubeで見たジョイマンだ! 本物だー!!」
とステージは大ウケ。

気をよくした高木が、
「うちの子でーす。みんな、よろしくお願いしますねー」
と娘を舞台に上げ、自ら親子共演まで果たしたというから、よほどである。

「大きくなったら、ジョイマンになりたい」

その日、帰宅すると、
「たーちゃんはスターなんだね。本当に、たーちゃんの子どもでよかった!」
と娘は大興奮。

「『ジョイマンってすごいんだ!』くらいの勢いで、鼻高々でしたね。舞台に上げたときも、本当にうれしそうだったし」

振り返るパパもまた、うれしそうである。

極めつきは、
「私も大きくなったら、ジョイマンになりたい」
との娘の言葉。

小さな女の子の多くが、
「プリキュアになりたい!」
と夢見るのと同じように、いやそれ以上に、高木家の長女が憧れるのはジョイマン……パパであった。

「今でも、娘が体調悪くて早退するときとか小学校に迎えに行くと、他の子どもたちがワーッて集まってきて。校舎の上の方で、『ジョイマンだ! ジョイマンだ!!』って騒ぎになってたり」

……まさに、ヒーローである。

思えば、洋の東西を問わず、子どもたちは“マン”が大好き。
スーパーマン、バットマン、アイアンマンにアンパンマン、そしてジョイ“マン”。

“マン”が醸し出すヒーロー感が、小学生たちの心をわしづかみにするのか……くだらぬ考察に思いを巡らせていると、
「あの『サイン会0人事件』のとき、一発屋であることも全部見せていこうと世間にさらけ出した。なので、どう受け取るかは、もう娘の心に任せようと。山田さんのところも流れに身を任せたらどうですか」

まるで、徳の高いお坊さんのような口ぶりで高木が筆者を諭し出す。

とはいえ、そう簡単に悟りの境地ともいかぬようで、
「いや、今はうまくだませてる状態ですけど……」

次の瞬間には、弱気な一面も。

「小学校のうちはスマホを持たせたくない。でも、周りが持ってると、(自分も)欲しいってなるでしょうし。検索しだしたらもう……」

一発屋パパは複雑なのだ。

「検索機能をなくしてほしい!」
という彼の要望を、ヤフーやTwitterが聞き届けてくれるかはさておき、
「“ジョイマンは一発屋”という、芸能界やテレビの中での僕の立ち位置を、娘はもちろん、周りの子どもたちが理解し始めたときが怖い」
という高木の気持ちは筆者にも痛いほど理解できた。

売れっ子が一番、でもテレビは月2で

「意地悪な男の子なんかは絶対言うと思うんですよ。『おまえの父ちゃん、一発屋~』って……」

“おまえのかーちゃんでーべーそー”を上回るディスを想像し、
「娘の身を案じちゃいますよね、やっぱね」
と震える高木のおびえが、こちらにも伝染したのか、とある妄想が頭に浮かんだ。

「ただいまー……」

ある日、学校から戻った娘に、いつもの元気がない。
うつむくわが子に、
「今日、楽しかった?」
と声を掛けると、“キッ”と顔を上げ、
「ねー……“一発屋”って何?」
……胸が締め付けられる。

「5年生とか6年生くらいですかねー……」

来たるXデーを高木は高木でシミュレーションしていたのか、
「もう、泣きながら娘を抱きしめることしかできない。玄関で親子2人でウワーッて。やっぱ説明はできない。一発屋だよと言ったところで、何が解決するわけでもないから……」

残された道は一つ。その前に、一発屋でなくなるしかない。

これには高木も、
「もちろん、売れっ子が一番。心配事も減るし、単純に娘も喜ぶと思う」
と同意しつつも、
「でも今は、テレビにたくさん出ることが目的ではなくなってます。たまに思い出してもらえるぐらい……月2とかでいいかな」
と正直な胸の内を教えてくれた。

かつて、ブレークを果たし、お茶の間のヒーローになったジョイマン・高木。

10年以上の月日が流れ、一発屋と呼ばれ、パパになった。

彼が思い描く未来像は、驚くほど控えめ。
“再ブレーク”とか“売れっ子”ではない。
しかし、かといって、高木が何かを諦めたわけでもないだろう。

むしろその逆。

彼は選んだのだ。
“返り咲く”ことよりも“この場所で咲く”ことを。
「ヒーローになる」ことではなく、「自分が誰の前でヒーローでいたいのか」に重きを置く人生を。

“誰の前で”……その答えは言うまでもない。

「ナナナナ~♪」

一発屋パパは、今日もどこかで舞台に立ち、愛する者の名を口ずさんでいる。


山田ルイ53世
本名:山田順三(やまだ・じゅんぞう)。お笑いコンビ・髭男爵のツッコミ担当。兵庫県出身。地元の名門・六甲学院中学に進学するも、引きこもりになる。大検合格を経て、愛媛大学法文学部に入学も、その後中退し上京、芸人の道へ。「新潮45」で連載した「一発屋芸人列伝」が、「編集部が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞し話題となる。その他の著書に『ヒキコモリ漂流記』(マガジンハウス)がある。
最新刊は『一発屋芸人の不本意な日常』(朝日新聞出版)。