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伊藤圭

「"心は女の子"に生まれた意味」 GENKINGの軌跡、葛藤、たどり着いた境地

2016/09/02(金) 11:43 配信

オリジナル

Instagramに投稿された、ファッションや美容、ライフスタイルのハイセンスな写真たち。その魅力に引き寄せられたフォロワーたちは、なんと約97万人(2016年8月現在)。

個人で始めたInstagram をきっかけに「謎の美男子」として急速に注目を集め、芸能界デビュー。ファッション誌やテレビ番組など活躍の場を広げたのが、マルチクリエイター・タレント・モデルのGENKINGだ。

2015年3月に出演したバラエティ番組で、「男っぽくしているけど、実は“ヤーヨ”って感じなんですよ」と自身がトランスジェンダーであることを告白し、さらに注目を集めることとなる。

現在は、TBSドラマ『せいせいするほど、愛してる』で連続ドラマに初出演し、恋愛マスターの焼き鳥店の店長を演じている。テレビ番組でカミングアウトしてからの1年間、まともな休みはほとんどなかった。

芸能活動と並行して現在もInstagramでの発信を続けるGENKING。彼が様々な経験と葛藤の末にどり着いた境地に迫る。(ライター・西森路代/Yahoo!ニュース編集部)

撮影:伊藤圭

Instagramで話題となり芸能界入り、そしてカミングアウト

GENKINGが写真共有SNS「Instagram」を知ったのは今から3年ほど前のこと。最初のうちはよくわからないまま投稿を続け、「いいね」の数もゼロに近いときもあった。

次第に「個人の発表する雑誌みたい」と自分なりの表現のコツを掴み、のめりこんでいくことになる。

ブランド品とファストファッションをうまく合わせる着こなし、自分でペイントしたアイテムや、手早く美味しく仕上げる料理の腕など、自分の世界を表現し続けることで共感者がどんどん増えた。

「今は、パスタの写真をおしゃれに撮るためだけにお皿を買うこともあります。でもそれって、無駄遣いじゃないと思うんですよ。それが自分のプロデュース力となって注目されるわけだから。実際、Instagramを始めて何か月か経って注目してもらえるようになって、ネットで話題になったり、ファッション誌では3か月連続で表紙をやらせてもらったりしました。その結果、いくつかの事務所から声をかけてもらったんです」

撮影:伊藤圭

その中で今の所属事務所だけは、GENKINGに自身がトランスジェンダーであることをカミングアウトするよう勧めたという。その後、彼は初めてのテレビ番組出演でのカミングアウトを決めた。

「去年までは、ファッションもユニセックスなものを着てInstagramにアップしていました。あくまでも、男と女の中間でありたいと思っていたんです。メンズっぽい服を着ていたのも、自分がこの見た目で女の子のファッションに寄せると気持ち悪いと思われるんじゃないかって不安があって、それで無理やり着ていたところがあったんです」

自分でカミングアウトすることを決めたからといって、すぐにその事実をGENKING自身が受け止めきれていたわけではなかったのだ。実は、カミングアウトしてからも、その後1年近くGENKING は悩み続けたという。そしてようやく最近になって悟りにも似た自らの開放があった。

「もちろん、自分で決めたことには間違いないんですけど。今年になってやっと、『心は間違いなく女の子だから、そのことは偽らなくていいし、人のことなんて気にしないでいいんだ』と思えるようになったんです。だから今年はワンピースもビキニも着ているし、今したい恰好をして写真をアップしています。それを見て『前のほうがよかった』って言われることはあるけど、でも『人って変化してくんだよ』って」

撮影:伊藤圭

自分自身を受け止められるようになったと同時に、去年までは避けていた“オネエ”と呼ばれることに対しても、こだわりがなくなったという。

「テレビがジャンル分けを必要としているのもわかるんです。今は自分が“心は女の子”として生まれてきたことに意味があるんだと思っています。今までコンプレックスだったことも、芸能人になったことで長所になって。たとえば僕は小さい頃から髪を編むのがうまかったし、絵もかけたし、料理もできたけど、単にそれ器用貧乏なだけだと思ってきました。でも、芸能界ってその全部が生かせるんです。僕が“マルチ・クリエイター”って名乗っているのは、実は器用貧乏の言い換えなんです」

俳優の道を諦め、続けていたのは“専業主婦”

現在、TBSドラマ『せいせいするほど、愛してる』への出演で俳優としてのデビューを果たした彼だが、実は子供の頃から芸能人への憧れはあり、演技レッスンも受けていた。しかし、「しゃべり方が他の子とどこか違うし、役者をするならカミングアウトしないと無理なんじゃない?」と言われ、その頃は諦めていたという。

撮影:伊藤圭

俳優や芸能人に憧れながらも、その道を一旦諦めたのは19歳の頃。それからは、大好きな彼のために専業主婦として毎日を過ごしていた。

「付き合い始めると、彼と過ごすことが優先になってしまうんです。僕は恋をしていないとダメな人間で、恋をしているからこそ自分を磨ける。外見に関してはベースが男なので、女の子以上に頑張らないといけないんです。料理だって、自分ひとりのときは自炊ってしないんですけど、好きな人に喜んでもらいたいから作ってきて。好きな人がいれば、頑張れるんです。でも最近はそれだけじゃなくて、いい感じのバランスで仕事モードにも入っているかなって思います」

以前は“恋愛するなら恋愛モードに”と極端に走りがちだったGENKINGだが、今年は素敵な仕事をしているからこそ、素敵な恋愛もできるというモードに変化してきたという。

「なんでもないことが幸せ。本当にハッピーな出来事は載せないの」

GENKINGを変えたものの中では、大好きなロサンゼルスという街の存在も大きい。

「LA(ロサンゼルス)へ行って、男だとか女だとかではなく、外見を見て“イケてる人はイケてる”って認めてくれる世界があることを知ったんです。ジェンダーは関係なしに、カッコいいものはカッコいい。キレイなものはキレイ。そう認めてくれる世界があることを知って、勇気づけられました」

撮影:伊藤圭

そういえばInstagramも、“イケてるものはイケてる”と人々から認められる世界だ。そんなInstagramから出てきて、今もその世界を大切にしているGENKINGが、最近『なんでもない事が幸せだし、もっともっとって思ってた事が寂しい事なんだなって思った』とつづっていたのが目を引いた。

「去年は必死で飛び続けた1年だったんです。でも今年は1回立ち止まって、ちゃんと考えたい時期で。最近、親友の誕生会があったんです。その親友とは芸能人になる前は週6日ペースで会っていたのに、最近は半年に1回しか会えてなかった。忙しくなってお金がいっぱい入ってきて、いい家に住めば満たされると思ってたけど、広い部屋に独りでいると、余計に孤独を感じるんです。今まではちょっとでも時間があると人に会って、家は寝るだけの場所だったんだけど、最近はお昼くらいに起きて、遅めのランチを食べて、気が付いたら夕方になってた……みたいな時間を過ごす楽しみを知ったんです」

そのことを友人に話したところ、「今更気づいたの? みんな、家でテレビとか見てるんだよ」と突っ込まれたと、楽しそうに語った。

「なんでもない日々を好きな人や大切な人達と過ごせる時間の素敵さに、これまでの自分磨きやカミングアウト、芸能界で毎日忙しく働くことを経て、ようやく気づいたんです。本当にハッピーな出来事は、意外とInstagramには載せてなくって、自分だけの中に留めてたりするんですよ」

撮影:伊藤圭

GENKING(ゲンキング)

世界中で人気の写真共有SNS「Instagram(インスタグラム)」で”謎の美男子”として話題になり、2016年8月現在そのフォロワー数は97万人超。ファッションアイテムへの大胆なペインティングを得意とし、そのセンスの良さが常に注目を集めている。2014年末から芸能事務所に所属し、現在はモデル・タレント・マルチクリエイター・美容家として活動。2015年3月、初のテレビ出演で、自身がオネエ(トランスジェンダー)であることをカミングアウトした。

編集協力:プレスラボ

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