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Yahoo!ニュース 特集編集部

「家に帰れない」事情がある――貧困、虐待、性的搾取から若年女性をどう救う

2020/04/16(木) 10:22 配信

オリジナル

貧困、虐待、ネグレクト、DV、性的搾取……。さまざまな事情を抱え、居場所のない若年女性たちがいる。支援に携わるNPO法人代表の橘ジュンさんは「最近の子たちは、SNSを通じて見知らぬ誰かとつながろうとする傾向があります。つながった相手が悪意を持つ人々であることも少なくない」と語る。直面する困難の実情と、ともに支援に取り組む元厚生労働事務次官の村木厚子さん、瀬戸内寂聴さんらを取材した。(取材・文:岡本実希/Yahoo!ニュース 特集編集部)

親からのネグレクト、恋人の暴力

東京都在住のアキさん(仮名・23)は、保護者が十分な養育を行わない、ネグレクト家庭で育った。両親が家にいるのは、1週間のうち3日ほど。連休などで何日も家を空ける時だけ、2000円くらい置いて出かける。そのお金で食料を購入し、弟2人と妹と分け合った。

アキさん(撮影:編集部)

「子どもたちだけで生活する感じで。親が留守の間、私たちが勝手に冷蔵庫の中にある物を食べないように、冷蔵庫には南京錠がかけられていました。家ではほとんどご飯が食べられなかったので、いつもお腹がすいていて。小学校の先生が気付いてくれたのか、朝学校に行くと職員室に呼ばれて、食パンやバナナを渡してくれました」

両親は世間体を気にして、子どもたちを学校には通わせていた。アキさんは両親の勧めで、中高一貫校に進学。高校卒業後、アキさんは実家を出て、大学に進学した。勉強をしつつも、アキさんは夢があきらめきれなかったと話す。

「歌手になるのが夢だったんです。大学卒業後に何回もオーディションを受けました。でも、なかなか受からなくて……。飲食店でアルバイトをして生活費を稼ぎながら、オーディションを受ける日々が続きました」

写真はイメージです(撮影:長谷川美祈)

アキさんは、18歳の時に発達障害の診断を受けているという。スケジュール管理やマルチタスク作業などに困難があった。アルバイト収入は少なく、生活が苦しかった。

「そんな時に声をかけてくれたのが、バイト先で紹介してもらった彼氏でした。20歳以上年上の、音楽関係の仕事をしている人で。仕事のこととか、いろいろ教えてくれたんです」

しかし、同棲を始めると暴言を吐かれるようになり、最終的には暴力も振るわれるようになった。殴る蹴るの暴行を受け、アルバイトで稼いだわずかな給与を取り上げられるようになる。

「実家に帰って親に相談したんですけど、『経済力があって、仕事の世話もしてくれる人と別れるのはもったいない』って。殴られて青あざもあったんですが」

逃げるように同棲中の家を出て、再び一人暮らしを始めた。金銭的に苦しい生活が続いたが、男性と別れることに反対していた両親には頼れなかった。アキさんの財布には、数千円しか残っていなかったという。

写真はイメージです(撮影:長谷川美祈)

このままでは生きていけないと思ったアキさんは、ある支援機関に助けを求めた。生きづらさを抱える10代、20代の女性をサポートする「特定非営利活動法人BONDプロジェクト」(東京都渋谷区)だ。大学の授業でここが紹介されていたことを思い出し、わらにもすがる思いで連絡したという。

BONDプロジェクトには、居場所のない若年女性たちから相談が寄せられる。メール・電話・LINEを合わせると、年間2万8000件以上だ(2018年度)。2009年の設立以降、街頭での声かけ、メールや電話での相談、中長期的に身を寄せられるシェルターの運営、弁護士との連携、医療機関、警察などへの同行など、さまざまな方法で生きづらさを抱える女性たちを支援してきた。児童相談所や女性相談センター、生活困窮者自立支援窓口など、公的機関とも連携する。

アキさんは、BONDプロジェクトが運営するシェルターに入居。暮らしを整え、BONDプロジェクトのスタッフとして少しずつ働き始めた。シェルターは住みながら自立を目指す場所で、その人の状況によるものの、基本的に月3万円の生活費を納める。

SNSで悪意のある人とつながってしまう

BONDプロジェクトの代表を務める橘ジュンさんは、活動を始めたきっかけについてこう語る。

橘ジュンさん(撮影:編集部)

「街頭で気になる様子の女の子がいたので、声をかけたら家出少女でした。保護したり、適切な支援者につないだりすることが必要だと思い、つなぎ始めたのがきっかけです。今もまずは話を聞くところから始めます。家に帰れない、帰りたくない背景は何なのか。そこに家庭の問題があったり、暴力があったり、頼る人がいなかったりする。暖かい部屋で寝るために、ご飯を食べるために、男の人と援助交際をしていたり。帰る場所がないことが、非行の形につながってしまっている」

緊急性の高い相談もあるという。

「所持金がもう200円くらいしかない状態だったりします。居場所がなくて、Twitterで泊めてくれる男の家を渡り歩いていた女の子が、行く先々で性被害も受けて、もう無理だとなって駆け込んできたり」

「私たちが活動を始めた10年前は、困難を抱えながらも大人には頼らず、同世代の仲間に助けを求めてやり過ごす女の子たちが多かった。最近の子たちは、仲間とつるむのではなく、SNSを通じて見知らぬ誰かとつながろうとする傾向があります。でも、つながった相手が悪意を持つ人々であることも少なくないのです」

写真はイメージです(撮影:長谷川美祈)

悪意を持った人が少女たちに接触する前に、安全で信頼できる相談先があることを伝えたいという思いで、“ネットパトロール”を強化している。スタッフ2名体制で、週に4回、毎回3時間程度、Twitterや掲示板を見回る。探すのは「家出JK」「家出少女」「死にたい」といった文言を含む投稿だ。居場所がなく孤立した女性たちがSNS上に吐き出すSOSに、スタッフはこう声をかける。

「こんばんは。わたしたちはBONDプロジェクトです。10代、20代の生きづらさを抱えた女の子の支援をしています。今LINE相談をやっているよ。気が向いたらでいいので、LINEでお話聞かせてくれたら嬉しいな。よかったらホームページを見てみてね」

LINE相談は、主に少女たちと近い世代の10代、20代のスタッフが担当する。スタッフの一人の森田あすかさん(26)は、自身もかつては相談する側だった。家庭に居場所がなく、誰にも頼れない孤立した状況の中で、18歳の時、BONDプロジェクトにたどりついた。以来8年ほど関わっている。

「まず話を聞いて受け止めることを大切にしています。私自身、気持ちを否定せずに聞いてもらえたことで安心して話ができていたと思います。私たちなりに『こうしたほうがいいと思う』と意見を伝えるまでに、たくさんの時間をかけて信頼関係を作る。それから本人が望んだタイミングで、私たちにできることがあればお手伝いできたらいいなと思っています」

森田あすかさん(撮影:編集部)

まず「相談して」と言える場所を

BONDプロジェクトのような民間団体は増えてきたが、「助けを必要とする若年女性の数に対して、支援するためのスタッフや資金は不足している」と橘さんは話す。民間団体の人材、資金不足を解決しようとサポートする動きも広がりつつある。

2016年4月に作家の瀬戸内寂聴さんや元厚生労働事務次官の村木厚子さんが代表呼びかけ人として立ち上げた「若草プロジェクト」もその一つだ。貧困、虐待、ネグレクト、DV、いじめ、性的搾取、薬物依存、育児ノイローゼなど、さまざまな問題に苦しむ若年女性と支援者をつなぎ、支援を届けることを目的として発足した。LINE相談や当事者を受け入れる「若草ハウス」の運営といった直接支援も行う。村木さんはこう言う。

「行政だと、DVの対策、虐待の対策というように、縦割りになってしまう。すると隙間ができて、取りこぼしてしまう人が出てくるんです。例えば児童であれば18歳まで。じゃあ19歳は救わなくていいのかといったら、そんなことはない。家庭内の暴力ならDV法で救えるかもしれないけれど、母親が少し付き合っていた人で、今は恋人でもない人からの暴力だったら、どの法律を適用できるのか。そもそも抱えるトラブルは一つではなく、複合的な場合がほとんどです。そういう状態をカバーするために、まず『相談して』と言える場所を作りたかった。そのうえで、行政でやるべきことは行政に提案し、制度化していくという流れにしたいと思っています」

村木厚子さん(撮影:藤原江理奈)

BONDプロジェクトのような団体の支援をしたいと考えているという。

「私たちの世代が若い人とつながるのは、とても難しいと思っていて。若い支援者がやっている団体が結構あるんです。そういうところと一緒に事業をやったり、若草プロジェクトが応援したりする。支援者の支援という機能も果たしたい」

若草プロジェクトは、株式会社ファーストリテイリングからユニクロの肌着などの寄付を受け、全国の民間支援団体や自立援助ホームに届ける活動を2018年に開始した。さらに「若草メディカルサポート基金」を設立。性感染症への対応、妊娠検査薬や緊急ピルの購入、精神科の受診などにかかる費用を民間企業から集め、支援団体に助成しようと準備を進めている。

瀬戸内さんは支援に関わる理由について、こう話す。

「家族はこうであるべきだとか、そういう決まりのようなものが社会の中にあるじゃないですか。だけど、実際にはそうでないことが非常に多い。自分が普通の家庭で穏やかに暮らしている人たちは、そうしたことに、気付かない。ふたを開けてみたら、信じられないようなひどい目に遭ってる若い人たちが世間にはいっぱいいる。私たち年長者は、少しでもその人たちが楽になるようにしてあげなきゃいけないと思う」

瀬戸内寂聴さん(撮影:藤原江理奈)

必要なのは「更生」ではなく「サポート」

行政も少しずつ動きを見せている。2018年7月、厚生労働省で「困難な問題を抱える女性への支援のあり方に関する検討会」が始動。2019年6月には、厚生労働省から「婦人保護事業の運用面における見直し方針について」が発表された。

婦人相談所や一時保護所の運営をはじめとする「婦人保護事業」は、1956年に制定された売春防止法に基づき、「売春を行うおそれがある」とされる女性を保護し、更生させる目的で始まった。その後、制度の改定により支援対象が広がり、「家庭関係の破綻、生活の困窮等正常な生活を営む上で困難な問題を有して」いる女性も対象に追加された。

しかし、「問題を解決すべき機関が他にない」場合に限ると併記されるなど消極的な運用にとどまり、支援を必要とする女性が他の機関へたらい回しにされるといった課題が指摘されていた。今回の見直しでは、この取り扱いが改正され、一人ひとりに寄り添った支援体制の構築が明記されている。そのほか、民間シェルターなどへの一時保護委託の拡大、SNSを通じた相談体制の充実など、10項目が記載された。

さらに検討会が2019年10月、複合的な課題を抱える女性を包括的に支援する新法が必要だと提言。婦人保護事業の根拠となる売春防止法第4章を廃止し、刷新しようというものだ。新法では「保護更生」ではなく、「人権擁護」を基本的な考えに掲げるべき、としている。

写真はイメージです(撮影:長谷川美祈)

村木さんは少しずつ進み始めた行政の取り組みを踏まえ、こう話す。

「婦人保護事業の根拠法が売春防止法であることにも表れているように、日本では困難を抱える女性を『更生』の対象として捉えてきました。しかし、援助交際やJKビジネスを行う女性の中には、虐待を受けていて家に居場所がなかったり、心身の不調で生活困窮に陥ったり、さまざまな事情を抱えている人が多くいます。そして困った時に、自分の性を使って生活費を得ることができてしまう。それを利用した大人のお金儲けの仕組みがある。社会の中に女性がそういう状況に陥りやすい仕掛けがたくさんあるので、まずは女性にフォーカスして取り組んでいます」

「問題はその人自身ではなく、困難を抱える女性を搾取する社会構造です。『更生』ではなく『サポート』の観点から、相談、保護、自立支援までノンストップで行える体制を、行政と民間が連携して作っていく必要があると考えています」

若草プロジェクトは定期的にシンポジウムを開催している。シンポジウムの終わりに、代表理事の大谷恭子弁護士がこう呼びかけた。

「若年女性が抱えている困難は、社会のありようの問題だと思っています。差別や虐待など、社会が根源的に抱えている問題が弱者である女性、特に若い女性に表れてしまった、露呈してしまった。日本の社会のあり方を問われていると、すべての方に問題意識を持ってもらいたい」

[写真]
撮影:長谷川美祈
写真監修:リマインダーズ・プロジェクト 後藤勝


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