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「キモカワイイ」の先へ、アンガールズ田中卓志が「求め続けられる」理由

2020/12/12(土) 18:07 配信

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「キモカワイイ」と評され、そのキャリアをスタートさせたアンガールズ・田中卓志(44)は、時代ごとに様々な側面を見せながら生き抜いてきた。最近では芸人やタレントの強みや処世術を解説するような「批評芸」でも注目を浴びる。芸歴20年、田中はなぜ「求め続けられる」のか。(取材・文:てれびのスキマ/撮影;殿村誠士/Yahoo!ニュース 特集編集部)

俺はムカデに見えてていい

年を重ね円熟期に達した田中。ネットで検索すると「意外とイケメン」などと出てくるが……。

「たぶん、40代以上になると、ストライクゾーンが広くなって、こういう人もいるよねって許容してくれる人がいるんですよね。『意外とイケメン』なんて書いてくれる人は、そういう人たちで、20代ではないと思います。20代までは俺のことなんて、マジでそのへんにいるムカデと同じように見えてると思います(笑)。だって20代の自分も、女性に外見を求めてたような気がするし。だから俺はムカデに見えてていいんです。ムカデも考えてんだぜっていうことは、40代になったら気づいてくれればいいんで」

田中が考える「カッコいい男」は「西麻布や六本木でうろちょろしていない人」だと笑う。どこまでもマジメなのだ。

「『大丈夫だって』みたいな言葉が一番怖いですね。このくらいの年になると、ちょっとした欲望に負けて、やらかしちゃって、実力はあるのにテレビに出れなくなってしまった芸人さんを何人も見てきましたから。そういう遊びたいっていう思いで、最初に抱いていた夢を壊してしまうのを見るのは悲しくてしかたないです」

そんな田中が現在注目を浴びているのは芸人のネタの長所やポイントを的確に論じたり、タレントのテレビの出方やその技術を解説するような「批評芸」だ。

「これ、やったらいけないことなのかなって一瞬思うとこもあったりしたんですよね。だから、そこだけが不安で、俺、どっかで転落するんじゃないかなって(笑)。“禁断の実”を食べてるのかもしれない。そんな気持ちも若干あるんです」

「何か偉そうにも見えるし、どうかなとも思ったんですけど、求められている分には、やっていきたいという感じですね。もともと、これがこうなったから笑いが起きてる、みたいなことを考えるのが好きなんですよ。理系出身なので、問題があったとしたら、それを全部理論で考えていくタイプなんです」

「ネタを競う番組って当然“敗者”が出て、面白くなかったというふうに映りがち。でも、敗者もものすごいいいとこがあったり、面白いとこがあったりするから、じゃあ俺は、『ここはお客さんに伝わってないかもしんないけど、絶対面白かったし、あそこはすごかったよ』というようなことを言おうと。まず大会に出ることって、芸人にとってものすごい負担がかかるし、大変なことだから、ちょっとでも得して帰ってもらいたいって思うんです」

周りの人と一緒に面白くなれるっていうのが40代からの仕事

デビューしてわずか2年ほどで「ジャンガジャンガ」がヒットして、アンガールズは一気にブレイクした。だがすぐに売れてしまったため、周りは先輩たちばかり。まだ実力も経験もなかった彼らは苦しんだ。

「1~2時間の収録で1回くらいしか喋ってないみたいなことがあったり、どんズベりしたりしてたから、やめたくなったこともありましたよ。最初のころはスベったとき、恥ずかしすぎて逃走するように帰ったり、スタッフさんに話しかけられないようにガン飛ばしたりしてたんです。でも、あるとき、自分たちはスタッフさんと仕事してるんだっていう当たり前のことに気づいたんです。一緒に協力して作ってるんだって。それを意外と気づけないで仕事を失っていった若手芸人が結構いる」

だから番組アンケートもしっかり締め切りまでに書く。アンケートさえちゃんと書けば、それが台本に反映され、必ずそこで打順が回ってくる。発言する権利を得られるのだ。そして実際に出演すれば、毎回反省をしてマイナーチェンジを繰り返していく。

「現場で起こったことを全部、家で反芻して、こういうことがあったからこうだよねって答えが出ないと眠れない時期がありました。一応答えが出たら、すごくよく眠れるんです。同じエピソードトークをするときも、導入を変えたりとか、最後にもう一押しを加えたり、受験勉強と一緒の感じで。初めて出る番組は必ず1回見て予習して、出た後は復習する。それが正解かどうか分かんないですけど、やってました。だって先輩方はみんな天才。少しでも近づくためには勉強するしかない。先輩方がどんなふうに考えてテレビに出てるのかって、意外と聞けないから」

「今、自分は50代が迫ってる。“生き残る”って言い方はあんまり好きじゃないけど、やっぱり同世代の芸人が淘汰されていくじゃないですか。そうなったときに自分の仕事があるのかなっていう悩みはあります。たとえば、50代でいまもテレビ出てる人ってMCをきっちりやって自分の城を持っている人たちばかり。そうじゃない人は、ひな壇で周りをケアしてる人なんですよね。あとは出川(哲朗)さん的な奇跡が起こるか(笑)。あの人はとんでもなく周りに笑顔を与えるキャラクターだと思うんですけど、周りの人と一緒にやったときに、面白くなれるっていうのが40~50代の仕事だと思います。だから、番組に出たての若手とかがいたら、うまく絡んで笑いにしてあげようっていうのは意識してます。ああ、こういうこともできる人なんですねっていうのを番組スタッフの人に名刺配っているような状況です。もちろん理想でいえば自分の番組を持ちたいっていうのはあるんですけど、とりあえずテレビの世界でどんなかたちでもいいから、お笑いをしっかりやっているなっていう感じは残せればいいなって思います」

路頭に迷うのだけは嫌だから、なんとか俺が引っ張る

もともと田中は『ボキャブラ天国』ブームでお笑いの世界に興味を持ち、東野幸治にあこがれて芸人になった。東野が今田耕司らとやっていた『冒冒グラフ』(フジテレビ)のようなシュールなコント番組をやってみたいと思っていたが、アンガールズがデビューしたころはテレビでコント番組をやるのは困難な時代になっていた。

「それでも、『ジャンガジャンガ』で『ボキャブラ』ブームに近いお笑いブームみたいなものに一回乗れた。ただ、なってみるとお笑い芸人って仕事は大変だなって。やっぱネタは生みの苦しみがあるし、現場行ったらほぼ必ずちゃんと笑い取って帰んないと、次はゲストに呼ばれなかったりする。常に成長していかないとまず仕事ができなくなる。 “ゴールがないマラソン”で、走り始めたらずっと走ってて、自分が前のほうにいるか、後ろのほうにいるか、如実に分かる。何かブームが来たら一気に最前線に持ってかれて、ブームが終わったら後ろのほうにぐーっと下げられてっていう。苦しすぎます。嫌だなと思うときもあるんですけど、周りがマジで面白い人ばっかりだから、現場が面白いんです。この高いレベルの笑いを目の前で見て帰れるっていうのが、すごい幸せな状況だなって。俺はそれが好きだから、こういう状態にずっといたいと思うんですよね。最先端の笑いを目の前で見れるっていうの、特等席だなと思うと、結構しんどいことも乗り越えられるなって」

もちろん芸人の在り方も時代によって変化していき、テレビのバラエティー番組だけではなく様々な場所に活躍の場が広がってきている。

「芸人一筋でやってますっていうのより、他のことで評価された人のほうが世の中的に評価されているので、いろいろなことをやったほうがいいのかなとも思いますね。以前、自分がやった『田中が考え中』というライブで書いた長尺コントのようなドラマの脚本を書いてみたいというのもありますし、自分の好きな紅茶をオシャレな空間で入れて飲むだけのYou Tubeとかもやってみたい。ボケなしで(笑)。再生数が上がらなかったら恥ずかしいなとかってなかなか踏み出せないんですけど。同期のキングコングはYouTubeとかのほうが稼げるってそっちのほうに行ったり、ピースの綾部くんがニューヨークへ行ったり、又吉くんは小説で賞をとったりして、正直焦りますね。何かお笑い以外の違うこともやらないといけないんじゃないかって。俺を不安にさせます、あいつらは(笑)。でも周りと比べても仕方ないですから」

とはいえ田中は、アンガールズとして単独ライブを精力的にこなしている。今年もコロナ禍の中、20周年のライブを開催した。

「コンビでテレビに出ることは少なくなってきていますけど、ネタのときだけは2人だけで映る状況になれる。だからネタを続けているっていうのはありますね。この業界はオファー次第。40代のコンビの芸人にオファーするって、番組も場所も限られますから。山根は、“ビジネスパートナー”みたいになっちゃったから、もう一回、“友達”に戻りたいみたいな甘えたこと言ってくるんですよ(笑)。一緒に旅行したいとか言うけど、それをやるとしたら80歳くらいになってからでいいじゃん。今の状況でそんな甘っちょろいことを言ってたら、この先2人とも仕事がなくなって、どっちも路頭に迷うのだけは嫌だから。今はなんとか俺が引っ張って、80くらいで、テレ東の土曜スペシャルの枠とかで山根と2人旅ができるようにがんばるしかないと思ってます」

田中卓志(たなか・たくし)
1976年広島県生まれ。広島大学工学部第四類建築課程卒業後、2000年に山根良顕とアンガールズ結成。コンビ結成20周年を迎え、今月23日には単独ライブをDVD化した『アンガールズ単独ライブ「彌猴桃は7304日後に」』を発売。新作コント5本、日替わりで披露されたリメイク版コント4本のほか、田中のお母さん作のショートコントやアンガールズクイズ完全版、ライブ未公開映像も収録する。

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