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黒田菜月

コロナ禍で困窮する大学生「学費が払えない」――国の支援は行き届くのか

2020/05/10(日) 10:22 配信

オリジナル

新型コロナウイルスの感染拡大で、アルバイト先が休業。学費を払えず、生活に困窮する大学生が増えている。この4月、国は「大学無償化」と銘打った新制度を始めたが、その要件は「狭き門」という声もある。公明党は文科省に対し、困窮学生1人につき10万円の現金給付を行うよう要請しているが――。大学生の支援につながるのか。(取材・文:Yahoo!ニュース 特集編集部、写真:黒田菜月)

コロナ禍でバイト代は半減

石川県の国立大学に通う、洋平さん(20歳、仮名)はこの春3年生になった。大学の学費は年間で53万円あまり。そのすべてを無利子の奨学金とアルバイト代で支払ってきた。

洋平さん(撮影:編集部)

4月下旬。深夜1時を回ったころ。洋平さんは自分のスマホにLINEのメッセージが入っていることに気づいた。送り主はバイト先の居酒屋だ。メッセージを読んで、血の気が引いた。「今日の営業から、閉店が午前0時から9時に早まる」と書かれていたからだ。こう話す。

「ついにきたな、そう思いました」

バイト先の居酒屋は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、2月下旬から3月下旬にかけて客足が減り始めた。4月に入ると売り上げゼロの日も発生した。

「(バイト先の)店長は、自分がアルバイトで生活費を捻出しているのを知っていました。勤続年数も長くなってきたし、ベテランとして頼りにもされていました。それで気をつかってくれ、シフトには入れていたものの勤務時間は減っていきました。いまでは1日2、3時間勤務です。収入は月5万円にまで減りました。平常時の半分にまでなってしまいました」

奨学金は月に2万2300円。これでは学費を支払ったら生活費が残らない――。しかし洋平さんは、「実家に頼ることはできません」と言うのだった。

(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

実家は甲信越地方で自営業をしていて、祖父と、自分の3人兄弟と一緒に6人で暮らしている。世帯年収は400万円あまり。昨年10月の台風で被災し、経済的損失を負った。今年の春は、新型コロナウイルスの影響で客足が遠のいてもいる。それを知っているから、学費の工面などとても頼めない。それでも、大学の休校期間は実家に身を寄せることも考えた。生活費を多少でも切り詰められるかもしれないからだ。

「諦めました。帰省していることが地元で知られれば、『外出自粛なのに県外から帰ってきた』と言われかねないからです」

やむを得ず、洋平さんは大学に相談をする。4月中旬、大学の相談窓口で「前期の学費が支払えそうにありません」と訴えたところ、返事はこうだった。

「学費の免除は難しい」

いますぐ受けられる支援はない――。洋平さんはこう言う。

「愕然としました。後期は学籍を失わないために休学を検討しています」

写真はイメージです(撮影:黒田菜月)

大学から学費延納の提案――払える自信がない

埼玉県在住で、東京の私立大学3年生の朝香さん(20歳・仮名)も、アルバイト代の激減により学費を支払えない事態に直面していた。

朝香さんは、実家から大学に通っている。学費は前期分52万円、後期分が50万円。年間100万円あまりになる。そのほか交通費や生活費などが必要で、朝香さんはこれらの費用を無利子の奨学金とアルバイト代で支払ってきた。

朝香さん(撮影:編集部)

奨学金は月に5万4000円。アルバイトは週3日。スーパー銭湯内にある飲食店で働き、月6万円ほどの収入を得ていた。大学の長期休みにはバレンタインデーなどのイベント販売員もかけ持ちをし、先々の学費支払いに向けて貯金をしてきたという。親から、学費の援助はしてもらっていない。

そんな朝香さんの経済状況に異変が起きたのは、3月中旬だ。

「コロナの影響で、飲食店のシフトに入りづらくなってきました。出勤しても早く帰らされることが増える。3月の給料は3万円でした。4月に緊急事態宣言が出るとお店自体が休業し、4月の収入は4000円にまでなってしまいました」

朝香さんはこう続けた。

「コロナでも営業を続け、需要もあるスーパーやドラッグストアのアルバイトを探しました。ただ、『今は新入りに研修している余裕がない』と言われ、採用されませんでした」

写真はイメージです(撮影:黒田菜月)

前期の学費支払いは終えていたものの、後期の支払いがのしかかっている。支払いは10月。バイト代が激減したいま、月5万4000円の奨学金だけで払えるとは思えない。4月中旬、大学に相談した。

提案されたのは学費の延納措置だった。10月までの納付期限が来年2月まで延びるという。支払いはいまから10カ月後。ずいぶん余裕ができたように見える。奨学金に手をつけず貯金を続ければ支払えないこともないが、この間の生活費として出ていくお金もある。不安は尽きないという。

「アルバイトがいつ再開できるのかがわからず、支払える見込みが立たないんです。不安ですね。自力で学費を支払い、通い続けてきた大学を退学することだけは避けたい」

前出の洋平さんと同じで、学費の工面を親に頼むことはできない。実家は、会社員の父親、パート勤務の母親、4月から高校3年生の弟の4人暮らし。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う収入への影響は受けていないが、世帯年収は400万円弱。経済的な余力はない。朝香さんは、親戚に借金を申し込むことも検討しているという。

写真はイメージです(撮影:黒田菜月)

「自分の周りにはアルバイトで学費を賄っている友だちはいません。格差を感じますね。どこに相談したらいいのか。苦しくて、泣いてしまう日もある」。

この4月、大学などの学費無償化を求める学生グループ「FREE」は、全国319 の大学、短大、専門学校等に通う学生へのアンケートを行った。1200人から回答があり、そのうち20.3%におよぶ244人の学生が「(経済状況の悪化で)大学等をやめることを考えている」と答えた。

「狭き門」でしかない、大学無償化という新制度

経済的に苦しんでいる学生がいる。国はこの4月から「大学無償化」と銘打って、学生の授業料を減免する新制度を始めている。この制度は彼らの助けにならないのだろうか。

奨学金制度に詳しい大内裕和・中京大学教授はこう言う。

「制度の対象になるのは、文部科学省によれば、現在の大学・短大・専門学校生の1割程度です」

大内裕和・中京大学教授(撮影:編集部)

「1割程度」という数字はどこから来るのか。

制度は学生の家庭の経済状況に応じて、学費の減免額が決まる。たとえば、学生の実家が父親、母親、中学生のきょうだいからなる4人世帯とする。一家の世帯年収が「約270万円未満」だった場合――国公立大学生は年間授業料に相当する約54万円、私立大学生は約70万円を上限とした授業料の減免が受けられる。

同じ家族構成で世帯年収が約300万円未満の場合は、学費の3分の2、世帯年収約380万円未満の場合は3分の1の学費減免が受けられる。条件次第では年間最大約91万円の給付型奨学金を受けることもできる。これは返済義務のない奨学金だ。

上記の金額は父親、母親、中学生の4人家族の場合。世帯の構成人数で授業料の減免金額は変動する。制度は高等専門学校生も対象にしている(図表:EJIMA DESIGN)

手厚い施策のように見える。しかし、世帯年収が約380万円よりも上だった場合、制度の恩恵は受けられない。

たとえば、家庭が年収600万円の飲食業に従事する世帯で、収入が400万円にまで落ちこんでも対象にはならない。「年収が約380万円未満」にまで落ちこまないと、学費減免の恩恵を受けられないのだ。

両親・大学生・中学生の4人家族なのに年収380万円未満で暮らす――それと同程度の家計水準の学生は全体の「1割程度」しかいないため、ほとんどの世帯が対象から外れてしまう。

大内教授は、「今回の新制度では、コロナ災害で被害を受けた学生の多くを救うことはできません」と指摘する。

新制度は、新型コロナの感染拡大で困窮する学生の実態に即しているのか。文部科学省に尋ねると、「家計が急変した場合、急変後の月収などをベースとした試算で要件を満たすと判定されれば、支援が受けられるようになった」と回答があった。実態に即した運用をしているとの認識だ。一方で、「新型コロナの影響で世帯年収の要件を変えることは考えていない」と返ってきた。

困窮学生1人につき「10万円給付」が検討されているが

バイトができない。親にも頼れない、新制度にも頼れない学生にとっては奨学金という選択もある。大内教授は、

「奨学金は卒業後の負債(=借金)なんです。学生もそれをわかっているので敬遠します。経済の冷えこみが予想されるなかで、奨学金を借りたくないという学生の声は根強い」と説明する。取材した2人の学生もすでに奨学金を借りているため、「さらに借りると返済は難しい」と話していた。

写真はイメージです(撮影:黒田菜月)

一部の大学では、彼らを支援する動きも始まっている。

広島大学では、独自の支援金制度を始めた。経済的に困窮する学生に対し、一時金として3万円を支援する。

獨協大学(埼玉県)は、全学生に「遠隔授業支援」の名目で10万円を給付することを決めた。全学生で8600人、給付は8億6000万円が必要になるという。予算が大きいため、事業を凍結・延期するなどして捻出する。このほか、神奈川大学(神奈川県)、立教大学(東京都)、武蔵大学(東京都)なども全学生を対象に一律5万円の給付を決めた。

文部科学省は、コロナ対策を盛り込んだ今年度の補正予算で、国立大学に4億円、私立大学に3億円の予算(家計が急変した学生の授業料減免の名目)を投入することを決めている。しかし、大学関係者は「(補正予算では)不十分」と打ち明ける。

(写真:西村尚己/アフロ)

8日、公明党の斉藤鉄夫幹事長が、萩生田光一文部科学相に対し、困窮している学生1人につき10万円の現金給付を行うよう要請した。対象は大学生・大学院生などおよそ「50万人」と見込まれている。

このニュースを受け、前出の朝香さんは期待をにじませる。「10万円の給付があったらすごく助かる。学費全部は賄えないが、生活費にもなるし、大学への定期券代も5、6万円かかるので、交通費にも充てられる。給付の対象になりたい」。

朝香さんは給付の対象になれるのか。しかし、大内教授はこう指摘する。

「全国で大学生と大学院生を合わせると何人いると思いますか。約316万人です。そのうちの50万人しか対象にならないなら、不十分ではないか。いま対象になっている学生1割への支援に対し、数パーセント上乗せされるだけに過ぎない」

「50万人」で十分なのか。給付の要件が明らかになっていない現在、朝香さんが対象に入れるかはわからない。大内教授こう続けた。

「検討されている10万円給付は、学費にも生活費にも使えるし、案としてはよいと思う。しかし、大半の学生が救えないのであれば、問題だ。低所得世帯だけに手厚い、これまでの国の発想を変える必要がある」

(撮影:黒田菜月)


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