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【スリランカ】「寅さん」好きの親日国―内戦終結で経済発展

2018/03/22(木) 09:58 配信

オリジナル

インドの南東部沖に浮かぶ島国スリランカ。八つの世界遺産がある観光国で、2009年の内戦終結後は国情が安定し、急速な経済発展を遂げている。歴史的に日本とのつながりが深い親日国でもある。日本と同じく仏教をルーツとするお国柄のため人々の機微に触れるのか、国営テレビが放映する映画「男はつらいよ」シリーズも人気を博しているそうだ。日本語が堪能なダンミカ・ディサーナーヤカ駐日大使にスリランカの魅力を聞いた。(時事通信社/Yahoo!ニュース 特集編集部)

1分半で分かるスリランカ

寅さん「スリランカ人とそっくり」

――日本の番組や映画がテレビで人気らしいですね。

2017年4月から国営テレビが、寅さん主役の「男はつらいよ」シリーズの放映を始め、とても人気があります。私が子どもの頃には「おしん」も放送され、こちらも大変人気でした。

私は東海大学で修士、博士を取得したのですが、研究対象は「男はつらいよ」シリーズでした。寅さんをより良く知るため、山田洋次監督にもお会いしました。すると、「外で見ていても分からないから、中から見なさい」と言われ、シリーズ40作目「寅次郎サラダ記念日」(1988年公開)で助監督として映画制作に参加しました。

執務室に飾られたスリランカ国旗(手前)とインタビューに応じるディサーナーヤカ大使(撮影:時事通信社)

寅さんは仏教国スリランカのお坊さんに似ています。物を持たず、財産もなく、服も1枚しか持たない。生き方が仏教思想的で、シンプルです。深く考えるがすぐ忘れるところも、スリランカ人そっくりです。私たちは日本の「義理と人情」も理解できます。自分の全てをかばんに詰めて生きる寅さんのことを、スリランカの人たちは大好きなのです。

隠し味はかつお節

――スリランカ料理には、日本との共通点もあると聞きます。

カレーとご飯が主食ということに加え、隠し味としてかつお節が使われています。かつお節は、(公用語の)シンハラ語で「ウンバラカダ」と呼ばれ、昔から食されている一般的な食材です。言い伝えによると、紀元前483年に建国されたシンハラ王朝の時代にモルジブからスリランカ王に献上されていました。カレーや野菜の炒め物、料理の付け合わせなど多くの料理に活用され、今ではスリランカで漁獲し独自に生産しています。魚や発酵食品を多く食べるところが日本と良く似ています。

スリランカ料理に使われるかつお節(提供:スリランカ大使館)

「光輝く聖なる島」2500年の歴史

――スリランカはどのような国でしょうか?

2500年の古い伝統文化があります。スリランカはシンハラ語で「光輝く聖なる島」という意味です。その昔は「セイロン」と呼ばれていました。仏教は1500年前にインドから伝わりましたが、スリランカは仏教を国教と認めたことで、(ヒンドゥー教徒が多数を占める)インドとは違う道を歩みました。現在、国民の7割が仏教徒です。

歴史的にはオランダ、ポルトガル、英国の植民地となり、第2次世界大戦後の1948年に独立しました。植民地時代の影響で英語が浸透し、教育にも英国式を採り入れています。

英国植民地時代に建てられたビクトリア女王の像。2013年(AFP=時事)

スリランカの正式名称は「スリランカ民主社会主義共和国」です。民主主義を取り入れる一方、社会主義の考え方もあります。例えば、教育は小学校から大学まで無料、医療も無料。(国として)お金は掛かりますが、社会主義の良いところです。民主主義ではきちんとした選挙制度が確立しています。

経済発展で開発ラッシュ

――25年以上続いた内戦終結から約9年、すばらしい経済発展を遂げています。

スリランカは、中国、アフリカへの玄関口として昔から重要な役割を担ってきました。内戦の影響でその役割をいったん失いましたが、終結後は急ピッチで経済を発展させました。自分たちの役割を取り戻すため経済政策に力を入れ、今では日本やインドなど多くの国と自由貿易協定(FTA)を結んでいます。

コロンボで建築中の高層マンション。2018年(AFP=時事)

日本政府の支援で港や空港、高速道路などが整備され、最近は中国からの投資も増えています。最大都市コロンボでは大型ホテルが相次ぎ建設されるなど開発ラッシュが続いています。

新興・途上国はIMFが分類している国々で、中国、ロシア、トルコなど100カ国以上が含まれる。

――国民性は。

仏教の影響が大きく、穏やか。仏教哲学が人々の生活に根付いています。スリランカの仏教は小乗仏教なので、多くを求めないほうが幸せな人生になるという考え方です。お坊さんはとても尊敬され、財産を持たず、結婚もせず、仕事もせず、人からいただいた物だけを食べる。一方で多くの厳しい決まりもあり、この仏教哲学に基づいて人々は育てられています。

インタビューに応じるディサーナーヤカ大使(撮影:時事通信社)

子どもたちは毎週日曜日に仏教を学ぶため寺の学校に通い、お坊さんから直接仏教の教えを受けます。これが、スリランカの人々の生き方に大きな影響を与えています。自然に対する愛情も深く、生命のあるものは蚊でも殺しません。もちろん、現代社会では考え方でちょっとぶつかるところもありますよ。

スリランカ西部の由緒あるケラニヤ寺院で新年の参拝を行う人々。2018年(AFP=時事)

1日4回ティータイム

――スリランカと言えば紅茶「セイロンティー」が有名です。スリランカは世界最大の紅茶輸出国で、日本で消費される紅茶も大半がセイロンティーとの統計があります。

世界一の紅茶と自負しています。外貨を稼ぐという意味でも大切な輸出品です。南部から山あいにかけて栽培されています。(深いコクがあるキャンディ茶やまろやかなディンブラ茶などを栽培する)7大産地があり、異なる味の深みを堪能することができます。

スリランカ産紅茶「セイロンティー」(撮影:時事通信社)

スリランカ人は紅茶を毎日飲みます。しかも、目覚めにミルクティー、朝食後と午前10時に1杯ずつ。午後3時のアフタヌーンティーも欠かしません。1810年代まではコーヒー栽培が盛んでした。しかし、コーヒーの木を枯らす「さび病」の大流行によって衰退し、その後英国人が産業として紅茶栽培を始め、今に至ります。スリランカにはコーヒーを飲む習慣は残っていませんね。

――セイロンティー以外の輸出産業は。

今はアパレル産業が外貨の約半分を稼いでいます。繊維産業は30年前ぐらいから始まりました。植民地時代からスリランカ人は手が器用と評価されていました。日本の陶磁器メーカーのノリタケカンパニーリミテドの工場もあります。スリランカ人は目が良く、手が器用な上、人格的にも評価していただいています。

スリランカの衣料品工場の作業風景。2017年(AFP=時事)

アパレルは欧米向けが多く、(下着メーカーの)ヴィクトリアズ・シークレットやナイキ、ネクスト、ギャップ(GAP)など大手企業の商品を製造しています。日本向けもこれまでは紅茶が主でしたが、今では金額でもアパレルのほうが大きくなりました。宝石やゴム産業も盛んです。

日本を救ったブッダの言葉

――戦後、スリランカは日本の独立を後押ししました。

1951年のサンフランシスコ講和会議で、日本が国際社会に復帰することが決まりました。欧米諸国が(分割占領案といった)厳しい要求を日本に突き付ける中、セイロン(当時)のジャヤワルダナ財務相は「憎しみは憎しみによっては止まらず、ただ慈愛によってのみやむ」というブッダの言葉を引用して日本を擁護し、会議の空気ががらりと変わりました。各国の厳しい要求は認められず、日本の独立への道が開けました。

両国は、講和会議から2年もたたずに外交関係を始めました。後に大統領も務めたジャヤワルダナ氏は生前、自分の右の角膜はスリランカ、左は日本の方に差し上げたい、と遺言を残し、実際に千葉県の方に移植されました。大仏で有名な鎌倉の高徳院など、日本各地にジャヤワルダナ氏への感謝を示す記念碑が置かれています。

執務室で代表的な土産品の象の置物を手に笑顔を見せるディサーナーヤカ大使(撮影:時事通信社)

スリランカとは:

インド南部のインド洋に浮かぶ島国で、大航海時代前の7世紀頃からアジアとアフリカ、欧州をつなぐ海上交通路の要衝。13世紀に訪れたマルコ・ポーロは「インド洋に浮かぶ翡翠(ひすい)のペンダント」と評した。国土面積は北海道の8割程度で、その10%が自然保護区。約2500年前にスリランカ最古の王朝が置かれた「聖都アヌラーダプラ」や高さ180メートルの巨岩上に築かれた宮殿跡がある「古代都市シギリヤ」など八つの世界遺産を持つ。

人口は約2100万人。旧国名は「セイロン」。かつては「セレンディープ」と呼ばれ、予期せぬ発見をする能力を表す英単語「セレンディピティ」の語源にもなった。1948年に英自治領として独立し、その後「スリランカ」に国名変更した。

ダンミカ・ディサーナーヤカ氏 略歴:

1958年、スリランカ生まれ。スリジャヤワルダナプラ大学を卒業後、87年に来日。東海大学で修士号、博士号を取得。93年には首相のメディア担当顧問を務め、その後は国営テレビの会長や大学の准教授などを歴任。15年から現職。「寅さん」を誰よりも理解していると自負する。

スリランカの料理:

(撮影:時事通信社)

スリランカはカレーとご飯が主食。ココナツミルクとともに、原産のスパイスを多用するのが特徴だ。写真は左手前から時計回りに豆のカレー、ナスのカレー、チキンカレー、魚のカレー。だしとしてかつお節がよく使われ、日本人にとってはどこか懐かしい味わいがある。

白米や赤米のご飯のほか、米粉とココナツミルクをおわん形に焼いた「ホッパー」や米粉麺「ストリングホッパー」をカレーとともに食べる。

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[取材]
時事通信社
記者:髙橋裕幸
カメラマン:竹井路子
写真提供:スリランカ大使館