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イマイヤスフミ(vision track)

デジタル時代にリアルの魅力―― 音楽の未来と価値とは

2016/09/02(金) 16:25 配信

オリジナル

カフェで流れるBGM。「なんだろう、いい曲だな」。スマホのアプリで曲名チェックして、すぐ購入もできる――。音楽配信サービス、YouTube、ライブ人気にアナログレコードの復権。音楽を楽しむ環境は変化を続けている。私たちにとって、音楽ってなんだろう。音楽の未来とは? 業界の最前線を走る4人と考える。

(ライター・牧野容子/Yahoo!ニュース編集部)

<人間のアナログ的な欲求は普遍的だ>

KOBAMETAL BABYMETALプロデューサー

KOBAMETAL:音楽プロデューサー。2010年にメタルダンスユニットBABYMETALを結成。今年4月に世界同時発売したセカンドアルバム『METAL RESISTANCE』は坂本九以来、53年ぶりの日本人によるビルボードトップ40入り、全英アルバムチャートで日本人最高位の15位を記録。9月19日、20日には東京ドームワンマンライブ2DAYSを開催する(写真 ©amuse)

「メタル」は世界共通の音楽

BABYMETALは、2014年に、レディー・ガガの世界ツアー(LADY GAGA'S art RAVE: the ARTPOP ball)のアメリカ5公演ではオープニングアクトをつとめさせていただきました。世界有数の音楽フェスであるイギリスのソニスフィア・フェスでは、メタル界の重鎮アイアン・メイデンやメタリカと共演させていただき、初めての海外フェスで観客の心を掴むことができた。BABYMETALの歌はすべて歌詞が日本語なのですが、2016年に世界同時発売したセカンドアルバムは、全米ビルボードでトップ40に入ることができました。

海外戦略をどのように狙って仕掛けたか、ですか? BABYMETALという名前にはポップの側面とメタルの側面をミックスした「新しいメタルの誕生」という意味があるのですが、僕自身はすごくニッチなゾーンを狙ったというつもりはないんです。むしろ、これまでの日本のシーンよりも、「大きな市場」を視野に入れた試みでした。というのは、メタルという音楽は、「世界共通」なんですね。世界各地にご当地メタルのようなアーティストがいたり、毎年いろんな場所でメタル・フェスティバルが開催されて、世界中から面白いバンドやファンが集まって盛り上がって、ということを年中やっている......。僕自身は、昔からメタルが大好きで、その世界に馴染んでいたということもあって、そういう巨大なコミュニティの中へ、という意識は最初からもっていました。

ただ、僕たちのプロジェクトはいきなり大きな予算を投入できるような恵まれた環境ではなかったので、とにかく知恵を絞って、やれることをやるしかなかった。2011年のインディーズ・デビューの際に、YouTubeに映像をアップしてみたのも、そうした工夫の一つでした。ライブに来てくれるお客さんとは違ったダイレクトな反応を知りたいと思って、とにかくアップしてみようとやってみた。その結果、海外の反応は僕の予想をはるかに超えたものでした。

「人と人とのコミュニケーション」が新たな価値を生む

音楽をより多くの人に聴いてもらうというスピード感やスケール感は、圧倒的に進化しています。それはYouTubeのおかげだと思います。アップロードしたら瞬時に世界中で音楽が聴けるわけですから。

一方で、音楽業界はこの数年間でCDなどのパッケージは売れなくなりましたね。ダウンロード有料配信や、音楽聞き放題サービスだって、まだまだCDの売上をカバーするようなものにはなっていない。ここからは目をそらしちゃいけないと思っているんです。YouTubeで満足してCDを買わない人が多くなっている。ユーザーにとっては手軽になって接しやすくなりましたが、クリエイトする側、業界やアーティストにとっては、今までパッケージで得られていた価値がどんどん下がっているということ。

だから作り手側は、新しい価値を作り直さなくてはいけないのかもしれません。今、アーティストを含む音楽業界は、改めてライブの価値を重視する方向へと変化しています。でも、YouTubeで曲を聴いてもらって、それがSNSで拡散されることによってライブの動員が増えて、という話にはなかなかならない。「人はどうしてライブに行きたいと思うのか?」という根っこの部分を改めて考え直さなければ、と感じています。

BABYMETALのメンバーは、左からYUIMETAL、SU-METAL、MOAMETALの3人。今年12月に行なわれるRED HOT CHILI PEPPERSのUKツアーのスペシャルゲストとして出演が決定している(写真 ©amuse)

BABYMETALの場合は、とにかく、楽しいと思えるもの、かっこいいと思えるものを追求して作ってきました。そこはまったく妥協せずに、徹底的に作り込んできて。それに対してBABYMETALに関わるチームも応えてくれた。

ファンの方々は、BABYMETALの音楽やパフォーマンスを通して、BABYMETALのビジョンとか、アーティストの思いに共感してくれたから、ライブに足を運んで、グッズを手にとってくれるのではと思っています。そういう意味では、SNSでも届かないものは届かないし、届くものは届く。少なくとも、SNSで音楽や映像のデータだけ拡散したところで新しい価値は作り出せないんです。

今はデジタル全盛の時代ですが、その一方で興味があるものに対して「もっと生で見てみたい」「本当にすごいのかどうか自分の目で確かめたい」という人間のアナログ的な欲求は普遍的で変わらないと思います。その人たちが国や言葉や世代の壁を超えて、ライブに足を運び、音楽に還元してくれる。それはつまり、「デジタルデータのやり取り」を、ひと回りさせて「人と人とのコミュニケーション」にまで戻せたアーティストだけが新たな価値を生み出せる、ということなのかもしれません。

<音楽が身近になったからこその新時代のライブ>

クリス・ペプラー J-WAVEナビゲーター

クリス・ペプラー:FMラジオ局J-WAVEの開局(1988年)と同時にラジオ・ナビゲーターとなり、以来28年間に渡ってカウンドダウン番組「TOKIO HOT 100」のDJを務めている(撮影:安部俊太郎)

"みんなで一緒に"のメッセージが支持される時代は終わった

音楽のトレンドには常に振り子のような"揺り戻し"が起こります。それは少なからず世の中の動きとも連動していて、僕自身、毎週日曜日に「TOKIO HOT 100」というカウンドダウンの生放送番組のナビゲーターをしながら、それを肌で感じてきています。

たとえば、2011年の震災の後は、明るいポジティブな曲が多く支持されました。番組に寄せられるメッセージにも、家族、友達、つながり、という言葉が多く出てきて、"みんなで頑張ろうぜ"、"癒し合おうよ"という歌が共感を呼んでいました。

でもそこから4年が過ぎ、その揺り戻しとして、去年は「ゲスの極み乙女」のような"毒"が出てきました。"ちょっと壊れた感じの、非日常的な歌詞に惹かれる"というような女性リスナーからの反応が多かったですね。

「神聖かまってちゃん」や「女王蜂」も同様のタイプで、ストレートに"君のこと愛しているから守りたい"というのも正論だけど、もうちょっと文学的な心の機微とか、刺激も欲しくなってきて、"みんなで一緒に"から、一人でもアグレッシブに"強く、凛々しくいけるんじゃないの"という思いが支持される時代になってきたように思います。

そういう流れで今年上半期を象徴するアーティストを選んでみると、Suchmos(サチモス)とBABYMETAL でしょうね。Suchmosは90年代のアシッドジャズやジャズ・ファンクに強い影響を受けているグループで、演奏やアレンジの能力が非常に高い。やはり"シンプルもいいけど、もう少し凝ったものが聴きたい"というニーズが人気の背景にあるのではないかと。

BABYMETALはヘヴィメタルを基調にして、そこに対極的ともいえるアイドルの要素をぶつけてきたダンスユニット。意外性と刺激的な楽しさですね。海外のハードロックやメタルの評論家たちが次々と"じつはBABYMETALが大好きなんだ!"とカミングアウトしているし、坂本九さん以来の全米トップ40入りですからね。

21世紀の音楽はアートやパフォーマンスと融合したエンターテイメントに

若者の音楽離れを気にする意見もあるようですが、むしろ、音楽との関係性が違ってきたということなんですね。今は、どこかのお店に入って、あ、これいい曲だなと思って、スマホのアプリでチェックするとすぐに曲名がわかる。で、「買いますか?」と画面に出て、うん、ピッって。150円とかで曲が買えるわけです。

音楽がとても手軽で身近なものになったんです。当然、安価なものになってくると、どうしても付加価値は下がってしまう。でも、ライブになると一期一会。2度と同じものは再現されないわけで、そこに対する価値観はとても高くなってきている。

1969年8月15日から3日間にわたり開催され、約40万人を動員したウッドストック・フェスティバル。音楽史に残る伝説的ステージとなりフェスの雛形となった。これからの音楽フェスはどのように進化していくのか?(Rex Features/AFLO)

ただ、ライブといっても、普通のライブではもうお客さんは来てくれない。最近、プロモーターやコンサートを企画している人たちとよく話題になるのが、もうステージでバンドがヒット曲を演奏するだけじゃ何も感じないよね、ということ。今のロックフェスの雛形って、おそらく1969年のウッドストックですが、かれこれ半世紀近く前と同じスタイルでは、今はもうちょっと、飽きたらないのかなと......。最近のフェスは、アートやパフォーマンスなど様々な要素を融合させた新しいエンターテインメントを模索しているものが増えてきています。世界的に人気のジャスティン・ビーバーやワン・ダイレクションのライブも、ダンスや映像やエフェクトなど、多種多様な仕掛けを搭載している。

だから、次に来るのはパフォーマンスアートのようなものではないかということ。21世紀になってもうすぐ20年ですよね。そろそろ今世紀の音楽やエンターテインメントの形が見えてきてもいいはずですね。

<レコードにはデジタルでは味わえない魅力がある>

小林美憲 東洋化成ディスク事業部レコード営業課課長

小林美憲:2008年に日本で唯一のアナログレコードプレスメーカーである東洋化成株式会社入社。ディスク事業部レコード営業課課長(撮影:稲垣純也)

レコード工場が一社だけ。どん底時代からの復活

CD不況で音楽業界がピンチといわれている昨今、アナログレコードなんていったらとっくに消滅していると思われている人も多いでしょうが、じつは、ここ数年でみると、売上は伸びています。

ざっとアナログレコード業界の歴史を振り返りますと、当社は、1959年の創業以来ですが、一番華やかだった時代は、『およげ!たいやきくん』のレコードが450万枚以上を売り上げた1970年代半ば。1日約20万枚のレコードを製造していました。しかし、1982年にCDが出現し、最初の厳しい時期に突入。国内に6、7社あった同業者が80年代末にはすでに当社1社のみになりました。

90年代後半になるとDJの方々がクラブでかけるためにレコードを使うようになって、またしばらくの間、盛り返します。しかし2000年以降にはDJが徐々にレコードからCDやコンピュータへと移行し、レコードの受注は減少の一途。当社としていちばん底だったのは2010年から2011年でした。事業存続の危機にも瀕しましたが、レコード事業を残したいという社長の一念で、CDパッケージの印刷など弊社の他の部門の売上でレコード事業の苦境をカバーし、じわじわと右肩上がりの状態になって、現在に至っています。

現在の生産枚数はどん底だった2010年の約4.5倍です。大手レコード会社さんからの受注が何千枚という単位で増えたことが大きいですね。アーティストの中にもアナログ盤の音の良さを見直してレコードを作る方々が増えているようです。また、受注の4分の1から5分の1は海外からの注文で、香港、台湾、中国、韓国、シンガポール、マレーシアなどアジアの国々が中心です。

アーティストの体温をそばで感じる楽しみ

ターンテーブルに針を落とすときも、ていねいに扱わなければならないのがアナログレコード。この手軽ではないところもデジタル音楽にはない魅力となっているようだ(写真:アフロ)

一部のマニアックな方や昔を懐かしむ中高年だけではなく、最近、若い世代にアナログレコードを聴く人が増えてきているというのは、嬉しい限りです。今の10代、20代の人たちは、その一つ前の世代とはまたちょっと違って、SNSにかなり馴染んでいる影響もあってか、アーティストをとても身近な存在として捉えているのではないかと思います。

アナログレコードは、曲順や、ジャケットやパッケージのアートワークなど、アーティストの意向やこだわりがしっかり入り込んでいるものです。つまり、レコードを買ってそれをかけるということは、アーティストの「体温」をすぐそばで感じられる、つまり身近な存在として感じられるようなものなのではないかと。それは、1曲ずつ切り売りをする配信では味わえないことで、そういうことに魅力を感じているのかなと思ったりしています。

また、針を落としたり、上げたりという作業があることで、"ながら"で音楽を聞くというより、けっこう集中して音楽と向き合うことができるんです。針、プレイヤー、ケーブル、置く場所によっても、かなり音が変わるので、自分でカスタマイズできる楽しさがあります。

私自身もレコードを約6000枚所有しているレコード好きですが、実際、外に出るときは携帯型のデジタル音楽プレイヤーを愛用していますよ。iPodを作ったスティーブ・ジョブズも家ではアナログレコードを聴いていたようですね。状況やニーズによって機器を使い分けるというのが、これからの音楽のより深い楽しみ方になるのではないかと思います。

<デジタル時代に即した透明度の高い著作権管理を>

荒川祐二 株式会社NexTone代表取締役COO

荒川祐二:株式会社NexTone代表取締役COO。ジャパン・ライツ・クリアランス(JRC)を経て現職に。株式会社NexToneは著作権管理業務を行なうイーライセンスとジャパン・ライツ・クリアランス(JRC)の2社が合併し、2016年2月1日から運営を開始した(撮影:安部俊太郎)

旧態依然の体制から脱却すべき

音楽の未来ですか? 著作権管理の仕事をしている私の立場から言えば、アーティストが生み出した素晴らしい楽曲が多くの方々に聴かれたり使われたりして、その対価が確実に徴収されて透明度高くアーティストなど権利者に分配される、そしてそのアーティストはまた新たな楽曲を生み出していく......このサイクルを、より高いレベルにしていくことが大切だと思っています。そうすることで、次々に新しいアーティストや楽曲が生まれて、みんながよりリッチな音楽体験を続けていくことができるのだと思います。

2001年に「著作権等管理事業法」が施行されるまで60数年に渡って、「日本音楽著作権協会」(JASRAC)という一つの団体が独占的に音楽の著作権管理を行ってきました。私たちは、その法改正が行われた直後から著作権管理事業に参入した民間2社が合併してできた会社です。その船出に際しては、音楽家の坂本龍一さんからこんなメッセージを頂戴しました。

「現在、私たちをとりまく音楽の環境は日々ドラスティックに変化している。それに対して著作権管理が旧態依然たる体制のままでよいはずはない。楽曲についてのデータがほぼ全てデジタル化した今日、新たな管理体制が求められている」

インターネットの普及に伴い世界的な規模で新しい配信サービスが次々と誕生し、テレビ・ラジオなどのマスメディアもデジタル化が進んでいます。ただ、そういったデジタル化された音楽や作品情報などが著作権管理と密接に結びついているかというと必ずしもそうではありません。

次々と進歩していく音楽配信などのテクノロジーに追いつくためには、著作権管理の方法もスピーディに更新していく必要があります。例えば、今では、フィンガープリント(楽曲における指紋のような波形データ)を使って世界中の楽曲の利用実績がほぼリアルタイムでわかります。著作権管理の精度と透明性を高めるために、こういった技術を私たちの著作権管理に活かしていきたいと思っています。

著作権管理の健全な競争で音楽業界全体の活性化を

これからの音楽ビジネスのことを考えると、著作権の管理に注目するだけはなく音楽の利用をうながす仕組み作りも大切です。

例えば、iTunes Store(アイチューンズストア)やSpotify(スポティファイ)など世界規模で事業展開をするデジタル配信業者の影響力は増大しておりますし、また国ごとに事業を展開する配信事業者の数は増え続けています。大手レーベルなら個別に配信事業者と契約していくことは可能だと思いますが、小さなレーベルやマネージメントオフィスが世界中の数百以上にものぼる配信事業者と一件一件契約するのは大変なことです。

2008年にスウェーデンでスタートした世界シェアNO.1の音楽ストリーミング配信会社。日本でのサービス開始の詳細は未定(ロイター/アフロ)

そこで私たちが窓口になって、"あなたの楽曲を世界中の配信業者に流通します"というサービスを提供しています。そうすることによって、小さなレーベルの楽曲も世界中で音楽を配信するチャンスを得られるようになります。音楽をより多くの人に楽しんでもらうシステムを作りながら、著作権料を適切に徴収して権利者に届ける。この流れを透明度が高い状態で実現することで、権利者に信頼され、そして頼りにされるのではないかと考えます。

JASRACさんが果たしてきた功績はたいへん大きいものです。しかしその一方で私たちが時代に即した健全な対抗軸になることによって、音楽著作権を管理するというフィールドにも競争が生まれ音楽産業全体の活性化につながる。そして、アーティストたちが未来の音楽を生み出す原動力になっていく......そんなことを目指していきたいと思っています。


牧野容子

エディター&ライター。出版社勤務を経てフリーランスに。『Pen』、『和楽』などの雑誌で主にアートや古典芸能に関するインタビュー、取材記事を執筆。編集・構成を担当した書籍に『"お金"から見る現代アート』(小山登美夫著/講談社+α文庫)、『日本人の度量』(姜尚中、高村薫、鷲田清一、本多弘之著/講談社+α新書)他。

[制作協力]
夜間飛行
[イラスト]
イマイヤスフミ(vision track)
[写真]
撮影:安部俊太郎、稲垣純也
写真提供:amuse、アフロ

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