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山代エンナ

「生理は我慢するものじゃない」――「月経のタブー」を変える企業の取り組み

2021/01/12(火) 17:39 配信

オリジナル

「生理に関しては、タブーのような状態になっていると思います。苦しんでいる女性も声を上げづらいし、男性もどう声をかけていいのか分からない」。産婦人科医の甲賀かをりさんはそう言う。そんななか、月経痛の診療やピルの処方など、女性特有の健康課題を福利厚生でサポートする企業が出てきている。支援をスタートした企業を取材した。(取材・文:城リユア/Yahoo!ニュース 特集編集部)

生理休暇の取得実績はほぼゼロだった

「福利厚生を見直すきっかけになったのは、商品のリニューアルでした。ニキビケアシリーズの化粧品とニキビに関わりのある生理周期について、どう発信していくか。プロジェクト推進チームには、世の中の生理に関するタブーのような意識を変えたいという思いがありました。アプローチの仕方を考えるなかで、まずは自社の状況を見直すことに思い至り、アンケートをとったのです」

化粧品を扱うオルビス株式会社で福利厚生を担当する藤本かおりさんは、背景をこう説明する。

同社は、2020年6月、従業員を対象に、月経トラブルについて医療機関に相談できる「オンライン診療」のプラットフォームを導入した。これまで生理休暇は無給だったが、月1回までは有給休暇として取得できるように変更。名称を「ウェルネス休暇」に変更し、生理だけではなく、更年期による体調不良や不妊治療の通院にも適用できるようにした。

オルビスの藤本かおりさん(撮影:編集部)

従業員のうち女性が9割を占めるオルビス。アンケートの結果、70%が「生理や月経前症候群(以下、PMS)が原因で休みたいと思ったことがある」と回答。一方で、77%の人が「生理痛やPMSを理由に会社を休んだことがない」ことも分かった。これまで生理休暇の取得実績はほぼゼロ。休まない理由として、「ギリギリ出社できる体調の悪さだから」「甘えていると思われそう」「女性共通のもので、自分だけ休むのも気がひける」などの声がある。今回、「ウェルネス休暇」の導入後5カ月間で、20人が取得した。

ウェルネス休暇の導入前には、店舗運営の現場から懸念する声もあがった。全国105店舗で働く従業員約800人のうち、大半が女性だ。「1店舗7人ほどでシフトを回しているのに、みんなに月1回ずつ休まれたら店舗運営に支障をきたす」「自分が休んでシフトに穴を開けるのは申し訳ない」といった意見があった。

導入の目的は休むことではなく、ケアをして働きやすい状態を作っていくこと。症状が改善しない場合は、健康管理センターに常駐する看護師に福利厚生担当経由で相談すること。福利厚生担当はこれらを社内に伝えることで、理解を得た。また、オンライン診療のプラットフォームに関しては、コストもかからないものだったので、導入しない理由も見当たらなかったという。診察によって月経痛やPMSを緩和するピルを処方してもらうこともできる。

「生理休暇の取得率を上げようとか、ピルの使用を勧めようとか、そういうつもりで導入しているわけではありません。みんなが働きやすい環境を自律的に作れるように、選択肢を提供する。自分の体のことを理解するきっかけになるといいと思います」

一生のうちに経験する生理の回数は増加傾向

経済産業省による「働く女性の健康推進に関する実態調査」(2018年1月に実施)から作成(図版:桂山未知)

経済産業省が男女5422人を対象に行った調査では、女性従業員の52%が「月経不順や月経痛などで、勤務先で困った経験をしたことがある」と回答している(2018年1月実施「働く女性の健康推進に関する実態調査」から)。

東京大学医学部附属病院・産婦人科の甲賀かをり准教授は次のように語る。

「一人当たりの出産回数が減ったため、女性が一生のうちに経験する生理の回数は、昔に比べて増加しています。子宮内膜症は生理の回数が多いほど罹患率が高まりますし、月経困難症なども増えているのです。一方で、昔に比べて働き続けることが一般的になりました。多くの働く女性たちが生理のトラブルに直面しているといえるでしょう」

それにもかかわらず、正しい情報が広まっていないと甲賀さんは指摘する。

「生理に関しては、どこかモヤモヤとして、タブーのような状態になっていると思います。みんなが直視せず、苦しんでいる女性も声を上げづらいし、気遣いたいと思っている男性がいても、どう声をかけていいのか分からないという混沌とした状態。正しい知識を得てはじめて、議論することができます。まだ、議論の土台もできていない企業がほとんどなのではないでしょうか」

「とくに人事担当者や管理職は、レクチャーやeラーニングなどで正しい知識を得る仕組みがあるとよいのでは。また、メンタルヘルスの相談窓口を設置している企業は多いと思います。婦人科系のトラブルも、そういう窓口があるといいですよね。健康診断でも、メンタルヘルス系のチェック項目などは入っていますが、婦人科系の項目はありません。産業医にも産婦人科医はほとんどいないのです」

東京大学医学部附属病院・産婦人科の甲賀かをり准教授(撮影:稲垣純也)

「妻や娘のことを考えるきっかけとなった」

近年、「フェムテック」を扱う企業が増えてきている。フェムテックとは、女性が抱える健康課題をテクノロジーで解決する商品やサービスのこと。2000年から、生理日・排卵日の予測などができる女性の健康情報サービス「ルナルナ」を運営している株式会社エムティーアイは、日本のフェムテック企業の先駆けだ。同社ルナルナ事業部の那須理紗さんは、サービス開始当初の障壁をこう語る。

「ルナルナに関する広告を出稿しようとしても『生理』という言葉自体が露骨すぎると断られていました。そこからお願いをしたり啓蒙活動を続けたりして、大手の携帯キャリア3社すべてから出稿が承認されるまでには、7年かかっています」

「生理がタブー視されてしまうのは、小学生の頃に性教育を男女別で受けたきり、情報がストップしてしまうことも一因かもしれません。男性だけでなく、生理について十分な知識があるかと問われると、自信のない女性も多いのではないでしょうか。生理の症状は人によって異なりますから、自分の物差しで考えてしまうと、ほかの女性のつらさを理解できないこともあります」

エムティーアイ、ルナルナ事業部の那須理紗さん(撮影:編集部)

社員からはこんな声も出ていた。

「生理前には一日中眠かったり、倦怠感があるケースもあり、締め切りが近いタスクなどが控えていると、仕事のパフォーマンスが落ちてしまう」
「大事な会議などが控えているときに生理がかぶると、気分的にも憂鬱になる」
「1日目は痛みが強く、おなかや腰をさすりながら勤務することがある。(中略)途中休憩を取りたいが、突発的な途中休憩を入れる人が部内にあまりいないため、勘繰られるのが嫌で言い出しづらい」

同社は2020年10月から、オンライン診療を活用した婦人科受診と、低用量ピルの服薬をサポートする福利厚生制度を開始した。女性社員の比率は、全体の約4割。低用量ピルの服薬が必要な場合は、会社がピルの費用とそれにかかる診察料を負担する。オンライン診療を活用した結果、通院にかかる移動や待ち時間がなくなり、仕事を休まなくても受診できるようになった。かかった費用は人事部に直接申請する仕組みで、所属部署の上長に知られずに利用できるように配慮されている。

この福利厚生を本格始動する前の半年間、社内の希望者15名にアンケートを行った。低用量ピルを実際に服薬した社員からの回答によると、1カ月のうち「生理によって日常生活への影響が出る日数」が、平均3.1日から平均1.15日へと減少した。

「女性社員に向けたサポートのため、男性社員からネガティブな意見が出るのではないかという心配もありました」と語るのは、人事部の鷲頭有沙さん。制度導入前に、希望社員に向けた「女性のカラダの知識講座」を実施した。講師は前出の産婦人科医、甲賀さんだ。

エムティーアイ、人事部の鷲頭有沙さん(撮影:編集部)

参加した男性社員からは「同僚女性の体調が悪いことに気づいても、どう声をかけてよいか分からなかったので、参加してよかった」「女性の部下、同僚だけでなく、妻や娘のことを考えるきっかけとなった」「『生理がつらい、生活に影響があると感じたら病気と考えてもいい』という話がとても勉強になった」など、ポジティブな感想が集まった。

登壇した甲賀さんは「大半の男性社員が、初めて聞く話にびっくりしていました」と振り返る。

「『生理だから働かなくていい』と気遣うのも差別的だとか、『低用量ピルを飲んで、生産性を下げずに働け』というのもセクハラだとか、いろんな意見があります。男性にとっても、女性の健康課題と働き方の問題はとてもセンシティブです。女性は男性と体の構造が違い、生理が定期的にある。仕組みをきちんと分かったうえで、声をかけたり通院を促したり、必要な時にいたわることが大切だと思います」

写真はイメージです(写真:アフロ)

男女がお互いに理解し合えないブラックボックス

ピルについても、あまり正確な知識が広まっていないと甲賀さんは指摘する。

「一般的にピルといえば排卵を止める避妊薬のことですが、最近ではむしろ本来“副効用”だった避妊以外の目的で飲む女性が多いですね」

低用量ピルを飲んで排卵を止めると、卵巣や子宮を一時的に休めることができる。具体的な副効用は、排卵に伴う排卵痛や、排卵後に出るホルモンによるPMSの緩和。経血の量や痛みが少なくなるので、月経困難症や過多月経なども改善し、子宮内膜症の予防にもつながる。

これらの副効用を目的とした健康保険適用の低用量ピルが日本に登場したのは、2008年のこと。その後は新しいピルがいくつも作られ、処方されたものが自分に合わなくても、違うピルを試せるようになってきた。

「『人工的に生理を止めるなんて』という方もいますが、15歳から50歳まで毎月ずっと生理があるほうが、自然じゃないという見方もあります。低用量ピルで体を休ませるのはいいことだという認識を持ってほしいです」

さまざまな種類の低用量ピルがある(撮影:編集部)

低用量ピルの処方には産婦人科医の診断が必須だ。もちろん診察の結果、ピルを処方しないこともある。

「ピルの重大な副作用としては血栓症があります。発症率は1000人に1人もいないほど。実は妊娠中のほうが女性ホルモンの関係で血栓症のリスクは高いのです。発症時に早く対処すれば命に関わることは稀なので、副作用が心配だから1錠も飲まないと危惧するほどではありません。ピルを服用して1〜2カ月ほどは、人によって吐き気やむくみ、体重の増加、食欲の増進などが起こるケースも。多くの場合、薬に体が慣れてくれば収まってきます」

オンライン診療でピルが手に入ることに慎重な意見もあるが、「信頼できるプラットフォームを使えば、恩恵を受ける女性は多いでしょう」と甲賀さんは言う。

国内最大級の婦人科特化型オンライン診療プラットフォーム「smaluna(以下、スマルナ)」では、医師の診察とピルの処方がオンライン(有料)で受けられ、最短で翌日には自宅のポストにピルが届く。薬剤師や助産師が相談を受け付けるスマルナ医療相談室(無料)も実装し、ユーザーからの相談は1日に平均で500件ほど。大型連休中などは、900件近い相談がある。

自宅のポストに届くキット(写真提供:ネクイノ)

2020年9月、「スマルナ」を運営する株式会社ネクイノは、同社の子会社ネクイノメディカルテクノロジーズで、「スマルナ」を使った福利厚生制度を企業に提案する「スマルナ for Biz」をスタートした。現在の契約企業は、株式会社オールアバウト、株式会社g-wic、日清食品ホールディングス株式会社、株式会社ネオラボ、株式会社 Mahaloなど。ネクイノの新規事業開発室室長、青木勇気さんはこう言う。

「導入することで、会社全体としてのパフォーマンスや従業員のエンゲージメントを高められる。女性の活躍を支援する会社だとアピールすることもできます。いま企業さんとお話をしながら導入を進めているという段階ですが、今後数値化を含め、しっかり検証していきたいです」

ネクイノの新規事業開発室室長、青木勇気さん(撮影:編集部)

さまざまな企業の担当者と話すなかで、ハードルの高さも感じるという。「社員全体に適用されない制度は導入しづらい」などと難色を示されることもある。

「人事担当者が当事者でないと実感が伴わず、そもそも企業の課題として上がってこない。それが一番の障壁だと感じます。月経困難症やPMSは、仕事のパフォーマンスに大きく影響します。1カ月のうち1週間から10日ほど、パフォーマンスの低下に悩まされている女性が多い。例えば職場で変にイライラしてしまったり、急に悲しくなったり。単純におなかが痛くて動けないこともある。それにもかかわらず、生理休暇や痛み止め薬くらいしか解決方法がなかった。『生理は痛み止め薬を飲んで我慢するもの』と認識されていて、福利厚生という発想がない。地道に啓発していかなくてはと思います」

「男性側には、踏み込んではいけないとか、何か言ったらセクハラなんじゃないかとか、そういう懸念もある。生理は、男女がお互いに理解し合えないブラックボックスになっている。段階的に解きほぐしていけたら」

月経がタブー視されていた時代に終わりを告げ、女性が自分自身で体と心をコントロールしながら、より快適に働ける社会へ。変化は止まりそうにない。


城リユア(じょう・りゆあ)
出版社の情報誌編集部などを経てライター・編集者として独立。旅、人物インタビュー、女性のライフスタイルなどを中心に執筆を行う。2017年にはベトナムのダナン市で日本のCMやMV、映画などを手掛けるCG、VFXスタジオ・No.1 Graphics Inc.を設立し、夫婦で経営。企画・編集した書籍に『ダナン&ホイアン PHOTO TRAVEL GUIDE 〜絶景プロデューサー・詩歩が巡るベトナム』がある。

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