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塩田亮吾

支持率低迷の民進党はどこへ向かうのか 野田佳彦幹事長に聞く

2017/03/03(金) 08:03 配信

オリジナル

民進党の姿が見えない──。昨春、民主党と維新の党が合流してできた民進党。代表が蓮舫氏に代わっても、支持率は上がらず、直近では6.4%(NHK世論調査)まで下がっている。野党では共産党が率先する「野党連合政権」が掲げられているが、民進党の支持団体である労組「連合」は共産党との連携に反発。野党共闘でも民進党の立ち位置ははっきりしない。「政治主導の迷走」など、大きな批判を浴びる中で退陣した旧民主党政権。この4年でその反省がどう活かされたのか。民進党は誰と組み、どう戦おうとしているのか。前首相でもある、野田佳彦幹事長に尋ねた。(ジャーナリスト・森健/Yahoo!ニュース編集部)

前首相の見る安倍‐トランプ関係

1月27日、アメリカのドナルド・トランプ大統領は中東や北アフリカ7カ国の国民の入国を一時禁止する大統領令を出した。この措置を、ドイツのメルケル首相は強く非難、カナダのトルドー首相は「カナダは(難民の入国を)歓迎する」とコメントするなど、世界で批判が広がった。

民進党の野田佳彦幹事長は1月30日の定例記者会見で「相当な混乱が起こり始めました。日本もこのやり方については懸念を持たなければいけないのではないか」と懸念を表明。その上で、安倍晋三首相がこの件で発言を避けたことについて、「思考停止ではないか」と批判した。

野田幹事長への取材は、日米首脳会談が終わった数日後のこと。まずは日米関係から尋ねてみた。

2月13日の記者会見で野田氏は、米国の大統領令にコメントしない安倍首相について「のび太はビビりながらも物を言うときがある」「日本はスネ夫になったのではないか」と人気アニメ「ドラえもん」を引き合いに批判した(撮影: 塩田亮吾)

──トランプ米大統領と安倍首相との日米首脳会談。どう評価しますか。

まずよかったのは、日米同盟が堅持され、尖閣諸島についても日米安保条約第5条(対日防衛義務)の適用が確約されたこと。日米関係は日本の外交や安全保障政策の基軸ですから。われわれも政権を預かったことがある立場から、そこが確認できたことは前進だと思います。

──安倍首相が大統領令に対して問われるも、「(アメリカの)内政問題なのでコメントは差し控える」と発言を避けたことについて、会見で批判しましたね。

国際社会が共有している懸念に日本だけ「ノーコメント」ではおかしい。コメントすべきことはしなくてはいけないと思います。

懸念は、そもそもあの入国禁止令は基準がおかしいということです。「テロの可能性がある」という理由で、シリアやイラン、イラクなどイスラム圏の7カ国が対象ですが、2001年9月11日の同時多発テロの実行犯が関わっていたサウジアラビアやUAE(アラブ首長国連邦)は対象国に入っていない。そうした中身も含めて日本もきちんと議論すべきだと思いますね。

インタビューを行った衆議院民進党役員室のテレビには、予算委員会の風景が映し出されていた(撮影: 塩田亮吾)

「できる限り」の協力

──昨年(2016年)夏の参議院選挙で4野党によって「野党共闘」が掲げられ、選挙協力が行われました。そもそもはどういう連携か、経緯をあらためて教えてください。

(2016年)2月に、民主、維新、共産、生活、社民の5野党の党首が集まって、参議院選挙で連携する確認をしました。たとえば、東北の一人区では野党間で候補者を絞って一人に調整した。このときには一定程度、政策的な方向性についてもサインをし、野党統一候補(民進、共産、自由、社民の4党)として選挙戦を戦うことにしたんです。

その後9月に民進党の代表選があり、蓮舫代表になりましたが、彼女も「野党連携は踏まえる」と党に約束して代表になっています。野党間では覚書があって、「次の衆議院選挙でもできる限りの協力を行う」という合意をしていますので。

2016年夏の参議院選で、民進、共産、社民の3党が共同で街頭演説。壇上は岡田克也民進党代表、後方の支持者たちの最前列に吉田忠智社会民主党党首(写真: Natsuki Sakai/アフロ)

──「できる限りの協力」とは具体的にはどういうことですか。

基本的には選挙区の調整問題です。また、政策でも一致点を見出す努力をする。そんな意味合いも含めて、「できる限り」という表現なんです。

いま自民党と公明党が組む中で、わが党で小選挙区で勝ち抜ける政治家は限られています。わが党である程度実績と知名度があり、小選挙区を勝ち抜けるのは、岡田克也さん、前原誠司さん、安住淳さん……数えるほどです。野党がバラバラで票が分散したまま立候補したところで、自民・公明に勝てない。だったら、すみ分けをして、一番強い候補を選び、そこで与党に対峙する。その危機感はみんな持っていると思います。

──野田さんは「単独で政権を取る」とも発言されています。

それはもちろん衆議院選挙というのは政権選択ですから。野党第一党として「単独過半数で政権を取る」という構えは当然のことだと思います。

(左から)民進党代表選で新代表に決まった蓮舫氏、代表選を戦った前原誠司元外相、玉木雄一郎国対副委員長(当時)。右端は岡田克也前代表(写真: ロイター/アフロ)

2014年12月の衆議院選挙で旧民主党は、自民党の291議席に対して73議席と4分の1ほどにとどまり、海江田万里代表(当時)まで落選した。その後、安倍政権が国会で安全保障関連法案の議論を進めると、市民団体による反対デモなどが社会事象に発展。民主党は市民団体や他党との連携で存在感を回復していった。そして2016年3月27日、民主党と維新の党(日本維新の会系は2015年10月に離脱)は民進党として合流した。

2016年夏の参議院選挙では、野党は統一候補の調整で連携。32の一人区で11人当選という結果を出した。この結果に、共産党はさらなる連携に前向きな姿勢を見せてきたが、民進党の支持団体である「連合(日本労働組合総連合会)」は民進党執行部に対して、共産党と組まないよう牽制してきた。

2016年3月の民進党結党大会で挨拶する神津里季生・連合会長(写真: Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

共産党との連立政権はありえない

──共産党は自民党・公明党に対抗した4野党による連立政権「国民連合政府」という構想を掲げています。あたかも連立政権を組むかのように映りますが、野田さんは「連立政権はない」とたびたび発言しています。

たとえば、日米の同盟関係を大事な関係と考えない党と外交や安全保障戦略で一致できません。

政権を取る姿勢を示すということは、政権を取って何をするかという政権公約を示さなければならない。そこは当然ながら、安全保障、社会保障、教育、エネルギーなど主要な分野がある。それを打ち出すのは政党として当然のことです。

ですから共産党が掲げる「国民連合政府」という連立政権では、民進党は一緒に活動できません。それは蓮舫代表も岡田前代表も語っています。理念や基本政策が一致しない政党と連立政権は組めないんです。

2016年夏の参院選を前に、市民連合の政策要望書に野党4党の代表が署名。(左から)SEALDsの諏訪原健氏、社民・又市征治幹事長、民進・岡田克也代表、共産・志位和夫委員長、生活・小沢一郎共同代表、「安保法制に反対するママの会」の西郷南海子氏(写真: 読売新聞/アフロ)

──先日、志位和夫共産党委員長にインタビューした際、志位委員長は野党連合政権をつくるためには、日米安保の廃棄や自衛隊解消といった共産党独自の政策は「持ち出さない」、いわば棚上げすると語っていました。

「棚上げしましたよ」で、「はい、納得しました」という話にはなりません。政治は判断一つで日米安保や自衛隊といった現実が動きます。繰り返しますが、根幹が一致できていないと、日々の情勢に対応できないんです。われわれは政権を預かった経験がありますから、無責任なことは言えません。

もちろん、働き方改革や共謀罪のような、個別の法案では連携できるところはある。そこで一緒に実現していけばいいのだと思います。

野田佳彦(のだ・よしひこ)1957年千葉県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、松下政経塾に入塾(一期生)。1987年、千葉県議会議員に初当選。1992年、日本新党に参加し、翌1993年の総選挙で初当選。2000年の衆院選で民主党から出馬。2011年、民主党政権で第95代内閣総理大臣に就任。2016年、民進党最高顧問から幹事長に就任(撮影: 塩田亮吾)

野田佳彦氏は首相経験者にして、現在は党幹事長という「ナンバー2」を務める。2011年8月、民主党代表選で代表となり、第95代内閣総理大臣に指名された。野田政権では消費増税を含む「社会保障・税一体改革」を提起し、民主、自民、公明の3党による合意を取り付ける代わりに解散を約束し、2012年11月に解散。直後の総選挙で民主党は、前回総選挙(2009年)の308議席から57議席へという大敗北を喫した。

連合は最大の応援団

──連合の神津里季生会長は、民進党と共産党との連携だけはダメだと強く主張しています。現在、どのような関係ですか。

連合は民進党にとって最大の応援団です。民進党の綱領にも「働く者の立場に立つ」という文言が入っており、働く人たちの声を踏まえた行動をしていくことは変わりません。

しかし、選挙に関して言えば、他の野党との連携を進めなければ自公に勝てないんです。その連携は共産党に対しても例外ではない。選挙技術として集票を極大化するのが政党の役割ですから。

──選挙技術として、ですか。

そうです。連合に対して「共産党と一緒に民進党を応援してほしい」という話をしたら、断られるでしょう。連合は過去に共産党と戦ってきた歴史があるからです。

ただ、選挙技術として、民進党の政策を実現するために、連合には(共産党ではなく)民進党に対する応援団として協力いただく。そういう関係性だと思います。

──ただ、その応援という点でも距離感を感じます。これまでの「2030年代に原発稼働ゼロ」を「2030年」と前倒しするエネルギー政策構想について、神津会長は2月16日、「相当高いハードルだ」と強い反発を示しました。

報道が対立を煽るような空気になっているのはよくないですね。エネルギー政策では、もともと野田政権時の2012年9月に「2030年代に原発稼働ゼロ」を掲げた「革新的エネルギー・環境戦略」を設定しました。その後の4年で再生可能エネルギーがどこまで拡大できるかという検証をし、2030年でも大丈夫だろうと提案したものなんです。私も連合の人たちに説明をしてきました。

──連合側の反応はどうだったのですか。

結論ありきではないが、われわれは説得力のあるエネルギー政策をつくれるかどうか議論をしているところです。

──(原発を運営する電力会社の労組が加盟する)電力総連から反発されたのではないですか。

連合にも知恵を貸してくださいという話もしていますし、議論すること自体は丁寧にやっていきたいところです。ただ、「2030年代に原発稼働ゼロ」を目指すエネルギー政策は野田政権のときに七転八倒しながらまとめた内容。その精神を踏みにじることはありません。議論のスタートはそこからです。

(追記:2月27日、蓮舫代表は「2030年原発ゼロ」方針について、3月12日の民進党大会での表明を見送る考えを示した)

旧民主党議員の中には、党の支持率が低い中で解散総選挙に踏み切って政権を終わらせた野田氏について「戦犯」と批判する向きもある(撮影: 塩田亮吾)

支持率が落ちた理由はわからない

──2月13日発表のNHKの世論調査によると、民進党は前回の調査より2.3%下げて6.4%。3位の共産党が4.4%(+1.2%)と迫られています。

支持率が落ちた明確な理由が何かはわかりません。ただ、安倍政権に不満をもっている層も一定層いるはずなのに、その層を引きつけられていないのは、一番反省しなければいけないところです。

──どこに問題がありますか。

おそらく現実的な政策で安心感があるかどうかじゃないですか。たとえば、日米関係や自由貿易を踏まえた戦略をもっているかなど、われわれにもそうした政策は多数あります。しかし、そうした部分が伝わっていない。

昨年の通常国会と臨時国会でわれわれは、法案審査の八十数%で賛成しています。でも、世間への映り方は「反対だけ政党」と。これは残念です。

──なぜそう映ってしまうと思いますか。

情報発信力ですかね。蓮舫代表が党首討論で「長時間労働に関する法案を出しているので審議してください」と言ってはじめて、民進党がそういう法案を出していることが伝わる。情報をもっと伝える対策は総力を挙げねばと思っています。

具体的には、まずはネットなんでしょうね。広報誌も紙媒体を月2回から1回に減らし、その分ネットに早く情報を出していくようにします。

首相経験をもつため、民進党結党時は「最高顧問」という役職。2016年秋の代表戦で勝利した蓮舫氏が、師匠格だった野田氏に党内をまとめる幹事長職を依頼した(撮影: 塩田亮吾)

民主党政権の失敗は「バラバラ感」

──今に続く支持率の低迷を、過去の「民主党政権の失敗」という視点から見るとどうでしょうか。民主党政権では、鳩山由紀夫首相の沖縄・普天間基地移設問題を巡る混乱や、選挙公約に掲げた毎月2万6000円支給という子ども手当の頓挫など、信頼を損ねる政策が複数ありました。

民主党政権を振り返って一番ダメだったのは、バラバラ感だったと思います。多様な意見で侃々諤々議論するのはわれわれの強い武器です。問題は議論の後なんです。党として決定したのに、まだ各人が言いたいことを語ってしまう。そこで国民はバラバラ感を感じてしまう。

たとえば、「社会保障と税の一体改革」。増税というもっとも国民的に反発を誘う、たいへん重要なテーマで、侃々諤々の議論でした。議論は悪くなかったのですが、消費増税法案の衆議院本会議の採決で反対票を投じ、離党する人まで出た。これは深い反省が必要です。

──当時、離党したのは、小沢一郎元民主党代表など衆議院議員38人、参議院議員12人でした。その直後、小沢氏らは新党「国民の生活が第一」を結成した。その小沢氏と近い松野頼久衆院議員など旧維新の人たちは、この2月、党内グループをつくっていますね。

いや、党内グループはあっていいんです。政治はそういうものですから。しかし、党として決まったことには従ってもらう。その見え方だけで大きく違うと思います。

消費増税法案の審議が進む2012年10月、国会内で党首会談に臨んだ(右から)野田佳彦首相、自民党の安倍晋三総裁、公明党の山口那津男代表(写真: 読売新聞/アフロ)

長期政権のコツは先延ばし

──野田さんはご自身と比べて、安倍首相の政権運営をどう思われますか。

長期政権のコツがわかりましたよ。消費増税とか、国民の痛みを伴う法案を先延ばしすればいいんです。

安倍首相は外交で頑張ってきたと言います。4年間で110カ国訪問したと。でも、この間、官民合わせて総額54兆円もの経済協力を約束してきました。いわば“小切手外交”をしているんです。お金をもらえるのなら、相手国はみんな歓迎しますよ。アメリカにだって「70万人の雇用創出」という案があったほどですからね。さすがにその案は新聞にリークされて撤回したようですが、そんな外交が日本の国民のためになっているのか、有権者に判断してもらわないといけない。

──最後に。蓮舫代表で勝てますか。

リーダーとして進化するタイプだと思いますよ。まだ若いですし、伸びしろがあるでしょう。代表を総理にするような戦い方じゃないと勝てませんよ。

蓮舫代表のもと、民進党はどこまで復活できるのか(撮影: 塩田亮吾)

〈シリーズ・現代日本と政治〉
日々変転する政治情勢、政局に対して、その根幹にはどんな課題があるのか、渦中の人物に直接疑問を投げていく。これまでに「共産党・志位委員長に聞く 政権獲得への本気度」「『連合』は誰の味方なのか 神津里季生会長に聞く」「小泉進次郎ら自民若手はなぜ新しい社会保障を構想したのか」など。


森健(もり・けん)
1968年東京都生まれ。ジャーナリスト。2012年、『つなみ――被災地の子どもたちの作文集』で大宅壮一ノンフィクション賞、2015年『小倉昌男 祈りと経営』で小学館ノンフィクション大賞を受賞。著書に『反動世代』、『ビッグデータ社会の希望と憂鬱』、『勤めないという生き方』、『グーグル・アマゾン化する社会』、『人体改造の世紀』など。
公式サイト

[写真]
撮影:塩田亮吾
写真監修:リマインダーズ・プロジェクト
後藤勝