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全員マスクでも見分ける方法はあるーーコロナ禍でも減らない需要、探偵業のいま

2020/05/24(日) 10:02 配信

オリジナル

外出自粛が促される昨今、さまざまな業界に影響が及ぶ。特にテレワークへの移行が難しい業種にとっては、死活問題にも直結しかねない状況だ。たとえば、現場に出向き「足で稼ぐ」仕事を必然的に伴う探偵業。探偵といえば思い浮かぶ「尾行」も人混みがなければ、紛れることすらままならない。街から人が消えた今、探偵社の調査員たちはどうしているのか。(取材・文:山野井春絵/Yahoo!ニュース 特集編集部)

「人捜し」の依頼が増えてきている

「仕事量は、例年とそんなに変わらないと思います。相談員が交代でテレワーク対応するほか、書類の共有もネットでできます。直接お会いすることのハードルはありつつ、相談事はやはり多いんです」

全国展開する業界最大手「原一探偵事務所」のベテラン調査員・菊地正志さんは言う。

「コロナ禍で企業系の調査依頼は減っていますが、逆に『所在確認』、つまり人探しの依頼は増えてきています」

菊地正志調査員

背景には、明らかに緊急事態宣言の影響があるという。

「例年、ゴールデンウイークが終わると、子どもの家出調査依頼が増えていたんですが、今年はその代わりに大人の失踪が目立ちます。資金繰りが苦しくなってくると、失踪者が増える。飲食店をはじめとして、自粛を余儀なくされている業界の経営者に、その危険はとても多いと想像できます。深刻化するのはこれからだと言われていますが、その序章としての相談内容は、もうあるんですよ」

今後は命に関わる調査が増えると思う、と菊地さんの表情は厳しい。

「最近は、路上生活者の方々に向けた公園の“炊き出し”も減っていますが、食べるものに困って、そうした場所でうずくまっている人を最近捜し出したばかりです。失踪者増は自殺者増につながるので、人捜しの専属チームを使い、全国的な調査をする準備を進めているところです」

マスク着用も「耳」で特定、Uber Eats風の尾行も

探偵といえば、尾行。街から人が消えた今、その方法がやや困難になっているのが現状だ。 菊地さんと同じ原一探偵事務所で、長年のキャリアを持つ調査員・岡田健太さんも、「普段より気を使う」と話す。

「不審な行動をすると相手の記憶に残ってしまうので、とにかく目線を合わせず、自然体でいるのが気づかれないコツ。例えば電車で真横に座った人のことをいちいち覚えてませんよね? 普通にしていれば、目に入っても意識はされません。ところが、電車内や繁華街が閑散としている今は、どうしても目立つ。無線を使い、複数人交代で前後左右に分かれて尾行したり、機材や車両を増やして張り込んだりしています」

時には、配送や水道工事業者を装った車両や宅配ピザを装ったバイクなども用意する。宅配ピザは、衣装や箱まで完璧に用意して、住宅街に紛れ込む。

業者に扮した車両の例

「パッと見た感じは完全にピザの配達員です(笑)。ピザの箱やバイク、水道工事車両に書かれた電話番号の部分にカメラを仕込んだりもします。証拠を確実に押さえるための創意工夫です。最近は巣ごもりで宅配も増えていますから、Uber Eats風に変装する準備もしています」

ピザのデリバリーにしか見えない

ピザの箱の内部にカメラを仕込むことも

とはいえ、コロナ禍でみんなが一様にマスクをつけている。この制約下で対象者を特定するのは難しそうだが……。

「新型コロナが国内で本格的に流行し始めたのは2月くらいです。インフルエンザや花粉症でマスクをする人がそもそも多い状況でしたし、そこまで難しさは感じませんでした。見分けるポイントは、まず耳の形。髪の分け目や眉の形、歩き方のクセも判断基準。マスクをしていてもすぐにわかりますよ」

このほか、ホクロやあざの位置、目の間の距離、カバンの持ち方(ショルダーはほぼ同じ側にかける、手提げも基本的には同じ側で持つ)、服装やスマホのカバーの色、吸っているタバコの銘柄まで、依頼者からの情報や提供写真から複合的に判断するという。

岡田健太調査員

「ただ、今回のマスクで一番の弊害は、相手の顔写真が撮りづらいところ。例えば夫の浮気調査なら、依頼者の奥さんはどうしても浮気相手の顔写真を欲しがるんですよ。そこが今、難しいですね」

緊急事態宣言の下でも、浮気調査の依頼はそれほど減っていないという。菊地さんは言う。

「外出は控えても、不倫自体を控えるわけではない。地方のラブホテルでは、いつもより盛況なところも多いくらいです。ただ、60歳以上の方々は感染への恐怖心が強いのか、会う回数を減らしている傾向があって、直接の調査はしづらくなっています」

浮気調査に精通する、リッツ横浜探偵社の山村佳子さんはこう話す。

「『コロナ離婚』という言葉も出ていますが、いつか別れたいと思っていた夫婦・カップルが、家の中で一緒に過ごす時間が増えてさらに溝を深め、離婚へのスピードが早まるケースが急増しています。ストレスが溜まって、そのはけ口を不倫相手への愛情に傾けるということはあると思います」

山村佳子さん

外出自粛、テレワーク推進が声高に叫ばれる中、不倫のカムフラージュに使われているのは、「架空の出社日」だ。

「テレワーク中の会社員が外出するためにつく嘘は、だいたい『出社日だから』。急な出勤、出張は怪しいですね。自営業など、実際はコロナ禍の影響を受けて仕事がなくなっていても、普段通り仕事のある体で出かける場合があります」

不倫は同じ職場内が多いーー菊地さんはそう指摘する。

「たとえばリモートワーク用にデイユースプランを出しているビジネスホテルでそれぞれ部屋を取り、別々の部屋で仕事をしていると見せかけ、実際は一部屋を使って会うことも。我々は、同じ部屋に入った瞬間の写真を、証拠として押さえます」

「ビジネスホテルの『テレワーク応援プラン』が『不倫応援プラン』として使われている」(山村)

以前なら、調査員たちが1週間ほど張って見極めていた「勝負日」(※業界用語で不倫カップルが会う日のこと)。依頼者からの「急に出社日と言って出かけた」といった情報で、証拠を押さえやすくなっているという。

普段は伏せられていた問題が顕在化する

また、パソコン上でのチャットやオンライン通話での「逢瀬」を目撃されるのも、最近の特徴だ。テレワークから生まれた「テレ不倫」「オンライン不倫」も夫婦の関係に決定的な亀裂を生むきっかけになることが増えている。

写真:INGRAM_PUBLISHING/アフロイメージマート

「テレワーク推進をきっかけに習得したZoomなどのオンライン会議用アプリで、彼氏・彼女とテレビ電話を楽しむ人が増えています。なかなか会えないけど、どうしても顔が見たい。書斎や車にこもるなど、いろいろ工夫しているようですが、現場や証拠を押さえられやすくなっています」(山村)

自宅でテレワークする最中にも相手とやり取りすべく、普段はスマホで使うLINEをパソコンに入れ、その画面を配偶者に見られてしまい不倫が発覚するケースも起きているという。

「こういう非常時に見られるのが、『いつ自分の人生が終わるか分からないから、本能のままに生きよう』と自分の欲望に従ってストレートに行動してしまう人。それまで二次元で我慢していた浮気願望を実現させようとする傾向があるんですよ。社会情勢が変化すると、普段は伏せられていた問題点が顕在化します。夫婦・人間関係の問題が浮き彫りになるのは、まさにこのコロナ禍の特徴でもありますね」(山村)

浮気調査に、所在確認。コロナ禍の下でも変わることなく、探偵たちは日夜ターゲットを追い続ける。


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