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いわなびとん

「干されてもいい」腹くくった鬼越トマホーク──容赦ない毒、実は事前に事務所確認も

2020/02/23(日) 09:48 配信

オリジナル

その男たち、凶暴につき。いまや好感度ナンバーワン芸人となったサンドウィッチマン、「優しいツッコミ」で話題沸騰中のぺこぱなど、お笑い界でも優しさのある芸人ばかりが愛されるこの時代に、いかつい外見の鬼越トマホークの2人は、見た目通りの危険な芸で注目を集めている。喧嘩の仲裁に入った共演者に容赦なく毒づく「喧嘩芸」だ。あえてリスクを負って誰彼かまわず噛みつきまくる彼らは、どこへ向かうのだろうか。(取材・文:ラリー遠田/撮影:いわなびとん/Yahoo!ニュース 特集編集部)

注目を浴びた喧嘩芸

テレビの収録中、突然始まるコンビ同士の口論。それが「喧嘩芸」の合図だ。共演者が止めに入ると、坊主頭の坂井良多が「うるせえな」と激高。勢いあまって仲裁者にも悪態をつく。相方の金ちゃんも「本当は思ってないと思うんですけど……」とフォローするふりをして、さらにどぎつい毒を浴びせる。

ゲスト出演した「スッキリ」(日本テレビ系)では、MCの加藤浩次に対して坂井が「闇営業に便乗して自分だけすっきりしてんじゃねえ!」と噛みつき、金ちゃんが「加藤さんだけすっきりして後輩芸人は何も変わってないんで、あの茶番、何だったんだろうって思ってるだけだと思います……」と続けた。

彼らの喧嘩芸、実は数年前に深夜番組で披露済み。当時一部で話題になったものの、その後は忘れられていた。だが、昨年あたりから再び注目され始め、多くのバラエティー番組に出るようになった。

「僕らは大昔からやってたので、とうに終わってるものだと思っていたんですけどね」(坂井)

「『さんまのお笑い向上委員会』や『ウチのガヤがすみません!』でやらせてもらうようになって、またちょっと波が来てますね」(金ちゃん)

ツッコミ不在の二段構えの猛毒

毒舌キャラのお笑いコンビといえば、普通は片方だけがきついことを言い、その相方はフォローに回るものだが、彼らの場合には両方が容赦なく毒を吐く。ツッコミ不在の二段構えの猛毒芸は斬新だ。

「正直、ツッコミが止める時代はもう終わったと思うんですよ。爆笑問題さんとかも、太田(光)さんがヤバい人に見えるけど、本当は田中(裕二)さんのほうがめちゃくちゃヤバいんです。結局そっちのほうが面白いなって思っちゃったんですよね」(金ちゃん)

二段構えの毒舌で笑わせるためには、2発目の威力が1発目を上回っていなくてはいけない。最初に毒づく坂井のほうが目立ちがちだが、実は金ちゃんのほうがよりどぎついことを言っていることも多い。

「坂井は怒ってる口調だからひどいこと言っている感じになるんですけど、俺は『本当は思ってないと思うんですけど』って言って、ちょっと下から行くから意外と“刺せる”んですよね」(金ちゃん)

「徐々にみんな気づいてますけどね。本当にヤバいのは太ってるほうだって」(坂井)

「お前も太ってるよ」(金ちゃん)

ふたりが近年注目されるようになった理由の1つに、いい意味での「開き直り」がある。くすぶったまま芸歴10年目を迎えて「干されてもいいから好きなようにやろう」と思えるようになった。

「最近、いろいろな問題で、芸能界の中でも安定した地位をつかんだように見える人がパッと落ちちゃうこともあるじゃないですか。そういうのを見ていると、もう金とか権力は要らないから、人々の記憶に残るしかないと思うようになったんですよね。『なんか面白い変なやついたな』『ああいうやつらはほかにいなかったな』って思われたい。これを上の人に話したら『お前、それ通り魔と一緒の発想だぞ』と言われました(笑)」(坂井)

「俺らのキャラ的に、世の中の全員に愛されるのはたぶん無理なんです。だから、俺らと同じ世代のオッサンに笑ってもらえればいいや、って腹くくったんですよね」(金ちゃん)

意外と怒られない毒舌

決死の覚悟でいざ先輩芸人に噛みついてみると、誰もが広い度量で受け止めてくれた。本気で怒られるようなことは一度もなかった。

「爆笑問題さんも千原ジュニアさんも、上の売れている人たちって、俺らぐらいの芸人に何を言われても全然気にしていないんですよ。それが分かったから、もう好きなこと言おうって思えるようになりました。最終的にはスタッフさんに使うかどうか判断してもらえればいいですからね」(金ちゃん)

笑いのルールを共有している先輩芸人に噛みつくのはローリスクだが、最近は俳優や文化人など芸人以外への「毒吐き」を求められたりもする。そういうときには、相手方に前もってネタを確認してもらうこともある。荒々しい喧嘩芸の下準備は意外と細かい。

「最初は打ち合わせで決めたことと違うことを言ったりもしていたんですけど、それだと結局カットされちゃうんで、出てる意味ないな、と思って」(坂井)

「今はスタッフさんを通じて先方の事務所に連絡してもらって、ギリギリのラインを行かせてもらうようにしてますね。俳優さんや女優さんの場合、本人たちは『大好きだから何でも言ってください!』って言ってくれることが多いんですけど、事務所からNGが出てしまうこともあります。まあ、それはしょうがないです」(金ちゃん)

喧嘩芸を続けていると意外な反響もあった。一般企業の忘年会やパーティーに呼ばれるようになったのだ。そこでは、社員の気持ちを代弁して社長などの重役に毒を吐く芸で拍手喝采を浴びている。

「めちゃくちゃウケますよ。『お前、会社の金でガールズバー行ってんじゃねえ』とか」(坂井)

「普段偉そうにしてる社長がそういうことを言われているのが面白いんでしょうね」(金ちゃん)

「社員さんからネタをもらっているんですけど、センスのいい言葉を俺らに教えてくれる会社って、だいたい業績がいいんですよ」(坂井)

「社員同士の仲がいいから、『悪口』も自由に言い合える雰囲気があるんです」(金ちゃん)

喧嘩芸の意外な効能

上下関係をものともしない彼らの喧嘩芸は、サラリーマンが普段は言えない本音を上司にぶつける格好の手段である。見た目は「反社」そのものの2人が行う過激な毒舌芸は、意外にも世の中の風通しを良くする社会貢献になっているのだ。

喧嘩芸がメジャーになればなるほど、ターゲットになる人間の地位もどんどん上がっていく。彼らの野望はまだまだ先にある。

「せっかく華やかな世界に入って運良く10年もやってこられたので、みんなが言いたいことをもっと上の人に言っていきたいですね」(坂井)

「一番上は安倍(首相)とトランプ(大統領)です」(金ちゃん)

「桜を見る会で喧嘩して、止めてきた安倍首相に一発言いたいです。国民の声ですよ」(坂井)

すでに業界関係者の間では鬼越トマホークの名は轟いている。あとは世間に伝わるかどうかの勝負だ。

「今は養成所もあるし、芸人がサラリーマン化しているんですよね。がんばってネタを作って賞レースで勝ち上がっていく、っていう。それはそれでいいけど、違う売れ方もあるんだっていうことを証明したいですね。僕は長野県の上田市で生まれたんですけど、自分は真田幸村の子孫だと思っていて、そういう生き方をしたいんです。負けると分かっていても潔く散っていけばいいじゃないですか」(坂井)

「お互い実家が銭湯と居酒屋をやってるので、駄目になったらそっちで働こうっていう話はしてます」(金ちゃん)

「ダセえな。散っていけばいいとか言ってたのに、めちゃくちゃ後ろ盾ある(笑)」(坂井)

美しく散っていくのか、華やかに狂い咲くのか。一か八かの勝負をかける2匹の猛獣は、昨今流行りの「優しいお笑い」に背を向けて、毒を撒き散らしながら乱世を駆け抜ける。


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