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殿村誠士

若者を覆う「希望の格差」への懸念――社会学者が語る平成の若者

2019/04/28(日) 08:33 配信

オリジナル

「最近一番驚いたのは、学生から『個人年金を掛けている』って聞いたことです」。中央大学教授で社会学者の山田昌弘氏はそう語る。山田氏は若者の結婚や仕事に対する意識、幸福度などに関する調査研究を重ね、実態を世の中に伝えてきた。『パラサイト・シングルの時代』『希望格差社会』『「婚活」時代』などの著作は、書名の一部が流行語にもなった。間もなく終わろうとしている平成。山田氏が語る「平成の若者」の変遷とは。(Yahoo!ニュース 特集編集部)

「現状不満・将来楽観」から「現状満足・将来悲観」へ

個人年金に加入している学生がいるという。

「将来、公的年金がもらえない」「制度が破綻するかも」などと耳にした学生が、老後が心配だから個人年金を掛けたと言うんです。一昔前の若者だったら「社会を変えて新しい年金制度を作らないといけない」と立ち上がるかもしれませんが、そうではない。今の若者から、社会が良くなる・社会を良い方向に変えることができるという前提がなくなってしまったんです。

山田昌弘教授。「30年前と今だと、前提となる社会の条件が大きく違うため、若者の行動も変化している」と話す(撮影:殿村誠士)

1989(平成元)年、日本はバブル景気に沸いていた。その年の12月29日に日経平均は史上最高値の3万8915円を記録。大卒の求人倍率も2倍をゆうに超えていた。就職できる受け皿が十分にある。その中で、あえて会社に縛られず自由に働くという一つの選択肢として「フリーター」が語られた。内閣府の調査によると、「今後の収入や資産」に不安を感じていると答えた20代は1987年にはおよそ11.5%。2012年が32.1%だから、割合は低かった。

平成が始まったころは社会全体でそれほど格差がなく、いわゆる「中流」と意識する人がほとんどでした。そして若者たちは自分の親世代を見て、勉強して良い大学を出れば就職ができ、就職ができれば年齢とともに給与も上がっていく、という姿を描くことができました。

若者は上の世代に比べ給与も安く、もっとぜいたくがしたい、あれもこれも欲しいけれど満たされないという不満はあったかもしれない。ただ、仮にいま苦しくても、将来は良くなっていくはずだという前提が共有されていました。将来には楽観的な見方がほとんどでした。

将来に楽観的だからこそ、消費意欲も旺盛でした。ブランドものを持つとかクリスマスになったら高級レストランに行くとか、高級品・高級レジャーを消費することは「自分はぜいたくができる層に属しているぞ」という証しであり、他者からの承認・評価を得ていると感じることもできたわけです。

対して今の若者を対象に調査をすると、現状には満足しているけれども将来を非常に不安視している。「現状不満・将来楽観」から、「現状満足・将来悲観」へといわば逆転しているのです。

30年前の若い世代とその子ども世代である今の若者とでは、社会の前提条件が大きく異なり、そのため行動様式も一変しています。

日常生活の中で、悩みや不安を感じている項目を問う質問に対し、1987年は「今後の生活費の見通し」、1992年以降は「今後の収入や資産の見通し」を選んだ回答者の割合(複数回答)。内閣府「国民生活の意識に関する世論調査」から国土交通省が集計・算出(出典:国土交通白書2013)

若者から格差が生まれ、広がっていった

山田氏は複数の著書の中で、変化がはっきりあらわれてきたのは1990年代の終わりからと記している。97年11月には山一證券が自主廃業、98年度には実質経済成長率がマイナス1.5%を記録している。90年代前半のバブル崩壊による影響が各方面に及び、このころから将来不安、格差などが広く人々に意識されるようになっていく。

大きなきっかけは90年代後半のアジア金融危機です。日本にも影響が来て、山一證券や北海道拓殖銀行のような絶対つぶれないと思われていた会社がダメになってしまった。大企業の相次ぐ破綻を目の当たりにしたことで、良い大学を出ても必ず良い就職ができるわけではない、就職できても会社が安泰とは限らないということを若者は突きつけられました。未来は不安定でリスクがあるという意識が根付いた。

1997年、「四大証券の一角」ともいわれた山一證券が自主廃業した(写真:ロイター/アフロ)

また、90年代後半からフリーターなど非正規雇用者が一気に増加しています。2000年前後にインタビューなどによる若者の意識調査を行いました。厚生省(当時)などの助成を受け、他の研究者と一緒に調査したものです。フリーターへの調査では、新卒者で正社員になれなかった人や、学歴に見合う就職先が就職難で見つからず、やりたい仕事につけるまでひとまずフリーターになったという人もいました。バブル期のフリーターとは状況が異なります。

いったんフリーターなどの非正規雇用の立場になると、正社員になるのは難しい。将来について諦めてしまったり、具体的に何も考えないようにしていたり。調査でインタビューしたフリーターは、ほとんどがそういう人たちでした。

「10年後どうなっていると思いますか?」と聞くと、あるフリーターの男性は「ロックスターになりたいです。なれなかったら死んでいると思います」と答えていました。具体的な未来を描けないでいるんです。

生き残った企業とつぶれてしまった企業、正規雇用の仕事に就けた人と就けなかった人などを対比して、「勝ち組」「負け組」という言葉がこのころから広く使われるようにもなりました。若者の間で格差が生まれ、成功した人としなかった人と二極化していく状況ができました。

「パラサイト・シングル」の変化

「パラサイト・シングル」の存在は、平成に入ってからの大きな特徴の一つだと山田氏は言う。学校を卒業し就職しても親と同居する若者を山田氏がネーミングし、流行語となった。国勢調査などをもとに推計したところ、80年代にその割合が増えはじめたと考えられるという。

親子関係の意識の変化、子どもを経済的に支え続けることが可能な親の増加、一般に望む生活水準が上がったことが、80年代にパラサイト・シングルが増加した背景と考えています。

私たちが行った90年代前半の意識調査からは、「それほど収入がなくとも親同居のために高い生活水準を維持し、生活満足度が高い」というパラサイト・シングル特有の傾向が見えます。

(パラサイト・シングルの)半数ぐらいは家賃や光熱費も払わず、ボーナスも使いまくっていました。女性の場合は結婚したら配偶者に養ってもらうのだから、使わないと損だと。例えば府中と松本でインタビュー調査をした際、ある女性が「お父さん、お小遣い」と言うと親がすぐにお金をくれる、と言うんです。それを聞いて私は「えっ」と思いました。10代の学生ではなく、仕事をしている20代の社会人です。

また親も、子どもと仲が良く、経済的に豊かな暮らしをさせていることを誇らしく思っている。そしていずれは結婚していくものだと思っていた。親は自分たちが若いころ苦労した分、子どもたちを豊かに育てることができて満足しているわけです。

自分の収入を趣味や交際費に使える彼ら彼女らにとって、結婚は生活水準を下げるということになってしまいます。パラサイト・シングルの増加は、未婚率増加の一因であったと考えています。

山田氏の研究室に並ぶ、若者研究などに関する著作(撮影:殿村誠士)

90年代前半、平成初期のパラサイト・シングルは、20代の正社員が主流だった。しかし経済状況の悪化、1999年の労働者派遣法改正による派遣業種の原則自由化などにより、若者雇用の不安定化が一気に進む。

2000年を過ぎて新たにパラサイト・シングルとなった人たちには、非正規雇用などの割合が増えました。将来の見通しが立たない状況になった人たちです。また、リッチな生活を送っていたパラサイト・シングルたちも、うち何割かは結果的に結婚せず、このころ30代に突入していると思われます。

パラサイト・シングルで、一度も女性と交際したことがない、今のままでいいのか、と話す男性がいました。収入が低いから無理だとあきらめていると言うんです。

私たちが2003年に行った若者調査によると、結婚相手にいわゆる「三高」(高学歴、高収入、高身長)のような条件を求めている人はほとんどいませんでした。ではなぜ、結婚に至らないのか。そもそも安心して子どもを持ち、家庭を築ける安定した収入を得ている人自体が減っているからです。加えて将来は今より収入が上がるかどうか分からない。

また女性で、「いつか結婚するから大丈夫」とキャリアを積まず、貯金など将来への備えもしてこなかった人もいる。彼ら、彼女らは、経済状況が悪化し、加えて自分も年齢を重ねて親の介護などに直面し、さらに結婚しづらくなっていったと考えられます。

こうした状況があって、パラサイト・シングルの人たちは、結婚に踏み切れない人が多かったのではないでしょうか。

(イメージ:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロ)

娘に「好きな人と結婚してほしい」

山田氏は読売新聞で読者からの相談コーナーの回答者を10年前から担当している。近年は若年層の相談が増えているという。

仕事にしても、結婚にしても、夢と現実に挟まれる悩みが多いです。

そういった悩みは昔からあったと思いますが、興味深いのは、若者がより現実的なことです。例えば先日、結婚を控えた娘を持つ親からあった相談なのですが、娘が本当に好きな人ではなく、しっかりした職業の人と結婚しようとしている、娘には好きな人と結婚してほしいという内容なんです。

親が「ちゃんとした人と結婚しなさい」と言って、子どもが「好きな人と結婚したい」というイメージが一般にありますが、逆なんです。学生たちに聞き取りをしても「好きだけで結婚するなんて、そんな貧乏になるかもしれないリスクは取れない」と言います。親世代はちょうど30年前に結婚した世代。恋愛結婚が最盛期で、自分たちは親からしっかりした人と結婚しなさいといわれてきた世代ともいえます。30年で親子の言うことが逆転しています。

経済的な格差の広がりを目の当たりにする中で、今の若者はある種、冷静に将来リスクを見ています。いわゆる勝ち組にならなかった人たちが40代、50代になったときの姿を近くで見ているからです。バイト先に30代、40代のフリーターの人がたくさんいるとか、親戚に中高年のパラサイト・シングルがいるとか。学生たちからも、そういった声をよく聞きます。

東京など大都市圏で大卒で正社員になった人と、地方で高卒以下で正社員になれなかった人と、差が本当に広がっている。うまく正社員になれた人も、ちょっとしたきっかけで職を失い困窮する可能性がある。そういう現実を今の若者はよく分かっている。

問題は「希望の格差」

山田氏は「平成後の10年、20年は格差拡大、固定化となっていくのでは」と懸念する(撮影:殿村誠士)

平成が終わり、令和時代はどうなっていくのか。

平成が始まるころは若者も中高年も格差がない中流状態でしたが、この30年で若者から格差が生まれ広がっています。若者も年を取るので、親と同居している人がそのまま20年続いて40代、50代になってしまったという人もいるわけです。

一方で、家族もつくって貯金も資産もあってという人と、格差が拡大するのではないでしょうか。そうすると、その下の世代、次の若者は親も貧しく、自分も貧しいという人も出てきます。固定化につながっていく。

努力や実力による、社会の納得のある格差まで悪いとは思いません。一番の問題は、経済状態や生活水準の差だけではなく、努力が報われるかどうかという「希望の格差」になってしまうことだと感じています。現実の世界に希望を持てない人たちは、努力することをやめ、ひきこもるなど将来を諦めてしまいます。若者の希望の格差は社会が活力を失うことにつながります。

若い人には、未来に対して希望を持ってほしいと切に思います。そのためには、若者が希望を持てる未来をつくらないといけない。一度レールからはずれてもやり直しがきく、やさしい社会にしていかないといけない。若い人たちも、いろいろな調査で仮に明るくない将来予測が出ていたとしても、その予測どおりに動く必要はないんです。君たちも未来を変えていくことはできるんだよ、ということを伝えたい。若者というのはそのパワーを本来持っています。必要なのは、そのパワーを発揮することができる社会にしていくことです。


【連載・平成時代を視る】
まもなく終わりを迎えようとする平成時代。この30年で社会のあり方や人々の価値観はどう変わっていったのか。各界のトップランナーの仕事は、世の中の動きを映しています。平成を駆け抜けた著名人のインタビューを通して、分野ごとに平成時代の移り変わりを概観します。