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今祥雄

“岡山の奇跡”と呼ばれたあの日から1年。桜井日奈子が踏み出す大きな一歩

2016/08/05(金) 10:47 配信

オリジナル

“岡山の奇跡”──そう称されたひとりの少女がいる。女優、桜井日奈子。2014年、岡山で初めて開かれた「岡山美少女・美人コンテスト」美少女部門でグランプリを取った。

ただ、それまではよくある、“地元のかわいい女の子”の物語だったかもしれない。その先に続く物語を描くには、偶然の重なりやちょっとした運が必要だ。

彼女には、それを呼び寄せる力があった。

2015年5月末、LINE MUSICのWEB CMに起用。「あの美少女は誰?」と目ざといファンを引きつけた。半月後にはインタビュー記事がYahoo! JAPANのトップページにも掲出され、瞬く間に「桜井日奈子」の名前は知れ渡る。

「友だちから『ネットに載ってるよ』って教えてもらったんです。あ、そうなんだ、ってその時は思ったくらい。でもすぐに事務所から電話がかかってきて、東京に行くことが多くなって……あの時から環境がガラッと変わりましたね。塾の先生からも、『 “奇跡”、次の問題解ける?』ってからかわれて(笑)」と、彼女は懐かしそうに目を細める。

「でも未だに慣れなくて……“奇跡”だなんて恐れおおくて、ちょっと恥ずかしいんです」

CM、舞台と活躍の場を広げてきた彼女は、新たにドラマ出演を果たす。あどけない笑顔と、凛とした佇まいにひそむ、彼女の意外な素顔とは。(ライター・大矢幸世/Yahoo!ニュース編集部)

撮影:今祥雄

男の子のように育った活発な幼少期

1997年4月2日岡山生まれ、現在19歳の女優・桜井日奈子は、兄と弟の男兄弟にはさまれて育った。

「小さい頃は“とっくみ合い”のケンカばかりで、本当に男の子みたいに育ちました。父がバスケットボールのコーチをしていて、3人ともバスケをしていたので、競い合っているような感じだったのかもしれません。おばあちゃんの家の庭にゴールを置いて、延々シュート練習をしていましたね」

“活発で、バスケの得意な女の子”だった彼女が「岡山美少女・美人コンテスト」に応募したのは、些細なきっかけだった。

「広告を見た友だちから『応募して、副賞のディズニー旅行取ってきなよ!』って言われて。『ムリムリ!』ってその時は断ったんです。でも家に帰って、もしコッソリ応募して、賞品を獲ってきたら、友達もびっくりするんじゃないかなぁ、って思って応募してみたんです」

CMでは幼少期から続けてきたバスケットボールの腕前を披露 (画像提供:ニベア花王 8x4ボディフレッシュ)

結果は、グランプリとオーディエンス賞のダブル受賞。「でもグランプリの副賞は賞金だったので、結局旅行は獲れなかったんですけどね」と笑う。コンテストをきっかけに芸能事務所から声がかかり、モデルとして所属することになった。

とはいえ、最初のうちは2、3カ月に一度、オーディションを受けに上京する程度。それもすべて落ちつづけていたという。

「『こんなにレベル高い子が来てるんだったら無理だよー』って、周りの子を見ては自信をなくしてました。『早く帰りたいな』って思いながら」

高校3年生に進級し、普通に「受験生」として勉強にいそしむ中、訪れたチャンスがWEB CMの仕事だった。

“岡山の奇跡”からはじまった快進撃

それからはまさにシンデレラストーリー。ネットで“岡山の奇跡”と話題になってから、スマホゲーム「白猫プロジェクト」や大東建託「いい部屋ネット」のCMなどに次々と起用。可憐な表情とコメディエンヌぶりが幅広い年齢層からの支持を得ることとなる。

今年5月には画家・中原淳一の生涯を描いた舞台『それいゆ』で女優デビューを果たした。本格的な演技はおろか、演技レッスンも未経験の中での抜擢。演出家の木村淳氏には「演技指導はしない」と宣言されたという。

「俺が『こう動け』と言ったら終わりだと思え、って言われて。そうなったらやるしかないし、共演者の方々もみなさん先輩で、キャリアを積まれてる方ばかりだったので、稽古から刺激を受けたり、相談したりして、少しずつ学んでいきました」

撮影:今祥雄

役どころは、女優になることを夢見る女学生。まるで彼女の位相を投影しているかのようだ。

「早くいらっしゃいよ」。そう言って舞台上に飛び出すのが、彼女の最初の演技だった。震えるほどの緊張感に、息も浅く、彼女は毎回、舞台袖で“クラウチングスタート”の体勢を取っていたのだという。

「灯りがともったら、よーい、スタート!って飛び出すんです。しゃがみこんだまま、あぁ、もうすぐ出なくちゃいけない……って、怖くて怖くて。でも、いざ始まってしまえば、不思議と緊張はどこかに行って、物語の中に没頭して、いつもあっという間に終わってしまうんです」

7月からは初のドラマ出演、日本テレビ系『そして、誰もいなくなった』でバーに入り浸る家出少女・君家砂央里役を演じている。

「ワンシーン撮ったら、次、またその次……って感じで、舞台とはスピード感が全然違いますね。ペースについていくのも大変ですし、そもそも撮影自体、シーンが前後するのがいちばんの衝撃で。舞台みたいに何度も何度も芝居を練って、時間を追って練習ができないので、台本を読み込んで、頭を切り替えて……と必死なんです」

イメージを裏切るような人間くさい役を演じたい

ゆっくりと言葉を選びながら、あどけなく笑っては、時折ハッとするほど大人びた表情で、こちらをまっすぐに見つめる。この世界に入ってわずか2年にも満たず、どんな現場でも物怖じしない姿勢は、天性のものなのだろうか。ひょっとして、「本番に強い」タイプ? そう彼女に尋ねると、こう答えた。

「どうだろう……そう見えます(笑)? でも、幼稚園からずっとバスケをやってきて、何十回、何百回と試合をしてるのに、毎回緊張してたんです。でも、『ピーッ!』って試合がはじまると、ちゃんとしなきゃ勝てないじゃないですか。だから、始まってしまえば意外と平気なのかもしれません。私、ポイントガードだったから、スリーポイントシュートが得意だったんですよ」

コート内で瞬時に状況を把握し、最善な選択を取れる判断力と、パス、ドリブル、シュートとオールラウンドな技術力が要求されるボジションだ。背筋を伸ばし、まっすぐな目で見据える先には、どんな自分の姿があるのだろうか。

「また舞台に立てたらいいなと思います。カーテンコールで、お客さんの大きな拍手に迎えられた時、言葉では言い表せないほどの感動で。たくさんのお客さんが立ち上がって、拍手してくれて……あの瞬間はもう本当に、やみつきになるくらいでした。『あぁ、この子、こんなことするんだ』って、私とあまり結びつかないような役を演りたいんです。泣き崩れたり、怒鳴ったり……心に闇を抱えてるような、人間くさい役を」

撮影:今祥雄

編集協力:プレスラボ 

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