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イラスト:佐藤香苗

子どもの「なんで?」が最大のヒント──夏休みの自由研究、ダイナソー小林の「掘り方」

2019/07/28(日) 09:16 配信

オリジナル

夏休みの自由研究と言えば、親も子も頭をかかえる真夏の「難関」。「自由」という答えのない宿題にどう向き合えばよいのか。NHKラジオの「子ども科学電話相談」で“恐竜の先生”として人気を博す恐竜学者・小林快次を訪ねた。ネット上で「ダイナソー小林」とも呼ばれる教授が語る自由研究、恐竜愛、そして最新の成果である「むかわ竜」への思いとは──。(Yahoo!ニュース 特集編集部/イラスト:佐藤香苗)

好き放題進化した恐竜

「僕らは本当にタイムトラベルしてるんです。1億年前の化石を手にするっていうことは、1億年前に戻ったってことなんです」

少年のような笑顔で、恐竜の化石の魅力を語る声が研究室にひびく。2日後のアラスカ遠征を控え、床には大きなスイカが5〜6個入りそうなバックパック。机には「まだ言えない」という未発表の化石が無造作に転がったまま。興奮気味に話すこの男こそが、北海道大学総合博物館教授の小林快次(47)だ。

小林快次。アラスカのデナリで(提供:植田和貴)

これまで発見した恐竜の骨は数千、全身骨格は数十体。次々と化石を発見する小林は、“ファルコン・アイ(ハヤブサの目)”の異名を持つ。

「過去に生きていた動物を手に取れるのは化石だけなんです。遺伝学の研究者が、こんな動物はこの時代にはいなかったはずだと言っても、僕らが化石を見つけたら紛れもない事実。面白いことだらけですよね、恐竜ってのは」

1999年12月、英国の学術誌「ネイチャー」に初めて日本人の書いた恐竜に関する論文が掲載された。そこに刷られた名は〈Yoshitsugu Kobayashi〉。ただの恐竜愛あふれる研究者ではない。

「実は僕らが持っているDNAっていうのはとんでもない可能性を持っていて、今、僕らは必要に応じて、人間の形になってるけど、ある条件がそろえばとんでもない形、大きさにまで進化できるっていう例が恐竜なんですよね。生命が持っているポテンシャルを最大限に表現したのが、僕は恐竜だと思ってる。ここまで複雑化して、ここまで繁栄して、好き放題進化した動物っていうのは恐竜以外いないですよね」

カナダのセントロサウルスの発掘現場。3人で頭骨を囲み掘り出す。中央が小林(提供:小林快次)

子どもたちの“恐竜の先生”

小林が発掘の世界を飛び出し、世間に知られるようになったきっかけは、2010年から出演しているNHKラジオ「夏休み子ども科学電話相談」だろう。小中学生の科学に対する疑問や興味にこたえる、夏休みの風物詩とも言えるラジオ番組だ(今年4月からは「子ども科学電話相談」として週1回のレギュラー放送化)。小林は “恐竜の先生”として出演する。

「恐竜をモフモフしたい。いっしょに遊んでくれそうな恐竜がいたら教えて」
「恐竜バージョンの桃太郎のお話を考えています。おとものキジの代わりになる植物食の恐竜はなにがいいと思いますか」

思わず笑みがこぼれるような無邪気な質問にも、「モフモフって何したいのかな? 触りたいの?」「キジ以外は、もう決まってるんだ? ああ、いいとこいくね」と大真面目に子どもたちと会話する。どんな質問であろうと「子どもだから」とバカにすることはない。

「子どもたちも分かると思うんですよ。適当に『こうじゃない?』とかって言ってると。例えば何か言われて、分かんないと大人ってごまかすわけですよね。でも大人だって全部知ってるわけじゃないんだから、一緒に考えてみようかって寄り添ってあげればいいんです」

小林はどんな学生も基本的に受け入れるという。「何だ、おまえ、恐竜やったことないんだったら来るなとか全くない。うち(北海道大学)の学生に、前は劇団で芝居してましたっていうやつもいますよ」

自由研究? そんなの知るかって

学研教育総合研究所が小学生1200人とその保護者を対象とする調査をまとめた小学生白書Web版(2018年)によると、夏休みの子どもの自由研究に協力する保護者は9割超にのぼる。もっとも割合が高いのは「テーマを一緒に考える」(62.6%)。その自由さゆえに、自由研究が夏休みの「親子の宿題」となっていることが窺える。

研究のプロは、この「難関」をどうやって乗り越えるのか。ラジオで聞かれるような純粋な疑問にこそ、最大のヒントがあると小林は言う。

「恐竜以外でも『なんでトマトの種はトマトの中で芽が生えてこないんですか』とか、『なんで赤ちゃんはかわいいんですか』とか。ん? と思うけど、確かにそうだなって質問が多いんですよ。例えば、子どもから質問があったら、それを一個一個書き留めて、冷蔵庫とかにペタペタ貼る。それを『この前、こんなこと言ってたじゃん。一緒に調べてみようか』とか声を掛けてあげるといいと思います。そうすれば、自由研究の選択肢だって日々作ってあげることができる。『えっ、何だろう』って思った疑問こそが自由であって、それを自分で探ってみるのが自由研究になるんじゃないかな」

アラスカのアニアクチャックで。海岸沿いに立つ崖に地層が露出する。小林は発掘調査について「永遠にかかる。ちょっと掘ったら出てくるので、どうしようって。まだ何も分かってないです、本当に」(提供:Anthony R. Fiorillo)

小林自身は過去にどんな自由研究をしていたのだろうか。

「小学校時代は比較的宿題をしない子どもで……。いかに先生から逃げるかを考えてましたね。だから自由研究は、アサガオがどう育ったとかを嫌々やってた感じ。だから宿題で自由研究やってきなさいって言われても、『そんなの知るか』って」

そう言って笑う小林。実は小学校時代はさほど恐竜に興味がなかったという。新著『恐竜まみれ――発掘現場は今日も命がけ』(新潮社)でも、「当時は仏像やお寺、古墳などに興味を持っていた」「あちこちの仏像を見にいっては(ノートを)熱心に書いていた」とつづっている。

別の著書では「雄々しい迫力をもつ不動明王像も好きだったけど、穏やかな表情にどこか深い思慮を感じさせる弥勒菩薩像が、ぼくのなかでは断トツのナンバーワン」と当時を振り返っている。

質問の答えは「教えない」

「恐竜の自由研究っていうのはなかなか難しいんです。昆虫や植物だったら採集に行ったり、観察したりできる。でも生きた恐竜は観察できない。やるならたとえば、博物館に行って、恐竜の化石や全身骨格を観察して調べてみる。自分の地元から出てきた恐竜について調べてみるとかですかね。化石も探せば、ちょこちょこあるとは思いますけど」

小林の場合は、出身地の福井県がたまたま化石発掘のさかんな場所だった。中学で理科クラブに入り、アンモナイトの化石を発掘したことをきっかけに、この世界にのめり込んだ。その後アメリカの大学に留学し、博士号を取得。福井県立恐竜博物館を経て、北海道大学で教職に就いた。

中学生のときに発掘したアンモナイトの化石。当時は「図鑑を読んだって難しいことしか書いてないから、アンモナイトの絵を描いて、他のとココが違うなとか。勝手に自分で『このアンモナイトは洪水のときに流されて……』とか、むちゃくちゃなストーリーをつくってレポートを出してました」(撮影:編集部)

福井県立恐竜博物館にいたころは、「この化石は何ですか」と子どもたちからよく質問を受けたという。しかし小林は、あえて答えを教えることはしない。

「こういう図鑑があるから、それ見て調べてみなって。これ何だろう、じゃあ先生に聞いてみよう、だとすぐ答えが出ちゃうんですよね。それでは学習にならない。間違っててもいいから自分なりにスケッチして、〈ここがちょっと丸い〉〈ツルツルしてる〉〈何とかが何本ある〉って特徴を書き出してみる。そうすると自分の言葉、自分の表現で、世界に一つしかないノートができる。そうやって、いかに自分で考える力を持つかっていうのはすごく大事だと思うんです」

なぜ考える力が大事なのか。

「小学生でもめちゃくちゃ恐竜に詳しい子って、図鑑じゃ物足りない。〈進化って何?〉〈ベルクマンの法則は?〉〈コープの法則は?〉って聞くと、これこれこれって答えるんですよ。恐竜を通してなのか、小学校のレベルを超えた生物の知識を学んでたりする。興味を持つことが学びのきっかけになってるんですね。例えばスタートが恐竜で、そこから何だか天体も面白いな、昆虫も面白いぞ、電車も面白いってなっていい。考える力さえ持てば、いろんな応用が利く。僕は恐竜って、その入り口っていう感じがしてるんです。ほら、恐竜って嫌われないキャラだし」

ラジオで恐竜に名前をつけたいと言っていた女の子は今、「庭にある石を割ってるらしいんですよ。それは出ないだろうなと思うけど、かわいいなと」

「新種濃厚」のむかわ竜は元カノ

小林によれば、全世界で毎年20種前後の恐竜に新しく名前が付けられているという。最新の研究では、恐竜の色が分かるようになったり、CG技術の進歩でまるで生きているかのような恐竜の姿を再現できるようになったりしている。

「恐竜の魅力はもう簡単で、規格外の進化をしてるんですよ。そして、いま僕らの身の回りにいない。大きいとか、長い角を付けてるとか、今の世界にないじゃないですか」

恐竜はおよそ1億7000万年にわたって、地球上で暮らしていた。一方で、世界中で見つかっている恐竜は約1000種しかいないという。いま現在、地球上にいる鳥類はおよそ1万種、ほ乳類はおよそ6000種ということから考えると、ほとんど何も分かっていないに等しい。

「だから調査へ行って化石1個見つけるだけでも、大発見なんですよ。1個だけでも相対的に情報の重要性が高い。いつも新しい事実がある。何やっても常に、月面の第一歩なんです。最高ですよ、アドレナリン出まくりです」

「むかわ竜」と小林。大型恐竜として「日本の歴史上、ここまで完全な全身骨格化石が発見されたことはない」という(提供:小林快次)

現在、東京・上野の国立科学博物館で展示されている「新種の可能性が極めて濃厚」という「むかわ竜」も小林の発見だ。2011年にむかわ町穂別博物館(北海道)から連絡を受け、2013年から発掘開始。今年ようやく全身骨格の展示にこぎつけた。化石の発掘には時間がかかる。

しかし小林、“ファルコン・アイ”と呼ばれるだけあって発見が多い。毎年6月はカナダ、7月はアラスカ、8〜9月はモンゴルと世界遠征が「ルーティン」だ。そのせいもあって、小林にとっては「むかわ竜はもう過去」だという。

「僕の中で、むかわ竜は『元カノ』なんです。いまは次の新しい『彼女』を……。大変ですよ、目移りしちゃって。あれもいいな、これもいいな、どれにしようかなって。手元にまだいっぱいあるのに、また(化石を)探しに行きますからね。最低な男ですよ」

(撮影:編集部)

小林快次(こばやし・よしつぐ)
1971年、福井県生まれ。北海道大学総合博物館教授、同館副館長。ゴビ砂漠やアラスカなど、北環太平洋地域にわたる発掘調査に出ながら、恐竜の分類や生理・生態の研究を行う。1995年、米国ワイオミング大学地質学地球物理学科卒業。2004年、同サザンメソジスト大学地球科学科で博士号取得。著書に『恐竜まみれ――発掘現場は今日も命がけ』(新潮社)、『ぼくは恐竜探検家!』(講談社)、監修に『講談社の動く図鑑MOVE 恐竜』(講談社)などがある。


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