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伊藤圭

「変身」を続けたチャットモンチーは「完結」を選んだ

2018/06/30(土) 10:52 配信

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「平成最後の夏」という言葉が、やけに胸を締めつける。そのノスタルジーと時を同じくして、橋本絵莉子・福岡晃子のチャットモンチーはこの夏、その活動に終止符を打つ。

7月4日に日本武道館で行われる最後の単独ライブ、同月21、22日に開催される「チャットモンチーのこなそんフェス2018」をもって、解散ならぬ「完結」をする。

彼女たちはデビューから13年のバンド活動を通して、何を追求し続けたのか。そしてなぜ、“チャットモンチー”を終わらせるのだろうか。(取材・渡辺雅史/構成・大矢幸世/写真・伊藤圭/Yahoo!ニュース 特集編集部)

不本意だった「ガールズロックバンド」の称号

「デビューの頃は、『徳島発・ガールズロックバンド』って言われがちで、すごいイヤでしたね。なんか、その色眼鏡で聴いてもらえなくなるんちゃうかな、って。だから、『スカートは、はかないようにしよう』とか、3人とも男っぽい服を着てました」。ボーカル・ギターの橋本絵莉子は当時をこう振り返る。

「男性だけで構成されるバンドが圧倒的に多かったので、彼らと同じことをしなければバンドマンじゃないと思ってたところがあって……。男性バンドはみんなハイエース移動なんですけど、なんかハイエース運転する勇気がなくて。軽自動車で移動してました(笑)」(福岡)

徳島県出身で同級生の橋本絵莉子とベース・コーラスの福岡晃子、そして福岡の大学の先輩であるドラムスの高橋久美子の3人で2005年11月にメジャーデビューを果たしたチャットモンチー。1stミニアルバムのリード曲「ハナノユメ」はこんなフレーズではじまる。

薄い紙で指を切って 赤い赤い血が滲む これっぽっちの刃で 痛い痛い指の先

甘い声のわりに、ヒリつくような切実さをはらんだその歌は、いま思えば、彼女たちの世間に対するファイティングポーズだったのかもしれない。全国の30を超えるラジオ局でパワープレイを獲得したその曲を皮切りに、チャットモンチーは着実にリリースとライブを重ねていく。

2006年11月発売の3rdシングル「シャングリラ」はテレビアニメ「働きマン」のエンディングテーマに起用され、スマッシュヒットとなった。

「それでも全然、みんなに聴いてもらってる実感とかはなくて……渋谷のセンター街を歩いてたら『シャングリラ』が聞こえてきて、私たちのポスターも貼ってあって。あぁ、こんなすごいとこに看板出とるんや、って写真撮りましたね」(橋本)

当時、女性だけの編成で活動する本格派ロックバンドは数少なく、なおさら彼女たちのブレークは光明に見えた。ワンマンツアーはすべてソールドアウトし、雑誌「ROCKIN'ON JAPAN」では初めて女性のみのバンドとして表紙を飾った。そしてデビューからわずか2年4カ月で日本武道館2days単独公演を果たす。

順風満帆に見える歩みだが、一方で、目まぐるしいほどの速さで進んでいくことに、不安を抱えていた。

「音楽を作ること以外は本当にわからなかったのは確かだけど、当時のスタッフから『何もわかってないんだから、任せておけばいい』と言われることにも違和感があって……。世の中に音楽を放つまでが自分たちの仕事なんじゃないか、という葛藤が芽生えはじめたんです」(福岡)

やがて、ステージ上やスタジオのなかだけが3人にとって「聖域」になっていった。「あ、なんか自分たちの力だけではどうにもならないこともあるんだ、と思いはじめて、ギュッとかたくなになっていきました」(橋本)

メンバーの脱退からはじまった「変身」への挑戦

2011年9月。多くの曲で作詞も担ってきたドラムスの高橋久美子が脱退する。徐々に生じていった音楽に対する熱量の差は、埋められないものとなっていた。だが、ここで彼女たちは予想外の決断をする。ベースの福岡がパートを変更してドラムスとなり、ギターとドラムの2ピースバンドとなったのだ。

「久美子が辞めることが決まってから毎日、誰にサポートを頼むか考えてたんです。でも、久美子の代わりはいないし、それを誰かにお願いするのも申し訳ない。『その手があった!』と思えるようなアイデアをずっと探していて……あ、私がやってみるの、どうかな?って、恐る恐るえっちゃん(橋本)に聞いてみたら、『めっちゃええやん!』って即答されて」(福岡)

「想像してみて、絶対カッコいいはずや、って思えたんです。『あ、ここに(ドラマーが)おったー!』って思えた」(橋本)

そこからふたりは、次々に「変身」を繰り返すバンドとなる。ギター、ドラム、ベースを時にそれぞれが持ち替え、リアルタイムの録音・ループ再生を駆使しながら、エモーショナルな初期衝動を取り戻した2ピース編成。

橋本の産休を挟み、サポートメンバーとして、ドラムス恒岡章(Hi-STANDARD)、キーボード・ギター下村亮介を迎えた「男陣」、ピアノ世武裕子とドラムス北野愛子を迎えた「乙女団」と、それぞれメンバー構成も楽器構成も異なる4ピース編成。そして、再びふたりのみとなり、ギター・ドラムに加えてシンセや打ち込み音源を用いた「チャットモンチー・メカ」編成……。

身につけたものをあっさり手放しては、違う方法を模索して、新たな音像を生み出していく。人間、30歳を過ぎて仕事のやり方も定まり、力の抜きどころもわかってくる頃。だが、ふたりはその安寧を求めなかった。なぜだろうか。

「あっこちゃん(福岡)は元からそうやったもんね」と、橋本は笑う。

「2年以上続いたバイトがなくて(笑)。仕事の内容を覚えたら、もう次の新しいことを知りたがるし、学びたがる。好奇心は昔から強かったのかもしれない。音楽も、『これやったらダサいな』と思われること以外は、全部やりたい。それぞれのタイミングで、『ドラムやったら、みんな笑ってくれるかな』とか、『いまなら打ち込みできるかな』とか、そんな感じでやってきたんです」(福岡)

その心変わりを受け入れ、一緒になって変身してきた橋本も、相当な勇気の持ち主だ。「どれも、ほんまにやり切ってきたんです。やっぱり、燃えるようなものが生まれないと、続けていけないじゃないですか。新しく何かはじめると、またそれが見つけられる。だから、ええやん、って思えたのかもしれない」(橋本)

きっとファンたちは、これからもチャットモンチーが変身しながら、続いていくことを想像していただろう。けれどもふたりは2017年11月、チャットモンチーを「完結」させることを発表した。

「阿波おどり」で迎えるバンドの大団円

「『メカ』の編成でツアーを回ったとき、やっぱり最初の一音でお客さんの顔を見ると『えっ、そうなの?』みたいな戸惑いがある感じだった。でも曲を重ねるにつれ、安心して、楽しんでくれる様子を見ていたら、ここでチャットモンチーとしての変身を止めてもいいかな、と思えたんです」(橋本)

「えっちゃんから『もう、やり切ったんじゃないかな』って言葉があって、『それって、アリやん!』って、ふたりとも胸のつかえが取れたみたいにキャッキャしてた。チャットモンチーをつくったのはえっちゃんやし、今でも私がチャットのいちばんのファンだと思ってる。初めてえっちゃんの声を聴いたとき、『世の中に絶対広まってほしい』って思ったんです。そのえっちゃんが『やり切った』と思えたなら、そっか、次の変身は『完結』やな、って素直に思いました」(福岡)

そして、2018年6月27日に発売されたばかりのラストアルバムは、「誕生」と名づけられた。

年を重ねると、変わるのが怖くなる。新しいものをにわかには受け入れられず、自分の感受性が鈍くなっていくような感覚を覚えることもある。だが彼女たちは、変わること、新しい一歩を踏み出すことを、前向きに受け止めている。

橋本はこんな言葉を続ける。「積み上げれば積み上げるほど、しんどくないですか、ちょっと。手放すと、身軽になれる気がする。『こうしたい』とか、『やってみたい』って思えることを選んでいったほうが、健康的なんじゃないかな」

7月21、22日に地元・徳島での「チャットモンチーの徳島こなそんそんフェス2018~みな、おいでなしてよ!~」で、チャットモンチーとしての最後を迎える。

「完結」以降のことは、まだ何も決まっていない。「無職です」と笑う橋本に、「転職しよう、とか言ってるんです」と福岡も続ける。

「『何も決めていない』っていうのが、初めての経験なんです。だから、しばらくはそれをちょっと味わおうかな、と思っています」(橋本)

「こなそんフェス」のフィナーレは前回同様、「阿波おどり」と決まっている。「私たちが先頭になって、阿波おどり連(グループ)を引き連れて練り歩くんです。だからもう最後も、笑うしかないだろうなぁ、って」(福岡)

祭りのあとの静けさを残して、ふたりの明日は続いていく。

制作協力:プレスラボ


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