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殿村誠士

「世間の声は気にしない」―山田孝之は「愛」のために生きていく

2020/07/26(日) 09:42 配信

オリジナル

山田孝之、36歳。かつては「早く死なねえかな」と心が塞いだ時期もあったが、今、ネガティブな気持ちになることはほぼないという。俳優、映画製作、動画配信……。仲間と絶えず新しいことに取り組むなかで、もっとも大事にしているものは「愛」だ。(取材・文:塚原沙耶/撮影:殿村誠士/Yahoo!ニュース 特集編集部)

(文中敬称略)

生きることがすごく楽になった

コロナ禍の影響で、山田が主演する『全裸監督』シリーズの撮影はいったん中断になったが、現在は再開している。休止中も役の「体づくり」は続いた。食べて鍛えて、脂肪と筋肉をつける。撮影が再開してしばらく経ったこの日、山田の表情は穏やかで、肩の力が抜けている様子だった。

「再開して一発目の時、めっちゃ緊張しました。どんなだったっけ、と思って。まあでも、大丈夫だと思います」

撮影がストップした期間、何を考えて過ごしたかを聞くと、言葉を選びながらこう答えた。

「いろいろなことに気付かされて、生きることがすごく楽になりました。不要なものが見えてきたり、可能性が見えてきたり、考えがシンプルになった。『いろいろ』を噛み砕くと……危ない、ちょっと噛み砕きすぎて、言っちゃいけないことを言いそうに……。18歳の時から『明日死ぬかもしれない』と思って生きているんです。ネガティブな意味ではなく。本当にそうだなと思うようになりました」

「いろいろ」の詳細は明かさないが、心境に変化が訪れたようだ。

「(エンターテインメント業界は)既存のやり方でできなくなって、何か別の方法を考えなきゃいけないという状況で、考えるきっかけにはなっていますよね。なんとかやって生きていくしかないですから。俳優の活動も、5年後、10年後を考えたら、どうなっているかは分からない」

職業を尋ねれば「俳優、とか」と答える。映画プロデューサー、会社経営、本の執筆など、さまざまに活動してきた。今年に入ってからは、映画『ゾッキ』を製作。初めて長編映画の監督を務めた。最近はYouTubeチャンネル「NO GOOD TV」で動画を配信するほか、複数の新規企画も水面下で進行しているという。

「やったことのないものをやる時は、『こういう壁が出てくるのか』とか、気付きがあります。ワクワクしますよね。どうやったらそれを乗り越えられるのかと」

常に大事にしているのは、「愛情」と「ワクワク」だ。

「『愛情』ですよ、全てにおいて。それがないとダメだと思います。思いやりですね。あと、『ワクワク』は絶対大事。ワクワクしてないと死んじゃうんじゃないかって思うんです。やばいな俺、『一番大事なのは愛』とか言っちゃって。前は『あきらめない』も大事にしていたんですけど、今はある程度やってダメな場合は次の段階に進まなきゃと思うようになりました。それから『準備』。いつもどれだけやっても足りていない気がする」

これまでの挑戦に失敗はないと断言する。

「興行成績も賞レースも、僕が出演する側だったらあんまり関心がない。プロデューサーの場合、ある程度意識しなきゃいけないですけど、何億、何十億いったら成功ということではないと思う。もちろんお金を出してくれる人たちがいるから、回収はしなきゃいけない。回収できず、そこで解散してしまったら失敗で終わりだけど、それを生かしてまた一緒にやれば、次の成功のための勉強だったということになる」

ネガティブな気持ちになることは「ほぼない」。

「ネガティブかポジティブかと聞かれたら、絶対ポジティブです。いら立つこともそんなにないですね。仕方ないじゃないですか、怒ったって。自分一人で生きているわけじゃないから、何かしら起きますよ」

(イラスト:山代エンナ、デザイン:REVEL46)

世の中は真実を求めていない

「世間の声は気にしない」とあっけらかんと話す。ネットのニュースもSNSの反応もほとんど見ない。

「エゴサーチは、今はしないですね。人がどう思っているかなんて、意味はないですから。100褒められても、1のネガでドスンときちゃう。相手が誰かも分からないのに。僕と話したわけでも意見を聞いたわけでもなく、僕のことを嫌いになった人とは、仲良くなれないですよね。だから見る意味がないです」

「記事でも、『賛否の声』とか書くじゃないですか。僕、あれ無責任だなと思うんです。書き手は賛か否、どちらかの見方をしているのに、あたかも外野から声があがっているみたいにコメントを抜粋する。そもそも、全てにおいて賛否はある。世の中って真実を求めていないと思う」

10代半ばで上京し、仕事をし始めてしばらくは、いっぱいいっぱいになっていた時期もあった。

「人にもめっちゃ会うし、仕事もいっぱいあって、やらなきゃいけないこと、覚えなきゃいけないこと、全てが多すぎて、『やめて、見ないで、あんましゃべりかけないで』みたいになっていた。『面倒くさいこと多いから早く死なねえかな』ってずっと思ってたんですけど、それじゃ駄目だって。生きたいと思うには、人生を楽しむしかない。楽しむためにはどうしたらいいだろう。前向きに人に会って、もっと話をして、興味を持ってもらって、生きていこうと思った」

人と積極的に会うようになった今も、山田の日常は「けっこう一人」で、孤独は素敵だと思っている。

「仕事終わってちょっと飲む時も、一人で行きます。結局、お店の人とか常連さんとかどんどん仲良くなるから、もはや一人ではないんですけど。飯食おうとか飲もうって時、連絡しないんですよ。一人で飲んでるのが好きで。誕生日とか、ここ何年かは大勢集まってくれて、それはそれでうれしいんですけど。でも本当だったら、一人でカウンターで、『今日俺、誕生日だぜ』みたいに飲んでるほうが好きだな。寂しくないんです」

家に帰れば妻と子がいる。妻とは「君」と呼び合う。

「お互い、『君』って呼んでます。自然にずっとそうなっているだけです。息子のことは、ほとんど奥さんに任せてますよ。僕から(子どもに対して)ああしなさい、こうしなさい、というのはないですね、全く。結局本人の人生ですし、どう生きていくかは自分で決めることなんで」

「残りの人生があと3日だとしたら、どう過ごしますか?」という質問に、こんなふうに答えた。

「今日は、大好きな人たちとみんなでお寿司を食べます、酒飲みまくります。で、明日は家でグロッキー。ゆっくりします。『みそ汁作ってください』って言って。最後3日目は自分が死にたい場所に行きます。沖縄ですかね、やっぱり。生まれた地。木がいいな。木の横で死にたいです」

(イラスト:山代エンナ、デザイン:REVEL46)

生まれ変わったら水になりたい

俳優デビューしてから、20年以上が経った。『WATER BOYS』(2003年)でドラマ初主演を果たして以来、絶え間なく映画やドラマに出演し、「ちゅらさん」「クローズZERO」「闇金ウシジマくん」「勇者ヨシヒコ」各シリーズなど、多くの代表作を持つ。

今まで演じたキャラクターに「嫌いな人は一人もいない」。

「(演じる人物を)信じて愛さないと、絶対できない。『こいつどうなの』って思ってたら、絶対よくない。訳分かんないことをして人にすごく迷惑かけているようなキャラクターでも、この人はなぜこうなったのかってことを考えるんです。台本になかったら、自分で過去を作る。この人はこういう家庭環境で育って、集団生活の中でこういうポジションにいて、そこで起きたこういう出来事をずっと引きずっている部分があって、人にこう接してしまうんだ、と。それを自分に落とし込むんです。そうするとめちゃくちゃに見える行動も理解できる」

多岐にわたる仕事をこなすなかで、いろいろな立場に立ってものを考えたり、怒りやいら立ちをコントロールできたりするのは、俳優として「この人だったらこうする」と長年想像してきた影響が大きいと考えている。

「お芝居をするというのはやっぱり、人のことを考えることだから」

演じている時には、もはや芝居という感覚はないという。

「自分はその人だと、自分に信じ込ませて、『今この感情だ』『これに対して激しく怒りが湧いている』と思って、怒る。そこに嘘はないんですよね。芝居という感覚じゃなく、その人としてそこにいる」

最後に「生まれ変わったらなりたいもの」を問うと、あらゆる役になる俳優・山田孝之らしい答えが返ってきた。

「水ですね。いろんな経験ができるじゃないですか。人の中に入ったり、水道管の中を通ったり、下水に流されたり、海に出たり、雲になって雨として降ったり、山に降ったらそこから山水になっていったり……。絶対必要なのに、すごく粗末に扱われてたりっていうのも面白いですし。人では到底見られないものが見られそうだから」

「RED Chair」では、腰掛けていた椅子に揮毫(きごう)してもらう。山田は言葉ではなく、水玉を描いた。「この椅子をもっと可愛くしようという、僕の愛が表れています」

山田孝之(やまだ・たかゆき)
1983年生まれ、鹿児島県出身。「クローズZERO」「闇金ウシジマくん」「勇者ヨシヒコ」各シリーズ、配信ドラマ『全裸監督』など出演作多数。ドキュメンタリードラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』『山田孝之のカンヌ映画祭』、ドキュメンタリー映画『No Pain, No Gain』も話題を呼んだ。著書に『実録山田』がある。映画『ステップ』が公開中、映画『はるヲうるひと』が公開待機中、映画『新解釈・三國志』が12月11日公開予定。

【RED Chair】
常識を疑い、固定観念を覆す人たちがいます。自らの挑戦によって新しい時代を切り開く先駆者たちが座るのが「RED Chair」。各界のトップランナーたちの生き方に迫ります。


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