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笹島康仁

専門家会議メンバーが明かす、新型コロナの「正体」と今後のシナリオ

2020/02/26(水) 09:58 配信

オリジナル

中国・武漢から広まっている新型コロナウイルス。政府は2月25日、感染拡大を防ぐための基本方針を発表した。今後1、2週間が拡大か収束かの山場となる。今回の新型はどのようなもので、私たちはどう過ごせばよいのか。また、今後のシナリオは──。政府専門家会議のメンバーで東北大学大学院医学系研究科の押谷仁教授にインタビューした(取材は2月23日時点)。(ノンフィクション作家・河合香織/Yahoo!ニュース 特集編集部)

軽症でわかりにくかった新型コロナウイルス

──そもそも、なぜこんなに広まってしまったのでしょうか。

新型コロナウイルスが非常に厄介な性質だからです。感染しても全体の8割は軽症で、無症状の人もいる。それでは感染者を特定することは困難です。また、感染してから発症するまでの潜伏期間も多くは5、6日間ですが、もっと長い人もいる。軽症者や、感染しても症状のない人、さらに潜伏期間内の人でも、周囲に感染させている可能性があり、感染連鎖が見つけにくいのです。

──軽症が多いと伝えられますが、重症化して亡くなった人も増えています。

多くの人は重症化しません。高齢者は致死率が高いのですが(中国では80代以上で14.8%)、重症化した時点で多くの人にウイルス性肺炎が見られます。これにより、肺の多くの部分が機能しなくなります。

(撮影:笹島康仁)

──新型コロナウイルスの危険度が高いとわかってきたのはいつ頃でしょうか。

中国・武漢の実際の状況がわかってきた1月15日前後から、報告数よりもはるかに多い感染者がいる可能性があることを知り、性質の一端を理解できました。武漢の当局は当初、SARS(重症急性呼吸器症候群)と同じ対策を取っていたと考えられます。でも、今回のウイルスはSARSより感染力がはるかに強かった。しかも症状が見えにくい。僕自身があそこにいても、同じ失敗をしたと思います。

──患者の症状が見えなければ、医療従事者も対処できませんね。

当初はそれほど重症化しないし、感染した人が誰と接触したかという接触者調査でもあまり多くの人を感染させていないように見えたと思います。しかし、実際には感染したのに軽症の人が大勢いて、その人たちがさまざまな場所でウイルスを広めていた。このウイルスの特徴に当局が気付いた時には、武漢ではもう手のつけられないような状況になっていた……というのが僕の理解です。

押谷仁(おしたにひとし)・東北大学大学院教授は、1999年から2006年まで世界保健機構(WHO)西太平洋地域事務局に感染症対策アドバイザーとして勤務。02年から03年にかけて中国を中心に広がったSARSの事態収拾への陣頭指揮を取り、収束させた経験を持つ。今回は2月14日から、内閣官房・新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の一員として助言をする立場となっている(撮影:笹島康仁)

非常に高かった「感染性」

──2003年に広がったSARSと今回の新型コロナウイルスでは、どんな違いがありますか。

SARSでは感染者の多くが重症のウイルス性肺炎を起こし、致死率が10%ぐらいでした。新型コロナウイルスは現在、致死率は2.3%程度ですが、もっと低い可能性が高いと思います。感染した人が重症化する率はSARSに比べると少ない。ただし、感染性が非常に高く、むしろ重症者が少ないことが感染連鎖を見えにくくしています。そのため、ある程度感染が拡がらないと感染連鎖が見えず、各国の水面下で感染が拡がっていると考えられます。重症化する率は低くても、非常に広範囲に感染しており、その母数が増えた分、新型コロナウイルスでの死亡者数はSARSより圧倒的に多くなっています。新型コロナウイルスはSARSコロナウイルスと遺伝子配列は似ていますが、「病原性」と「感染性」は全く違います。

(撮影:笹島康仁)

──感染力に違いがあるのはなぜでしょうか。

SARSは下気道(気道の下部)、つまり肺でしか増えなかったのですが、新型コロナウイルスは肺でも増えるし、上気道(気道の上部)、つまり喉のあたりでも増えます。上気道でウイルスが増えた場合、症状は軽いけれど、喉のあたりでウイルスがたくさんあるから、簡単に感染が起きてしまいます。飛沫感染や接触感染が主体だと考えられますが、例外的に咳やくしゃみのない人から会話などで人に感染させてしまう可能性が否定できません。ここが厄介なのです。

──SARSのときのように封じ込めはできないのでしょうか。

短期的には無理だと思われます。SARSは感染者が中国を中心に、世界で8056人でした。新型コロナウイルスは、もうどのくらいなのか、本当の感染者数は把握できなくなっています。少なく見積もっても数十万人。そこまで広まったウイルスの感染連鎖を見つけて、全部潰すことは非常に困難です。

(図版:ラチカ)

クルーズ船の影響で受け入れが難しい医療機関

──日本では目下、感染者が増え続けています。どうすればよいでしょう。

まず我々がすべきことは、自分が感染しないかではなく、いかに人に感染させないかです。

国内では2月13日に感染者が見つかりました。本来は、そこから徐々に増える感染者に対応していけばよかったのですが、クルーズ船の感染者を一気に医療機関で抱えてしまったことで、今はもう、東京都内の大きな医療機関は受け入れが難しい状態になっています。

(写真:ロイター/アフロ)

──病院に行っても重症者以外は受け付けないと政府も発表しました。

はい。日本でも「クラスター」(感染者の集団)が増えて感染拡大すると、病院はかなり厳しい状態になります。つまり、病床や医師などが不足して、助けられる命も、助けられないことになるのです。武漢でも本来なら助けられたのに、感染者の急増で医療資源が足りなくなり、命を落としたケースが多いと考えられます。

実際、ウイルスに感染していることがわかっても、軽症者に対する治療は残念ながら現在は何もありません。重症者に対しては人工呼吸器などの集中治療を行う、あるいは試験的な薬を投与するなど方策はありますが、軽症者に投与することは現状ではできません。そして、軽症者が病院に来ても検査のキャパシティは超えつつあり、今の段階では検査できません。つまり、軽症者が病院に来ても、打てる手がないのです。

(撮影:笹島康仁)

──クラスターとは具体的にどんな場所で起きるのでしょうか。たとえば、学校が心配されています。

学校でクラスターが発生しないとは断言はできませんが、子供の感染例は中国でも非常に少なく、その可能性は低いです。一斉の学校閉鎖をすることは、全体の流れからするとあまり意味がない。大人が子供にうつす例はありますが、インフルエンザのように子供が流行の大きな原因になることは少ないことがわかっているからです。

クルーズ船状態が日本のどこかで起きる可能性

──感染が起きやすい行動とはどういうものでしょうか。

対面で人と人の距離が近い接触(互いに手を伸ばしたら届く距離)が、会話などで一定時間以上続き、多くの人々との間で交わされる環境です。たとえば立食パーティーや飲み会などはリスクが高い。ほかにもいろんな形があると思いますが、こういう中に感染者がいたら危ない。その人にはっきりとした症状がなくても、感染が広がる可能性があります。

(図版:ラチカ)

僕の理解では、クルーズ船はメガ屋形船です。多くの人が触れあう機会が非常に多い。だから、数百人の感染という大規模なクラスター連鎖(メガクラスター化)が起きたのだと思っています。今、屋形船のようなクラスターを潰していこうと考えていますが、クラスターの元を断つ努力を皆がしないと、なすすべがなくなります。

──検査を受けられないという不安も耳にします。早く治療しないから重症になると考える人もいます。

今は軽症者も病院に隔離目的で収容していますが、もうできなくなりつつあります。クラスター連鎖やメガクラスターが起こると感染拡大を制御することが非常に難しくなります。クルーズ船のような状態が、日本のどこかで起きてしまったら感染拡大を止めることは困難になります。韓国では、そのようなことが実際に起きてしまった可能性があります。

今の日本で、一番メガクラスターが起こると考えられる場所は病院です。待合室で多くの人が長時間滞在するのは、感染の可能性を非常に高いものにします。日本ではまだ全体の中で感染している人は非常に少なく、体調不良で診てもらいたい、あるいは心配だから診てもらいたいという人の99.99%以上は、このウイルスには感染していないと考えられます。しかし、医療機関には、残りのわずかの割合で存在する本当の感染者がいるかもしれない。武漢のように多くの人が待合室の中で押し合いへし合いの状況になると、メガクラスターが起こる可能性があります。

(図版:ラチカ)

慌てて医療機関を頼らない

──今後の見通しはどうなるのでしょう。

まずこの1、2週間が山場です。感染がさらに拡大するのか、それとも収束するのか。それは国民がどれだけ冷静に判断して、リスクのある行為を避けられるかにかかっていると思います。

本日(2月23日)時点での最良のシナリオは、日本で小さな流行しか起きず、重症者も出ないというものですが、その可能性は小さくなりつつあります。

別のシナリオは、いろいろな場所で、ある一定規模以上の感染拡大が起きて、そのいくつかではかなり厳しい状況になる、ということです。そこでは、医療機関が重症者の集中治療を十分にできないような状況になる可能性があります。

(撮影:笹島康仁)

怖いのは、そういう状況が日本全国で相当数起きて、クラスターの連鎖が起こり、拡大を止められなくなることです。そうなると、感染拡大を止めるためには、社会機能を完全に止めるしかなくなります。

──そうならないためにも、この1、2週間が重要ですね。ただ、そのあとも警戒は必要なのでは。

その通りです。収束に向かうか、拡大するのか、今は重要な分岐点です。ただ、この新型コロナウイルス問題の怖いところは、日本だけに終わらないという点です。

先月、フィリピンに僕らが新型コロナの検査の試薬を持って行ったら、感染者が3人見つかりました。中国本土以外の最初の死亡者はフィリピンでした。しかし、その3人の感染者が見つかって以降、その他の患者が1人も見つかっていない。インドネシアは2億5500万人の人口がいて、中国からも直行便がある。それなのに、感染者は増えていると聞きません。

これまでの各国の状況から、そういう国でも実は感染連鎖が始まっている可能性が高いと思います。その場合、仮に日本だけで感染拡大を止められても、新たな感染源が生じてしまうので、そこからまた感染者が日本にも流入することになります。ただし、そうなっても国内の体制は急速に充実することが考えられるので、大きな流行になることを阻止するすべはあります。

(撮影:笹島康仁)

──不安をもてばきりがありませんが、どの程度恐れるのがよいのでしょうか。

いま日本の街中ですれ違って感染する確率は非常に低い。武漢とは違い、感染者が多くの地域にいる可能性はまだ非常に低いからです。けれども医療現場は違います。いま日本国内でリスクがもっとも高い場所です。

政府は目安となる指針を出しています。

37.5度以上の発熱が続き、強いだるさ、息苦しさが4日以上続いた場合、相談センターに連絡するとなっています(高齢者、糖尿病など持病がある人は2日以上)。まずはそこまで様子を見ることが大事です。

2009年の新型インフルエンザの時には、外来で3時間待ちや4時間待ちもありました。けれども、検査してもらえるし、薬を処方してもらうこともできる。でも、新型コロナウイルスは軽症者に対しては薬もないし、治療法もない。検査もなかなかしてもらえない。

もちろん、重症化の兆候がある人には最善の医療を提供する必要があります。医療現場ではそのような体制を迅速に整備しようとしています。重症化する徴候のある人に最大限の医療を提供するためにも、また自分が感染しないためにも、軽症者や過剰に心配に感じる人が医療機関に押しかけるような行動はすべきではありません。

(撮影:笹島康仁)


河合香織(かわい・かおり)
1974年生まれ。神戸市外国語大学卒業。2009年、『ウスケボーイズ 日本ワインの革命児たち』で第16回小学館ノンフィクション大賞受賞。『選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子』で2019年、第50回大宅壮一ノンフィクション賞、第18回新潮ドキュメント賞受賞。

[写真]笹島康仁
[図版]ラチカ

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