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堀越照雄

「何百回落ちても、めげたことはない」――松岡茉優を突き動かす悔しさ

2019/10/01(火) 08:00 配信

オリジナル

子役時代から何百回ものオーディションを受け、役をつかんできた。負けないようにと頑張るなかで、「まわりからどう思われるか、そればかり恐れて生きてきた」。2018年、映画『万引き家族』でカンヌ国際映画祭のレッドカーペットを歩いた。この作品を経て、心境の変化があったという。24歳の今、「しゃかりき」に歩んだ日々を語る。(取材・文:Yahoo!ニュース 特集編集部/撮影:堀越照雄)

(文中敬称略)

悔しくて、階段を下りることができなかった

「受けたオーディションの数は、もう数えられないですね。子どものころだけで200、高校時代まで数えたら、きっと300、400、500……。私、めげたことはないんです。ねじり鉢巻きですよ、『おっしゃ、行ったろ!』って。めげるんじゃなくて、受かった人への嫉妬(笑)。2次審査以降に進んで落ちた作品は、一本も見ていません。悔しくて、悔しくて」

今思い出しても、悔しい面接がある。

「紙を事前に渡されて、覚えて行って、2人1組で会話をしたんです。そしたら私だけ、『うまいのは分かったから、ちゃんと心動かしてくれや』とか、繰り返し言われて。帰り道、市ケ谷駅で、腹が立って仕方がなくて、階段を下りれなくなった。『階段下りれない。悔しい』って母に電話したのを覚えています」

母は「ほわほわっとした人」で、「ねたみ、そねみでいっぱいになっているときも、ぽーっと見守っていてくれた」という。

「当時はファクスでオーディションに申し込んでいたんです。母は落ちたものも全部、紙をファイリングしていて、すごく分厚くなっていました。私にとっては負の遺産なんですけど。母にはやっぱり(出演作を)全部見てほしい。初めての主演ドラマの予告を見て、『あなた、お芝居上手ね』と泣いてくれて。24年間見続けている私のことを、私じゃない人物として見て、楽しんでくれるかどうか。母はリトマス試験紙ですね」

松岡が8歳のとき、5歳下の妹がスカウトされた。妹の面接についていったことをきっかけに、芸能事務所に所属する。2008年、子ども向けバラエティー番組『おはスタ』で、本格的に芸能界デビュー。中学2年生からの2年間、「おはガール」を務めた。

事務所に入った当初から、女優を志していた。憧れは事務所の先輩、宮﨑あおい。オーディションを受けながら、演技の土台を地道なレッスンで培った。芝居の面白さを知ったのもレッスンだ。

「私は、感性で演じるというより、メソッドで習ってきたタイプなんです。最初は児童劇団で、『外郎売(ういろううり)』とかトラディショナルな演目を学んでいました。12歳からはずっと同じ先生に師事しています。高校生までは毎週レッスンがあって、遊びの延長のような感じで楽しくて。座学ではなく個々が好きなように学ぶスタイルで、(子どもの自主性を重視する)『モンテッソーリ教育』という教育法に似ているんじゃないかと思います。今も演技に迷ったときは、すぐ先生に連絡するんです」

友だちが一人もいなかった高校生活

15歳のときに受けたオーディションで、手応えを得た。中村義洋監督の映画『ポテチ』(2012年)だ。

「来ている子たちのレベルが高くて、無理だと思ったけれど、中村さんにお会いできるから行きました。でも、オーディション会場でお芝居をしていたら、中村さんの目がキランって光った気がして。『これはもしや!』と思ったら受かったんです。膝上くらいのTシャツスカートに、デニムを合わせていたんですけど、それからしばらく、これが私の“オーディション成就服”に。はやりの髪形や服装じゃなくて、まっさらな状態が見てもらいやすいんだなって思いましたね」

その“成就服”で、映画『桐島、部活やめるってよ』(2012年)のオーディションも通過する。

「高校生ぐらいになると、役には魂があって、それに合わなければ落ちるんだと分かるようになりました。エヴァンゲリオンで言えば、シンクロ率が高い人がエヴァに乗るほうがいい。選ばれた人が役との整合性が高いんだと思うんです。悔しさはあるけど、勝った負けたではなくて、役の魂が落ち着くところに落ち着いたんだなって思うようになりました」

中高生のころにオーディションで顔を合わせていた面々が、今それぞれ花開いている。

「同世代が豊富なんです。親友の伊藤沙莉や橋本愛は常にドキドキする存在ですし、二階堂ふみちゃんは異彩を放っているし、土屋太鳳は、一筋の光というか、正統派であり続けている。中高生のころは、みんなこんなに個性的じゃなかった。それぞれが自分の活躍できる場所を探して、元々あった原石のようなものを自分のスタイルで磨いてきたんだろうと思います。まわりのキラキラした存在にありがたみを感じていますね」

高校1年生の9月に、公立高校から芸能コースのある私立高校へ転校。高校時代は、一人で本を読み、舞台や映画を見て、勉強をして過ごしたという。

「転校したときには、みんなもうグループができあがっていて。アニメでよく見る、一番後ろの席で風になびかれて小説を読んでる子になりたかったんです。安部公房とか読みながら、けだるい雰囲気を出していたんですけど、だんだん本当にけだるくなっちゃって、2年間一人も友だちができませんでした。3年の秋、文化祭のときに、同級生の朝日奈央と百田夏菜子が騒いでいて、面白くて、つい笑っちゃったんです。そしたら『え、松岡さんって笑うんだ』って。朝日のゴリラの物まねが面白くって。そこから卒業までの半年、青春を過ごしました」

どう思われるか、恐れて生きてきた

高校卒業を機に、大学には進学せず、「俳優として食べていく」と心を決めた。卒業後、最初の仕事がNHK連続テレビ小説『あまちゃん』(2013年)。ご当地アイドルグループ「GMT47」のリーダー・入間しおりを演じた。

「受けていたのは、主役のオーディションでした。きっとNHKさんのどこかに、私が海女の格好をしてジャンプしてる悲しい写真があると思うんですけど(笑)。いいところまで行けば、お友だち役のチャンスがあるって聞いてはいたんです。『あまちゃん』に出てからは、『あまちゃん女優』としてバラエティーにも出させてもらえたし、次のお仕事にもつながりました」

以降、主演ドラマ『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』『水族館ガール』、NHK大河ドラマ『真田丸』や映画『ちはやふる』など、着実に好演を重ねる。2017年には、主演映画『勝手にふるえてろ』が東京国際映画祭コンペティション部門で観客賞を受賞。この映画の演技で、松岡は多数の賞を受賞する。

そして、2018年公開の映画『万引き家族』で、「JK見学店」で働く柴田亜紀を演じた。『万引き家族』はカンヌ国際映画祭のパルムドールを受賞。是枝裕和監督や共演者とレッドカーペットを歩いた。

亜紀という役も、オーディションでつかんだものだ。

「プロットでは全然違う雰囲気のキャラクターだったので、オーディションで是枝監督とお話ししながら、『これ、私じゃないですよね。いつかご一緒できたら幸いです』と、お別れのように帰りました。そしたら2週間後くらいに連絡をいただいて。キャラクターを書き換えてくださったんです。本当に、奇跡みたいで。是枝監督は取材の場で、『ちょっと毒のある人を集めました』とおっしゃっていました」

リリー・フランキー、安藤サクラ、樹木希林らと家族のように過ごした日々を通して、心境の変化があった。

「しゃかりきにやらなくてもいいんだな、ということを学びました。みなさん、まわりからどう思われるかを恐れていないんです。私はもう、そればかり恐れて生きてきたから。同世代の役者が多いこともあり、負けないように自分のキャラクターを作り上げて、本来の自分とは違うふうに振る舞ったりしていた。でも、まわりがどんな受け取り方をしても、自分が間違っていなければいいんじゃないかなって、みなさんのお姿を見ていて思えたんです」

「希林さんが『まわりからの印象を恐れるのは、自分が可愛いからよ』とおっしゃっていて。本当にそうだな、と。お芝居では元々誰にでも好かれる人物を作ろうとは思っていませんけど、バラエティーや取材の場でも『こういうキャラクターが受け入れられるはず』とか考えなくなりました。今は好きなように、楽しく。『元気いっぱいです』っていうのは卒業かな」

自身の出身でもあるバラエティー番組への感謝は深く、これからも出演し続けたいという。

「私が初めて認めてもらえたのは『おはスタ』ですし、かけがえのない役のきっかけをくれたのもバラエティー。『問題のあるレストラン』で演じた千佳ちゃんは、私にとって一番愛しい役で、今でも彼女を愛しています。脚本家の坂元裕二さんが、あの役を私にと言ってくださったそうで。理由をお尋ねしたら、バラエティーの『うつけもん』をご覧になったと。またバラエティーが私を救ってくれたんだなって思いました」

緊張で、指をしゃぶって寝た

この取材が行われたのは、主演映画『蜜蜂と遠雷』の完成披露イベントの日。前夜、松岡はなかなか寝付けなかったという。

「頭を冷やしたり、ハーブティーを飲んだり……いろいろ試したんですけど、全部ダメで。結局、指をしゃぶって寝たら、なんとか眠れました。初めてお客さんに見てもらう日だから、緊張しすぎて。大きい予算の作品で主演を務めさせていただくのは初めてで、言葉通り、勉強になりました。作品を全体で見通す責任と使命感と。この作品を興行的に成功させたい思いもある。大きい作品で主演するというのは、胆力が付くなと感じます」

原作は、本屋大賞と直木賞を史上初めてダブル受賞した、恩田陸の同名小説。かつて天才少女と呼ばれた、ピアニストの栄伝亜夜を演じている。母の死をきっかけにピアノが弾けなくなった亜夜は、7年のときを経て再びコンクールに出場する。

©2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会

「読んでいるとき、頭の中で音楽が鳴っているような小説で。原作は群像劇としての素晴らしさがありましたから、映画で亜夜を主役に据えると聞いて、『他のキャラクターの気持ちもしっかり描いてほしい思いがあります』とプロデューサーさんにお話ししました。これだけ素晴らしい小説が報われない映画化をするなんて、絶対にあってはならない。その責任を、今日に至るまで感じています」

天才ピアニストをどのように捉え、演じたのだろうか。せりふは少なく、目線や表情で感情を語る。

「人物像は原作に密度濃く描かれているので、役作りのうえで、私の仕事はあまりないんです。天才と呼ばれる人は、やっぱり人懐っこくはないし、人に対してすごくパッションがあるわけでもない。亜夜は音楽には敏感ですけど、この人がどういう性格で、どういう思いがあってっていうのは、あんまり考えないんじゃないかなと。そういう冷たい温度感をもって演じました」

原作を「教科書のように」、常に現場で持ち歩いた。一方で、映画化は再現ビデオではない、とも思っている。

「なぜ映画化するのかということは、常に自分に問いかけています。映画化したことで足せるものがあるとしたら、やっぱり肉体だなと思ったんです。ラブシーンのように見せたいシーンでは、体のラインが出るニットを着たいと提案したり、亜夜だったらドレスのリボンはどの位置がいいかとか、みんなで話し合いました。髪形も、ピアノを弾いているとき、曲に合わせて、重たく鉛のように髪が動くといいなと思ったんです。いつもわりとアイデアを出させてもらいますが、ここまで作り手側に立って考えたのは初めてです」

クランクアップすると必ず、即座に髪形を変えるという。

「気持ち悪くて仕方がなくなるんです。撮影が全部終わったら、美容師さんに『緊急。ヘアスタイルチェンジ』ってメールを送ります。私は『坊主にしてください!』くらいの気持ちになっているんですが、美容師さんがたしなめながら、いい具合に変えてくれるんです」

全く異なる髪形で、もちろん全く異なる役柄を演じた映画『ひとよ』も公開を控える。田中裕子を母に、佐藤健、鈴木亮平と3兄妹を演じている。

「主演の佐藤健さんがいて、田中裕子さん、鈴木亮平さんがいて。みなさんが絶対アタックを決めてくれる。私はやっぱり、トスを上げる役割が好きなんだなと実感しました。でも、その役割を担うには、主演の立場の気持ちが分からなくてはいけないし、胆力を付けなくては。与えられた役を慎重にお引き受けして、自分ができる以上のことを返せるようにしていきたい」

『万引き家族』の現場で、是枝は松岡のことを「振り幅がある」と称したという。

「希林さんに笑ってほしくて、子役のときからオーディションに落ち続けた話をしていたんです。幾度も負けたことを話したら、『あなたはね、決め手がないのよ』って。それを聞いていた是枝さんが気を使ってくださったのか、『松岡さんは振り幅があるから、誰にでもなれるから、ああ言ってくれたんだよ』ってフォローしてくださったんです」

オーディションとレッスンを重ね、度胸と演技力を養った。主演でも助演でも、どんな役でも打ち返す振り幅をもって、また次の役へと突き進んでいく。

松岡茉優(まつおか・まゆ)
1995年生まれ、東京都出身。近年の主な出演作に、映画『ちはやふる』3部作、『勝手にふるえてろ』『blank13』『万引き家族』がある。2019年、日本アカデミー賞の優秀主演女優賞と優秀助演女優賞を受賞。『蜜蜂と遠雷』は10月4日公開。『ひとよ』は11月8日公開。


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