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「産んだのは妻よ」と笑う妻―― 同性愛カップルの「家族計画」

2016/08/05(金) 12:10 配信

オリジナル

2015年6月に米国の全州で同性婚が合法化されるなど、性的マイノリティーの権利を認めていこうとする動きは各国で広がりつつある。家族のかたちが多様化する中で、性的マイノリティーの人たちにとって「子どもを持つかどうか」は現実的で重要な選択だ。パートナーとともに子どもを育てるゲイやレズビアンの親たちがいる。周囲の理解や制度の壁を前に、困難さを抱えている人たちがいる。米国で、オランダで、日本で、当事者たちの「家族計画」を聞いた。
(Yahoo!ニュース編集部/AFPBB News編集部)

【動画】子育て中の米国の同性カップルを訪ねた(約3分)

「2人の父親」

「パパが1人しかいないの? さみしいね」

米国・ニューヨークに住むブライアン・ローゼンバーグさん(51)は、子どもたちに「多くの家族には父親が2人もいないんだよ。ママとパパがいるんだよ」と語りかけると、そう返されたという。

ブライアンさんとファード・ヴァン・ガメレンさん(56)は、連れ添って23年になる同性カップル。7歳の男の子と、5歳の双子の女の子たち3人にとっては、「2人の父親」がいることが普通なのだ。

2人の父親、祖母、妹と誕生日を祝うリヴァイくん(AFP-Services/Mathias Garnier)

「父、母、子どもといった家族像はもう当たり前ではなくっている」とブライアンさんは言う。交際15年目に2人で悩み抜いた末に子どもを育てると決めた。養子縁組で男児を受け入れた後、代理母出産で双子を授かった。2人は母親役・父親役というような役割を分けたりはしない。

「それぞれのスキルや特性で役割分担しているだけ。子どもたちは、女の子はこう、男の子はこうというようなステレオタイプを持たずに済むと思います」

ブライアン・ローゼンバーグさん(左)とファード・ヴァン・ガメレンさん(右)(AFP-Services/Mathias Garnier)

米国では、2015年6月に全州で同性婚が合法化され、今年3月には同性カップルの養子も認められるなど、性的マイノリティーの権利が法的にも社会的にも認められつつある。米ギャラップ社が1992年から2014年にかけて行った世論調査によると、同性カップルが養子を育てる権利について賛成派は年々増加しており、2014年時点では米国人の63%に達したという。ブライアンさんは、ファードさんと共に子どもを育てる決意を家族や周囲の友人に伝えた時、皆一様に喜んでくれたと話す。

ファードさんは、「子育てを始めて生活の全てが変わった。これまで大切だったことができないこともあるが、子どものためだったら喜んで諦めることができる」と父親としての喜びをかみしめている。

米国ニューヨーク州に住むブライアンさんとファードの家族(c)Robert Figueroa

制度化と理解が進むオランダ

一部の先進国では、性的マイノリティーの権利を認めていこうとする動きが年々高まっている。同性結婚が認められる社会を目指して活動する国際NPO EMA(Equal Marriage Alliance)によれば、同性婚や同性間のパートナーシップ登録など同性カップルの権利を保証する制度を持つ国・地域は世界の約20%に及び、同性婚を認めた国のほとんどが、同性愛カップルに養子縁組資格を認めている。

世界で初めて同性婚と養子縁組の権利を認めたオランダでは、同性カップルの9%が子育てを行っている。同性愛に否定的な意見を持つ人は1割以下だという調査結果もある。

オランダにおける同性愛者の権利について詳しい弁護士のウィルマ・オースマン氏は、同性カップルが子どもを持つことが同国内で広く浸透してきていると指摘する。「人びとは問題として捉えていません。研究でも同性愛、異性愛のカップルに育てられた子どもに何ら違いはないことがわかっています」

「産んだのは妻よ」

食卓を囲むエリースさん(左)、ネレカさん(右奥)、ラビちゃん(右手前)(AFP-Services/Anthony Kamminga)

オランダの首都アムステルダムに住むレズビアンのエリース・ボワテンさん(45)は、2年前に息子が生まれたと知人に伝えると、「え? 2年前は妊娠してなかったじゃない」と驚かれる。そんな時はこう言って笑う。

「産んだのは妻よ」

エリースさんと同性カップルのネレカ・ボスさん(35)は、子どもを産み育てると決めた。もともとエリースさんは、ネレカさんと出会う前に男性と結婚していて連れ子がいたが、2人は出会ってすぐ、「もっと子どもが欲しいね」と意見が一致した。

【動画】オランダの同性カップルを訪ねた(約3分)

友人のゲイ男性、ギエル・ラヒウスさん(49)の精子提供を受け、ネレカさんが息子のラビちゃんを出産した。「家族になれて本当に幸せです。同性愛だからって独りで生きなければいけないわけじゃないんです」とネレカさんは言う。

子どもたちの友だちからは、母親が2人いることについて疑問を投げかけられることもある。だが、同性カップルの子どもは学校には複数いて、理解してもらうことは難しくないという。「『私たちは恋に落ちたのよ、あなたのお母さんとお父さんのようにね』と伝えると子どもたちは納得するんです。ときには『どうやって子どもができたの』なんて追加質問もあったりしますけど」

ずっと子どもが欲しいと願ってきた父親のギエルさんとっても、ラビちゃん(2)が生まれた瞬間は今でも言葉に表せられない特別な瞬間だったという。自転車で15分離れた場所に住み、週2回はラビちゃんと過ごす。エリースさん、ネレカさんたちと一緒に夕食を取ることも多い。ギエルさんは言う。

「そこに愛と、パートナーや子どもとのつながりが感じられることが、家族であるための最も大事な条件ではないでしょうか。その条件を満たしている限り、多様な家族があってもいいと思います」

オランダ・アムステルダムに住むエリース・ボワテンさん(左)、ネレカ・ボスさん(中)、ギエル・ラヒウスさん(右)と、ラビちゃん(提供:ギエル・ラヒウス氏)

日本では「見えない」選択肢

日本の状況はどうか。子どもを持つことを望む性的マイノリティーの人々に話を聞いた。

【動画】(約4分)

ゲイタウンと知られる東京・新宿二丁目で飲食店を経営しているミカさん(仮名・33)は「初めて女の人を好きになった時、普通の恋愛、結婚、家族はつくれないのだと考えた。どうしてだろうと悩んだ」と言う。選択肢として考えられず、しかしそれを望む自分自身を責めてきたというが、今はそのジレンマを乗り越え妊活中だ。

ゲイであることをカミングアウトしている伊豫田旭彦さん(35)は、子どもを持つ話をパートナーとすることもあるが、「社会的な準備」が整っていないから難しいという結論に至るばかりだという。「両親に子どもを見せてあげたいという気持ちもあるが、子育てには周囲の理解や協力が必要であり、現時点ではためらってしまう」と話す。

「性的マイノリティーには子どもがいないことが前提になっている」と性的マイノリティーと家族の問題に詳しい、三部倫子・日本学術振興会特別研究員は説明する。

「これまでは『産まない』しかなかったんです。性的マイノリティーをオープンにした上で、子どもを産むという選択肢はすっぽり抜け落ちていた」

性的マイノリティーに子どもを持てるという選択肢が出てきたのは、「欧米ではここ20年くらい、日本ではここ10年くらい」の話だという。

東京・渋谷で開催された「東京レインボープライド」の参加者(2015年4月26日撮影)。(c)AFP/Toru YAMANAKA

三部氏によると、「みんなと同じである方がいいという規範が強い日本社会」においては、性的マイノリティー(性的少数者)であることが肯定的に受け入れられてこなかった。「自分の性自認や性的指向を肯定的に受け入れられていないと、次の世代を育もうという気にはなれない」という。仮に自分の性的指向や性自認を自覚できたとしても、性的マイノリティーが子どもを育てるというロールモデルがなく、子どもとは無縁に生きていくと考えてしまっている。婚姻などの法制度や企業の福利厚生において、同性カップルの権利が認められていないといった、社会制度上の問題もある。

レズビアン女性のアイさん(仮名・41)は、カナダで同国籍の女性と同性結婚した。精子提供を得て子どもを産んだ後、数年前に日本に帰国。現在地方都市で妻と一緒に子育てをしている。日本の医療機関や役所では、カナダと違い、レズビアンカップルだと簡単に公言できる雰囲気ではない。日本では、「隠しごとをしなければならず、後ろめたさを感じる壁にぶち当たる」と感じるという。現在子どもは幼児なので、今後小学校にあがる際は、オープンにできる環境を前提に慎重に選んでいくつもりだ。

大学生の松岡宗嗣さん(21)は、大学生のパートナーと将来を考え、里親制度や代理母制度について足を運んで調べたことがあるという。しかし、現実を知れば知るほど、「ただでさえ高いハードルが、もっと高そうだ」と実感したという。当初、性的マイノリティーはそもそも子どもを持つことができないという刷り込みのイメージがあった。大人になり、性的マイノリティーでも子どもを持つことができると知った後も、制度上の問題に直面した。

同性カップルが里親や養子縁組を利用した前例はほぼ皆無。代理母出産は日本で認められていないし、女の人のおなかを痛めてまで自分たちの子どもを持つことには疑問を感じる。それでも、いつか子供は育てたいという思いに変わりないという。自分の母がそうであったように、「子どもにとってのサポーターになりたい」のだという。「オーソドックスな子どものつくり方ができないからこそ、家族がいなくて困るかもしれない子どもの人生を良くしたい」と話す。

東京・渋谷で開催された「東京レインボープライド」の参加者(2015年4月26日撮影)(c)AFP/Toru YAMANAKA

「やれることは、なんでもやる」

三部氏は「ひとつのモデルが決まっている社会は、性的マイノリティー以外の人にとっても生きにくい社会」だと指摘する。「父親、母親、子ども」といういわゆる「標準家庭」が社会的な規範とみられるなかで、「そこからはみ出る人、例えば事実婚やひとり親家庭も生きにくい」のだという。

「フランスのPACS(民事連帯契約)という法律は、最初は婚姻制度の代わりとして同性カップル向けにつくられたが、今や異性カップルの方が使っている。ニーズは色々あるのです」と三部氏は言う。

ゲイの男性から精子提供を受け、現在妊娠しているレズビアンのヨウコさん(仮名・30)は、インタビューの途中、おなかの前でしっかりと手を重ね、生まれてくる子どもに語りかけるようにこう答えた。

「多数派じゃない家庭になってしまうから、苦労はかけてしまうかもしれない。でも性的マイノリティーの私が親になる(子どもに対する)責任感はあります。やれることは、なんでもやる」


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[映像監修・テキスト]田之上裕美
[取材ディレクション]ジュリア・ザッペイ
[プロダクションマネジャー]河津レナ
[海外取材] AFP-Services