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殿村誠士

ビルに眠る1万の御霊——機械式納骨堂が映す供養のかたち

2017/06/09(金) 08:48 配信

オリジナル

1棟のビルに1万以上の「御霊(みたま)」が眠る──。近年、都市部で数万規模のお骨を収納可能なビル型納骨堂が現れている。大胆なデザインとともに、入館に参拝者の生体認証が導入され、お骨が自動搬送技術で運ばれるなど最新技術が使われている納骨堂もある。従来のイメージとは大きく異なる「機械式墓所」で供養のあり方は変わるのか。拡大を続ける、新しい墓参のかたちを追った。(ノンフィクションライター・熊谷祐司/Yahoo!ニュース 特集編集部)

近くて便利、蚊にも刺されない墓参

大使館が立ち並び、都心の一等地として知られる東京・三田。慶應義塾大学に隣接する場所に、2015年度のグッドデザイン賞に選ばれた4階建ての白いモダンな建物がある。

真言宗の龍生院が2014年から運営する三田霊廟。建物の中身は「お墓」である。

参拝カード(ICカード)をかざして内部へ(撮影:殿村誠士)

参拝者は、入り口にある壁にICカードでタッチする。すると、眼前の液晶パネルに向かうべき参拝ブースが指定される。参拝ブースの位置は、毎回ランダムで変わる。

高野山の杉木立に見立てた設計の、シックな木の柱で区切られた参拝ブースに行くと、そこには家紋と「○○家」の文字が。一般の墓石と同様の見た目だ。祭壇には花が飾られ、火を使わないIH式の焼香台も用意されている。

生花が供えられ、清潔に保たれた参拝ブース(撮影:殿村誠士)

龍生院は約1200年前、弘法大師が高野山で開き、1891(明治24)年に東京在住の弘法大師信者の要望に応えて三田の地に移ってきたという。このビルが建つ前にあった木造の本堂は、ほぼそのままの形で霊廟内に移築されている。

IH式の焼香システムを備える(撮影:殿村誠士)

参拝ブースの一角で、女性(91)と長女(62)が手を合わせていた。今年2月に97歳で死去した、女性の夫の月命日に訪れたのだ。女性は四十九日で夫を納骨してから毎月、月命日に通っている。三田霊廟と契約したのは2年前。購入動機には、京都にある夫の実家の墓には遠くて通えないという不安があった。

三田霊廟で手を合わせる親子(撮影:殿村誠士)

「この歳になると、新幹線で通うのも大変。そこで、生前の主人と近いところに(墓を)構えようかという話をしていた」
一家の宗派は龍生院の真言宗とは異なっていたが、自宅のある白金から近いことが決め手になった。三田と白金は同じ港区。霊廟側が週2~3回、生花を入れ替えているので供花を持参しなくていい。身一つで好きなときにお参りできる利便性、快適性に優れているところが気に入った。
「今日も自宅からタクシーで来ました。近くて便利だし、屋内だから雨の心配もない。蚊に刺されることもないし、手ぶらで来ることができるのもいいですね」

購入者の中心層は60代だと、三田霊廟の職員、太田智康氏は言う。
「子どもや孫にお墓参りに来てほしい半面、遠くのお墓の面倒を見てもらうことに抵抗がある。そんな人たちが、生前に購入しています。年1万5000円の護持会費(維持費)を、自分で先に30年分、50年分と支払う方も多い」

霊廟の裏側で稼働する、厨子用の自動搬送システム(撮影:殿村誠士)

きっかけは深刻な墓不足

今、都市部を中心に全国でビル型納骨堂が誕生している。建設中のものも含めれば、その数はおよそ30棟にのぼる。

ビル型納骨堂は、数千〜数万のお骨を管理できるところに特徴がある。骨壺を収納した容器の厨子(ずし)は、参拝者の目に触れない場所に格納されている。参拝者が来ると、厨子は自動搬送システムで参拝ブースに移動される。三田霊廟の場合は、参拝者が入り口でICカードをかざした段階で、厨子が該当のブースへ移動する仕組みだ。

三田霊廟のバックヤードには、ビルの2フロア分を使った吹き抜けの空間に膨大な数の厨子棚が並んでいた。

家紋入りの厨子がずらりと並ぶ(撮影:殿村誠士)

参拝者の情報を受け取ると、高さ15メートル、横20メートルの空間を全自動のピックアップ用ロボットが時速6キロメートルで上下左右に移動する。正確な動きで棚から厨子を持ち上げて取り出し、一番上方の出口まで運んでいく。

参拝していた白金の母娘は、機械でもほとんど気にならないと語っていた。
「購入時、機械式はどんなものかなとは思いました。周りにも利用している人がいなかったし。ですが、こうやって利用してみると、とても便利。お参りしたいときに来ることができるから」

この自動搬送システムは、工場で部品などをピッキングする自動倉庫の技術を応用したものだ。三田霊廟にシステムを提供する豊田自動織機の高橋徹也グループマネジャーは「お骨という大切なものを運ぶので、慎重を期している」と話す。
「通常の自動倉庫なら1秒で5メートル運べますが、ここではその3分の1の速度。アームが厨子を持ち上げるときも、ゆっくりと大切に。地震に備え、落下試験も繰り返し行いました。東日本大震災クラスの揺れでも大丈夫です」

豊田自動織機の倉庫用システムが採用されている(撮影:殿村誠士)

こうした規模の厨子を納められる納骨堂が最初に登場したのは10年ほど前。土地が少ない都市部では一般的な霊園が不足し、1960年代半ばから静岡県や神奈川県など首都圏郊外で大規模霊園が登場した。ただ、郊外の霊園は通うのに時間がかかる。一方で、昨今は参拝者側の高齢化も進み、郊外に足を伸ばすのも苦労を伴うようになってきた。そんな中、都心部など通うのが容易な地域にビル型納骨堂が登場しはじめた。

ピックアップされた厨子が、ベルトコンベアーで参拝ブースへ(上)。ブース中央の四角いスペースに、家紋と家名を掘った面がせり出す(撮影:殿村誠士)

墓地不足は深刻だ。全日本墓園協会の調査によれば、東京都の墓地需要数は2010~2015年は約1万5000基だったのに対し、2015~2020年は約1万8000基、2020~2025年は2万基以上が必要になる。その後も2060年まで漸増が予測されている。

1万基を超える厨子を収納可能な「巨大納骨堂」が現れているのも、そんな背景がある。この4月にお目見えした、名古屋市の大須商店街にある万松寺の納骨堂「白龍館 彩蓮(さいれん)」もその1つだ。

巨大な白龍が出迎える万松寺(撮影:殿村誠士)

顔認証でお参りするお墓

万松寺は1540(天文9)年に織田信長の父、信秀公が織田家の菩提寺として開基し、江戸時代は尾張藩から禄を得ていたという歴史をもつ。万松寺には多様なタイプの納骨堂があるが、その中でも彩蓮では、1万2000基の厨子を収容できる大規模なものだ。

顔認証システムが出迎えるエントランス(撮影:殿村誠士)

明るい照明と白を基調とした内装で、墓所の暗いイメージとは程遠い(撮影:殿村誠士)

彩蓮では最新の技術も取り入れられている。万単位の厨子を自動搬送するシステムをはじめ、入館には顔認証システムまで導入されている。

参拝者はエントランスに入ると、そこに設置したモニターで顔画像を検証、登録しておいたデータベースと照合する。認証されると、番号の印字された受付票が出力され、厨子が運ばれてくる参拝ブースを案内するという仕組みだ。

参拝者の顔認証が済むと(上)、参拝ブースを記したチケットが出力される(撮影:殿村誠士)

一般的な参拝ブースは横幅1メートルほどで75万円。そのほかに、料金プランに応じてグレードがあり、個室参拝室(220万円~)や、1500万円という高額の特別参拝室も用意されている。

スタンダードな参拝ブース。液晶ディスプレイ上に、戒名や遺影が表示される(撮影:殿村誠士)

1500万円の特別参拝室(撮影:殿村誠士)

万松寺の大藤元裕住職は、寺院の建て替えに際しての地震対策が第一だったと語る。
「阪神淡路大震災、東日本大震災を経て、次は東海・東南海地震が心配されている。耐震・耐火に優れた納骨堂をつくろうとすれば、建設費がその分高くなります。費用を抑えるには、納骨の数を多くして、多くの方に利用してもらう必要があったのです」

万松寺の大藤元裕住職(撮影:殿村誠士)

情報機器の営業マンだった大藤氏が万松寺の四十二世住職を継いだのは2008年。継ぐなり、お酒を飲みながら僧侶に悩みを聞いてもらえる「万松寺バー」を開き、海のなかにいるような斬新なデザインの納骨堂「水晶殿」を2009年に設けるなど、伝統にとらわれない運営を進めてきた。もとは曹洞宗の寺院だったが、2016年に単立寺院として独立。他宗派の信徒からも納骨を受け容れやすくした。

自動搬送式とは別に用意されている、ロッカー式納骨堂「水晶殿」。個別のロッカー内に厨子が納められている(撮影:殿村誠士)

大藤氏は言う。
「今の人は、自分が墓に入るならどういうタイプがいいかを決めて契約する。だから、納骨堂のバリエーションをたくさん持てるのは強み。伝統的だったり、斬新だったり、好きなタイプを選べる。思いのほか契約数が伸びている」
「彩蓮」は、最大2万基まで収容力を拡張できるという。

お骨を入れた位牌が並ぶ、彩蓮内の一室(撮影:殿村誠士)

大規模ゆえのリスクも

こうしたビル型納骨堂の建設は、一般的な霊園や宗教施設と同様に自治体の許認可が必要だ。
東京・港区で納骨堂の許認可を担当する港区みなと保健所の二山純子係長は言う。
「東京都の人口から考えてお墓が不足しているのは事実でしょう。ただ、行政としては、ビル型だから悪いという見方はせず、あくまで条例に則って許可しています」

二山係長によれば、納骨堂を経営できるのは地方公共団体と宗教法人、または公益社団法人・公益財団法人の三者で、実際に申請する大半は宗教法人だという。「申請に際しては、宗教法人と相談する場を設け、どんな施設で、どう維持管理するかを尋ねています」(二山係長)
いずれの法人でも、条例により区内で活動してから7年間を経過している必要がある。別の業者が突然やってきて、納骨堂を建てるような行為は許されていない。

都市部で墓地が足りていないのは確かだが(イメージ:ペイレスイメージズ/アフロ)

「巨大過ぎる納骨堂にはマイナス面もある。たとえば、お盆やお彼岸。誰もがお参りする時期に、何万人という人が訪れたら本当に対応できるのか」
そう語るのは、寺院住職のための実務情報誌『月刊住職』(興山舎)の矢澤澄道編集長だ。

「何より1万基クラスの納骨堂を持つお寺がつぶれたら被害が大き過ぎる。建設費用も巨額でしょうから、もし利用者がつかなかったら、財務的に厳しくなる可能性もある」
ビル型納骨堂の建設には、億単位のお金がかかる。定期的なメンテナンスが必要など、自動搬送システムの維持費もばかにならない。

「納骨堂の適正規模は、1000基程度ではないか」と、矢澤氏はみている。

墓地不足の一方で、特に地方では放置されたままの墓地が増えている(撮影:宮本由貴子)

何のために祈るのか

神奈川県北部で寺院を営む50代の住職は、土の地面から離れたビル型納骨堂はどうもお墓という感覚に馴染まないと首をひねる。
「従来のお墓は場所も墓石も固定されており、眠っている人が変わることはない。祈りの相手は、墓石と祖先が一体化しているものです。しかし、機械式納骨堂では、数分ごとにお骨が入れ替わる。参拝室では数分後には別の人が祈っている。つまり、場所と祈る対象が一致していないわけです。だとすれば、利用者さんは何に対して祈っているのか」

ビル型納骨堂では、最新のテクノロジーが導入され、利便性が重視されて設置されてきた。先祖への参拝の念とテクノロジーの共存をどう考えるべきなのか。
そんな問いを高野山東京別院の板坂光明寺務長に尋ねた。あくまで私個人の考え方ですが、としたうえで、
「都市部で土地が少ない以上お墓は機械式納骨堂でも問題ない」と板坂氏は言う。

高野山東京別院の板坂光明寺務長(撮影:Yahoo!ニュース 特集編集部)

「お墓や仏壇、位牌は、お骨も含め、それ自体は物質に過ぎません。しかし、その前で手を合わせる瞬間に魂が降りてきて、そこに入ると解釈できます」
日本人が古くから習慣としてきたお盆も、ご先祖様の魂をお迎えして、またお送りするという行為と板坂氏は説明する。ふだんは仏壇には魂はおらず、お盆の期間だけ魂が帰ってくることを日本人は長い間、受け入れてきた。
「機械式納骨堂もお骨が参拝ブースに運ばれてきて、手を合わせた瞬間に御霊が入り、参拝が終わるとまた御霊が帰っていく。そういう気持ちでお参りするといいのではないかと思います」


熊谷祐司(くまがい・ゆうじ)
1966年東京生まれ。ビジネス誌の編集者を経てノンフィクションライターとなる。総合誌やWEBメディアで社会、経済、教育など幅広い分野の取材・執筆を担当。

[写真]
撮影:殿村誠士、宮本由貴子