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伊藤圭

一発屋と言われることは怖くない――森山直太朗、「さくら」と向き合う覚悟

2019/12/22(日) 08:59 配信

オリジナル

森山直太朗の名曲『さくら(独唱)』が改めてレコーディングされ、日本テレビ系ドラマ『同期のサクラ』主題歌『さくら(二〇一九)』として帰ってきた。何回同じ曲歌うの?――。そんな声に森山は「一発屋って言われることは全然怖くない」と語る。16年前と比べて、『さくら』はどう変わったのか?連続ドラマへの出演など、表現の幅をぐっと広げつつある“クリエーター“森山直太朗に、『さくら』と向き合う覚悟を聞いた。(取材・文:菅原さくら/撮影:伊藤圭/Yahoo!ニュース 特集編集部)

愚直に歌ってきた『さくら』には、変なピュアネスがある

森山直太朗は、いま“渦中”にいるという。

「16年前の『さくら(独唱)』を聴いた方々が、今回の『さくら(二〇一九)』を耳にして、再び僕の存在を再確認してくれている印象があります。でも……自分としてはまだ渦中にいる感覚で、周りのことはよくわかりません。そもそも『さくら』は独特の広がりを見せた曲だから、昨日した表現を今日、今日の表現を明日越えられるかというせめぎ合いが強くて、ただただ目の前の曲を歌いきることで必死なんです。僕自身の人格がそのままあらわれるような曲にもなっているし、じつは歌うのに一番緊張する」

ライブで「定番の『さくら』が聴けてよかったね」だけで終わってしまうのが、もっともつらい。「そんなふうにリスナーに言わせちゃだめなんですよ、“懐メロ”みたいになっちゃうから」と、自嘲ぎみに笑う。そんな複雑な思いを抱えた曲で、セルフカバーに挑んだ。

「どれだけ“こする”んだって話ですよね(笑)。うれしい半面、すごく不安でした。安易なやり方では、この曲が16年間歩んできたものを、一瞬で失いかねないと思ったから。……僕は人としては軽薄な人間だけど(笑)、歌にだけは向き合って、誠実にやってきたつもりなんですね。だから『さくら(二〇一九)』では、これまでの意地や誇りみたいなものを、表現に落とし込めているんじゃないかなと感じています」

もともとは部屋のすみっこでギターをつまびきながら、一人きりでつくった曲だ。20年近く歩いてきた通学路の、美しい桜並木にインスピレーションを受けた。「毎年春になると桜がきれいに咲いて。そんな道を20年も歩いていたら『さくら』って曲、できちゃいますよね」と、おどける。そんな原風景をもつ曲は多くの人に出会い、ときには海をも越えて、遠くまで届いた。

しかし、森山の音楽活動は最初から順風満帆だったわけではない。それこそ『さくら(独唱)』をリリースしたころは、まだ駆け出し。ラジオやテレビのプロモーションともほとんど縁がなかった。

「そうすると、歌うしかないんです。まずラジオでかけてもらうために、名刺とギターを持って、局の編成会議にお邪魔して歌う。全国各地でCDを手売りしながら歌う。レコード会社の方々と協力して、泥くさい地上戦をするしかありませんでした。そのころ街中で聴いてくれたおじいちゃんやおばあちゃん、カップル、幼稚園児……そんな人たちの顔は、いまでも本当によく思い出します」

かくして、多くの人と目を合わせながら“歌う”“届ける”を愚直に積み重ねてきた時間は、実を結ぶ。

初回プレス枚数はわずか1200枚、オリコン週間シングルチャート初登場は80位だった『さくら(独唱)」は、最終的に120万枚を売り上げ、大ブレークした。

「この曲がいまも聴いていただけている理由は、そういう“根本的なリアリティー”や“変なピュアさ”にあると思う。音楽活動を続けていくなかで、そういう部分って少しずつおろそかになりがちなんだけど……歌い手はそこを楽しちゃいけないんです。大きなホールのライブで『イェイ!』みたいなことをするのが仕事なんじゃなくて、一人ひとりに歌を伝えることが仕事なんだから」

とはいえ、過去の大ヒット曲をふたたび歌うことで「またか」「一発屋だ」などと言われる可能性もあった。そんな意地悪を言いたい人もいるだろう、と感じている。

「一発屋って言われることは全然怖くない。だって『さくら』は、そんな自意識や人間的な弱さなんて寄せつけない、なんともいえない堂々とした曲なんです。だから、歌っても歌っても歌いきれないし、飽きない。義理の兄である小木(博明、おぎやはぎ)さんには今回のリリースについて『何回同じ曲歌うの? 演歌歌手じゃないんだから』なんて言われたけど、言い得て妙だなと思いましたね。ずっと愛されている曲を自分の体ひとつで歌い続けるのが演歌歌手なら、それで全然いい」

もう一度、この曲とともに裸一貫でやり直す覚悟

さまざまなものを背負ってきた『さくら』と向き合うとき。森山は曲そのものの風格や普遍性にもずいぶんと助けられてきたが、周りにも支えられてきた。

「一緒に曲をつくってきて、ツアーの構成演出も担当してくれてきた御徒町(凧<かいと>)や友達が、僕をずっと鼓舞してくれていたんです。僕が曲にあぐらをかきそうになったとき、いつも『どうしてこの曲を歌うのか』と疑問を投げかけてくれた。『あいつは一発屋だ』なんて言うような人たちよりも、彼らのほうがずっと厳しくて辛辣です。おかげで『人気曲だからなんとなく歌う』みたいなことをせず、どうやって歌うかを、つねに考え続けてこられました」

どうして歌うのか答えはないけれど、ちゃんと考え続ける。答えを探すために、今日も歌ってみる。そういう歴史の連続が、森山の『さくら』を、ひいては音楽活動を支えてきた。

「僕たちがそういう好奇心を失ったら、音楽は消費されていくだけのエンタメになっちゃうんですよね。だから、めんどくさいし疲れるけれど、ちゃんと向き合い続けています。心が柔軟で自分がひらけているときは、『今日はこのフレーズが響くな』みたいに、曲との新鮮な出会いもあるんです。むしろ、それがないと表現は成り立たないと思う。スキルだけで歌っても、それじゃハリボテなんですよ。『さくら』だけにとどまらず、自分の曲すべてとの向き合い方は、かくあるべきだと思ってる」

2019年、森山は1つの「別れ」を決断する。51公演を打ったツアー『人間の森』を経て、御徒町との関係性に1つの区切りをつけたのだ。とても充実したツアーだった一方で、森山の胸中は複雑だった。

「御徒町に、どこか“おんぶに抱っこ”の部分があったんです。舞台上で弱さを手放しきれなかった自分も感じて、このままではだめだと思うようになった。御徒町自身が詩人としてコアを高めようとしていたタイミングでもあり、関係をいったんフラットに戻して、それぞれ個人の表現をやってみようと決めました。……彼いわく『人間の森』のテーマは、言葉にすると“決別”らしいんですね。まさか我々の関係にその“決別”が降りかかってくるなんて、つゆとも思っていませんでした。僕たちはもともと友達だし、そこはずっと変わらないんだけど」

あとから振り返れば、大きなターニングポイントになるであろうツアーだった。公開中のドキュメンタリー映画『森山直太朗 人間の森をぬけて』では、まさにそのドラマチックな季節が、奇跡的に切り取られている。

「そうやって足元を見つめていた時期に、いまの自分で新しい『さくら』を歌ってくれ、とオファーをいただいたんです。なんだか、もう一度この曲とともに裸一貫やり直せ、と言われたような気分にさえなりました。だから根本的な覚悟は、ギター1本で始めた16年前とすごく似ているように思う。面白いもので、いままた“第2次歌うしかない期”を迎えているんです」

僕は天才じゃない。けれど、だからこそ続けていく

来年1月末からはオール弾き語りのファンクラブツアー『十度目の正直』、そして連続ドラマへの出演を控えている。『人間の森』が終わって燃え尽き、しばらく鬱々とした時間を過ごすなかで、心境の変化があった。

「いままでは傷つきたくないからと二の足を踏んでいたけれど、本当はもっと、自分の表現で誰かの役に立ちたいと思っていたんですよね。魂はずっと、そっちに行きたがっていた。だったら、どんなに笑われてもいいから後悔しないように生きていこうと思ったんです。そうしたらドラマなどのお話もいただくといったこともあり、望んだ状況になってきました。考えて別れて、新しい世界を引き寄せたこの数カ月間は、なんだかスピリチュアルだなぁと感じています」

表現と誠実に向き合っていられるように、近ごろは内面のアウトプットも心がける森山。どんなささいなことも、むごたらしい気持ちも、発信する。伝えることで自分の考えが輪郭を持ち、人との関係の礎になっていくと感じるからだ。

「最近はうっとうしがられても、よくしゃべるようにしてるんです」と笑う。そうやって試行錯誤を続けているからこそ、森山の歌はいつも鮮やかなのだろう。表現の幅を広げた先で、次はどんな『さくら』が歌えるようになるだろうか?

「『さくら』の話をさんざんしたけれど、僭越ながら自分の活動や世界観は、この一曲だけでは語りきれないところに醍醐味があると思っています。だから、この曲を入り口にしてくださる方々に対して、生き方を高め合うような音楽活動をしていきたいと思う」

まだまだ森山の音楽は広がっていくし、彼自身も止まらないのだ。

「経験値が上がることで失われていく純度もあるけれど、継続していくことだって難しいから。ずっと真剣に遊び続けるって、結構な体力がいるでしょう? 僕は天才じゃないけど、自分にしかできないこともあるはずだから、それを追求していくだけなんです」

森山直太朗(もりやま・なおたろう)
1976年4月23日、東京都生まれ。少年時代からサッカーに情熱を傾ける日々を送るも、大学時代より本格的にギターを持ち楽曲作りを開始。ストリートパフォーマンス及びライブハウスでのライブ活動を経て、2002年10月メジャーデビュー。翌年「さくら(独唱)」の大ヒットで一躍脚光を浴びる。05年からは音楽と演劇を融合させた劇場公演を上演するなど、音楽だけにとどまらない表現力には定評がある。18年10月〜19年6月まで全51公演のロングツアー”森山直太朗コンサートツアー2018〜19『人間の森』”を開催。19年10月、ドラマ「同期のサクラ」主題歌となった「さくら(二〇一九)」を配信リリース。ドキュメンタリー映画「森山直太朗 人間の森をぬけて」全国公開中。


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