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穐吉洋子

ゲイコンテスト 出場者たちの“日常”――「他者を救うことが自分を救う」

2019/06/10(月) 07:17 配信

オリジナル

ゲイコンテスト「ミスター・ゲイ・ジャパン2019」がこの春、昨年に続いて東京で開かれた。LGBTなど性的少数者への理解を促すための試みだ。カミングアウトするかどうかで多くの性的少数者が悩むなか、出場者たちは「隠れていては何も変わらない」と考え、等身大の自分をさらけだそうとした。その勇気をたたえられると同時に批判や中傷にもさらされる。そうしたなかで模索する「誰もが生きやすい社会」とはどんな姿なのだろう? 彼らの「日常」を追うと————。(文・写真:穐吉洋子/Yahoo!ニュース 特集編集部)

セクシュアリティーを学ぶ新しい科目

東京都豊島区にある小中高一貫の私立学校を訪ねた。教室に入ると、色画用紙が張り巡らされている。国語教諭のSHOGO(ショウゴ)さん(34)は、楕円形のテーブルを前に腰を下ろした。

「視線が生徒と同じ高さになるように努めています。前に立って話すようなことはあまりないかな」

SHOGOさん

昨年、日本で初開催されたゲイコンテスト。SHOGOさんはその優勝者であり、初代のミスター・ゲイ・ジャパンだ。コンテストが重視するスピーチでは、性教育の大切さを訴えたという。氾濫する性情報に対して、無防備な子どもたちの状況を危うく思っているからだ。

この春には、高校生対象の選択科目「セクシュアル・スタディ」も立ち上げた。「特定のグループがなぜ不平等を経験する可能性があるのかを説明でき、不平等をなくす方法を提案できる」ことが到達目標で、現在13人が受講している。

「最初の授業で生徒を(意図的に)混乱させたんですよ」とSHOGOさんは言う。

LGBTの「L」について問うと、「女を好きになる女の人」という答えが返ってきた。「お互いが好きな2人組がいたらレズビアンと何が違うの?」と逆に聞いた。「同性愛者の見分け方は?」に対しては「異性愛者はどう見分ける?」と切り返す。そうやって、生徒たちにはまず、自分の内にある無自覚なマジョリティーの視点に気付いてもらうのだという。

SHOGOさん

やがて、生徒たちは自ら次々と問いを発した。

「セックスのない関係は恋愛と言える?」
「じゃあ、セックスレスの夫婦は破綻していることになるの?」
「ならないなら、セックスは恋愛に関係なくない?」

固定観念を突き崩す質問の連続。生徒からは「ゲイの人から好きだと告白されたらどう対応すればいいの」という切実な質問も出た。カミングアウトの難しさ、他人の秘密を暴露するアウティングの問題……。テーマは尽きなかった。

SHOGOさんは「ミスターゲイ」になった後、HIV検査についての情報発信や在日外国人の居場所づくりに携わっている。「ダブルマイノリティー」と呼ばれる、精神疾患などを抱える性的少数者の「生きづらさ」も学んだ。支援者や当事者と知り合う機会の少なさに悩む地方在住者の相談にも乗っている。

「ミスターゲイは無期限のコミュニティーワークなんです。一方的に『僕らを理解して、理解して』ではわがまま。身近にいる、困っている人を支えてこそ相互理解が進むと思います」

SHOGOさん。今年4月の東京レインボープライドのパレードで

「日本にはなぜコンテストがない?」

「ミスター・ゲイ・ジャパン2019」はこの3月31日に開かれ、優勝者は日本代表として「ミスター・ゲイ・ワールド2019」に派遣された。

世界大会の初開催は、2009 年のカナダだった。その後、これまでに60以上の国や地域が参加しているという。11回目の今年は4月下旬〜5月上旬に南アフリカ共和国・ケープタウンで開かれ、日本を含め22カ国・地域の代表が出場。ファッションショーや撮影会のほか、各国の実態や課題も学んだという。優勝は、41歳のフィリピン代表だった。

日本での開催をリードしてきたのは、市川穣嗣さん(36)たちだ。デザイナーとしてロンドンのファッション業界などで働いてきた市川さんは、ミスター・ゲイ・ジャパン事務局の「クリエイティブ・ディレクター」でもある。

市川穣嗣さん

「海外で見聞きしていたゲイコンテストのことを、日本では耳にしない。どうしてだろう、と。世界大会の事務局に連絡したら、すぐ、カナダや台湾などのプロデューサーから日本の参加を求める熱烈なメールが相次いで送られてくるようになったんです」

ロンドンでは、LGBTの著名人たちが慈善事業に携わるなどして自らの功績を社会に還元する姿を見続けた。

その後に住んだフィリピンのセブ島では、2013年に地震と台風被害に見舞われ、炊き出しや土木作業に尽力した。そして、15年ぶりに日本に帰国すると、LGBT当事者たちを取り巻く環境も変わりつつあったという。

市川さん(左端)、SHOGOさん(左から2人目)ら、今年のゲイコンテストのスタッフたち

「自分もゲイとして、『同性婚を認めないような国』を見過ごしていられない、と。エンターテインメントでも、政治活動でもないコンテストという方法なら、無関心層を味方につけられるのではないか、とも思いました。日本でもやるしかない、と勢いづいたんです」

今年のコンテストでは思いがけない展開があった。

「あなたのいない人生は考えられない。ウィル・ユー・マリー・ミー?」

遠距離恋愛を続けていたオーストラリア人の彼に、SHOGOさんがステージでひざまずいてプロポーズしたのだ。昨年は優勝者、今年は審査員。SHOGOさんには、これ以上ないプロポーズの場だった。

ゲイコンテストのステージでプロポーズするSHOGOさん

「夫夫」として生きていく

公の場でのプロポーズを知り、ツバサさん(28)は大いに喜んだという。昨年のコンテストでは、SHOGOさんらと共にファイナリスト。自身も今年2月、親族や友人ら約80人が見守るなか、東京都内で盛大に結婚式を挙げていた。

ツバサさんがパートナーと暮らす千葉県のアパートを訪ねた。

1LDKの部屋にはアニメキャラクターのポスターや、ウェディングケーキの模型など結婚式で使ったものが飾ってある。ツバサさんのスマートフォンを見せてもらうと、結婚式の写真が大量に保存されていた。指輪の交換、ケーキ入刀、誓いのキスをする2人……。

「法的な効力のある結婚ではありませんが、夫夫(ふうふ)として存在していることを実感できました」

ツバサさん(左)。パートナーと語らう

ツバサさんのSNSにはLGBTの人から主婦まで幅広い層のフォロワーがいる。昨年のコンテストでは、同性婚の実現を訴え、交際中の彼と結婚するとスピーチした。大切な人と積み重ねる日常がいかに尊いか。そこに性的指向は関係なく、異性愛の人と同じであると知ってほしい、という訴え。最後は「ゲイカップルは特別な人たちではなく、みなさんの周りにいます」と締めくくった。

今年2月のバレンタインデーに、全国で13組の同性カップルが「同性婚を認めないのは憲法違反」として、国を相手取り一斉に提訴した。そうした動きにも、ツバサさんは勇気づけられたと話す。

彼との日常を描いたツバサさんの「絵日記」は200枚にもなる。親戚の子どもたちと接するうちに、いつかLGBTの家族を描いた絵本を作りたいと考えるようになった。

「そういう家族がいることを幼い頃から知る。悪い影響はないと思います。養子縁組や代理出産についても考えるきっかけになれば、と思います」

ツバサさんは「絵日記」を続けている

批判や誹謗中傷も

コンテストという手法には「ルッキズム(容姿による差別)」「イメージの押し付け」という批判がある。出場者が真面目な目標を掲げていても、ストレートに理解が広がるわけではない。

事務局の市川さんは言う。

「世界大会の方針には、年齢や身長に関する応募条件が一切ない。そこに心を打たれたんです。社会を動かす意欲にあふれた人をオピニオンリーダーとして支援する。そのための企画です」

本心では「人に順位を付けたくない」という思いもある。応募者全員と面談し、それぞれの思いを知っているだけに、自身もコンテストという手法に割り切れなさを感じたままだ。

市川さん。コンテスト出場者のスピーチに涙をぬぐう

誹謗(ひぼう)中傷や個人攻撃にも悩む。「批評批判は糧」と向き合ってはきたものの、インターネット上での匿名投稿には、無力感が募ったという。昨年のファイナリストには、出場後に起きた中傷に1人で悩み、市川さんら関係者との関わりを断ってしまった人もいる。

ツバサさんもSNS上でバッシングを受け、うつ病になったことがある。「やるからにはやり通せよ。そばにいるから」というパートナーの言葉で奮い立ち、昨年のコンテストに臨んだ。「あのつらい経験があったから免疫がついた。強くなった気がします。自殺とか、最悪のことにはなりません」

表に出るだけがカミングアウトではない。

コンテスト出場者の1人は「自分で自分のことを認めることができたら、それこそがカミングアウト」と言い、周囲に告げなくてはならないという発想は違う、と言い切る。市川さんもこう語った。

「5人そろうだけでも(スピーチが)こんなに違う。回を重ねるにつれ、声をあげられない人も、その中に共感できる人を見つけられるかもしれない」

2019年のコンテスト会場で

今年のコンテスト会場は、昨年と少し様子が違った。

安全面への配慮に加え、日ごろLGBTと関わりのない人たちに知ってもらうために招待制としていた昨年のやり方を変え、誰でも参加できるようにした。「家族連れや観光客でにぎわう場所で白昼堂々と」にこだわり、会場はJR原宿駅近くのイベントスペースに。通行人も通りに面した大きな窓から見学できた。

会場の観客は約150人。では、出場者は、どんな人たちだっただろうか。ファイナリストとして登場したのは21〜32歳の5人である。

ゲイコンテストのファイナリストたち。左端は市川さん

コンテストのリハーサル。窓の外で通行人も立ち止まる

両親に向けてカミングアウトする動画を投稿し、その後も賛否両論を集めている「リアルなゲイライフ」を発信するYouTuber、モアさん(31)。「死にたい」と母親に泣かれたカミングアウトを今も悔やむタクミさん(29)は、再び家族と向き合い、「誇れる息子」になりたいと願う。アキラさん(22)は「人と違う」ことで疎外感を持つ若者が自信を持てるよう、「どんな個性も尊重される社会に」と呼び掛けている。

日本人の彼がいるベンソンさん(32)は、同性婚が法的に認められたばかりの台湾出身だ。価値観を共有する人々が集まり、特定の意見が増幅される「エコーチェンバー現象」。日本での結婚を実現するためにも、「それに陥らないよう、当事者以外も巻き込みたい」と話す。

そして、日本代表にはLGBTや女性の差別をなくそうとさまざまな活動をしている大学生の重竹タイガーさん(21)が選ばれた。

出演前のファイナリストを励ます市川さん(右)

「他者を救うことが自分を救う」

タイガーさんは小学生時代を「地獄」と振り返る。

「死ね」「おかま」「HIVがうつる」など、同級生によるいじめや暴力が毎日続いた。養護教諭に相談しても「自分たちで解決しなさい」と突き放される。帰宅して泣くタイガーさんを見かねた母親は「強くなって」と空手を習わせたという。

3年生になると、居残りを命じられた教室やトイレで担任から触られるなどの性的虐待を受けるようになった。恥ずかしすぎて誰にも相談できない。4年生のある放課後、担任に「車まで来るように」と言われ、母親に助けを求めた。その日以降、中学生としてインターナショナルスクールに入学するまで学校には戻らなかった。

タイガーさんは今、上智大学に在学中だ。男女を問わず、学生たちが普通に声をかけてくる。笑顔の絶えないタイガーさんには友人が多い。

重竹タイガーさん(右)

「孤独になるとマイナス思考になるので、いつも友だちといたいんです。でも、一度でも怒られたりすると、付き合いを断ってしまう。(いつかの時は)後で謝ってくれたのに……。その人に対して恐怖心が芽生えてしまうとだめなんです」

教師がLGBTについての正しい知識を持っていない、それが問題だ————。そう考えているタイガーさんは大学入学後、国際人権組織「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」が行ったLGBT当事者への調査に協力。2年前には米ニューヨークの国連本部で、米国やフィジー、オーストラリアの学生と共に性的少数者を取り巻く現状について講演した。

「つらい学校生活を送る子どもを一人でも減らしたいと思います。他者を救うことが結果的に自分を救っているんです」

タイガーさん

「あるべき男性像や父親像に縛られている人に」

電通ダイバーシティ・ラボが、全国の20〜59歳の6万人を対象にインターネットで実施した「LGBT調査2018」によると、「LGBTの人に不快な思いをさせないために、あなたはLGBTについて正しく理解をしたいと思いますか」の問いに対しては、「そう思う」「ややそう思う」の合計が異性愛者全体で76.0%。「同性婚の合法化」についての賛否では、「賛成」「どちらかというと賛成」も78.4%に達した。

今年のコンテストでファイナリストになったアキラさんも、出場を機に家族7人に“調査”を試みたという。

80代の祖父は20代の姉夫婦と同じく、同性婚について「日本でできないのはおかしい」と答え、孫がゲイであることについても「本人の自由だ、周りがどうこう言う問題じゃない」と回答した。

50代の父親は、同性婚やLGBTについて「考えたことがなかった」と答えた。息子を応援すると用紙に記したものの、以前から息子を理解している母親の前では「育て方が悪かったのかもしれん」と口にしたという。

性的指向は自分で選びようがない。環境で左右できるものでもない。

アキラさんは言う。

「性別による役割分担、あるべき男性像や父親像に縛られている人にも僕たちが伝えられることってあると思うんです。僕はゲイだけど幸せに生きている」

自分らしく生きる――


穐吉洋子(あきよし・ようこ)
カメラマン。北海道新聞写真部を経て、ネットメディアなどで記事を発表している。Frontline Press所属。