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谷小夏

社会人女性の仕事服――定番化する「ビジネスカジュアル」ってなんだ

2019/03/27(水) 08:14 配信

オリジナル

今年も春がやってきて、たくさんの新社会人がデビューする。たとえばこんな悩みを抱える人もいるのでは? 会社に着ていく服、どうしよう――。なかでも女性は、服飾の自由度が男性よりも高いと言われる。働き方が多様になるいま、女性のスーツスタイルは絶対のルールではなくなりつつある。そんななか、こんな言い方がある。「うちの会社の仕事着は『ビジネスカジュアル』で」――。ビジネスでカジュアル? これって一体どんな装いを指すのか。女性ファッションの専門家に話を聞いた。(取材・文:崎谷実穂、イラスト:谷小夏、撮影:葛西亜理沙/Yahoo!ニュース 特集編集部)

「かっちり」と「ゆるさ」を共存させる

「ビジネスカジュアル」――。新社会人、社会人になってまだ年数の浅い女性の中には、この言葉を聞いて、どんな服装が正解なのか悩んでしまう人も多いのではないだろうか。ざっとネットで検索をかけてみると、「スーツスタイルに準ずる」と書いてある。「準ずる」――。要するに、「スーツほどかっちりしてなくてもよい」ということだ。それでも仕事着。どこまでも着崩していい、というわけではない。友達と遊びに出かける時のような「カジュアルウェア」ではないのだ。

スタイリストの川上さやかさん

では、ビジネスカジュアルとは、具体的にどんな装いを指しているのか。女性ファッション誌「Oggi」などでスタイリストとして活動する、川上さやかさんに話を聞いた。銀行員としての社会人経験を持つ川上さんは、働く女性のファッションにも詳しい。

そんな川上さんは、ビジネスカジュアルをこう定義づけしている。「ビジネス」と「カジュアル」。文字通り、対極にある2つを組み合わせたもので「かっちり」と「ゆるさ」を組み合わせた仕事着であると。

OKな例。終日をオフィスで過ごすと想定し、軟らかいコーディネートから。オーバーサイズの淡い色のシャツに、センタープレスの入ったダークカラーのパンツを合わせた。足元のヒールに高さは要らない。フラットシューズ、スニーカーでもよい。スニーカーの場合は、素材はレザーのものを。色は白などのシンプルな見た目のものを選びたい。川上さんのコメントをもとにイラスト作成

「最近では、Tシャツをビジネスカジュアルに取り入れるケースも増えてきました。ただし、Tシャツはカジュアルなアイテムなので、素材はスーピマコットン(高級コットンの一種)などツヤ感のあるものを選ぶ。大事なのは首元。首回りが伸びていなくて、つまったものがいいですね。そして、1枚で着ないこと。上にジャケットを羽織るなどしてインナーとして取り入れるようにしましょう」

トップスがカジュアルならば、ボトムはセンタープレス(真ん中に折り目)の入ったパンツやタイトスカートを組み合わせる。もしくは、腕時計やパールのアクセサリーなどの小物を身につける。デニムであればダメージものは避け、生地にウォッシュがかかっていないストレートな形のもの。スニーカーであれば、キャンバス地ではなくレザーのもの。全体で「ビジネス」と「カジュアル」を組み合わせてバランスをとる。そうすると、こなれたコーディネートになる。

OKな例。今度は外回りをすることをイメージし、ジャケットを取り入れた。その代わりに、インナーは素材に光沢感のあるTシャツかカットソーを合わせる。かっちりとゆるさのメリハリをきかせたい。シューズとバッグの色みをそろえると、くだけた中にもかっちり感が出せる

では素材はどうだろう。

「ツヤのあるものは、大人っぽくビジネスシーンに適しています。反対に、シワ感のあるもの、ガサッとした素材感のものはラフに見えてしまいます」

では、色や柄は?

「色はネイビー、グレー、ブラウン、白が基本ですね。落ち着いた色であれば、ジャケットのインナー、ボトムに取り入れるのもありです。柄はないほうが無難ですが、選ぶならば小さいもの、しま模様なら細いものに限ります。たとえば、あえてボーダー柄を選ぶならば、線の幅が細ければいいかと」

OKな例。スカートスタイル。ジャケットには1つボタンのノーカラー(襟なし)を取り入れる。スカートにはレース素材をとりいれ、ドレッシーさを演出。ただし、インナーにはきれいめなスウェットを合わせ、メリハリをつける。「かっちり」と「ゆるさ」だ。

ポイントは、自分の体形を縦に長く長方形に見せる「Iライン」だ。

「かっちりして見えるアイテムは、基本的に縦の線を強調している。Iラインが入っているんです。下に向かって広がるフレアスカートより、タイトスカートや裾に向かって細くなるペンシルスカート。ワイドパンツよりも、ストレートパンツやセンタープレスの入ったパンツ。Uネックよりも、Vネックを選びたいですね」

細いヒールが絶対というわけでもない。あえて「ハズし」で、太めのチャンキーヒールもありだ

靴も、先がとがっている(ポインテッドトゥ)ほうがフォーマルな印象を与える。これも「Iライン」の演出に一役買ってくれる。

「襟つきジャケットにシルクのボウタイブラウス、それにピンヒール。こうしたビジネス向けアイテムだけで構成するのは、NGではないけれどかっちり見えすぎます。相手に、かしこまった印象や古めかしい印象を与えてしまう」

職場に「モテ」と「遊び心」は要らない

ビジネスカジュアルは組み合わせ次第で、様々なアイテムを取り入れることができる。そんななかでもNGのアイテムはあるのだろうか。川上さんからは「モテや遊び心を意識したもの」という答えが返ってきた。

NG例。原則、仕事で肌の露出は控えたい。特に肩出しは相手によい印象を与えないだろう。職場で「モテ」は必要ない

「モテは『同性受けがわるい』と言い換えることもできます。肩出しニットやミニスカートなど、過度に露出をしたファッションはビジネスシーンにそぐわない。ミュールやバーサンダルなど、足の指が出る靴も露出にあたります。また、キャラクター柄もの、極端なオーバーサイズのアイテム、コスプレチックなアイテムなども『遊び心』が過ぎます。仕事に関係のない自己主張は控えましょう」

川上さんは、「ビジネスカジュアル」の「カジュアル」は、自分や相手にとって「心地がいい」ことだと言う。

「いま、透け感のあるアイテムが流行っていますが、透けている服は着ているほうも見ているほうも、少し緊張しますよね。透け感のあるものは『カジュアル』ではないと思うんです。ビジネスカジュアルは、『おしゃれだから』『かわいいから』ではなく、相手の目に心地よく、自分が着て心地よいかをまず考える。そうすれば、大きく間違わないはずです」

NG例。仕事着のカジュアル化が進んだとはいえ、ダメージデニムは厳しいだろう。パーカーも同様だ。ゆるすぎて、ルームウェアの印象を与えかねない

ボーダーレスになってきた仕事着

ところで、なぜこういったスタイルが生まれ、働く女性の間で定番化しつつあるのか。ファッションに広く精通する編集者、軍地彩弓さんに聞いた。軍地さんは女性ファッション誌「Numero TOKYO」のエディトリアルアドバイザーを務め、ドラマなどのファッション監修にも携わっている。

1980年代から女性ファッション誌の編集に携わり、働く女性におけるファッションの変遷を見てきた軍地さんは、「いまが一番、ファッションの自由度が高くなって、フラット化している」と言い、こうも続けた。

編集者の軍地彩弓さん

「ハレ(非日常)とケ(日常)、平日と週末。そうした区別がなくなってきているんです。どんな時に何を着るか、の境界線が曖昧になっている。自由度が高いからこそ、オフィスでのファッションに明確なルールがなくなりつつあり、若い人は戸惑っているのでしょう」

なぜこんなことが起きたのか。それを知るために、職場における女性ファッションの変遷をたどってみよう。

雇用における男女の均等な機会と待遇の確保を定めた「男女雇用機会均等法」。この法律が施行されたのは1986年のことだった。このころ、会社で補助的な業務をする「一般職」の女性は制服。一方、外回りの営業など基幹的な業務に携わる「総合職」の女性はスカートスーツか、ジャケットにブラウス、タイトスカート、ハイヒールという仕事着が主であった。まだここに、「カジュアル」の印象はない。

大手スーパー「ニチイ」が開いたファッションショー。テーマは女性社員の制服だ。1988年(写真:読売新聞/アフロ)

1980年代後半から1990年代にかけて、OLを題材としたコミック『スイートスポット』『ショムニ』などの連載が始まる。これらの作品に登場するOLたちは、みんなベストにタイトスカートという制服を着ている。

「彼女たちは基本的に一般職なんですよね。1990年代から2000年代にかけて、彼女たちを象徴する『制服』がなくなっていきます。一般職女性の制服はなくなったものの、一般職と総合職女性のファッションが同じになることはありませんでした。むしろ分かれていったんです」

なぜ、こんなことが起きたのか。理由は両者の働き方の違いにある。

当時の認識として、一般職の女性たちが目指したのは結婚というゴールだった。「寿退社」という言葉にも、それが表れている。2005年前後には「CanCam」「JJ」「ViVi」といった「赤文字系」と呼ばれるファッション誌の部数が伸び、「CanCam」の専属モデル・蛯原友里のファッションに影響された「エビちゃんOL」という言葉も生まれた。エビちゃんOLの特徴は、内巻きの巻き髪、レースやリボン、パステルカラー、アンサンブルニットなどに象徴される「かわいらしい」ファッションだ。軍地さんはこう言う。

「彼女たちのファッションは、『愛され』『モテ』がコンセプト。一方、必ずしも『結婚』がゴールではなかった総合職の女性社員は、バリバリ働いて稼ぐことを選びました。だから、ベーシックでコンサバティブ(手堅い)なファッションをしていたんです」

働く女性の装いは、社会状況に応じて変化してきた。写真は2000年。ハイヒールを履いた女性と、フラットシューズの女性が隣り合わせでいる(写真:読売新聞/アフロ)

衰退する「OL服」

2010年代に入り、「OL」という言葉は衰退し、「OL服」も同じ経過をたどっていく。なぜそうなったのか。軍地さんはこう説明する。

「オフィスで働く女性を『OL』と呼んで、ことさら区別しなくてもよくなった」

男性の給与が下がり続けるなか、多くの女性にとって結婚は人生のゴールでもなくなった。自らの足で立って働き、稼ぎたい。こう考える女性が増えたことで、女性がオフィスで働くことは当たり前のことになっていったのだ。それはオフィスが日常に寄ってきたことを意味する。

2011年には、東日本大震災が起こった。軍地さんは、震災がファッションにも大きな影響を与えたと言う。

「震災を機に売れるようになったアイテムが、リュックや、スニーカーも含むフラットシューズです。何かあった時に、長距離を歩ける格好をするのは合理的だとみんな認識したんです」

足元が変わると全体のスタイルも変わる。スニーカーに合わせやすい格好として、通勤ファッションもカジュアルな方向にシフトしてきた。

東日本大震災で発生した帰宅難民。渋谷駅そば。2011年3月11日(写真:読売新聞/アフロ)

「自分らしさ」って?

ドレスダウンが進んだ仕事着。10年、20年前と比べたら、自分らしさを盛り込むこともできるようになった。つまり「自由」になった。けれど、選択肢が増えればそれだけ迷う人も出てくる。ビジネスカジュアルで何を着たらよいのかわからない、という女性に対して軍地さんはこう言う。

「悩んで決められないなら、スタイル提案をしてくれる洋服レンタルサービスを使うのも手ですね。レンタルサービスは、所有しなくていい点も便利なのですが、トップスやボトムス、時にはアウターなどコーディネートを丸ごと提案してくれます」

そのうえで、こうも続けた。

「ビジネスカジュアルは相手からどう見えるかが大事です」

自分の装いが相手にどう映っているのか。この時、大切にしたいのは「TPO」だ。Time(時)、Place(場所)、Occasion(場合)。いかに「くだけた」仕事着とはいえ、これを踏まえた服装をすることが大前提だ。お客さまに対する時、会議に出る時、プレゼンテーションの場に立つ時、チームメンバーにしか会わず社内で作業をする時……それぞれに合った服装がある。

「どんなものが好きで、どんなふうに仕事をしていきたいのか。それが表れるようなファッションができたらベストだと思います。人は、特に女性は、似合う服を着ていると輝くんですよ。『自分はこれしか似合わない』『無難でいい』と決めつけず、周りの意見を聞きながらいろいろなスタイルにトライしてみてください」

働き方が多様になったいま、仕事着も多様になった。社会の空気もどんどん変化していく。もはや、一概に「仕事着はこうでなければならない」と言うこともできなくなりつつある。ただし、これだけは言える。仕事は決して一人でやっているのではない。相手がいて、仲間がいて初めてできるもの。ビジネスカジュアルとは、働く環境、変化する社会の空気感を受け止めたうえで着る仕事着なのだ。


崎谷実穂(さきや・みほ)
人材系企業の制作部でコピーライティングを経験した後、広告制作会社に転職。新聞の記事広告のインタビューなどを担当し、2012年に独立。現在はビジネス系の記事、書籍のライティングを中心に活動。著書に『ネットの高校、はじめました。新設校「N高」の教育革命』『Twitter カンバセーション・マーケティング』。共著に『混ぜる教育』。構成協力に『発達障害を生きる』など。