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宮本由貴子

「荒れ墓」「無縁墓」...墓を継ぐ人がいなくなる

2017/01/16(月) 11:02 配信

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この年末年始、全国でいくつかの「墓じまい」があった。墓参りする人がいなくなり、墓自体を処分したのだ。「墓じまい」には至らずとも、「雑草に覆われて墓石も見えない」などの「荒れ墓」、使用者が不明の「無縁墓」は増え続けている。荒れ放題にしないため自治体も対策に乗り出し、「墓守代行」「レンタル墓」なども広がってはきた。しかし、少子化や過疎化など荒れ墓を生む要因が大きく変わるわけはなく、人口減少社会・日本では今後、引き継ぎ手のいない墓はさらに増えていく。あなたの肉親や近親者のお墓は?(Yahoo!ニュース編集部)

「墓じまい」の現場

あと数日で新年を迎えるという昨年12月。埼玉県さいたま市の市営墓地で「墓じまい」があった。朝9時。今にも雨が降りそうな空の下、墓地に隣接する道路に4トントラックが横付けされ、作業は始まった。

ベルトを墓石に巻き付け、クレーンで引き上げる(撮影:宮本由貴子)

トラックから降りたのは職人ら4人。墓石にベルトを巻き、クレーンでつり上げる。高さ約2メートル、重さ約1.5トン。墓石が荷台に載ると、親方が「塔婆を持ってこい」などと若い作業員に指示していく。墓石の下にある「納骨室」には、たっぷり水がたまっていた。20分ほどかけてそれも排出。三つの骨壺を取り出すと、男たちが両手で丁寧に運んでいく。遺骨は後日、乾燥させて砕き、海で散骨するという。

墓石の下にある「納骨室」から骨壺を取り出す。作業は1時間ほどで完了した(撮影:宮本由貴子)

納骨室もクレーンで荷台へ移動させ、整地をして作業は終わった。この間、約1時間。途中で雨が降りだしていた。

「子どもに迷惑を掛けたくなかった」

「墓じまい」の依頼者は80代の男性だった。「自分の代で墓を"無"にしてしまうのは気が引ける。けど、墓の管理で子どもに迷惑を掛けたくないし、無縁墓にしたくなかったから、思い切ってケリを付けました。更地になった様子を見たら、ほっとしました」

この墓じまいには、依頼を受けた会社の小西正道社長(38)も同行していた。墓じまいのコーディネートや散骨を手掛ける企業だ。小西さんによると、墓を一挙に撤去した場合、遺骨は主に「合葬墓や納骨堂に移す」「親族所有の墓に納める」「海や山への散骨」といった方法で供養されるという。

「墓じまいの希望者はここ1、2年、増加が目立ってきました。1日に3件行うこともあります。荒れ墓を見かけるとかわいそうで...。墓じまいしてあげたいと思いますね」

まさに荒れ放題 熊本県人吉市で

同じ12月、熊本県人吉市の瓦屋墓地に足を運んだ。墓は丘陵地にあり、墓参りに行きにくい。長い年月をかけて墓地のほとんどが藪になったという。

熊本県人吉市の瓦屋墓地。うっそうたる薮の先に数百もの無縁墓がある(撮影:宮本由貴子)

冷たい雨の中、案内役の市職員が鉈で藪を切り開いていく。途中で「うわあ、もう前に進めないな」という言葉も飛び出した。どのルートを選んでも木や竹、雑草が密生し、道と呼べるものはない。ぬかるみもひどい。

ようやく辿り着いた平らな場所には枯葉が積もり、シダがはびこっていた。墓が2基。さらに進むと、四角い石や丸い石がいくつも転がっている。想像以上の荒れ方だ。苔むした石の一つに、「女」という文字がかろうじて読めた。戒名の一部らしい。江戸時代の元号が刻まれた墓石もあった。重なり合った石と石の隙間からは木も生えている。

荒れ放題になった瓦屋墓地。無縁墓が至る所に(撮影:宮本由貴子)

お参りのない「無縁墓」は4割超

人吉市の「荒れ墓」は一時、全国に知れ渡った。2013年に市が実施した実態調査の結果が衝撃的だったからだ。それによると、市有と私有の墓地にある市内計1万5128基の墓うち、42.7%が「無縁墓」、つまり「最近お参りされた形跡のない墓」だった。実数にすると6500基近く。瓦屋墓地に限ると、全844基のうち無縁墓は751基に達した。

その間の事情を市環境課課長補佐兼環境衛生係係長の迫田洋子さん(52)はこう語る。

「人吉市にはもともと市営の墓地がなく、市有地を無償で貸してきました。管理料も徴収していないため、状況を把握する術がなかったんです。この調査でようやく、無縁墓が多いことが分かりました」

倒れ、放置された墓石。びっしりと植物に覆われている(撮影:宮本由貴子)

墓石を処理し、更地にする費用は一般的に「1平方メートル当たり10万円程度から」「1基当たり、およそ30万〜40万円」とされる。ところが、藪に覆われた箇所には重機も入れないから、費用はさらにかさむ。「今はこれ以上、無縁墓を増やさないように呼び掛ける」(迫田さん)以外に対処法はないという。

「墓じまい」を自治体の手で

荒れ墓や無縁墓を解消できないか。宮崎市はその難題に早くから取り組んできた。市民と市職員が10人ずつ加わった協議会が2年間の話し合いを続け、無縁墓になりにくい仕組みづくりを構想。その計画に沿った施策は2008年度から実行に移されている。

「無縁墓対策」では、使用者が特定できない墓に看板を設置し、一定期間内に連絡がなかった墓は更地にするなどした。その代わりに「合葬墓」を設けたという。「行政による墓じまい」だ。また、市街地にある市営墓地では、1件当たり年間2千円前後の管理料を徴収するようになった。通路の草刈りや水道代、ごみ搬出などの費用を受益者に負担してもらうためだ。一方の行政側は、通路や駐車場、水栓などを整備していく。

荒れ墓を整理し、墓地全体を整備。空きスペースに「合葬墓」をつくった(撮影:宮本由貴子)

宮崎市地域振興部生活安全課の那須英明主幹兼衛生係長は、「環境の良い墓地」を維持するため、公営墓地にも「経営」の観点が必要だと力説する。「無縁墓が多いと管理料が徴収できず、いつか経営が立ち行かなくなる。そうしないためにも、墓を使っている人を正確に把握することが重要です」

「無縁墓はこの先、一気に増えます」

第一生命経済研究所の小谷みどり主席研究員(47)は、葬儀や墓の問題を20年以上研究している。この先、無縁墓はどうなるのか。本当に急増するのか。その見通しを聞くため、東京・有楽町のオフィスを訪ねた。

少子化が急速に進む中、旧来型の「家」制度に沿った墓の維持は困難だと、小谷さんは言う。

「今の60〜70代にすれば、墓には親や同居していた祖父母が入っていることが多かったので、その親近感から多くの人が墓参りに行っていました。ところが、核家族化が進行した結果、その子どもたち世代が祖父母に会うのは年1、2回という状況です。さらにその子ども、つまり孫世代が墓守になるころには、墓参りする人もぐんと減り、一気に無縁墓が増える。過疎の地域ほどスピードも速いはずです」

整備が終わっていない宮崎市の墓地。無縁墓の周囲は雑草だらけだ(撮影:宮本由貴子)

無縁墓の激増を予感させるデータもある。全国の男女600人を対象に第一生命経済研究所が2009年に実施した調査によると、自分の墓が「無縁墓にはならない」は13.9%に過ぎず、「いつかは無縁墓になる」は50.3%にも達したのだ。

「墓守代行」高齢者や遠くの人のため

無縁墓や荒れ墓を防ぐにはどうしたらいいのか。小谷さんはこう指摘する。

「友人同士や老人ホームの仲間といった血縁のない人たちと一緒に墓に入り、お寺やNPO法人、学校、施設、企業などが管理していく。友人や知人などに定期的にお参りしてもらう。そうすれば、荒れ墓になる心配はありません」

実は、そんな動きは各地で広がっている。

鹿児島県姶良(あいら)市の社会福祉協議会が墓守代行をする「墓守サービス」を始めたのは1998年である。周辺自治体と合併する前の「姶良町」時代のこと。首都圏に住む元住民の「墓の手入れが行き届かず、心苦しい」という言葉がきっかけで始まったという。墓守代行では、全国のさきがけ的存在だ。

雨の中の「墓守代行」。2人が丁寧に墓石の汚れを落とす(撮影:宮本由貴子)

「代行」の現場を見せてもらった。社会福祉協議会の臨時職員、榎田敏行さん(64)と大脇日出人さん(65)が軽自動車の荷台に花やヒバなどを載せて墓地へ向かう。1人が墓石を拭き、もう1人が花や水を取り替える。ごみを拾い、雑草を抜く。「幼なじみです」と言う2人は、5分から10分で次の墓に向かう。

素手で墓石を磨く

作業はすべて素手だった。

「家族の墓参りで手袋はしないでしょう? 線香をあげたり、拝んだりはしませんが、家族と同じ気持ちで行います」と大脇さん。榎田さんは「手を掛けただけきれいになりますから。お礼状をいただくこともあって、励みになります」と話す。年に1度は墓の様子を撮影した写真を添え、依頼主に報告もする。

素手で墓をきれいにする(撮影:宮本由貴子)

週1回の作業で生花を毎回生け替える場合は、年間約11万円。今は71件の年間契約があり、県外在住者が7割以上だという。社会福祉協議会地域在宅福祉課の丸野光俊地域福祉係長(32)は「本当は本人が墓参りしたいのに、足腰が弱り1人では無理という声もよく聞く」と言い、今後は職員による墓参り同行サービスも検討するという。

広がる「代行」 障害者支援施設も

墓守代行はここ数年、全国で広がった。母体もさまざまで、就労継続支援施設が乗り出す例もある。3年前から手掛ける大分県佐伯市の「エバーグリーン」もその一つ。10〜60代の障害者15人と職員5人が作業を担う。口コミで利用者が増え、今は年間契約で300基超。職員の若林靖幸さん(50)は「1基に1時間ほど掛けます。障害者も充実感があるようです」と言う。

遠方や高齢で墓参りができない人に代わり障害者らが手入れする(写真:エバーグリーン提供)

ふるさと納税を活用したサービスも登場している。岡山県西粟倉村は2016年度からで、2万円寄付すれば、返礼として年2回、地元の建設業者が墓の掃除や草取りなどを行う。長崎県松浦市なども同様のサービスを始めた。

「レンタル」「納骨堂」で無縁墓にしない

「借りる」もある。埼玉県東松山市の西照寺。ここの大谷浄苑にある「レンタル墓」は、墓を10年間借りる仕組みだ。転勤が多い人や高価な墓をすぐ購入できない人が利用するという。網代豊和副住職(40)によると、きっかけはやはり、「墓じまい」「荒れ墓」だった。

「10年ほど前から当寺でも墓じまいが出始めました。あまりお参りされていないお墓も見受けられるようになって。子々孫々で継承していく従来の墓が負担になっているんだな、と。では、社会の変化に合った墓は何か、と。先祖に手を合わせ、お参りしていただく機会が少しでも増えたら、と考えました」

納骨堂を「個人の墓」とするケースもある。

東京都新宿区という大都会の真ん中にある、新設の納骨堂。地蔵菩薩が見守る中、右側に位牌が並ぶ(撮影:宮本由貴子)

JR新宿駅から約1キロ。都会の真ん中にある東長寺は20年ほど前から、個人単位で遺骨を受け容れてきた。檀信徒会館「文由閣」の手島涼仁館長(48)は「当時、将来的には檀家が減り、継承が必須の墓は廃れていくだろうと考えていました」と振り返る。都会では墓地の増設も不可能で、迫り来る「多死社会」に対応できない、との見通しだった。

その考えは外れていなかったようだ。曹洞宗への改宗が条件であるにもかかわらず、生前契約を含め、申し込みは累計で1万人以上。2015年には納骨堂を新設した。

墓への関心が無ければ...

しかし、墓守代行やレンタル墓、納骨堂などが荒れ墓を防ぐと言っても、それは墓への関心が当人たちにあってこそ。そもそも墓への関心が薄いとどうなるか。

例えば、東京都豊島区に住むシステムエンジニアの男性(35)は「うちの墓がどういう状況か、まったく興味がない」と明かす。祖父母らが眠る墓は東京都内の寺にある。鎌倉時代からの古刹で、自宅からもそう遠くない。それでも彼はこれまでにわずか6、7回しか足を運んだことがない。

「祖父母が亡くなった後に私が生まれました。だから、墓に入っている人で(直接)知っている人はいません。熱心に墓参りをしていた父の姉も2年前に亡くなって。両親は墓参りに熱心じゃないし、お墓、今は荒れ果てているかも...。自分が入る墓も要らない」

「無縁墳墓等」の連絡先を尋ねる宮崎市の公告。同種の公告は全国各地の墓地にある(撮影:宮本由貴子)

墓を継ぐ者が途絶えそうになったら、普通は墓を親類と一緒にしたり、墓じまいをしたりする。厚生労働省の調査によると、それらを含む「改葬」件数は2010年度に7万2180件だった。それが2015年度は9万1567件。5年間で約2万件も増えた計算だ。

そしてこの先、日本では本格的な人口減少が始まる。それに伴って墓守不足がさらに深刻になり、十分な対応もないままだと、各地で「墓の墓場」が広がるかもしれない。

無縁墓に関する公告が並ぶ墓地。手入れの行き届いた墓の間に「無縁墓」が混在する。日本の墓は今後、どうなるのか(撮影:宮本由貴子)

墓碑の名前などが分からないよう、一部の写真には加工を施しています(Yahoo!ニュース編集部)

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