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宮坂樹

「あなたにとって、電気とは?」 真夏の東京 街頭で聞いた

2017/08/10(木) 12:30 配信

オリジナル

猛暑日が続くこの8月、電力需要も高まっている。エアコンはフル回転し、街には深夜まで人と明かりが絶えない。特に大都市東京は連日、猛烈な勢いで電気を使っている。もしかしたら東京の人たちは、6年前に街の明かりが消えたことを忘れかけているのかもしれない。東京電力福島第1原発事故の影響で「計画停電」が実施され、夏には節電が叫ばれた。再びの暑い夏。街の人は電気についてどう考えているのか。街頭で尋ねた。「あなたにとって電気とは、何ですか?」(宮坂樹、笹島康仁/Yahoo!ニュース 特集編集部)

 

<インタビュー動画(1分30秒)>

(この動画はインタビュー取材のダイジェスト版です。取材地は東京の渋谷、銀座、品川区中延。フルバージョンは記事の末尾にあります)

渋谷駅前 夜8時半

渋谷駅のハチ公口を出てビデオカメラを構えると、ネオンの明かりだけで人の顔もはっきりと映った。「夜の撮影だから」と用意したライトは必要ないようだ。

待ち合わせ中の女性2人組にマイクを向けた。共に20代だという。まずは率直に、あなたにとって電気とは何ですか、と尋ねた。

渋谷駅ハチ公口で尋ねる。「あなたにとって電気とは?」(撮影:笹島康仁)

「......絶対要る。え、要るよね? ロウソクとか嫌だよね、絶対要るよね」

「うん、生活の一部。なきゃ絶対に生活できない。なかったら困るよねー」

------普段使っている電気が、どのように作られているか、知ってますか?

「え......どうやって作ってんの? 雷? 待って、違う。何? 電気ってどうやって作んの? 科学? え、なになに? 空の力みたいな? 衛星?」

「発電所?」

「あ、そうだ発電所があるわ。そうだ! 科学だ」

スマホを手に、笑ってそう答えた。節電について聞くと、「たまに冷蔵庫を開けっぱにするのはマジで怒られる。ママに、『閉めろ! 電気代かかる!』って」

1枚の写真を見てもらった。東日本大震災と原発事故の直後、節電で薄暗くなった渋谷を写したカットだ。2人は「暗いね」「すごいね、びっくり」と言う。

上=2011年3月。福島第1原発事故の直後、自主的に広告照明が消された渋谷(AP/アフロ) 下=たくさんのネオンで明るい現在の渋谷。2017年8月5日(撮影:宮坂樹)

------渋谷に電気はあった方がいい?

「あった方がいいと思います。やっぱ、夜は盛り上がる場所だから」

------暗い渋谷はどうですか?

「んー、なんか盛り上がらないですね。都会だから、明るくあってほしいよね」

20歳の男子大学生にも聞いた。やはり街は明るい方がいい、と話す。「広告で街が明るいのは、意味あることだと思いますよ」。節電について聞くと、「エアコンは24時間回すようにしてますね」と言う。

取材の日、渋谷の街では盆踊り大会が開かれていた(撮影:宮坂樹)

その電気は、どこから?

20代らしい別の女性2人組にも、震災直後の渋谷の写真を見てもらった。目の前の明るい光景と見比べながら、質問に答えてくれる。

「いやーちょっと、(今の渋谷が)明る過ぎる感じはありますよね。こっち(写真)はこっちで暗すぎますけど」

「(今の)この明かりはいつまでついてるのかな、って考えたことあるんですけど」

福島第1原発は事故以前、東京に電気を送っていた。そのことに話が及ぶと、「福島から来てたんですよね、以前は。なのに、今、これだけ電気が使えてるのは何でなんだろうな、と思いますね。どこから(電気は)来てるのか、不思議ではあります」。

8月5日は真夏日。夜9時になっても気温28.2度、湿度83%(撮影:宮坂樹)

福島での事故後、日本の原発は一時、全て運転を停止した。現在は関西電力の高浜原発(福井県)と四国電力の伊方原発(愛媛県)、九州電力の川内原発(鹿児島県)の3カ所・5基が再稼働している。

そうした中、東京電力所管の原発は停止したままだ。

原発が担っていた分の電力は事故後、主に火力発電で賄われている。資源エネルギー庁によると、事故前の2010年度に62%だった火力発電の割合は、2015年度には85%まで増加した。一方、火力発電の燃料となる石油や石炭は元々、ほぼ全てが輸入。その上で、事故後は老朽化した火力発電所を稼働させるなどしており、同庁は「火力頼み」の現状には課題が多い、と主張している。

震災時の暗い街の写真と見比べて...

夜中が近づいても、渋谷のにぎやかさは変わらない。スピーカーを通して、軽快なリズムが聞こえてきた。ヒューマンビートボックスの路上パフォーマンスをしている男性がいた。休憩中に話を聞く。

パフォーマンスを披露する男性(撮影:笹島康仁)

------このスピーカーは?

「電池駆動です。単3電池で、8時間くらい持ちます」

------あなたにとって電気とは?

「ダンスは(人間の)動きでできるけど、僕たちは音で表現するから、絶対的に電気って、すごい大事だなと。自分にとっては欠かせない」

スケートボードをしている男性に震災直後の写真を見てもらった。「やっぱ明るい方がいいですね。夜行性なんで」と言う。いつも何時頃まで起きていますか? 「深夜3時くらい。スケートボードしてます。明るい方が動画とかにも映りやすいんで」

タブレット端末が映し出す節電時の渋谷。これを見てもらいながらマイクを向ける(撮影:笹島康仁)

終電の時刻が近づく中、センター街を歩く。道の脇に寄ると、立ち並ぶ店舗から漏れるクーラーの冷気が涼しい。20代の男性2人組にも震災直後の写真を見てもらった。

「これ見ちゃうと...」と1人が言う。「もっと減らしていい電気もあるのかなと思います。(カフェの店内を指差して)あそことかだったら、あんな(に電灯の)数がなくても人は快適に過ごせるんじゃないかな」。もう1人も「広告を照らしてる照明とか、あそこまで台数使わなくてもいい」と話した。

深夜11時。渋谷から離れた新宿でも、美容用品店からは、まばゆいばかりの明かりが(撮影:宮坂樹)

銀座4丁目交差点 夜8時半

金曜の夜。銀座の大通りを、ドレスアップしたカップルが歩いていく。イヤホンをした若い女性もいる。声を掛けるとー。

「何? 電気について? いや、いいです」「電気? 分からないのでごめんなさい」。なかなか立ち止まってくれない。街頭広告やショーウインドウの明かりが照らす通りを、大勢が足早に通り過ぎていく。

金曜夜の銀座。人も街も華やぎ、まぶしい(撮影:笹島康仁)

米国コロラド州デンバーから来た観光客にマイクを向けた。50代の母親と30代の息子。六本木や秋葉原、原宿を見てきたという。

------東京の街の明かりはどうですか?

「きれいね。デンバーでは見られないわ」

------明る過ぎるという声もありますが?

「そうね。(ニューヨークの)タイムズスクエアよりは(浪費していないので)いいんじゃないかしら。ラスベガスとかよりはね。私たちは観光客だからきれいでいいけど、環境へのコストもかかるわよね」

それを聞いた息子がすぐに指摘した。「たしか、ラスベガスの明かりは、デンバーからのエネルギーを使っているよね」

節電への取り組みは?

「これから食事」という20代の男性と50代の母親に足を止めてもらった。原発事故以降、節電を気に掛けているという。「職場では事故の当時のまま、(今も)電球が補充されなかったりして、割りと暗めでやってます」

上=2011年4月の銀座4丁目交差点。外壁のライトアップが自粛され、暗闇に包まれている(読売新聞/アフロ) 下=2017年8月。銀座はすっかり華やかさを取り戻した(撮影:笹島康仁)

震災直後の薄暗い銀座の写真を、目の前の光景と見比べてもらった。

「見事に忘れ去られてますよね」と母。息子は「忘れられてる感もあるけど、夜景を見て感動するのは電気を見て感動すること(と同じ)だと思う。都会ならではの役割」と語った。

銀座4丁目交差点に面するリコーのネオンサイン「RICOH」には、「100% Eco-Powered Billboard」の文字が添えてある。リコーによると、この使用電力は、上部に設置した風車による風力発電と、太陽光発電で賄っている。「省エネに関心を持ってもらえれば」と考えてのことだという。

「RICOH」のネオンサインの上に風力発電用の風車が見える(撮影:宮坂樹)

コンサルティング会社に勤める40代の男性も街頭取材に応じてくれた。「いかに仕事を効率化するかが、電気の節約に最終的に結びつく」。震災直後の写真を見てもらうとー。

「電気を使ってこの街が潤って、それがこの街に来る人に還元されたら(いい)。単純に、使っている量だけで使い過ぎと判断できる問題でもないと思う。その電気を使って何してるかによると思う」

左=2011年7月、東京証券取引所のチッカーも照明を落とした(AP/アフロ) 右=2017年8月の様子。電光掲示板は取引銘柄を次々に流していく(撮影:宮坂樹)

品川区の中延商店街で 午後6時半

8月3日には内閣改造のニュースが駆け巡っていた。その夕方、品川区の中延商店街を行く。庶民的なこの商店街には、夕飯の買い出しに来た主婦の姿が目立つ。中延に住んで約20年という80代の女性に「電気とは何ですか」とマイクを向けた。

「んー、そうねぇ、今もう弱ってるからねぇ、元気ってやっぱり......」。電気を「元気」と聞き間違えたようだ。「電気です」と訂正すると、「あぁ、電気? 今、クーラーとかつけてて。大事ですね」と言い、遠い昔の暮らしを語ってくれた。

中延商店街。原発事故の直後はこれより明るさを半分ほどに落としていた。その後、照明の一部を消費電力の少ないLEDに変えたという(撮影:宮坂樹)

「(昔はよく)停電があったんですよ。あと、(電灯が)つかなかったり。そういう時代と(共に生きて)きてるから。昔のこと考えたら、何にもつらいことない」

------改めて電気とは?

「なくちゃいけないわね、うん。この世に電気くらい便利なものないでしょ? 何でもできるしね。電気なかったら、生きてるの、嫌になっちゃうわね」

電力自由化で「電源」を選べる?

40代の主婦も立ち止まってくれた。使わない部屋のブレーカーを落とすなど、こまめに節電の工夫を重ねているという。

「お金の節約というより、火力を動かす石油とかは日本ではほとんど採れないので、限られた資源の中で、やっぱり、日本人一人ひとりが大事に使わないと」

中延でも多くの人が「電気」を語ってくれた。写真下の夫妻は家をオール電化にしているという(撮影:笹島康仁)

自転車を押す男性に声を掛けた。70代で自営業だという。

------電気がどのように作られているか、気にしていますか?

「気に掛けてるよ。でも、気に掛けても、それを拒否できない人ばっかじゃん。でしょ? 原子力で作っても、拒否する人は、なかなかいないじゃん? 反対はするけど。反対するなら絶対使わなきゃいいんだ、その電気を」

2016年4月から始まった電力小売りの全面自由化では、ガス会社や通信会社などが参入し、一般消費者の選択肢は増えた。だが、原子力や火力、水力など発電方法まで選択できる契約方法はまだ少ない。

買い物中の女性(65)は、発電方法を選べる契約があればぜひ知りたいと言い、続けた。「福島の原発でたくさんの人がああいう形になったのはね、とてもね、悲しいことでした」

福島第1原発のある大熊町の海岸。2016年11月、震災から5年8カ月を経てようやく瓦礫の分別と遺体捜索が始まった(撮影:宮坂樹)

福島第1原発の事故では、居住地域が放射能に汚染され、住み慣れた家や土地、家業などを捨てざるを得なかった人が大勢いる。福島県沿岸部は津波に襲われ、およそ1800人もが亡くなったが、放射能汚染の影響で警察や自衛隊も容易に立ち入ることができず、行方不明の家族を捜すことさえ、かなわぬ人もいた。

最後に60歳の男性に話を。中延でカフェを経営しているという。

「みなさん、あの時の震災のことを忘れてると思うので、無駄な電気、結構使ってると思います」

震災直後、ライトアップが消えた東京タワー。「GANBARO NIPPON」の文字を点灯させた。2011年4月(YUTAKA/アフロ)

------節電などされていますか?

「はい。いつまた何が起こるか分からないので。閉店と同時にエアコンとか、全て落としてます。そこから1時間(店の)掃除をやって。今の時期、すごく暑いんですけどね」

------あなたにとって電気とは、何ですか?

「全て、じゃないですかね。電気がなければ生きていかれない。一番大切なものだと思います......でも、女房の方が一番大切ですけどね」

 

<インタビュー動画「あなたにとって、電気とは?」(約4分)>

[取材・動画制作]
宮坂樹、笹島康仁
[インタビュアー]
小林有希
[写真]
撮影:宮坂樹、笹島康仁


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