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佐々木康太

音楽は「人」を通じて好きになる――総再生数3億回、YOASOBI「夜に駆ける」大ヒットの背景

2020/10/11(日) 17:10 配信

オリジナル

昨年末リリースのデビュー曲「夜に駆ける」が、SNSを中心に大きな話題を呼んでいるYOASOBI(ヨアソビ)。「夜に駆ける」はコロナ禍のなか、5月以降各チャートを席巻。YouTubeとサブスクを合わせれば、再生数は3億回に達した。「小説を音楽に」というコンセプトでひた走る2人組に、話を聞いた。(取材・文:松島功/撮影:佐々木康太/Yahoo!ニュース 特集編集部)

「音として聴いて気持ちいいから」

「これだけの人数に聴いてもらっているのは、『音として聴いて気持ちいいから』だと思う。歌詞に感情移入してくれる人もいれば、一方で歌詞を聴かない方もいますし。私の場合は『歌声が聴いていて気持ちいいっ!』て、そこだと。人にシェアしたくなるときって相当心躍らされてないとお薦めしたりしないので」

Ikura

こう語るのは、YOASOBIのボーカルのikura(20)。コンポーザーのAyase(26)も言う。

「SNSを通じて知った情報の拡散力も本当に大切ですが、結局はやっぱり『人と人』。無邪気に『布教』したくなる良さ、『この曲いいからっ!』て周りに言いたくなる要素は詰めこみたいと思うし、そう言って恥ずかしくないような作品と思っています」

Ayase

「投稿サイトの小説を音楽にする」というコンセプトで2019年に誕生したYOASOBI。ボーカロイドのプロデューサーだったAyaseと、シンガー・ソングライターの「幾田りら」として活動していたikuraがタッグを組んだ。

Ayaseは、5歳からピアノを学び、高校時代はバンドでボーカルを務めた音楽少年。しかし、その後、体調を崩し、そうした状況でも音楽を続けようとするなかで出会ったのがボーカロイドだった。かたやikuraは、小学6年生から作詞・作曲を始め、中学・高校時代も音楽活動をしながら、さまざまなオーディションを受けるなど、自身の歌が多くの人に聴かれる機会を地道に探し求めてきた。

最初は正解がわからなかった

昨年末リリースした「夜に駆ける」は、サブスクでの人気を測る大きな指標、Billboard JAPANのストリーミング・ソング・チャートで2億回再生を突破。あいみょん、Official髭男dism、King Gnuなどと並ぶ数字を、まだ持ち歌が5曲という新人ユニットながら記録した。YouTubeでも、MVが9000万回以上、ikuraの歌唱動画が5000万回以上も再生されている。

そもそも「小説を音楽にする」作業とはどんなものなのか。Ayaseは言う。

「とても難しいですよ。作り始める前に、インプットの時間がすごく長くて、頭の中で咀嚼する時間も長く、常に小説の中身を確認しながら曲を作るので。毎回作者さんが変わる、物語も変わる。さらに楽曲のテイストも変えているので」

ikuraも「最初、正解の歌い方はわかりませんでした」と振り返る。

「他の人が作った曲を歌って、歌手としても成長したかったので、新しいことをやりたいなって思いました。声をかけてもらったときは、小説を音楽にするということのイメージがわかなかったんですけど。決め手だったのは、Ayaseさんの楽曲。本当に衝撃を受けて、『この人とやったら絶対すごいことになるんじゃないかな?』と思って」

パーソナルな部分を見せることは必要、自由に遊んでください

「ネット発」というと、顔すら明かさないアーティストも多いイメージだが、YOASOBIの場合はAyaseもikuraもTwitter上でパーソナルな側面を出すことをいとわない。ファンのツイートにも積極的に反応していく。2人とも、SNSは「めちゃめちゃ見ています」と口をそろえる。

「特に日本の音楽の聴き方って、その人を好きになるところから始まることが多い。戦略的なマインドもないことはないんですけど、シンプルに僕はSNS好きだし、交流好きだし。ミステリアスな雰囲気を出したいと思っていた頃もあるんですけど、どうせしゃべっちゃう(笑)。隠す必要がないというか、嘘をつくのが一番良くないことだと思うので、ありのままを出しています」(Ayase)

「謎っぽい感じが最初はあったと思うんですけど、実際はお互い外に出ていきたいタイプの人間なので。むしろ有効活用して、パーソナルな部分を出していったほうが、楽曲だけじゃ分からない『人』としての部分が伝わるかなって」(ikura)

それぞれのアカウントだけでなく、公式Twitterの使い方も非常に巧みだ。曲のインスト音源を公開して自由にYOASOBIの楽曲を歌ってくれるように呼びかけたり、原作小説を紹介したり、チャート1位獲得の喜びをファンと分かちあったりと、YOASOBIに触れた人たちが彼らをもっと好きになるような導線が引かれている。

そうした導線に呼応するかのように、「UGC」と呼ばれるユーザー生成コンテンツも多数生まれているのもYOASOBIの特徴だ。YouTubeでは「歌ってみた」と呼ばれるカバー動画、TikTokでは「踊ってみた」と呼ばれるダンス動画が大量にアップされている。

「これまであまりしてこなかった音楽の遊び方みたいなものを、コロナ禍のこともあって、みんなが気づき、発信し、拡散されるタイミングが、僕らの曲の広がりと重なったのかなって」(Ayase)

「自分たちも想像してなかった切り口を開いてもらったなって」(ikura)

「自由に遊んでくださいっていう感じです」(Ayase)

SNS上で「聴いてください」「広げてください」と素直に想いを伝え、ファンが拡散する様子を見ていることも伝える。YOASOBIは、自分たちが夢を叶えるストーリーにファンを積極的に巻き込んでいく。

昔の歌謡曲の感覚がメロディーにある

ikuraは、自身がアコースティックユニット「ぷらそにか」のメンバーでもあることも大きいと語る。

「私たちがYOASOBIだけの2人じゃないのも肝かなって。AyaseさんはボカロPの活動、私はシンガー・ソングライターとして。YOASOBIだけではない、深く掘れるパーソナルな部分が、2人ともいくつもある。もっとその人のことを知れるっていうのは、興味をもって好きになってもらう理由の一つなのかなと」

「僕も僕で活動があって、ikuraも幾田りらの活動があって、YOASOBIを通してその二つもそれぞれ大きくなるっていうのも、YOASOBIのストーリーにおいてすごく大事なところで。チーム全体で大きくなっていくっていうことは考えていますし、小説を音楽にするっていうコンセプトにまだまだ面白い広がり方を出せると思っているので、どんどんチャレンジしていきたいですね」(Ayase)

個々の活動の存在が、ファンの総数を底上げしているのは確かだろう。2人のInstagramを分析すると、それぞれのファンの年代・性別は全く異なっている。Ayaseには若い女性ファン、ikuraには年上の男性ファンが多く、結果的に補い合いながら幅広い年代層を押さえている。ネット発なだけに若年層に人気というイメージも強いが、幅広い世代のリスナーを魅了しているのだ。その理由をAyaseはこう考えている。

「昔の歌謡曲とかすごく好きで。ユーミン、昔のジャニーズ、久保田利伸さんとか。そういうメロディーの感じが好きでずっとやってきたのもあります。周りでよく聞くのが、小学校でYOASOBIが流行っていて、子どもが家で何度も聞いていたら、お父さんやお母さんもはまってくれたっていう話。サウンドは常に最先端を意識して作っているんですけど、自分の好きなメロディーの根底にあるものが、日本人が昔から聴きなじみのある感じなので、そこがうまくフィットしてくれたりしたのかなって」

世代を問わない人気ぶりに、今年の「NHK紅白歌合戦」に出場するのでは、という声も出ている。そのあたりをどう感じているのか。最後に聞いてみた。

「世間で言われている以上に僕が言っているので(笑)。『出たい!』って」(Ayase)

「出たいですっ! 口にしたら夢は近づくと思います。言うことで、これも口コミになるじゃないですか。何ならその口コミが紅白出場者を選ぶ方の所に届けばいいな、ぐらいに思っています」(ikura)

屈託のない笑顔で、しかも即答で返ってきた。夢を語れる、夢を公言できる。そのアーティストの夢を叶えるストーリーに参加したいとファンに思わせるパワーが彼らにはある。

YOASOBIを好きな誰もが、そのストーリーに参加している。興味をもってくれる理由が多数あり、好きになった人がYOASOBIのストーリーに参加できる導線が無数に、そして巧みにネット上に用意されている。それこそが彼らのヒットの理由なのだろう。

YOASOBI(よあそび)
コンポーザーのAyase、ボーカルのikuraからなる、「小説を音楽にするユニット」 。2019年11月に公開された第一弾楽曲「夜に駆ける」はBillboard Japan Hot 100やオリコン週間合算シングルランキングで複数週にわたって1位を獲得し、ストリーミング再生回数は2020年9月に2億回を突破。第二弾楽曲「あの夢をなぞって」は原作小説がコミカライズ、第三弾楽曲「ハルジオン」は飲料や映像作品とのコラボレーションを果たし、7月20日に第四弾楽曲「たぶん」、9月1日にブルボン「アルフォートミニチョコレート」CMソング「群青」をリリース。原作小説の書籍化や映画化も発表し、さらに展開の幅を広げている。


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