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ニシカネプロジェクト

観客はわずか10人、1公演30分――日本最速レベルで「有観客ライブ」再開に臨んだ、地方アイドルの葛藤【#コロナとどう暮らす】

2020/06/18(木) 18:00 配信

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緊急事態宣言の解除後、早くも5月24日に観客入り生ライブを再開したアイドルグループがいる。石川県金沢市を拠点とする11人組、西金沢少女団だ。ソーシャルディスタンスを守るため、180人収容可能な劇場に入れるファンは10人のみ。彼女たちの挑戦は、今後営業を再開する首都圏のライブハウスの「近未来」を示しているかもしれない。(取材・文:宗像明将/Yahoo!ニュース 特集編集部)

感染者が出ても、観客の身元にたどり着けるようにした

石川県金沢市の専用劇場「TEATRO西金沢」を拠点とするアイドルグループ・西金沢少女団が、ライブイベントの再開を告知したのは5月21日のことだった。新型コロナウイルス感染症「COVID-19」の感染拡大に対しての緊急事態宣言が石川県で解除された5月15日から、わずか6日後。ライブを再開したのは5月24日だが、全国的に見ても、もっとも早い部類だった。

西金沢少女団を運営する一般社団法人ニシカネプロジェクトのプロデューサー・伊勢保彦さんが当時を振り返る。

「石川県でのライブハウスの使用停止要請は5月31日まででした。ライブ再開を告知した5月21日の段階では、県からガイドラインが出ていなかったし、出るのかもわからなかったんです。いつ休業要請が終わるのかも。でも、スーパーやドラッグストア、ホームセンターには、もうマスクすら着けていない人もいて、お客さんもいっぱいいる状態で。だったら、スーパーを上回る対策として、全員に消毒や検温をして、飛沫も飛ばない状態にして再開すれば、何か言われるいわれはないと思ったんです」

結果的に、伊勢さんが打ち出した対策は、後に石川県がライブハウスに示したガイドラインよりも厳しいものとなった。本来は180人収容可能なTEATRO西金沢に入れるのは、ソーシャルディスタンスを守るために、1公演でわずか10人のみ。マスクの着用、入場時の手指消毒、非接触型体温計による検温を来場者に義務づけたほか、ステージと客席の間を透明のビニールシートで仕切った。メンバーとファンの間隔は2メートル。ライブは1公演30分で、終了後すぐに窓を開けて換気をする。

TEATRO西金沢の内部。ステージとフロアの間は、透明のビニールシートで仕切られている。床は、テープで1.5メートル四方に仕切られ、この中でファンは楽しむ(提供:ニシカネプロジェクト)

TEATRO西金沢の受け付け。ここも透明のビニールシートで仕切られ、入場者全員に対して、マスクの着用の確認、手指消毒、非接触型体温計による検温を行う(提供:ニシカネプロジェクト)

西金沢少女団のメンバーであり、ソロとしても活動するオモテカホさんも、そんなステージに立つひとりだ。

「照明もあるし、やっぱり暑いですよね。冷房の冷気が(ステージと客席を仕切る)透明のシートにかかって、上が若干白くなっていたり。でも、思っていたよりお客さんのことは見えるので大丈夫です」

西金沢少女団のライブの様子。中央がオモテカホさん(提供:ニシカネプロジェクト)

都道府県をまたぐ移動の自粛は、今月19日から緩和される方向だ。西金沢少女団のファンの居住地は、近畿圏や首都圏など、石川県だけに留まらない。以前なら当日券での入場も可能だったが、すべての公演チケットを事前にオンラインショップで販売する形式に変更した。

「最悪、感染者が出た場合でも、お客さんの身元にたどり着けるようにしました。ファンの人も良識を守ってくれています」(伊勢さん)

全国的にライブハウスに対して厳しい目が向けられているが、これまで西金沢少女団は、西金沢駅前商店街・西金プリンスロードのPR活動も行い、地元住民との信頼関係もある。これまで抗議は一件もないという。

ファンと2メートル以内に近づいていない

ライブ活動を再開した西金沢少女団だが、握手や写真撮影を行う特典会も様変わりを余儀なくされた。握手やハイタッチはなくなり、アイドルとファンが一緒に写真を撮る場合も、前後か左右に2メートルの距離を置くルールとなった。

「再開してから、ファンの人と2メートル以内になったことがないんです。お互いマスクをしていて、かつ間にビニールがあると、大きな声で話さないと、けっこう聞こえなくて」(オモテさん)

特典会に臨む西金沢少女団。右端の電車のおもちゃは、「チェキ」と呼ばれる写真を載せて渡すためのもの。接触を避けるため、チェキはファンに手渡しできなくなったが、ユーモアで乗り越えようとしている(提供:ニシカネプロジェクト)

物販コーナー。ここも飛沫を遮断するための透明ビニールシートで仕切られている(提供:ニシカネプロジェクト)

西金沢少女団では、特典会でマスクとフェイスシールドのどちらを使うかをメンバー自身が選択している。オモテさんは「写真を撮るときに反射しないのかな」と気にしてマスクを選んでいるという。

ライブを再開した影響は、日常にも影を落としている。オモテさんは、感染リスクを考え祖母に会うことを「自粛」しているという。

「おばあちゃんには、やっぱり会えないですね。家から徒歩で3分ぐらいのところに住んでいるんですけど、行かないようにしています」(オモテさん)

お金のことよりも、今後の不安のほうが大きい

そもそも、10人限定の公演で劇場は維持できるのか。伊勢さんが即答する。

「維持はできないですね。アイドルは、2、3年で辞めてしまう子が多い。その子たちの若い時間がかかっているのであれば、ライブができない期間を長く作るべきじゃないというのが、10人でも再開した一番の理由ですね」

とはいえ、TEATRO西金沢が、1階と2階を合わせると100坪ほどの広さであることは、負担として重くのしかかる。

「メンバーへの売り上げバックは含まずに、うちは毎月の固定費だけで200万円ぐらいはかかります」(伊勢さん)

しかし、幸いに春の段階で西金沢少女団は銀行からの融資を受け、当面の資金繰りができていた。その結果、現在危惧しているのは、やはり新型コロナウイルスへの感染だ。

「メンバーにも言っているんですが、メンバーとスタッフは運命共同体なんです。ステージにビニールシートをした状態でパフォーマンスをしていると、内側の空気も遮断されるんですよ。誰かが感染していたら、ライブ中に他のメンバーに移す可能性もあるから、普段の生活では気を付けるように話しています。ファンの方にも、普段から感染予防に務めている人だけ来てくださいと告知しています」(伊勢さん)

アイドルは、多くは個人事業主に分類され、持続化給付金の対象になる。オモテさんも給付金を受け取ったが、心配は尽きない。

「今後どうなるかわからないので、給付金は大事に取ってあります。今はお金のことよりも、今後どうなっていくんだろう、っていう不安のほうが大きいですね」

西金沢少女団のライブの様子。密集を避けるため、フロアの後方は使用していない(提供:ニシカネプロジェクト)

今の状態が続いてもやれるようにしていくしかない

ライブハウス事業者を主体とする一般社団法人ライブハウスコミッションなど4団体が、6月13日に「ライブホール、ライブハウスにおける新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」を策定。首都圏のライブハウスも営業再開に向けて動いている。西金沢少女団のライブの光景は、首都圏でのライブの「近未来」だとも言える。

コロナ禍の前は、オモテさんは石川県だけではなく東京都でのイベント出演も多かった。首都圏のライブハウスはまだ本格的に営業再開できていない。オモテさんも首都圏への「遠征」ができないままだ。

「東京のファンが離れていくんじゃないかなと、とても不安です」(オモテさん)

「ファンの人に細く長く応援してほしい」と考えている伊勢さんは、今後いかに西金沢少女団の活動を維持するかを模索し続けている。

「今の状態が続いても、やれるようにするしかないと思っていて。これを機に、オンラインショップや配信に力を入れています。常設でカメラが4台ぐらいあって、スイッチャーもいて、配信が常にできる状態に持っていきたいです。その上でライブも通常通りに戻していければ、何とかなるかなって思っています」

オモテカホさんのソロでの無観客ライブ配信の様子(編集部によるスクリーンショット)

西金沢少女団(にしかなざわしょうじょだん)
石川県金沢市の西金沢を拠点に活動するアイドル集団。2017年結成。所属するアイドルは、ソロや少人数ユニットとして活動している。公式サイト
オモテカホ
1996年生まれ、石川県加賀市出身。2013年におやゆびプリンセスのメンバーとしてデビュー。2016年末におやゆびプリンセスが解散して以降は、西金沢少女団とソロで活動。2020年7月にニューシングル「DANCE NOW」をリリースする。公式サイト


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