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殿村誠士

「肩書き」を乗り越えた先の心地いい日々――賀来賢人、焦ってばかりの20代終える

2019/07/03(水) 09:20 配信

オリジナル

有名女優の甥っ子、人気女優の夫……。俳優・賀来賢人には、常に名前よりも「肩書き」がついて回った。大学を中退して飛び込んだ役者の世界だったが、思うようにいかず「30歳で芽が出なかったら、役者は諦めよう」。20代は焦燥感を抱え続けた。
今では街を歩けば、子どもから「三橋!」と役名で声がかかる。コメディーの才能を開花させ、肩書きから「卒業」した賀来が、仕事や妻との子育てを語った。(取材・文:山野井春絵/撮影:殿村誠士/Yahoo!ニュース 特集編集部)

トントン拍子にオファー殺到……とはならなかった日々

平成元年生まれの俳優・賀来賢人は、きょう7月3日、30歳になった。昨年秋に放送されたドラマ『今日から俺は!!』(日本テレビ)の主演で本格的にブレーク。CMオファーも相次ぎ、演技派俳優として広く認知された。

「役者になりたいと漠然と考えるようになったのは、10代の終わりです。最初のうちはバイト感覚で、何をしているのか自分でもよくわかっていませんでした。スカウトみたいな形でこの世界に入ったので、この先トントン拍子でうまくいくんだろうな、と勝手に思ってて。でも実際、ふたを開けてみたら、ほとんど仕事は回ってこなかった。あれ?って。年齢の近い俳優が活躍しはじめていて、『みんなすごいな、自分もなんとかしなきゃ』って、気持ちだけ焦る感じで……」

『今日から俺は!!』の役柄から最近は不良高校生のイメージもあるが、実際は名門私立中高一貫校出身。進学した青山学院大学では経営学を専攻するが、経営に興味があったわけではなかった。あまたの大学生らしく、「ただ何となく、やりたいことを探しに」行っただけ。そんななか、20歳で初めて映画『銀色の雨』で主役を得た。ここで「芝居の難しさ」と「ものづくりの楽しさ」を知り、俳優一本に絞るため、大学中退を決意する。

「その映画を経験して、何かを本気でやろうと初めて思えたんです。両親には『せめて大学は卒業してほしい』と言われましたけど、もうそういう気持ちでもいられなかったので。申し訳ないという思いはありましたけど……謝って、理解してもらって、後は今後の自分の姿勢を見せるしかない、という気持ちでした」

「自分教」で気持ちをポジティブに

主演映画も上映された。大学もやめた。さあ、華やかな俳優人生のスタート!……という展開には、ならなかった。拍子抜けするほど、仕事は舞い込んでこなかったのだ。

「21、22歳の頃ですかね。映画を1日に5、6本見たり、暇さえあれば舞台を見に行ったりしていました。1年くらい、とにかくいろんな作品を見まくって。何をしたら現状を打破できるかわからないから、ただ勉強するつもりで見ていたと思います」

今はもう、「勉強する」という意味では、他人の芝居はあまり見ない。自分は自分、他人は他人。「演技については、普通に生活していく中でこそ培われるものがあると感じている」と賀来は言う。

「仕事がなくて、本当はめっちゃ焦っていて不安なときでも、『大丈夫、何とかなる』って考えるようにしていました。これね、僕が勝手に『自分教』って呼んでるんですけど、自分を神様にして、自分の宗教をつくるような感じで。自分にできないものは何もない! って信じ込むと、だいたい、いい方向へいくことが多くて。自己マインドコントロールというか。仕事も、それでなんとか増えていった気がします。ホントですよ!」

「自分教」が功を奏したのか、やがてテレビドラマのオファーも増え、NHKの連続テレビ小説や大河ドラマにも出演。脇役としての存在感は、徐々に確立されていった。

「さっきの話と矛盾するみたいですけど、でも、やっぱり焦りはあって(笑)。いや、まだ違う、まだこうじゃない、何が自分の表現なんだろう、と。そんな時期でした」

先輩にしごかれた舞台で、コメディーの才能が開花

賀来を大きく変えるきっかけとなったのは、舞台だ。2011年、賀来は『スマートモテリーマン講座』で舞台に初出演する。

「子どもの頃から面白いこと、人を笑わせることが好きでした。ただ、そうした自分の素質と仕事とが結びついてはいなかったんです。でも、初めてその舞台に立ったとき、自分がウケた瞬間があって。ものすごい快感だったんです。今思えば、それが、自分の好きなことと役者という仕事とが結びついた瞬間でもあったんですね。そこから何となく、演じることが楽しくなってきた自覚はあります」

初めての舞台、しかもコメディーでの成功体験を引っさげ、今度はミュージカル『モンティ・パイソンのスパマロット』に出演する。企画・脚色・演出は、『スマートモテリーマン講座』で脚本・演出を担当した福田雄一。主演はユースケ・サンタマリア。共演者には、池田成志、戸次重幸、ムロツヨシ、皆川猿時など、一癖も二癖もある実力派俳優がそろっていた。

「次もウケるだろうな、なんて考えていたら、甘かった。前の舞台で成長したつもりだったのに、まったくウケなかったんです。ユースケさんや池田さんみたいな、演劇界のバケモノみたいな人たちに囲まれて、若造の自分が一人だけ滑り倒して……。もう、それが悔しくて。俳優の大先輩たちは、公演ごとに、ダメ出しをしてくれました」

「特に池田さんには、舞台袖に引っ込むたびに、『お前、つまんねえ!』ってボロクソに言われて。だけど、『あそこでウケるには、こうして、こうだ!』とか、『そこで半間遅らせて、こう出ろ!』とか、そういう技術的なことを、逐一教えてくれたんです。言われた通りに、毎日ちょっとずつ積み重ねていったら、ある日の公演で、ボンッとウケる瞬間があった。感動しましたね。『うわ、この先輩たち、魔法使いみたいだな』って思いました。演技には、技術も大切なんだな、ということを実感して。そこからですね、さらにコメディーを追求してみたいと思うようになったのは」

普段は、みんな飲んべえで豪快な先輩演劇人たち。が、いざ役に入ると何にでも変身する。舞台では、共に演じながら、役者としてのすごみを目の当たりにした。未知の世界を見せてくれた彼らから、直接生きた指導を受けられた経験は大きかった、と賀来は振り返る。

「ほかに影響を受けた先輩でいうと、古田新太さん、堤真一さん、小栗旬君。みなさん、責任を持って仕事に向かいつつも、心の底から楽しんでいる。そういう人たちの背中を見ていると、『自分もできるかも』って錯覚したりします。僕は、たとえば一つの仕事に対して、脚本を読んだ時点で『自分勝手な理想』みたいなものを抱くんですけど、そこに追いつかないことがあって。『なんでできないんだろう』ってジレンマを感じることもあります」

役者には「正解」がない。だからこそ奥が深くて面白い。

「ほんと、変な仕事ですよね」

子どもたちに「三橋!」と呼ばれて得た実感

2016年に結婚。その頃には、すでに数多くの作品に出演していたが、賀来には「何かを成している」という安堵感はなかった。家族を得たことで初めて責任感が生まれ、改めて役者としての焦りを感じたという。

「順調ではなかったうえに、自分の理想もどんどん高くなっていく一方。今だから笑えますけど、あの頃が一番しんどかったかもしれないです。よりいっそう、『このままじゃダメだ』って思うようになっていました。でも、あるとき、『もう、いつ消えてもいいや』って吹っ切れた。『この際、自分のやりたい表現を思いきりやってみよう』と心がけるようにしたんです。そこから、いい方向に進み出した気がします。福田雄一さんをはじめ、たくさんの人に救われて、今にいたるという感じです」

賀来の役者としての才能を見いだした劇作家・福田雄一は、賀来にとって「一番厳しい人」だ。

「面白くないときには、『面白くない』とちゃんと言ってくれる人です。一見おちゃらけているようで、ものすごく緻密に創り上げるのが、福田さん。コメディーに対する情熱、気迫は、正直怖いくらい(笑)。だから現場でも一番緊張するし、自分の成長が止まっていると思わせたくない。そういう存在があって、とてもありがたいです」

福田雄一脚本・演出のドラマ『今日から俺は!!』で、賀来は幅広い年齢層のファンを得た。最近は、街で子どもたちに声をかけられることが多いという。

「『三橋!』って役名で呼ばれるんですけど、子どもたちに囲まれて、ああ、自分も30歳を目前にして、ようやく知られるようになったんだなって、やっと思えるようになりました」

3人で川の字になって寝る

ひとつの区切りと考えていた「30歳」を前に、仕事に光明を見いだした賀来。プライベートでは、子育てを通して「家族」の大切さを噛み締める日々だ。

「誰かと一緒に生きるって、すごく素敵なこと。他人と家族になるというところから始まって、子どもが生まれて……。毎日当たり前のように過ごしてしまいがちですけど、考えてみたらすごい経験をさせてもらってるんですよね。僕、いまだに自分に子どもがいるって信じられないんですよ。『こいつはいったいどこの星からやってきたんだ?』とか思います(笑)。3人で川の字になって寝てて、気づいたらチビの足が顔の前にあったりすると、『オイ!』って(笑)。でも、やっぱりDNAは確実に受け継いだ顔をしているし、なんだかいろんなところが似てきて、面白いですね。仕事から帰ってハグしてくれると嬉しくて、明日も頑張るぞって仕事のモチベーションにもなっています」

妻とは同業者でもある。しかし、夫婦で仕事の話はほとんどしない。リスペクトを保ちつつ、軽く話題には出るが、互いに本質には迫らないようにしている。この関係が、家族としては心地いいと賀来は言う。

「テレビとか、街なかで、たまに僕が出ているCMや広告を目にしたとき、家族に『これ、パパだよ!』って猛アピールするんですけど、2人とも『ふ〜ん』。もっと興味もってほしいなと思うときもあります(笑)」

賀来賢人(かく・けんと)
1989年、東京都生まれ。2007年デビュー。2009年映画『銀色の雨』で初主演。福田雄一監督の舞台、映画への出演作多数。最近の出演作は、映画『最高の人生の見つけ方』(10月11日公開)、映画『AI崩壊』(2020年1月31日公開)、今年7月WOWOWプライムにて主演ドラマ『アフロ田中』が放送、舞台『恋のヴェネチア狂騒曲』出演予定。また、人気を博したドラマ『今日から俺は!!』の映画化も決定している。


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