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栗原洋平

「絶望的につまらない時代」ーー“Mr.やりたい放題”ケンドーコバヤシの流儀

2020/12/02(水) 17:50 配信

オリジナル

プロレスや漫画などのマニアックな小ネタや、大胆不敵な下ネタで笑いを取ることを得意としているケンドーコバヤシ。ウソか本当かわからないボケを真顔で堂々と言い切り、爆笑を巻き起こす彼は「Mr.やりたい放題」の異名を取っている。「人を傷つけない笑い」が支持を集め、芸人自身も「いい人」であることを求められる昨今の風潮は、彼のような昔気質の芸人にとって逆風であるように見える。そんな時代をどのように生き抜いていこうとしているのだろうか。(取材・文:ラリー遠田/撮影:栗原洋平/Yahoo!ニュース 特集編集部)

いまは「絶望的に退屈」

「ちょっとエッチなものや怖いものをテレビで見られなくなって、子供の頃の僕のようなマセガキ(ませた子供)がもう出てこなくなるのかと思うと、一抹の寂しさはありますね。まあ、逆に(ネット配信などの)別の形の番組も増えているし、自分ではあまり気にはしていないです」

テレビで過激なことができなくなっているのはもちろん、芸人に求められることも年々変わりつつある。世の中の芸人観そのものが急速に変化していることには戸惑いも感じている。

「お笑いコンビは仲良くないとダメだとか、芸人はいい人じゃなかったらダメだとか、とにかく絶望的につまらない時代になっているな、とは思います。僕がデビューした頃の芸人って、言葉は悪いですけど『ならず者』みたいなやつしかいなかったですからね。養成所は少年院みたいな雰囲気でした。それが刺激的で面白かったし、そういうやつらに対して自分も『負けへんぞ』と思っていたんです」

笑いの世界では昔から「芸人は人前で努力を見せるものではない」と言われてきたが、そんな美学もいまや時代遅れになりつつある。お笑いコンテストなどの舞台裏にカメラが入り込み、壁に向かって必死で漫才の練習をする芸人の姿が放送されることも多い。

「僕はそういうのは恥ずかしいことだと思っているので、あの風潮がある限りネタなんかやめとこうと思っています。今はメディアがそれを撮りたがるし、視聴者もそれを見たがりますからね」

今のお笑い界では第7世代と呼ばれる若手芸人たちが活躍している。彼らは人前でも努力を隠さず、ピュアにお笑いに向き合い、相方への愛と感謝を臆面もなく語ったりする。

「マジかこいつら、と思いますけどね。俺からしたら、格好悪いというより、なんちゅう卑怯なことするんや、こいつらルールないんか、っていう感じです。そういう意味では第7世代は怖いですね。俺は感覚が追いついていないというか、ずれているのかもしれません。まあでも、こんな俺が好きなやつもいるだろうとも思います」

彼が生きてきた時代とは何もかもが違っている。だが、そんな若手の中にも昔ながらの芸人魂を感じさせる者もいる。

「(霜降り明星の)せいやはたぶん、俺らと同じ時代にいてもこういうやつだったんだろうな、と思いますね。アホやと言われたがっているというか、後ろ指さされることが嬉しいと思ってるんじゃないかなというにおいがするんです」

ファンタジーの包装紙でくるむ「下ネタ」

下ネタやエロネタなど何でもありのやり方で笑いをもぎ取るケンドーコバヤシには過激なイメージもあるが、本人の中では道を外れたことをやっているつもりはないという。

「僕の場合、過激であればあるほど、自分に刃が向くようにしています。人を笑わせることに目覚めた幼稚園ぐらいの頃から、意識して他人を傷つけるジョークを言ったことはないです。最近は『人を傷つけない笑い』が流行ってますけど、そんなの俺は30年くらい前からやってますよ。誰にもそう思われてないだけで」

確かに、よくよく聞いてみると、ケンドーコバヤシの下ネタは最終的に自分をネタにして落としているものが多い。他人を貶めて笑いを取るのは彼の流儀に反する。さらに、下ネタを効果的に聞かせるための彼なりの工夫もある。

「これってホンマなんかな、もしかしてウソちゃうかな、と思わせなあかんとは思ってます。ちょっとファンタジーとして話すように加減はしています。結構ホンマなんですけど(笑)」

確かに彼の下ネタには悪い意味での生々しさがなく、女性でも気楽に笑えるようなところがある。えげつないものをファンタジーの包装紙でくるむことで、万人受けする形にして提供しているのだ。そもそも、普段から意識して「下ネタを言おう」と思ったことはない。

「エロいこととか下ネタを言ってやろうと思って言うことってほぼないんですよね。1つの話題で何か笑いを入れなあかんっていうときに、調子がいいときだと10ぐらいの選択肢が頭に浮かぶ。そこから面白いと思うものを選ぶと、おのずと下ネタも出てくるだけなんです。実は下ネタなんて全体の3割も言ってないと思いますよ」

下ネタもきつく聞こえないその品の良さの秘密は、彼の生い立ちにあるのかもしれない。芸人の中には、学生時代に内向的だったタイプが多いのだが、ケンドーコバヤシはそうではなかった。子供の頃から男友達の間でカリスマ的な人気があり、スポーツも勉強もできて異性にもそこそこモテていた。

「僕はずっと陽の当たる場所にいたんです。いわゆる『陽キャ』と言いますか。むしろ芸人としてはそこにコンプレックスがあったりもしました」

学生時代から周囲に一目置かれる存在だったケンドーコバヤシの自信満々な態度は、芸人になってからも全く変わらなかった。

「過激でしたね。自分でも思い出したくないくらい過激だった記憶があります。昔は肉体も精神も若かったし、まずは本当にやりたいことをむちゃくちゃ出していたんでしょうね。リミッターを自分の中に作っていなかったんです」

そんな無軌道な大阪のローカル芸人が、上京してからはなぜかお茶の間の人気者になってしまった。だが、本人としてはそこに格別の変化は感じていない。

「単にお願いされることが変わってきたからじゃないですか。お願いされることが増えたら、それをまっとうせなあかんというのがあるだけです。昔は誰も俺にお願いなんかしてくれなかったですからね」

しかし、どんな状況でも芸人として果敢にボケていく姿勢は崩さない。『ゴゴスマ』(CBCテレビ)のコメンテーターをやっているときには、どんな真面目なニュースに対してもふざけた態度で臨む。昨年の闇営業騒動のときにも、すべての話題に対してひたすらボケで返し続けて話題になった。

「これはもうどうしようもないんです。だから冠婚葬祭とか向いてないと思いますよ。肉親の葬式で親族として皆さんを迎え入れるとき、お辞儀をしながら下で白目むいてたりしますからね(笑)。自分でも良くないと思っていてもやっちゃうから、褒められたもんじゃないです」

「Mr.やりたい放題」唯一の脅威は渡部

現在では、深夜のお色気バラエティー『ケンコバのバコバコテレビ』(サンテレビ)や、出演依頼を受けた際には「企画案のほとんどが実現不可能なのでは?」と本人も危惧した『ケンドーコバヤシの絶対に観ない方がいいテレビ!』など、マニアックな趣味嗜好を生かした仕事も増えている。幅広い仕事を任されて期待に応えることには素直にやりがいを感じている。

「用心棒的な感覚というか、お願いされることは好きなので、どんな仕事が来ても基本的にはやりますね。あと、真面目な仕事は次の仕事のための『振り』になるじゃないですか。だから、こんな仕事やりたくないとか言っている若者を見ると、もったいないなと思います」

そんなやりたい放題で無敵の男・ケンドーコバヤシがいま唯一、脅威に感じている人物がいるという。

「万が一、(アンジャッシュの)渡部が吹っ切れて『スケベおじさんでーす』みたいなキャラで帰ってきたら、俺なんかすぐに失職するでしょうね。各局のプロデューサーから『お前みたいなまがい物は要らないよ。こっちには本物がいるんだよ』って言われて。そうなったらお恥ずかしい話ですが、傘下に入るしかないでしょうね」

下ネタのスペシャリストを倒せるのは「本物」しかいない――。

ケンドーコバヤシは人々を煙に巻くいつもの口調でそう言い切り、少し微笑んだ。お笑い界に名高い「Mr.やりたい放題」は、これからも虚実ないまぜのファンタジックな笑いで人々を魅了する。

ケンドーコバヤシ
1972/7/4(48歳)
大阪NSC11期
現在のレギュラー番組:
テレビ大阪「二択の王国」、読売テレビ・日本テレビ系「秘密のケンミンSHOW極」、MBSラジオ「アッパレやってまーす!」水曜担当、FM大阪「TENGA茶屋」
“地上波では絶対に観られない、令和最大の問題作”と銘打った「ほんトカナ!? ケンドーコバヤシの絶対に観ないほうがいいテレビ!」がAmazonプライムなどで配信開始

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