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写真提供:テレビ東京

「赤ちゃん向け」番組で稼げ――制作費も視聴率もない「万年最下位」、テレビ東京の鉱脈

2021/01/03(日) 16:20 配信

オリジナル

キー局の中でも、テレビ東京は子ども向け番組の数が頭一つ抜けて多い。『ポケットモンスター』『しまじろうのわお!』といったアニメをはじめ、『おはスタ』『ファンファンキティ!』といった非アニメ番組も豊富だ。昨年4月からは赤ちゃん向け番組『シナぷしゅ』のレギュラー放送を開始。0〜2歳児を視聴対象に据え、注目されている。これまでNHK・Eテレの独壇場だった赤ちゃん向け番組に、テレビ東京はなぜ挑んだのか。(取材・文:氏家夏彦/Yahoo! ニュース特集編集部)

視聴率にならない赤ちゃん向け番組

平日の朝に放送されている『シナぷしゅ』のターゲットは、「0歳から2歳までの赤ちゃん」。視聴率の調査対象は満4歳以上なので、テレビの「飯のタネ」を無視した冒険的な番組だ。

番組を企画した飯田佳奈子プロデューサーは、「朝の30分枠で子ども向け番組を作れば、スポンサーは絶対ついてくれるだろうという確信はありました」と話す。
営業の経験が長く、産休復帰後、自分の子に見せる番組を作りたいと『シナぷしゅ』を企画した。

写真提供:テレビ東京

「私が営業にいたときに、子ども向けのアニメ番組に広告を出したいという問い合わせが意外と多かったんです。でも、アニメは製作委員会に出資している会社が提供スポンサーになるので、ほかの企業のCM枠はない。そこで朝の30分枠で子ども向け番組を作れば、スポンサーは絶対についてくれるという確信はありました。あとは商品化や配信で売り上げを立てられるなと」

いざ番組が始まってみると、やはり視聴率は高いとは言えなかった。開始当初より倍増はしているが、12月時点の個人視聴率はおよそ0.4%で、同時間帯のNHK・Eテレの赤ちゃん向け番組『いないいないばあっ!』のおよそ1.3%と比較しても半分にも満たない。

その一方で、飯田氏の読み通りスポンサーはすぐについた。

「スポンサーの一つ、タマホームのCMソングを子どもたちが覚えて歌ってくれたり、他の番組でそのCMが流れると、『あ、シナぷしゅだ!』と言ってくれたりという反応もあるそうです。子どもや赤ちゃんは番組のCMまでコンテンツとして見てくれていると評価してくださっています」

タマホームの狙いは、20代の子どもがいる夫婦に新築の家を建ててもらうこと。『シナぷしゅ』によってあの印象的なCMソングが0~2歳児に浸透し、広告主が是が非でもCMを届けたいその親にまで深く刺さる番組となっている。

(アフロ)

こうしたテレビ東京の独特の戦略は、今に始まったものではない。

テレビ東京は現在でも視聴率、CM収入、番組制作費のどれもが他のキー局の半分以下。視聴率が低いため、CM収入を得にくいという構造的な問題を抱えている。視聴率にしても制作費にしても、これだけ他の4局と差があると、数字の取れるキャスティング、大人数でのロケ、精緻なCG加工などの正攻法で戦えば、つぶれてしまうだけだ。

結果として、テレビ東京は視聴率という「広さ」から、狭い視聴者層に刺していく「深さ」、そして少ない制作費をアイデアでカバーするという戦略を取らざるを得なかった。

ターゲットを絞り込み「深さ」に特化した戦略は功を奏し、『ワールドビジネスサテライト』『ガイアの夜明け』を代表とする経済や、『ポケットモンスター』『妖怪ウォッチ』などを代表とするアニメのイメージを確立することに成功した。

こうした成功体験もあったからこそ、『シナぷしゅ』のような赤ちゃん向け番組にもチャレンジすることができたと言えるだろう。

他のキー局にとって、このターゲット戦略を取ることは難しい。ピンポイントの視聴者層をつかめば確実にスポンサーはつくが、高い視聴率が見込めないために広告収入は低くなり、制作費も少なくなる。他局にはあまりに少ない制作費で番組を作るノウハウはないし、そもそも低視聴率を前提とするような、広告収入を度外視した番組企画はまず通らない。

コロナ禍が浮き彫りにしたテレビ東京の強み

このテレビ東京の戦略の強みが表れたのが、11月に公表された今年度の第2四半期決算だ。新型コロナ禍で、経済は壊滅的なダメージを受けた。その影響はリーマン・ショックをはるかに上回り、テレビ各社も大幅な減収となるなか、テレビ東京はしぶとく持ちこたえている。

単体(関連会社などを除いたテレビ局のみ)の営業利益をみると、テレビ朝日とTBSは赤字に転落。フジテレビもわずか1億円とギリギリの黒字。日本テレビは91億円の黒字と王者の貫禄だが、テレビ東京も10億円の黒字、前年比では日本テレビよりも減り方がはるかに少ない。またCM収入の前年比では、キー局5社の中で最も減少率が少なかった。

景気が後退すると企業が真っ先に絞るのが広告費といわれているが、それでも出稿を継続するのは効果が確実に上がる広告枠に限られる。そうした苦境において、テレビ東京の確実にターゲットに刺さる戦略は強いことが証明された。

万年最下位だけど、したたかに生き残る

テレビ東京の制作費の少なさは業界でも有名だ。
飯田氏によると『シナぷしゅ』の制作費は「びっくりするくらい少なくてこれじゃとてもできない。あと20倍ほしい」と思ったそうだ。それを支えてくれたのが逆境をくぐり抜けてきた先輩たち。「大丈夫、何とかなるし、何とかしてこそのテレビ東京だ」とさまざまな助言をしてくれたという。

テレビ東京には制作費が少ない分、よりアイデアに重きを置くという風土ができあがった。
飯田氏も、「テレビ東京はアイデアをすごく評価して背中を押してくれるんです。社員が熱意を持ってぶつかれば、外部の人もより大きな力で返してくれます。みんな楽しんで、やりたいことをやっているという感じです」と話している。
その結果、『シナぷしゅ』をはじめ『家、ついて行ってイイですか?』『緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦』『勇者ヨシヒコ』『孤独のグルメ』など、お金はかけていないが、妙に心に残りディープなファンを獲得した番組をいくつも世に送り出した。

(アフロ)

一方、スマホやYouTube、動画配信のサブスクリプションサービスが台頭し、テレビのメディアパワーの衰退は各種データ上でも明らかになっている。

「いつまでもテレビ局だからとあぐらをかいていたら絶対に負けてしまう、のみ込まれてしまうと思います」
飯田氏も危機感を語る。

『シナぷしゅ』はこうしたメディア環境の変化に対応し、企画段階からYouTubeで配信することが前提にされた。放送直後にすぐさま配信され、翌日には再生回数1万回を超えるという。赤ちゃんに泣きやんでほしいとき、いつでもどこでも見られる育児を助けるツールとして、すでに放送という枠を飛び出している。

飯田氏は「テレビ東京はうんと少ない制作費で苦労して、万年最下位と言われながらもここまでやってきました。だからこそこれからの荒波もかいくぐっていけます。テレビの未来には悲観しているかもしれませんが、テレビ東京の未来には悲観していません」と話す。

少子高齢化が加速するなか、今後、こうした子ども向けテレビ番組が増えるとは考えにくい。
『シナぷしゅ』という番組は、広さを捨てて深さをとる戦略のテレビ局に、少ない制作費という逆境をアイデア勝負で逆に楽しんでバネにする企業風土があり、産休明け子育て真っ最中の営業経験豊富な社員がいたからこそ、奇跡的に誕生したといえる。

テレビとネットが融合していく混沌とした未来、したたかに生き残っていくのは逆境に強い者だろう。彼らが次にどんなコンテンツを生み出してくれるのか注目だ。

氏家夏彦(うじいえ・なつひこ)
メディア・コンサルタント。TBSで報道、バラエティ、情報番組の制作、デジタル部門責任者、経営企画局長、コンテンツ事業局長、TBSメディア総合研究所社長、TBSトライメディア社長、TBSディグネット社長を歴任後、2017年7月に独立。元電通総研フェロー、放送批評懇談会企画委員。

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