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川島小鳥

アメラジアンの子どもたち 沖縄で2つのルーツと向き合う

2015/12/25(金) 12:00 配信

オリジナル

"アメリカ人とアジア人の間に生まれた子ども"を指す言葉「アメラジアン」。沖縄では年間約300人が生まれており、その多くは在日アメリカ軍に所属している男性と日本人女性の間に生まれた子どもたちといわれている。その沖縄に、"アメラジアンのための教育"を行っているフリースクールがある。「アメラジアンスクール・イン・オキナワ」だ。
(Yahoo!ニュース編集部)

写真:川島小鳥

なぜ、アメラジアンスクールに通うのか

日本国内に点在する米軍基地の約75%を抱える沖縄。宜野湾市は、街の中央に普天間飛行場を抱える「基地の街」だ。その街にアメラジアンの学校がある。

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アメラジアンの子どもの多くは公立の小中学校に通う。しかし中には"アメラジアン"ゆえに公立校への通学が困難な子がいる。


例えば、アメラジアンとして生まれて米軍基地内の学校で英語の授業を受けていても、両親が離婚して母側が子どもを引き取ると、その子はそれまで学んでいた学校での無償教育の機会を失う。裕福な家庭ならば、変わらず基地内の学校に通学したり、授業料の高いインターナショナルスクールに入れることもあるが、そうでない場合には、子どもたちは日本語での教育を受けないまま、日本の学校に編入することとなる。そこで待ち受けているのは、馴染みの薄い日本語での学習と、言葉や外見の違いから生じる孤立感。そんな状況の中で学校に通わなくなり、そのまま日本での教育の機会を失ってしまう。

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また、公立の学校に通いその環境に順応していくことで支障が出てくるケースもある。家ではアメリカ人の父と日本人の母と生活していても、一歩外に出ると学校や街中で交わされるのは日本語のみ。次第に英語を忘れて話すことができなくなり、結果的に家族の中で英語を話す父とコミュニケーションが取れなくなる。そうならないようにと、地元の公立校への通学を望まない家庭もある。

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その他にもスクールに通う理由は様々。生徒に共通するのは"アメラジアンとしての教育"を必要としていることだ。インターナショナルスクールとは違い、英語教育を求める日本人両親の子どもの入学は受け入れていない。

スクールに通うアメラジアンの日々

日本とアメリカという2つのルーツを持つ子どもたち。校舎には休み時間や授業中を問わず、日本語と英語の両方が飛び交う。


トラヴィス君(14)。アメリカ軍に勤務する父と沖縄女性を母に持ち、小学校三年からスクールに通っている。

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沖縄で生まれて父の転勤でハワイに移住したが、その後、両親が離婚。小学校3年生の時に母と沖縄に戻った。日本語での教育を受けていない不安もあり、公立校ではなくアメラジアンスクールで学ぶことにした。

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「みんな仲良しというか、英語も日本語も喋れる。喋れない子がいたら、ちゃんと先生が教えるから、生徒たちは会話ができて楽しんでいる。そこが良いと思った」


生徒は常に日本語と英語、両方に接する時間を過ごす。トラヴィス君もスクールで日常的に英語を使う環境に身を置き、母とは日本語で会話し、現在アメリカにいる父とは年に数回電話で会話している。

リオさん(14)は、アメリカ・ネバダ州でアメラジアンとして生まれ、小学校入学前に家族で沖縄へ移った。公立小学校に入学したが、生活に慣れるに従い徐々に英語が話せなくなってきた。日本語を話せない父とコミュニケーションが取れなくなることを心配し、アメラジアンスクールに通学することにした。

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「自分たちが話す言葉が理解できなかったら、家族の中でお父さんは独りになる。だから家では"なるべく英語で喋りましょう"というルールになっている」


家では父と英語で会話しながら、外で使うのは日本語。スクールでは日本語と英語の両方を操りながらの勉学。そんな日常を「授業は、英語になって日本語になって、また英語、英語、日本語、英語......頭のスイッチを切り替えるのが大変」と笑顔で話す。

基地の街に開校した「アメラジアンスクール」

「アメラジアンスクール・イン・オキナワ」は学校教育法で定められた「学校」ではなく、インターナショナルスクールでもない。フリースクールの形態をとった、民間の教育施設だ。

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アメラジアンのための学びのカタチ

現在スクールには4〜15歳、85名の生徒が通っている。アメラジアンのための教育、その授業スタイルは独特だ。

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まず、幼児課程の授業は全て英語。そして学年が上がるとともに、日本語の割合が増える。小学課程では、授業の6分の1が日本語での授業となり、公立の小学校と同じ教科書やオリジナルの教材を使って授業は進められる。

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そして中学課程ではさらに増え、5割が日本語での授業となる。残り半分では英語の授業も受けながら、スクール卒業後の進学も見据えて、公立高校の学習に対応できる日本語力を身につけさせることを目標にしている。特に中学2・3年生向けには、受験対策用の特別授業も行われる。

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このカリキュラムのベースにあるのは、スクールが開校当初から掲げてきた「ダブルの教育」という教育理念。
アメラジアンスクール・イン・オキナワの理事、琉球大学准教授の野入直美氏は、この"ダブルの教育"について「2つの言葉を学ぶだけではなく、2つの言葉"で"学ぶことが重要」と言う。


「日本語と英語の両方を学んだということではなく、英語でも日本語でも教科書が読め、意見が言える。アメリカ・日本どちらでも生活ができ、必要とされる。そして2つの文化を身につけ、アメラジアンであることに誇りを持ち、アイデンティティを育て、生きる力を育むことを目標としている」

小さな船出

1998年、スクールを立ち上げたのは、アメラジアンの子を持つ5人の母親たちだった。沖縄県所有の建物にある貸会議室を借りての開校。ティッシュからゴミ袋まで、必要な備品はそれぞれの家から持ち寄った。生徒は17人、教師は2人という小さな船出だった。

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最初の大きな壁は、卒業後の進路

設立当初スクールに立ちはだかったのは、卒業後の進路の問題だった。生徒たちの多くが公立高校への進学を希望していたが、無認可のフリースクールだったため、通学しても高校入試資格や学歴を得るために必要な「学籍」を得ることができなかったのだ。

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その事態を受けて1998年に「学籍回復」運動を開始。多くの支援者を巻き込んで、教育委員会や県に働きかけた。その結果、翌年に宜野湾市がスクールを"民間施設"として認定。中学課程の生徒は居住区の公立中学にも学籍を置くことを条件に、アメラジアンスクールで学んだ日数が公立中学の出席日数として認められることになった。それによって、正式に中学の卒業認定を得られ、スクールから高校へ進学する道が開けた。


スクールはこれまでに50人の卒業生を輩出。ここを飛び立った生徒の9割が、地元沖縄の公立高校へ進学している。

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卒業資格だけじゃない。フリースクールという現状、厳しい運営

フリースクールであるアメラジアンスクールは、学校としての公的補助が受けられない。そのため財政状況はいつもギリギリだ。授業料は月31,000円。筆記用具、PC、ファクスなど、スクール内で使われている消耗品、備品のほとんどは寄付でまかなわれている。校舎は宜野湾市の施設を使用し授業が行われている。しかし体育館がないため、体育の授業は近くの公園で行うなど、施設面での不足もある。


フリースクールという現状。それと向き合いながら、アメラジアンスクールは、これからも学びの場所のあり方に挑み続ける。

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自分の人生を、自分で選択できるように......

アメラジアンスクールの設立に関わった中京大学教授の照本祥敬氏は、スクールの歩みを通して、1つの成果をこう語る。


「設立当時、アメラジアンの子どもたちは、英語でのコミュニケーションは取れるが日本語は不自由な子も多く、沖縄で生活するには将来があまりにも不透明な子が多かった。しかし現在では、スクール卒業後、地元の高校への進学やアメリカに渡るなど、様々な進路がある。公立小・中学校の学籍回復とスクールでのダブルの教育を通して、進路の選択肢を手に入れられた。それはアメラジアンの子どもたちが、自分の人生を自分で選択できるようになったことなのだといえる」

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現在中学2年生の生徒たち、卒業後の夢を語った。

「専門学校に行って、音楽関係の仕事につきたい」「プロのスケボー選手」
「看護師になりたい」......

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アメラジアンの学びのコミュニティとして

アメラジアンスクールは、かつて"サイレントマイノリティ"だった彼らが声を上げ、自ら"アメラジアンスクール"という名前を付けて始めた"学びのコミュニティ"。設立以降、常に実験的な教育に挑戦し続け、必要なカリキュラムや授業を創造してきた。独自の教育システムとその活動で、スクールやアメラジアンは徐々に知られるようになり、多くのアメラジアンが集うようになった。


スクール設立から17年。照本氏はアメラジアンが置かれている現状と社会を、こう語る。


「スクールでの活動を通して、アメラジアンの知名度はかつてより上がった。しかし、アメラジアンが沖縄の社会に溶け込めているかというと、十分とはいえない」

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さらに、ここから見えるのは、沖縄に限ったことではないともいう。


「昨今、国内ではグローバル化が強く求められるが、それは同時に国内の多様化にも繋がる。現状では、英語教育やマルチリンガル教育などの国際競争に勝つための人材育成ばかりが注目されるが、同時にホスト社会(マイノリティを受け入れる多数派社会)である日本の課題として、多文化教育にも同様の目をむける必要がある」。


アメラジアンと呼ばれる子どもたち。
彼らは今日も、2つのルーツと向き合いスクールに通う。

写真:川島小鳥 
1980年生まれ、写真家。著書に写真集『BABY BABY』、『未来ちゃん』、『明星』、『未来ちゃんの未来』(ウィスット・ポンニミットとの共著)、『おやすみ神たち』(谷川俊太郎との共著)など。2011年に『未来ちゃん』で第42回講談社出版文化賞写真賞、2015年に『明星』で第40回木村伊兵衛写真賞を受賞。

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※年齢や情報は全て2015年9月取材当時
[編集]Yahoo!ニュース編集部/[制作協力]テレビマンユニオン

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