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野村佐紀子

「自信のなさで自分の首を絞めていた」――女優・門脇麦を導いた挫折と急病

2019/05/31(金) 08:05 配信

オリジナル

門脇麦(26)。バレリーナの夢を諦め、18歳で女優デビュー。それからまもなく、R18+指定映画『愛の渦』(2014)の演技で高い評価を受けた。以降、出演作は相次ぎ、女優として着実にキャリアを重ねてきたが、「自信が持てなかった」「気持ちが空回っていた」と振り返る。どんな逡巡があったのだろうか。(取材・文:Yahoo!ニュース 特集編集部/撮影:野村佐紀子)

急病で意識が変わった

2014年、門脇麦は、映画『愛の渦』で一躍脚光を浴びた。本編123分のうち、服を着ているシーンは18分30秒のみというこの作品で、門脇が演じたヒロインは「地味で真面目そうな容姿ながら、誰よりも性欲が強い女子大生」。この年の出演作で門脇は多数の映画賞を受賞し、たちまち作品のオファーが寄せられるようになる。

そんななか、2015年10月、主演映画のクランクイン前日に急性喉頭蓋炎で緊急入院した。呼吸が困難になり、窒息の恐れがある病気だ。このことによって「意識が変わった」と門脇は言う。

「その頃、一番自信がない時で。賞をいただいたりしても、自分にスキルが身に付いたわけではなくて。演技じゃなく、センセーショナルな作品をやったこと自体が評価されてるって自分でも分かっていました。いろんな作品のお話をいただくなかで、気持ちが空回って、追い付かなかった。『なんでこんな私に』ってずっと思ってて。そんな時に病気になって、このまま死んじゃうのかもしれない、と。そうなってやっと、せっかくやりたいと思って始めた仕事なのに、自信のなさで自分の首を絞めるなんて、なんてもったいないんだろうと」

「自分に自信を持つって、勇気がいると思うんですよね。おこがましい感じもある。でも、傲慢になるわけではなく、周りの人を大切にすることにもつながるんだなと気が付いたんです」

バレリーナの夢が途絶えて

過去を振り返る時、たびたび「自信が持てなかった」と口にする。“表現すること”との出合いは早く、幼少の頃からバレリーナを目指していた。

「仲良くなりたかった友だちがバレエをやっていて。最初はその子と一緒にいるために始めたんですけど。元々負けず嫌いな性格ですし、1回転しかできなかったのが2回転できるようになるとか、そういう喜びと達成感があって。小学校1年生くらいの頃からプロのバレリーナになるって言ってた気がします」

小学校高学年の時は週5回のレッスン、中学生になると、自宅でバーレッスンをしてから学校に行き、学校から直接バレエ教室へ。夜の10時過ぎまで踊った。

「でも、薄々気付いていて。自分はプロとしてやっていけないだろうなって。努力で補えるものもあれば、生まれ持っていないと駄目な素質もある。小さい頃からたぶん分かってたんです。だけど、壁を越えてやる、みたいな熱い気持ちで頑張ってた。私はあまり体も柔らかくなかったですし、無理していたので、中学生の頃は1週間に1回は整体に行かないと体が持たない状態になっていて。限界を感じて、中学2年の時にやめました」

やめるにあたって、バレエ教室の先生に「劇団に入ります」と宣言した。ミュージカルに出演したことがあり、その際に「こういう世界もあるんだ」と思っていた。

「『これをしたいからやめます』という理由がほしかったんです。それで高校生になって、何となくダンススクールに行ったり、ボイストレーニングに行ったり。でも、このままじゃ先に進まないなと。バレエの友だちが留学したり、コンクールに出たり、頑張り続けているなかで、自分だけ逃げ出してかっこ悪い感じがした。みんなにも先生にも、会いたいのに会いに行けない。恥ずかしくて、もう顔向けできなくて」

「高校生の頃は、自信を持って人と向き合えなかったですね。自分を大切にできなかったり、周囲の人にもうまく接することができなかったりして。友だちはいましたけど、高校生活をエンジョイしたような思い出は一切ないです」

複雑な内面をどう表現するか

「とにかく早く仕事がしたい」と思い、反対する父親を説得し、芸能事務所に入った。大学進学に向けて受験勉強をしていたが、塾も進学もやめた。そしてまもなく受けたのが、『愛の渦』のオーディションだ。濡れ場も多い作品に出演が決まり、両親には「すごく泣かれた」。

「私、昔から性的な話とかがすごく苦手で。あんまり恋愛経験もなかったですし。なのに、何かひかれるものがその脚本の中にあって。オーディションを受けてみたいと思ったんです。あの時は何も分かってなかったからこそ、たぶんいけたんだと思う。早く仕事を決めなきゃっていう焦りもあって、過激な内容だからできませんとか、言ってる場合じゃないなと」

オーディションで、監督の三浦大輔も「僕も脱ぎます」と一緒に裸になった。

「すごく愛情のある方なんだろうなっていうのが、オーディションで何となく分かって。この人と仕事したいと直感的に思って、覚悟が決まりました。残っていた不安やモヤモヤがすっとなくなりました」

必死に取り組んだ現場は、充実感が大きかった。しかしできあがった作品を最初に見た時は、逃げるように帰ったという。「自分の体を画面でまじまじと見ることもないので、恥ずかしくて。あと、演技が下手だなと」。

2014年公開の『愛の渦』『闇金ウシジマくん Part2』『シャンティ デイズ 365日、幸せな呼吸』で複数の映画賞を受賞。以降、映画、ドラマ、舞台の出演が相次ぐ。門脇に委ねられるのは、「隣人を尾行する女学生」など、一筋縄ではいかない役柄が多い。せりふが少ないキャラクターでも、まなざしやたたずまいで個性や心情を表現する。

「例えば複雑な内面を抱えた人物が、『私は複雑だ』と思って生きているわけではなくて。やっぱり、ただそれぞれ必死に生きてるだけだと思うんですよね。このキャラクターは何を大切にしているのか、ということを意識しています。自分とはかけ離れた役柄でも、このキャラクターのどこを大切にすれば、自分とつながれるのかなというところを丁寧に。でもいつも本当に難しいんですよね。毎作品これで大丈夫かなと思いながらやっています」

最新主演作『さよならくちびる』では、ハルというシンガー・ソングライターを演じた。小松菜奈演じるレオと共にデュオ「ハルレオ」として活動し、インディーズ・シーンで人気だ。だが2人は解散を決意し、全国のライブハウスを回る解散ツアーに出る。ハルはレオに恋心を抱いているが、思いを伝えることはできない。道中はけんかばかりだ。

「半分くらいけんかしているんですけど、映画には描かれていない、そこに至るまでの関係の蓄積がある。その土台の部分が伝わるように、ふとした視線だったり、丁寧に積み上げていくように意識しました。監督がハルのことを『人一倍熱い心を持っている』とおっしゃっていて、そこを大切に演じています。ハルは不器用で、直接話して本心を伝えることができないぶん、歌詞に思いが詰まっている。ただうまく歌おうとするのではなく、ちゃんと自分から湧いてきた言葉のように、説得力を持って歌わないと」

門脇演じるハルと小松演じるレオ © 2019「さよならくちびる」製作委員会

せりふは少ない。心の揺れは視線やしぐさで、あふれる思いはギターと歌で表現する。

「ハルは音楽がないとバランスが取れない人。もしも歌っていなかったら、例えば絵を描くとか踊るとか、何かしら表現していないと崩れてしまう。表現しないと生きていけない、なんてかっこいいものじゃないけど、私も共感する部分はあります。特にこの仕事を始めたばかりの頃は、日常生活より、せりふの中で生きている時間のほうが心地良かった。もし今の仕事をしていなかったら、きっと別の何かを始めていただろうなと思います」

役者という枠を超えて

毎日踊っていた経験が今も根付いている。

「1日1回は体を動かさないと気持ち悪いですね。家に帰ってから、100回ジャンプして寝るとか。その日使ってなかった筋肉を使ってから体を休めたい」

舞台での活躍も多く、「鼻血が出そうなくらいワクワクする気分は、やっぱり舞台でしか味わえない」と言う。舞台やCMでバレエを踊ることもあった。2018年は野田秀樹率いるNODA・MAPの『贋作 桜の森の満開の下』に出演。4カ月間にわたる稽古と公演で、「クオリティーとモチベーションを保ち続ける“筋肉”が鍛えられた」と振り返る。

「やってきたことで、意味がないことっていうのはないんだなって、今はすごく思います」

「自信がない」と逡巡しながらも、飛び込むことは恐れなかった。自身を「曖昧なのが嫌で、白黒付けたい性格」と分析する。何かを決断する時は、自分で考え、スパッと決める。さまざまな現場を重ね、「自分のことでいっぱいいっぱいにならなくなってきた」。

「自分がパフォーマンスをすることより、作品をつくっていく工程がすごく好き。現場のみんながバチッとつながる瞬間があって、それが嬉しい。何かにすごく長けているけれど、そのぶん不器用な方って多いと思うんです。私は何も長けていないから、差し出がましいですけど、そういう部分を補うような役割を担えたらいいなと。最近は若い監督やキャストとお仕事をする機会も増えてきたので」

「今まではいただいた役を一生懸命やるだけだったけれど、どう今後につなげるのかっていうことも考えるようになりました。私の中では大きい変化です。日本のエンターテインメントをこれからどうつむいでいくかは、今の20代、30代が担っていくべき問題だと思うので、自分は何をしたらいいのか。一映画ファン、一舞台ファンとして、いい作品を見たいなっていう思いは強いですし。どういう女優になりたいかはあまり見えていないんですけど、役者という枠を超えて、もっとできることが増えたらいいなと思っています」

門脇麦(かどわき・むぎ)
1992年生まれ。東京都出身。2011年デビュー。2014年公開の映画で、キネマ旬報ベスト・テン新人女優賞ほか、多くの映画賞を受賞。2018年にエランドール賞新人賞、2019年、映画『止められるか、俺たちを』でブルーリボン賞主演女優賞を受賞。主演映画『さよならくちびる』は5月31日公開。2020年のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』ではヒロインを演じる。


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