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岡本裕志

小中学校へのスマホ持ち込みは必要か 肯定の世田谷区長、反対の研究者らが語る

2020/03/10(火) 16:09 配信

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現在、公立小中学校に児童・生徒が携帯電話やスマートフォンを持ち込むことは、2009年の文部科学省の通知で原則として禁止されている。だが、2019年2月、柴山昌彦文部科学大臣(当時)は、その原則を見直すと発表。その後、文科省の有識者会議で議論が重ねられている。原則が転換されれば、災害時に保護者と連絡を取りやすいといったメリットがある一方で、授業中の使用やスマホ依存などのデメリットも想定される。学校へのスマホ持ち込みは解禁されるべきか否か。異なる立場の識者3人に聞いた。(ジャーナリスト・秋山千佳/Yahoo!ニュース 特集編集部)

スマホという「道具」を巧みに使いこなせる人間に

保坂展人・世田谷区長

僕は学校へのスマホ持ち込みにそれほど違和感がありません。それは僕が日常でも常時使っていて、便利だと実感しているからということに尽きます。

文科省からは原則的にスマホの持ち込みを禁止する通知が出されていますが、世田谷区では持ち込みだけでなく、校内でのスマホ使用も解禁している中学校(区立桜丘中学校)があります。この学校を私も見てきました。タブレットやノートパソコンを開いている生徒は多かったですが、スマホの画面をのぞき込んでいる光景はほとんどなかった。スマホを解禁している中学校で、なぜスマホが目立たないかというと、例えば文化祭のバンドやミュージカルの準備など、個々の関心ある活動に生徒が熱心だからだと思います。

(撮影:岡本裕志)

保坂展人・世田谷区長
1955年、宮城県生まれ。5歳で東京都に移り、中学校卒業時の内申書をめぐって裁判を起こす。のちに教育問題のジャーナリストに。1996年、衆議院議員初当選。2009年まで3期11年にわたり務める。2011年、世田谷区長選で初当選。現在、3期目。

同校では、生徒たちと先生が時間をかけて話し合い、使い方を考えてきたそうで、その合意形成のプロセスが功を奏しているのだろうと感じます。

一方で、「(落ち着いて余裕のある)世田谷区だから、スマホ持ち込みを実現できたのだろう」と言われることがありますが、そんなことはありません。話を聞けば、以前は先生の言うことを聞かない生徒だっていたし、現在だって経済的事情を抱えた子やひとり親家庭の子、外国にルーツのある生徒で日本語がまだうまく話せない子などもいます。恵まれた子ばかりというわけではありません。

スマホの持ち込みを学校で解禁したとき、授業や学校生活がつまらなければ、子どもたちはオンラインゲームなどをしたりするかもしれません。つまり、その学校がどんな教育水準なのかという問題と不可分です。

(撮影:岡本裕志)

2012年、オランダやデンマークの学校を教育の調査で回りました。当時、スマホが普及してきていて、中学校にも生徒たちが持ち込んでいましたが、校内での使用禁止という話はありませんでした。そこで現地の行政関係者に日本でのアクセス規制(フィルタリング)の話をしたところ、向こうではそうした制限も特に設けていないとのことでした。

日本では長らく、多くのことを暗記してテストで一つの正解を吐き出すという教育をしてきました。偏差値を上げれば、進路が開けて一生安泰という社会です。でも、そんな社会はとっくに崩壊しました。そうした旧来的な学び方をしてきた若者が社会に出た時、使いものにならないという声があるとも聞きます。例えばスウェーデンの少女、グレタ・トゥーンベリさんは気候変動に衝撃を受けて自ら学び、問題提起したことを皆でシェアしました。これからの学びは、そんな主体的で対話的なものになると僕は思います。チームを形成して未知の課題に挑戦し、集合知を重ね、失敗したらその経験も共有する。そんな学び方をしてほしい。

そんな学びの前提として、いまの世の中ではネットは欠かせないと思いますし、だとするなら、ネットでのリテラシー(読み書きや判断などの能力)についても、学校で早期に教育するべきです。世田谷区では、小6と中1の子どもたちに対して外部の専門家を交えてネットリテラシーを学ばせています。

(撮影:岡本裕志)

特にSNS。中学生ともなれば、スマホの利用で深夜まで学校の人間関係が続いています。それを無理やり排除するつもりはありませんが、問題はあると思っています。その使い方について、生徒自身が何時以降は互いにメッセージを送らない、来ても返事をしないなどとルールを考え、設定していかないといけない。それは学校のみならず、家庭でも必要なことでしょう。また、リテラシーを養うため、ネットとリアルのはざまで起こった事件も知っておくべきだと思います。

世田谷区では2019年度から全中学生を対象に、各自のスマホやタブレット、パソコンで家庭学習できるeラーニングを始めました。画面の大きなスマホであれば、タブレットと大差なく使えると思います。

(撮影:岡本裕志)

子どもたちには、これからの社会でスマホを巧みに使いこなせる人間になってほしいと思います。スマホはあくまで道具です。来年度からは、別の二つの中学校でもBYOD(Bring Your Own Devices=私的デバイスの活用)として、タブレットやスマホの持ち込みを認める予定です。こうして広がると、スマホの扱いをめぐる議論も本格化するでしょう。ただし、スマホは刃物と同じで、便利だけど人を殺(あや)めることもできる。そういう道具だと理解したうえで、学校生活で身近に置いた際、多様な学びに貢献できることが理想なのかなと思います。

「管理」と「規律」という課題が未解決

竹内和雄・兵庫県立大学環境人間学部准教授

公立小中学校への携帯電話の持ち込み原則禁止は、2008年に大阪府が全国に先駆けて打ち出し、翌2009年に文科省が同様の通知を出しました。しかし、その大阪府で2018年、登校時間帯に大阪北部地震が発生。すぐ安否確認が取れなかったことを問題視した一部保護者から原則を見直すべきだという声が上がりました。

(撮影:岡本裕志)

竹内和雄・兵庫県立大学環境人間学部准教授
1987年、神戸大学教育学部卒業。寝屋川市中学校教諭(途中、小学校教諭も兼務)に。以後、公立中学校で20年間、生徒指導等を担当。1999年、兵庫教育大学大学院修了。2012年から現職。2014年、ウィーン大学客員研究員。2019年、文部科学省「学校における携帯電話の取扱い等に関する有識者会議」委員。

そこで、府の教育庁は2019年3月、持ち込みを一部解禁とするガイドラインを発表しました。持ち込みのみ許可で、校内では使用禁止、各自のカバンで保管……といった内容です。実際の対応はガイドラインをもとに、各自治体、各学校が2019年度に1年かけて決めることになっています。

これに東京都が追随し、2019年6月、都立高では校長、小中学校では区市町村教育委員会の判断に任せるという通知を出しました。文科省も今後の方向性について検討を重ねていることから、全国的にこの流れが広まるのかどうか注目が高まっています。

高度情報化社会の流れもあり、10年もすれば子どもたちが学校に普通にスマホ等を持っていく時代が来ると思います。しかし、現状では時期尚早という意見が多いのが実情です。持ち込みによって発生する「管理」と「規律」という二つの課題が未解決だからです。

大阪北部地震で小学校のプールのブロック塀が倒れ、9歳の女子児童が下敷きになった(写真:読売新聞/アフロ)

まず、スマホを学校に持ち込んだ時の「管理」です。大別すると、「学校保管」か「児童生徒保管」です。

「学校保管」は持ち込んだスマホを学校が預かるものです。ある小学6年のクラスでは、36人中31人の児童が担任教師に預け、担任は自分の机で管理していました。仮にスマホ1台10万円とすると、計310万円分です。担任教師は「最初は2、3人だったので大丈夫だったが、さすがに31人となると盗難や破損が怖い」と話していました。盗難や破損等を考えると金庫等での保管が望ましいでしょうが、学校にはそんな予算はありません。

一般的なのは「児童生徒保管」です。実際、大阪府のガイドラインも児童生徒保管とし、カバンに入れて児童生徒が自分で管理するとしています。しかし、これもまた盗難などリスクを考えると、南京錠等の施錠しかしていない学校もあり、万全ではありません。

つまり、「管理」では、どちらがいいという結論はまだ出ていません。

(写真:アフロ)

次に「規律」の問題です。

先生がたの一番の懸念は、「規律」つまり生徒指導上の課題です。盗難、盗撮などのトラブルや授業中にこっそり使う懸念が大きいです。

そうした規律違反では、高校だと(最悪の場合)停学や退学等の重い処分を取ることが可能です。しかし、そうした処分等の権限のない小中学校では対応が難しい面があります。

他にも「登下校時の歩きスマホでの事故」など懸念事項はありますが、なにより注意が必要なのは「スマホへの依存」です。

(出典:国立病院機構久里浜医療センター、図版:ラチカ)

WHO(世界保健機関)が昨年、ゲームのやりすぎで日常生活が困難になる「ゲーム障害」を国際疾病分類(ICD-11)に加えました。スマホはオンラインゲームの端末の一つとして考えられています。「これまで小中学校ではスマホと離れていられたため、学齢期の子たちの深刻化を食い止めている側面がある」と専門家は指摘しています。「そうしたルールも含めて、使い方を教えるのが教育ではないか」という声もありますが、私もそれに賛成です。ただ、教師の側がスマホ文化に十分習熟しているとも言えず、このあたりも大きな課題です。

(出典:国立病院機構久里浜医療センター、図版:ラチカ)

学校にスマホを持たせることを「(震災など非常時の)命の問題」と思う保護者は多いです。大阪では昨年、小学6年の女児がインターネットで知り合った成人男性に誘拐されました。これも「命の問題」です。

0か100かの結論では無理なことは自明です。子どもは未熟です。日常生活で子どもは失敗を重ねるなかで、少しずつ成長していきます。しかし、インターネットで誤った使い方をすると、犯罪に巻き込まれるなど取り返しがつかないことになりかねません。

一方で、子どもたちはこれから高度情報化社会を生き抜いていかねばなりません。大学生は就職活動で情報収集に自分のスマホを駆使します。使いこなす能力は必須です。

スマホという高度な情報端末について、危険性を子どもがわかる形で提示して、しっかり怖がらせ、そのうえで使い方を一緒に考える。そういう姿勢が必要です。大人の責務として、まずはこの問題の論点を整理し、何をどこまで認めるか、何を認めないか、線引きについて冷静に議論する必要があります。試されているのは私たち大人です。

(撮影:岡本裕志)

学力を下げるスマホへの親和性を高めていいのか

川島隆太・東北大学加齢医学研究所所長

緊急連絡用のキッズ携帯ならともかく、学校へのスマホの持ち込みには大反対です。なぜか。私たちの10年間の調査から、スマホを使うと学力が下がる、という結果がはっきりと出ているからです。

私たち東北大学加齢医学研究所では、仙台市の公立小中学校に通う児童生徒約7万人に対して、2010年度から10年間にわたって「学習意欲の科学的研究に関するプロジェクト」という調査をしてきました。朝食習慣、睡眠時間、家庭学習時間、学力テストの成績などさまざまな項目を調べるのですが、その一つに2013年度からスマホの使用状況も加えました。すると、スマホの使用で、非常にわかりやすい特徴が浮かび上がりました。

(撮影:編集部)

川島隆太・東北大学加齢医学研究所所長
1959年、千葉県生まれ。1989年、東北大学大学院医学研究科修了、医学博士。東北大学未来科学技術共同研究センター教授などを経て、2006年から現職。全世界でシリーズ累計販売数3300万本以上のニンテンドーDS用ソフト「脳トレ」シリーズの監修者。著書は「脳を鍛える大人のドリル」シリーズほか多数。

例えば下記のグラフは、小学5年〜中学3年の約3万6000人について、スマホの平日使用が1時間未満の子たちと1時間以上の子たちとに分け、さらに家庭学習時間と睡眠時間ごとに群分けして成績を比較したものです。

(図版:ラチカ)

スマホを1時間未満しか使わないグループは、勉強時間と睡眠時間が相関して、勉強して適度の睡眠をとれば、偏差値も上がるという結果が出ています。一方、スマホを3時間以上使うグループは、学習時間が増えても睡眠の時間が十分に延びても、「学力が上がらない」という事実が分かりました。因果関係を調べるため5年間の追跡調査(縦断調査)として、子どもたちの成長を匿名データで連結して追いかけた結果、スマホの使用が長時間になれば成績が下がり、使用を減らせば成績が戻るという傾向も明らかになりました。

2019年度は、低年齢の小学3〜4年生でも同様の調査を行いましたが、結果はさらに顕著で、1時間以上使用の子はほぼすべて、勉強しようが寝ていようが学力の平均点を超えませんでした。

なぜスマホが学力にマイナスの影響を及ぼすのか。

短期的に言えば、LINEに代表されるコミュニケーションアプリなどでのマルチタスキング(複数の作業を同時並行で切り替えながら実行すること)が挙げられます。勉強中に通知が頻繁に来ることで集中力が途切れるのです。一度途切れると、集中力は復旧にも時間がかかります。

(撮影:岡本裕志)

コミュニケーションだけではなく、学習目的の使用でも差があります。例えば、ある単語を調べるのに紙の辞書を使ったときとスマホを使ったときのことを比較すると、1分間で調べられる単語の数は辞書が3個で、スマホは5個。数ではスマホ優位のように見えます。

しかし、脳の働きを光トポグラフィー(近赤外線分光法)で見てみると、違いがありました。スマホで単語を調べても、学習をつかさどる前頭前野がまったく働いていないどころか、むしろ抑制がかかっていることがわかりました。学習になるどころか、脳を休ませているようなものです。スマホでの学習が定着しづらいことと同じ現象だと思われます。

長期的に見ると、さらに恐ろしい事実があります。仙台市に住む5〜18歳の子ども224人を3年間追跡し、インターネット利用習慣と、その間の脳発達をMRIで計測したのです。すると、ネットの利用時間が長い子ほど3年経っても大脳皮質の体積が増加していませんでした。ネット利用の多くはスマホによるものでした。つまりスマホ利用によって、脳発達が止まり、成績も上がらないと言えるのです。同じ調査を東北大の学生(平均20.7歳)でもしましたが、大脳のネットワークに劣化が見られました。要は、若くても老化が起こっていたのです。

(図版提供:東北大学加齢医学研究所)

いまスマホを小中学校に持ち込んでよいか、文科省で議論されています。その議論の前に、まずこの仙台での10年間で証明された科学的データを知っておくことが必要だと思います。仙台市では現在、小学校低学年〜中学年の約半数はスマホを未所持です。でも、この現実を伝えずに小中学校への持ち込みを認めれば、きっと保護者も「皆が持たせるなら、うちも」という流れになるでしょう。

とはいえ、子どもにまったくスマホを触らせないというのも、今の時代、現実的ではないでしょう。そこで、子どもにスマホを長時間使わせない仕組みが必要だと考えます。

(撮影:編集部)

調査でも、平日の使用1時間未満の子たちは、自分を律してスマホを必要な時だけ道具として使うことができており、学力も努力に応じて伸びていました。もっともそんな子の割合は、小学校中学年でも半数以下、中学3年生ともなると18%弱しかいません。私としては、スマホを緊急時の連絡を除き、1時間以上は使えないようにするアプリを作り、未成年は必ずインストールするようなルールにするのが唯一の解だろうと思います。

スマホは習慣性や依存性が強く、脳への毒性もあります。その事実を認めたうえで、なるべくスマホを使わない社会をつくるために知恵を結集しないと、国が滅びるのではないかと本気で危惧しています。

(撮影:岡本裕志)


秋山千佳(あきやま・ちか)
ジャーナリスト、九州女子短期大学特別客員教授。1980年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、朝日新聞社に入社。記者として大津、広島の両総局を経て、大阪社会部、東京社会部で事件や教育などを担当。2013年に退社し、フリーのジャーナリストに。著書に『実像 広島の「ばっちゃん」中本忠子の真実』『ルポ 保健室 子どもの貧困・虐待・性のリアル』『戸籍のない日本人』。公式サイト

[写真]岡本裕志
[図版]ラチカ

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