家族のことは愛している。だけど、いつも何だかややこしい。
そう感じることはないだろうか。
(Yahoo!ニュース編集部/AERA編集部)
家族のあるべき「美学」
資産家の女性(当時97)から「遺産は全て渡す」と遺言された家政婦が、遺産を持ち去った実の娘たちに返還を求め、勝訴した。東京地裁は1月18日、50年以上も共に暮らして献身的に仕えてきた「他人」は、介護をしない「家族」に勝る、と判断した。
「争族」と呼ばれる相続トラブル、後を絶たない児童虐待、芸能人の不倫......。私たちがふだん見聞きする問題のほとんどが、「家族」を基点にしたものだ。なかには「家族はこうあるべきだ」という"美学"に基づくものもある。
震災きっかけに「絆」の強調
2011年3月11日の東日本大震災をきっかけに、日本のあちこちで「絆」の大切さが叫ばれた。「家族神話」がとりわけ強調されるようになったのも、この頃だ。子どもの10歳を記念して親への感謝の手紙を読み上げる「2分の1成人式」は、「親子の絆」を確認する学校行事の一つで、12年にベネッセが実施したアンケートでは、子どもが式をしたことがある親の約9割が「満足」と答えている。
一方、書店にはこの頃から、『放蕩記』(村山由佳)、『ポイズン・ママ』(小川雅代)、『母がしんどい』(田房永子)といった、親子の確執を赤裸々に吐露する「毒親本」が並び始めていた。
カウンセラーの信田さよ子さんは、自身が08年に『母が重くてたまらない』を書くまで、親子の問題を取り上げた一般書は翻訳でしか見当たらなかったという。
「日本では親を批判すると糾弾される土壌があり、タブー視されてきた。そこに東日本大震災が起きて『絆』が正当化され、苦しみはさらに吐き出せなくなってしまった」
「世間」からどう見られるか
Yahoo!ニュースとAERAは15年9月から、連載「結婚は愛かコスパか」を通して、読者に結婚についての意見や価値観を聞いた。その中には、家族の悩みを吐露する声も多かった。
「子どもが結婚しようとせず、悩んでいる」
「妻や子どもが将来、介護をしてくれるかどうかわからない」
「父親がなぜ離婚して家を出ていったのか、今ならわかる気がする」
家族が多様化するのと並行して、SNSなどで簡単に「幸せ」を比較できるようになった。うちの家族は標準なのか、違うのか。家族の中の問題だけではなく、「周囲」や「世間」からどう見られるか、という外からの要因も複雑に絡み合っているようだ。
夫婦を苦しめる「子なしハラスメント」
東京都に住む男性会社員(35)は、結婚5年目。同じ年の専業主婦の妻との間に子どもはいない。3年ほど前から不妊治療を始めた。
「何で働いていないの? 毎日何しているの?」
妻は自分の両親に、こう聞かれたらしい。仕事もしていないのに子どもがいないのはなぜか、と責められているように感じ、傷ついていた。「子なしハラスメント」の空気は、夫婦の間をぎくしゃくさせることになった。
妻は毎日、基礎体温を測り、排卵の兆候があるとクリニックで卵子の状態を調べ、タイミングをうかがう。毎月、排卵日が近づくと、仕事中にもかかわらず、妻から電話がかかってくる。
「明日、あさってだから」
「その日」が出張と重なることも少なくなく、名古屋や仙台など「近場」なら男性が泊まるホテルまで妻は押しかける。
妻に本音を言えない
「精神的に結構きつい。義務感がハンパない。正直やりたくなくなるが、ムリヤリやるしかないです」
必死な妻に「できなければ諦めよう」と思っているとは打ち明けられず、嫌なそぶりも見せられない。
家族の定型と価値観に縛られて、苦しんでいる人がいる。その苦しみを最も近くにいる人にぶつけられなければ「自家中毒」に陥ってしまう。家族はどうつながり、支え合っていくのか。家族と世間の問題として、考えていきたい。
Yahoo!ニュースと週刊誌AERA(朝日新聞出版)の共同企画「みんなのリアル~1億人総検証」では、身近なニュースや社会現象について、読者のみなさんとともに考えます。今回のテーマは「家族」。連載の中では、読者のみなさんからのご意見も紹介します。Facebookやメールでご意見や感想を募集中です。AERA編集部から取材のお願いでご連絡させていただく場合があります。
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