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稲垣謙一

弱みを見せられる強さを私は欲しい――橋本環奈、「タフ過ぎる20歳」の弱さ

2020/02/01(土) 09:03 配信

オリジナル

「弱みを見せられる強さを私は逆に欲しい」。Twitterで260万人以上のフォロワーを抱える橋本環奈。ときに浴びせられる心ない声も、あっけらかんと受け流すメンタルの強さに憧れるファンもいる。しかし彼女はそんな彼らの「弱さ」を認める。自らの言動が日々ニュースの「ネタ」にされるタフ過ぎる20歳に、人生訓を聞いた。(取材・文:宗像明将/撮影:稲垣謙一/Yahoo!ニュース 特集編集部)

自分へのリプライは全部見ている

「すべてをシャットアウトすることって、とても簡単なんですけど、それって逃げてることと一緒なのかなと思うんです」

Twitterで260万人以上のフォロワーを抱え、昨年12月にTwitter Japanが発表した「世界で話題になった役者」で8位に選ばれた橋本環奈。自分へのリプライはほぼ全て見ていると言うが、そこには多種多様な意見が集まる。

「『こうしたほうがいい』って言ってくださる方を、自分の尺度でないがしろにしちゃいけないなと思います。私は間違っていると思うことでも、その人からすると正しいことだから、どっちが正しいとか、たぶんないと思うんです。だから、受け入れる心が大事ですし、『自分はこう思います』って意見を言うことも大事。そこは見失っちゃいけないなとは日々思います」

記者会見やテレビ、SNSでの橋本の言動は、日々ニュースになる。ファッションから好きな酒の種類までがニュースのネタにされ、日本で一番注目される20歳だともいえるだろう。そして、自分がニュースになり、さまざまな声が飛び交うことを本人はごく自然に受け入れている。

「賛否両論がないとニュースにも載らないし。人気のあるものに賛否がつくのは当たり前の話だと思います。ワクワクするものって、100人いたら100人の意見があるじゃないですか、絶対に。だからこそ賛否は50人、50人で分かれればいいなっていつも思います」

この日のインタビューに際しても、飲み屋のカウンターにでも来たかのように軽快に椅子に座り、まったく物怖じしている様子はない。

「私、基本的にこのままなんで」

彼女の名前が全国区になったのは、中学3年生だった2013年のことだ。地元・福岡県でアイドルグループ「Rev. from DVL」のメンバーとして活動していた頃、野外ライブでの写真がインターネットで話題になり、テレビの情報番組でも紹介され、「奇跡の一枚」と呼ばれる騒ぎへと発展した。橋本は「1000年に1人の逸材」ともてはやされ、瞬く間にテレビや雑誌に登場するようになる。インターネットとマスメディアが生んだのが、橋本環奈というスターだった。

「戸惑いはなかったです。それだけの多くの人に広がっている実感がなかったので。どこか他人ごとに思えて、素直に喜べない自分がいましたね。うれしくないわけじゃないんですけど、不思議な感覚でした」

プレッシャーは、最初の1カ月だけだったという。

「最初は少しカリカリして、『生きにくい世の中になったな』ぐらいに感じてたんですけど、今は全然。知ってくれているのがありがたいなと思います。街で声をかけられても『どうもどうも』みたいな。私、基本的にこのままなんで」

今、生きにくくはない。しかし、自宅を出た瞬間から周囲の視線は意識する。

「注目されることって、うれしい半面、やっぱりきついじゃないですか。私は車の運転が大好きなんですけど、どこからか撮られてるかもしれないと思うと、運転のときも気が抜けないんですよ。SNSもあるし、一歩家から外に出ることによって気が抜けないんです」

いわば大ブレークの代償ともいえるが、本人はブレークした意識自体がないという。

「流れに身を任せていたらここまで来たので。私、世界のいろんな人に知ってもらいたいから、『売れてる』とかっていう感覚はまったくないですね」

タフさが私の売りです

テレビ、ラジオ、映画、雑誌と活動の幅を広げ、2016年には35年ぶりに映画でリメイクされた「セーラー服と機関銃 -卒業-」に主演。その一方、2017年にはRev. from DVLが解散。橋本の活躍が原因だという心ない声も浴びることになった。

「いろいろ言われたけど、私たちって小さいときからずっと一緒にやってたって、ファンの人はちゃんとわかってくれるはずですし。メンバーに信頼されてたら、それでいいかなって。いろんな人が言う意見に聞く耳を持つことも大事だけど、聞かない耳を持つことも大事だなと思うんで、バランスですよね。いい意味で変えてくれる意見だったら聞きたいけど、傷つけるだけの意見っていうのは、もう寝て忘れちゃったほうが早いかな。メンタルだけは強いので。タフさが私の売りです」

そんな橋本のメンタルの強さに憧れるファンに対し、彼女は彼らの「弱さ」を肯定する。

「ちゃんと弱さを持つことっていうのは大事だし、そういうことを言える強さが私は逆に欲しいですよ。弱みを見せられるのは、すごく強いと思います。変に完璧に強くなろうとしなくていいと思うんです。だって、完璧な人間なんていないじゃないですか。逆に怖いし」

橋本にも「弱みを見せられない」という弱さがあるという。

「心の弱い部分は言わないです。誰にも見せたくないっていう変な意地もあるし、自分のプライドでもありますね」

劣等感を失ったら終わり

若くしてスターダムにのし上がった橋本。彼女は、普通に生きる同世代と自分とを比べることはないのか。そう聞くと「ないかも」とあっさり否定する。

「だって、人と比べてもいいことないですよ。自分のほうがいいなって、1ミリも思ったことないですもん。劣等感を失ったら終わりだと思いますね」

劣等感を抱えている自分と、自信がある自分の両方がいるという。

「私、人より自信が満々なんで、ある意味バランスが取れてるのかもしれないです。自信はあるけど、劣等感とか、『自分はもうできないかもしれない』っていう気持ちはあります。ポジティブな人って、紙一重でネガティブな部分を持ってる気がするんですよね」

ネガティブな事例として、「奇跡の一枚」のときの記憶を橋本は挙げる。すぐに話題から消える前提で彼女を扱う人もいたという。「責めるつもりはない」と言いつつ、その心の傷痕を語る。

「人の対応が変わることも感じました。私も含め、みんなが『たぶん2、3カ月でいなくなるだろうな』ぐらいの感じでしたし。だって、SNSで出てきていなくなる人なんていっぱいいるわけじゃないですか。そのときに受けた扱いに対して、まあ『それが人間なのかな』って」

自分がされて嫌だった態度を、自分は人に取りたくない。そんな思いから、橋本は周囲の全員を信頼するという姿勢になった。

「疑心暗鬼だからこそ、最終的に自分を嫌いになりたくないんです。自分を嫌いにならないためには、自分以外の人、みんなを信じることだと思うんです。だって、自分が完璧な信頼を全員に寄せていたら、裏切られようが何しようが、信じた自分のことを嫌いになることはないじゃないですか」

目標を設定しなくなった

20歳にしてさまざまな経験を積んできた橋本。彼女が、20歳の最初の作品として撮影に臨んだ映画が「シグナル100」だ。血なまぐさい描写が全編で続く。

「バイオレンスやホラーは、個人的に好きなジャンルなので、自分が出るってなったときに、生臭いんだけどリアルさを追求したいなと思いました」

主演を務める「シグナル100」の1シーン(©️2020「シグナル100」製作委員会)

作品の中で登場人物たちは、特定の行動をすると自殺してしまう催眠をかけられ、お互いへの猜疑心にとらわれることになる。橋本が主人公・樫村怜奈を演じるにあたって意識したのは、SNS同様に、何が正しいのかは人によって異なることだった。

「怜奈は、死に対して恐怖心をちゃんと持ってる子で、それは弱さじゃなくて、強さだなと思うんですよね。だからこそ全員を死なせたくないっていう勇気ある行動につながっていく。でも、それが果たして善なのか悪なのかって言われるとわからない。実際、怜奈が起こした行動によって亡くなってしまった人たちもいるわけだし。でも、『みんなで生き残ろう』っていう、根底にある本質の部分はなくしたくないなと思って演じました」

「シグナル100」の撮影から約1年、今年2月3日に橋本は21歳の誕生日を迎える。

「前と違うのは、目標を設定しなくなったことですね。モチベーションを保つことが一番難しいと思ってて。日々仕事に対して真摯に向き合うなかで、新たな挑戦がなくなっていくんだけど、流れ作業みたいになりたくないので、今ある全力を仕事に注ぐことが目標です。一個一個の仕事っていうのは、一本線ではなくて点なんですよ。その点を結んでいって、いい作品に出合えて、さらにそれが人に還元できたらなと思います」

しかし、安定した「線」ではなく、不確定要素の多い「点」を選び続けることに不安はないのだろうか。

「不安にはならないです。人生って、一回しかないじゃないですか。私、ファンの方に『生きがいを見つけました』って言ってもらったことがあるんです。何のために生きたらいいかわかんないっていう人が、私のために生きてほしいなとも思うし。人前に出る人の役目だと思いますね」

今回のインタビュー中、橋本の考え方に感心して、つい何度か「大人ですね」と言ってしまった。すると、彼女はこう笑うのだ。

「いや、生き急いでるから嫌だなと思います。私、個人的にはあんまりそれを褒め言葉だと思ってなくて。私、もうちょっと子どもでいたいです。でも、子どもでいられないんですよね、性格上。『そうやって立ち回ったほうがいいのかな』とかっていろいろ考えちゃうんですよ、また(笑)」


橋本環奈(はしもと・かんな)
1999年生まれ。福岡県出身。2013年、「千年に一人」「天使すぎる」とネットで大きな話題となる。数多くの大手企業のCMに出演するほか、テレビのバラエティ番組などで幅広く活躍。2016年3月公開の角川映画40周年記念作品『セーラー服と機関銃 -卒業-』で映画初主演。最新主演作は『シグナル100』。

【ヘアメイク】松本未央(GON.)
【スタイリスト】鈴江英夫(H)


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