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ペータ

60歳までアイドルはできるのだろうか ―― 夢眠ねむ引退後のでんぱ組.inc、変化し続けるグループの再起動

2019/05/26(日) 08:56 配信

オリジナル

東京・秋葉原で誕生し、日本のオタク文化を象徴するアイドルグループとなったでんぱ組.inc。ここ数年はグループとして大きな変化の過程にある。2017年8月の最上もがの脱退、同年12月の新メンバー2人の加入。そして今年1月、グループの躍進を支えてきた夢眠ねむが「卒業」した。転機を迎えた彼女たちが見すえる、「でんぱ流アイドル像」とは。(写真:ペータ/Yahoo!ニュース 特集編集部)

アイドルも年月を重ねていく

「われわれも2次元ではないから、50、60歳となっていくわけですよ。そうなってくると、『さすがにBPMが240の曲は踊れませんよ』ってなると思うんです(笑)。今、急に卒業とかは考えてないですけど、ねむの卒業式がアイドルの新たな卒業の形を見せてくれたので、『自分が卒業する時はどうしようかな』ってやっぱり考えますね」

相沢梨紗

こう語るのは、女性アイドルグループ・でんぱ組.incのリーダーの相沢梨紗だ。「ねむ」とは、今年1月7日の日本武道館公演でグループを「卒業」した夢眠ねむのこと。夢眠は、自身の選曲による「卒業式」を日本武道館で華々しく行った。グループとしては、一昨年の最上もがに続く離脱だった。

でんぱ組.incを創設したメンバーである古川未鈴が、周囲の同世代の環境の変化を念頭に置きつつ続ける。

「私はこのまま50、60歳になって、でんぱをやめるとなったら、『はて?』みたいな。長くやってると、新たな悩みは生まれますね。アイドルの行く末って何なんだろうなって、ちょっと思います」

古川未鈴

メンバーの成瀬瑛美にも、夢眠の卒業による心境の変化があった。

「一時期は、100歳になろうが死ぬまででんぱ組に絶対にいよう、寿命で卒業にしようって決めてたんです。だけど、すてきな新メンバーが入ってきたり、すてきな卒業式ができたりするのを見てからは、『あ、そういう未来もありなのかな』って思い始めましたね」

成瀬瑛美

秋葉原で「アイドルへの階段」を上った女子たち

でんぱ組.incは、秋葉原ディアステージというライブスペースを備えた飲食店から生まれたアイドルグループ。相沢と古川が秋葉原ディアステージのオープニングスタッフとして働きだしたのは2008年のことだ。

「学生の頃、すごいいじめに遭っていて。アイドルになってキラキラした世界に行くのが見返す方法だって思っていて、いろんなオーディションを受けたんですよ。でも、全部落ちて。どうにか表に立ちたいと思った結果、秋葉原にメイド喫茶というものがあると聞いて飛び込んだ感じですね。駆け込み寺みたいな感じで」(古川)

「学生時代、コスプレにすごいハマっちゃって。この世界で別の人格をつくって生活ができるっていうことを知っちゃったんですね。それを仕事にできるって知って、秋葉原でメイドさんになりました。もう一回生まれたような場所でしたね」(相沢)

1年後には、秋葉原ディアステージに成瀬と夢眠が加わる。

「アニメーターや漫画家になりたかったんですけど挫折しちゃって、秋葉原のメイドカフェで働き始めました。ディアステージの話は、そこのお客さんから聞いて知ってたんです。秋葉原で流行(はや)ってた“電波ソング”を女の子たちがお店で歌って、お客さんがその場で盛り上がってるって」(成瀬)

左から相沢梨紗、古川未鈴、成瀬瑛美

古川たちはディアステージで働く傍ら、グッズや衣装を自分たちでつくり、CDを手売りするなどそれぞれに活動していた。

2008年、「モーニング娘。みたいな女性アイドルグループに強いあこがれがあった」古川は、秋葉原ディアステージ創設者の福嶋麻衣子(後にプロデューサー)に「どうしてもアイドルグループがやりたい」と頼み込む。そして誕生したのが、でんぱ組.incの前身となる「でんぱ組」。でんぱ組.incとしては、2010年にデビューした。翌年には、福嶋にスカウトされた藤咲彩音と最上が加入する。

「秋葉原へ来ると『オタクの聖地に来た』みたいな感覚でした。メイドカフェにもお母さんと一緒に行ったりしていました。入ったときは、まだ高校1年生だったので、ちょっと生意気な子どもみたいな感じで」(藤咲)

藤咲彩音

たどりついた「でんぱにしかできないこと」

でんぱ組.incは、2013年にシングル『W.W.D』で、初のオリコンベスト10入りを果たす。『W.W.D』は、メンバーの過去の実体験をベースに、それぞれの葛藤を生々しく歌った楽曲だった。

たとえば、ゲームをすることに没頭していた古川の過去も、ストレートに描かれている。

いじめられ 部屋にひきこもっていた
ゲーセンだけが 私の居場所だった

――でんぱ組.inc『W.W.D』

自分自身の過去を赤裸々に歌う。古川は、それにより起きた「変化」を振り返る。

「自分はアイドルのパーソナルな部分に全く興味がない側なので、不安もあったんですけども、いただくファンレターの内容ががらっと変わって。『僕も私もそうでした』みたいな『共感』に変わった瞬間があったんです。そこで『ああ、こういうアイドルもアリなんだな』って思いました。逆に言えば、でんぱってこれしかできなかったんだなって。『でんぱはでんぱにしかできないことをすべきなのでは』と思い始めました」

2013年の「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2013」を皮切りに、ロックフェスにも多数出演するようになる。さらに同じ時期から、海外でのライブも増える。楽曲やビジュアルにさまざまな気鋭のクリエーターを起用するでんぱ組.incは、アジア、アメリカ、ヨーロッパで、日本のオタク文化の代表格として受容されていく。

「『でんでんぱっしょん』(2013年)のとき、YouTubeのMVの再生回数が『ゴー!』ってすごい勢いで上がったので、『こんなことあるの?』って思って見てたら、海外の人からの英語のコメントがバーッて来てたんです」(成瀬)

2014年には、念願の日本武道館に立つ。ステージの一番上には、小さいステージが設置されていた。そのサイズは、「ホーム」である秋葉原ディアステージのそれと同じだった。粋な演出だ。

「店舗系で武道館ライブができたことで、秋葉原の歴史に名を刻めたのかもしれないし、秋葉原が大好きな人たちもそこに集まってくれてうれしかったです」(相沢)

さらに2015年には、国立代々木競技場第一体育館で2日間の公演を行い、日本武道館公演を上回る約2万6000人のファンを動員した。

グループは順調に見えた。しかし、2017年に最初の大きな転機を迎える。1月の日本武道館のステージを最後にライブ活動を休止。8月には最上が脱退してしまう。

新メンバーの加入に吹き荒れた賛否、そして卒業

12月に入り、でんぱ組.incは新メンバーの加入とともにようやく本格的な活動を再開した。新メンバーは、他のアイドルグループでも活動していた鹿目凛と根本凪だ。ふたりとも、でんぱ組.incのファンを公言していたアイドルだった。

「めちゃくちゃ悩んで。もともと、でんぱ組の世界に救われた身なので、大好きで。でも、自分が入ることによって、生態系というか、いろいろ崩れるかもしれないって。ぺろりん(鹿目)と私はどっちも悩みつつも入らせていただきました」(根本)

根本凪

「不思議な気持ちでした。すごいプレッシャーだったけど、やっぱり芸能活動をやってて、有名になりたいとか売れたいとか、そういう気持ちが強かったから、ここで頑張んなきゃこれから先もダメだと思って決意しました」(鹿目)

鹿目凛

鹿目と根本が新メンバーとしてステージに立った2017年12月30日、ツイッターには新体制への賛否両論が吹き荒れた。鹿目と根本をでんぱ組.incとして認めない。そう断じるファンもいた。

「しゃあないなと。元のでんぱ組が好きな気持ちもめちゃくちゃわかるし、私も自分が入ることにめちゃくちゃ迷ったし、『受け入れられなかったらすいません』みたいな気持ちでいました」(根本)

「逆の立場だったら、私も最初は嫌だろうなっていうのはわかってたから。そういう気持ちを考えると、自分が言われて痛いっていうよりも、その人たちの痛みを感じました」(鹿目)

左から藤咲彩音、鹿目凛、根本凪

新メンバー加入の衝撃も覚めやらぬまま、2019年1月に迎えたのが夢眠の卒業だ。

「私は全部のでんぱ組.incを見てきたし、全部が大好きなんですよ。ねむともがちゃんがいた時代が長かったから、そのでんぱ組.incが好きだって言ってくれる人が多いけど、『違うんだよ、全部すごい良かったんだよ』って。同じグループのなかで比べて、どれかを下げることに対しては、めちゃくちゃむかつきます。あの頃も今も一番いいと思ってるから」(相沢)

「自分が入った時の体制から、もう2人が抜けているっていう状態が、まだびっくりしてて。私の家にも、まだ全部の体制のアー写が残っているんです。7年間ぐらい人生を注いでいるものだから、思い入れはありますよね」(藤咲)

「もがちゃんやねむさんが抜けた時に、『元でんぱ組.inc』っていつまでも言えるようなでんぱ組にしなきゃいけないな、って。残された者の役割があるなって」(古川)

さらなる変化を追求する12年目のアイドルグループ

夢眠卒業後の最初のリリース曲となるのが、急遽配信された「子♡丑♡寅♡卯♡辰♡巳♡」と「秋の葉の原っぱで」だ。2曲とも、でんぱ組.incに数多くの楽曲を提供してきたシンガー・ソングライターの清竜人が作詞・作曲・編曲を担当。「子♡丑♡寅♡卯♡辰♡巳♡」は情報量が多いでんぱ組.incの楽曲のなかでも、「異常」とも言える密度だ。

「ギャルゲーソングがすごく好きだったので、いい意味で男にこびてる感じの女の歌詞がめっちゃ好きなんですよ。ある意味かっこいいんですよね。ちょっと狂気的な部分がある」(成瀬)

もう一曲の「秋の葉の原っぱで」は、曲名が彼女たちの原点である秋葉原を連想させる。

「私は、2番目のサビでちょっと泣きながら歌っちゃったんです。2テイク録っても泣いてたから、しょうがないなと思って諦めたんです。もし自分の卒業式で絶対歌いたい曲を聞かれたら、これは入れたいですね」(相沢)

「子♡丑♡寅♡卯♡辰♡巳♡」と「秋の葉の原っぱで」からは、5年ほどでんぱ組.incから離れていた福嶋もプロデューサーに復帰。1990年代後半を連想させる奇抜な新衣装も公開された。

さまざまな出自や来歴を抱えた女の子たちが、それぞれの挫折や葛藤を経て秋葉原に集まり、グループを組み、出会いと別れを繰り返しながら人間として成長していく――。そんな物語を現在進行形で紡いでいるでんぱ組.inc。彼女たちは、いまもなお楽曲とビジュアル、そしてパフォーマンスで人々にさらなる驚きをもたらそうとしている。変化し続けるグループとして再起動した、とも言えるだろう。藤咲は言う。

「船に乗ったなら船にいるしかないし、そのまま行くしかないみたいな感じです。また一からスタートっていう感じがするんで、がむしゃらにやってくしかない。昔もそうだったから」

でんぱ組.inc(でんぱぐみいんく)
古川未鈴、相沢梨紗、成瀬瑛美、藤咲彩音、鹿目凛、根本凪からなる6人組ユニット。東京コレクションやミキオサカベをはじめとして、様々なクリエイターとのコラボレーションを活発に展開し、国内のみならず海外からも注目を集め、台北やジャカルタでのファッションイベントにも参加。2013年にはJAPAN EXPOに日本代表として出演。2014年度は東アジア文化都市2014横浜親善大使を務めた。2014年5月には日本武道館で1万人動員、2015年2月に国立競技場代々木第一体育館2days単独公演を成功させた。シングル『あした地球がこなごなになっても』でミュージックチャート1位を獲得。2015年はワールドツアーも敢行。2017年1月に、二度目となる日本武道館公演も行う。2017年12月30日の大阪城ホール公演で、鹿目凛、根本凪が加入。2019年1月6日と7日で日本武道館公演2days(二日間で約2万人動員)を開催、夢眠ねむはでんぱ組.incから卒業した。

スタイリング:佐野夏水
ヘアメイク:光野ひとみ, 小板橋沙紀, 小林依里香


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