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遠崎智宏

あえて「兼業」し、異なるスポーツで成長するーー「シーズンスポーツ」のメリットとは

2020/07/20(月) 18:13 配信

オリジナル

「野球とバスケとダンスをやっています。一つのことには打ち込んでいません」。そう答える子どもたちが増えるかもしれない。国内で長く主流なのは、小中高と競技を一つにしぼって貫き通すことで強くなれるという価値観だ。しかし、ここ数年、季節ごとに競技を変える「シーズンスポーツ」という考え方を取り入れる動きが出始めている。どのように行われているのか、そのメリットはなにか、取材した。(ライター・菊地高弘/写真・遠崎智宏/Yahoo!ニュース 特集編集部)

バスケチームで『U.S.A.』

耳になじみのあるアップテンポな曲に合わせて、11人の小学生たちはインストラクターの指示に従ってダンスに興じていた。DA PUMPのヒット曲『U.S.A.』である。

ここは滋賀県大津市にある県立スポーツ会館。踊っている小学生たちは、地元のプロバスケットボールチーム「滋賀レイクスターズ」のシーズンスポーツスクールに通うメンバーたちだ。レイクスターズは毎週木曜日の夜に小学生向けのシーズンスポーツスクールを開校している。この日集まった小学生たちはアリーナのバスケットゴールには目もくれず、ダンスに夢中になっていた。

『U.S.A.』のリズムに合わせて、おなじみの振付で踊る小学生たち。たどたどしい動きながら、その顔には笑みが広がっていた

踊っている小学生男児に「ダンスは好きなの?」と尋ねると、彼は首を少し傾げてこう答えた。

「うーん、一番好きなのはフラッグフットボールかな」

1時間のダンスの授業を終えた小学生は、今度は腰に着脱式のフラッグをつけてフラッグフットボールを始めた。バスケットボールクラブ主宰のスクールだというのに、なぜダンスやフラッグフットボールをプレーするのか。クラブの代表講師を務める我孫子智美さんはこう説明する。

「『子どもが夢中になれる、自分に合ったスポーツを見つけることが大事』という考えから、アメリカでは一般的になっている『シーズンスポーツ』を取り入れようと開校したんです」

基本的に季節ごとに二つのスポーツをプレーするが、月に1回はバスケットボールが入る。カヌーなど単発で別のスポーツを体験する日もある

シーズンスポーツとは、季節に応じて行うスポーツを変えていくことをいう。アメリカのスポーツ部活動では広く普及している。

レイクスターズのシーズンスポーツクラブでは、季節ごとに二つのスポーツを楽しむ。我孫子さんが説明を続ける。

「4カ月おきにスポーツを変えていて、2019年度は4月からレスリングと陸上、8月からバスケットボールと卓球、12月からダンスとフラッグフットボールをやっています。さまざまなスポーツに触れることで総合的な運動能力を鍛えながら、子どもたちに『このスポーツに取り組みたい』と感じてもらえたらと考えています」

小学3年生の息子がはしゃぎ回る姿を見つめていた吉岡浩子さんは、「少年野球の体験入部にも行ったんですけど、子どもに何が合うかわからなかったんです。ここでいろんな競技をできるのはありがたいです」と話す。

「違う競技で違う指導者のもと、違うロジックで学べる」

幼少期から一つのスポーツに専念しがちな日本に対して、アメリカでは季節ごとにプレーするスポーツが変わるシーズンスポーツが浸透している。アメリカ発祥の有名スポーツブランド・アンダーアーマーの日本総代理店として知られるドーム社の代表取締役CEOである安田秀一さんは、シーズンスポーツのメリットをこう語る。

「アメリカではアメリカンフットボールをプレーした後に、冬場にスキーをやって活躍する例が普通にあります。でも、日本ではスキー部が雪のない夏に走り込みをしている、なんてケースもありますよね。シーズンスポーツは人材活用という面でも合理的ですし、教育的な効果も大きい。違う競技で違う指導者のもと、違うロジックで学べるのですから」

安田秀一さん。「日本の部活動が課外活動という構造自体が古過ぎる。アメリカのようにスポーツを正式な教育プログラムに取り入れるべき」と語る

1990年代には、野球とアメリカンフットボールの両方でプロ選手になり、MLBのワールドシリーズ、NFLのスーパーボウルと両リーグの最高峰の舞台に立ったディオン・サンダースのような選手もいた。

一方、日本でジュニア期から一つのスポーツに絞る傾向がある背景を、安田さんはこう推察する。

「たとえ非合理なことであっても、戦後からの『一つのことを極めよう』という価値観が疑いもなく受け入れられてきたように思います。その名残がいまだにあるのでしょう」

アスリートとして成長してくれたらうれしい

安田さんの言う「戦後からの価値観」を見直す学校も出てきている。

広島県東広島市にある私立中学校、武田中には野球部がなく、「野球同好会」が昨年4月に発足した。野球チームとしての活動は週4日で、水泳部とゴルフ部の活動に週1日参加する「兼部」の形態をとる。

武田中野球同好会は、ジャージ、パーカー、スウェットなど動きやすい服装で活動する。人数も少なく、まるで公園に遊びにきたような雰囲気だ

武田中と中高一貫校の関係にある武田高校は、野球部が平日50分の練習時間で2018年秋季広島県大会でベスト8に進出するなど近年注目を集めている。武田中の野球同好会は、武田高野球部の岡嵜(おかざき)雄介監督のアイデアから始まった。

「ジュニア期から『将来世界で活躍すること』を意識するなら、野球以外のスポーツも経験すべきじゃないか、という考えから『兼部』に行き着きました。野球は打つ、投げる、走る、捕ると総合的な運動能力を高められるスポーツですが、他にもさまざまな運動を体験することで運動能力がさらに高まると考えたんです」

同好会1期生は3人と少ないが、岡嵜監督は「同好会は試合に勝つことが目的ではなく、個の力を高めるのが目的なので、会員は5人程度がちょうどいい」と語る。ところが、2020年度は2期生が10人も入会。1学年60人の小規模校だけに、岡嵜監督は「我々もこの人数は想定外で、うれしい悲鳴です」と笑う。

武田中野球同好会2年生の3人。平日は水泳部、ゴルフ部を兼部しているが、3人とも「それぞれに面白さがあるけど、野球が一番楽しい」と口をそろえる

水泳部とゴルフ部を兼部する狙いについて、同好会のヘッドコーチを務める岡口昇平さんが説明してくれた。

「水泳は肩甲骨や胸郭など野球をやるうえで大事な部位の動きがスムーズになりますし、ゴルフは遠くへ飛ばすスイングが野球とリンクします」

仮にゴルフや水泳に興味を抱いて野球以外の道に進んだとしても、岡口コーチは「それはそれでオーケーです」と断言する。

「野球をメインに考えてはいますが、走る、跳ぶなどアスリートとして成長することを求めていますので、他のスポーツを選んだとしてもうれしいです」

大藤祐希君は昨年10月まで硬式クラブでもプレーしたが、「掛け持ちだと体重が減ってしまう」と野球同好会のみに切り替え、体が大きくなってきたという

練習中もバスケットボールやなわ跳び、パルクール(障害物などを走る、跳ぶ、登るなどの動作でスムーズに通り抜けるスポーツ)といった身体操作性を高めるドリルが組み込まれていた。

会員の山本盛世歩(じょせふ)君はニュージーランド人の父を持ち、13歳にしてU-15ニュージーランド野球代表に選ばれ、チーム関係者も「将来のメジャーリーガー候補」と期待を寄せる大器である。中学に進学する段階でさまざまな選択肢を考えるなか、武田中の野球同好会を選んだ。

「野球が一番楽しいですけど、中学ではいろいろなスポーツをやりたい思いが強かったんです。(同好会の活動で)ボックスジャンプをして跳躍力が上がったら、足も速くなってきました。球速も1年で15キロくらい上がっているし、18歳までに160キロを投げて将来はメジャーリーグで活躍するのが目標です」

会員の赤沼泰平君が「試合をもっとやりたい」と漏らすように、実戦経験の不足は懸念される。ただし、近隣の中学野球チームと連携して練習試合に出場するなど工夫はしており、前述の通り10人の新入会員も入った。そして、あくまで目的は個の能力を高めることにあると岡口コーチは強調する。

「野球の大きな魅力はチームが勝つこと。勝利を目指して活動するチームも素晴らしいですし、否定するつもりもありません。ただ、勝つ楽しみばかりに目が向いてしまうと、育成をメインに掲げる我々がやりたいこととズレてしまいます」

会員の人数が少ないためモチベーションが低くなりそうな環境に思えるが、赤沼君は「トレーニングの数値が上がっているので成長を実感できています」と語る

あくまで基礎的な体力・運動能力を高めることが重要

シーズンスポーツや兼部は、ジュニアアスリートにどのような効果をもたらすのか。育成システムやスポーツトレーニング論を研究している小俣よしのぶさんは、ジュニア期に一つのスポーツに絞る弊害をこう語る。

「基礎的な体力・運動能力はさまざまな運動を通して養われるものなので、一つのスポーツに専念するとそれが養われない可能性があります。また、疲労性のケガ・障害を負いやすいというデータもあります」

ジュニア世代の育成システムを研究する小俣よしのぶさん。「シーズンスポーツはメリットもあるが、それ以上に『立つ、跳ねる、投げる』など基礎的な運動能力を高めることが重要」と語る

アメリカ・エモリー大の研究チームが、7~18歳の競技者約1200人を対象に3年間でスポーツ外傷が発症したかを調査したところ、ケガをした選手は平均12歳未満で一つのスポーツ競技に特化していた。また、専門的に特化した選手の約3分の2はケガを複数回繰り返したという。一方、ケガをしなかった選手は、一つのスポーツに特化した平均年齢が12歳以降だった。

故障予防、体力・運動能力向上のためにシーズンスポーツは有効といえそうだが、小俣さんは「スポーツは運動の手段であって、あくまで基礎的な体力・運動能力を高めることが重要」と力説する。方向を誤るとシーズンスポーツもデメリットが多いという。

「基礎的な体力や運動能力が必要なので、スポーツ万能でない限りはプレーしていて面白くないでしょう。活動費用もアメリカでは大きな問題になっていて、日本でも用具をそろえたり、遠征合宿費用など負担の多い野球は年間で十数万円もかかってしまいます」

学校体育がない国もあるなか、日本では小学生時から体育が授業に組み込まれており、基礎的な体力・運動能力を養う下地は整っているように感じられる。だが、小俣さんはこう警鐘を鳴らす。

「日本の学校体育も、かつては器械運動や行進、姿勢教育のように運動の基礎となるエッセンスが豊富に入っていて優れていました。でも今は『楽しい体育』が重視されて、以前ほど機能していません。しきりに『組体操が危ない』と問題視されていますが、組体操そのものが悪いわけではなく、基礎的な体力・運動能力のない子どもに組体操をやらせることが悪いわけです」

学校体育の機能低下に伴い、ジュニア世代の運動をする層と運動をしない層の二極化が進んでいる。日本のスポーツ界が進むべき道はどこにあるのか。小俣さんに尋ねた。

「オーストラリアやヨーロッパのスポーツ強豪国など人口の少ない国は、子ども一人ひとりの特徴をつかんで育成が可能なシステムがあるからからこそ、スポーツ先進国でいられるわけです。子どもの数が激減している日本も、今後は大人数からふるいにかける手法も効かなくなるでしょう。一人ひとりの特性をしっかり見て、体力・運動能力を高めて、全体を底上げしていく。そんな時代が来たのではないでしょうか」

小俣さんがアドバイザーを務めるDAHアスレティックアカデミーといわきSC(いわきFC)では、スポーツ万能の子どもを育成すべく、基礎的な運動プログラムが組まれている

そして最後に、小俣さんは「そもそもスポーツって何だと思いますか?」と問いかけ、こう続けた。

「スポーツはレクリエーションなんです。そもそもは大人の娯楽で、『子どもは大人の縮小版ではない』と言われるように、子どもがやるためには設計されていないためスポーツには子どもには適していなところがあります。大人のなかでうまい選手が出てきて、競技スポーツ化していきました。子どもたちにそんな競技スポーツをさせたら、勝ち負けが目的になり、体力・運動能力を高めることが二の次になってしまいます。シーズンスポーツも一つ一つを競技スポーツとして取り組み過ぎたら、すぐにケガをしてしまうでしょう。ほどほどに楽しむのが一番なのです」

日本に少しずつ広がりつつある「シーズンスポーツ」や「兼部」という発想。複数の競技に本格的に取り組み過ぎてケガを負ったら本末転倒だが、身体能力を高める手段として日本スポーツ界で「当たり前」と言われる時代が来るかもしれない。


菊地高弘(きくち・たかひろ)
1982年生まれ、東京都育ち。野球専門誌「野球太郎」編集部員を経て、フリーの編集者兼ライターに。近著に高校野球の越境入学生をテーマにした『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! ~野球留学生ものがたり』(インプレス)がある。

*本記事の取材は2019年12月~2020年2月に行いました

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