文藝春秋

キャラを演じず溶け込みたい――能町みね子が歩く路地裏の「普通」

2017/12/17(日) 9:01 配信

「人を観察するのがすごく好きなんです。むちゃくちゃ見てますね」
2006年にブログ『オカマだけどOLやってます。』の書籍化でデビューして以来、エッセイからテレビ出演まで活動の幅を広げてきた能町みね子(38)。肩書にこだわらず、好きなことを仕事にしてきた。型にはめられることを拒んでいるようにも見えるが、実は “普通の人”になろうと思ってきた。「普通」とはなんだろうか。彼女の“地元”、神楽坂の路地裏を歩きながら聞いた。
(文:てれびのスキマ/Yahoo!ニュース 特集編集部/文藝春秋)

動画:能町みね子、神楽坂を歩く(2分)

「ここすごいんですよ。人ひとりしか歩けない。発見したときはちょっと痺れました」

商店街の裏にある細い路地。能町みね子はそんな道を散歩するのが好きだという。狭い道に惹かれる。15年ほど前はこの道を毎日のように通っていた。銭湯に行く経路だったのだ。ずっと行き止まりだと思って通り過ぎていたが、ある時、人の通れる道が続いていることに気づいた。

散歩中は、建物や看板、生えている植物に至るまであらゆるものを眺めながら歩く。能町は道中、建物にある小さなスペースに目を向けた。

「うわぁ、ここに窓があるの気づかなかったなぁ。ここ入れるんですかね? 15年くらい通ってるのに、初めて気づきました。こういうの、うれしいですよね」

散歩は小学生の頃から好きだったという。大学時代の専門は地理。卒論は「完全に趣味に走って、東京の地名の変遷について書きました」

肩書は曖昧にしておきたい

能町みね子は1979年に北海道で生まれ。茨城県牛久市で育ち、東京へ。当初はOLとして働いていたが、ブログ「オカマだけどOLやってます。」が出版社の目に留まったことで2006年にエッセイストとしてデビューした。

「ブログ本が流行っていたので、最初から本にする気で書いてました。だから、書籍化の話が来た時、ヤッター!と。1社目でOKしたんです。10万部くらいは売れるだろうと思ってた。そのお金で何年かゆっくり暮らしてまたOLやろうかなって。結果、そこまでは売れなかったんですけど、予想外だったのは7~8社くらいから続々とブログの書籍化のオファーが来たんですよ。その時はもう“『オカマだけどOLやってます。』の人”だって思われるのが嫌で、全然違うネタでよければ何か書きます、って。(それで)文章の仕事が始まったんです」

「何かを目指したことはほとんどなかった」。今は散歩、喫茶店、旅行、相撲…と数多い趣味を仕事につなげている。

その結果、能町は多種多様なテーマをマンガやエッセイなどさまざまなスタイルで執筆するようになった。さらに『オールナイトニッポン』などのラジオパーソナリティや『久保みねヒャダこじらせナイト』などのテレビ出演までその活躍の場が広がっている。「自称漫画家」を名乗ってはいるが、肩書は曖昧だ。

「私自身も曖昧にしておきたいと言ってるせいで、作家でもないし、漫画家でもないし、ライターというジャンルからもちょっと外れてる。テレビには出てますけど、芸能界にいるとは全く思わないですし。何の人かよくわからないので、どこにも属してない、居場所がないというのはずっと感じていますね。その代わり、今はもう地元(神楽坂界隈)が好きになっちゃって。だから今、一番属してる度が高いのが“地元”なんです。それはすごくいいことだと思っているんです」

神楽坂は東京都新宿区にある。江戸時代には武家屋敷街、明治時代には花街として賑わったとされる。

居場所はないが “地元”は好き

「神楽坂に住み始めたのは、ぜんぜん大した理由はなかったんです。当時は会社を辞めて無職だったんで、風呂なしでもいいから、安い家に住まなきゃ、と。むしろ風呂なしが面白いかもって。たまたま友達とこのへんに演劇を観に来たら、意外と風呂なしっぽい建物があると気がついて。試しに不動産屋に行ってみたらすごくいい物件があって、そこからですね。住んでみたら、道がぐちゃぐちゃで散歩しがいがある。太い道があまりない。あと、神楽坂は中心らしい中心が分からなくて、どこに行ってもなんか店がある。(それが)結構好きなんです」

インタビューを行ったカフェの店主と能町。カフェは再開発により再来年頃になくなってしまう予定だ。

恋愛感情のない結婚でもいいんじゃないか

能町といえば、最近、「結婚」に向けて交際を始めたことを公表し話題になった。相手はライターで性指向が男性のサムソン高橋氏。だからお互いに恋愛感情がないという。どこまで“本気”なのだろうか。

「私は本気です。2人で住むために向こうの家の改装もほぼ終わったんです。お風呂使えないみたいなひどい家だったので、お風呂直すんだったら全部直そうって大改装して。その間、彼がうちに来て、1カ月くらい同居してました。驚くほど違和感がなくて。私はほとんど家事をしないのですぐに生活が荒れちゃうんですけど、彼がマメですごいやってくれて助かりましたね。2人ともスマホいじって30分黙ってても平気だし。これはストレスも感じなくて楽だと思って」

サムソン高橋氏との交際は、一人暮らしが嫌になって誰かと暮らさないとダメだと思ったことがきっかけだという。

最初は「周りの困った反応を見てみたい」といういたずら心もあったという。だが、意外にも「それ、すごいいいね」というような反応が多かったそうだ。

「『結婚』って何なんだろうってことになってくるんですよね。結婚の定義がよくわからない。だから別にこういう結婚でもいいんじゃないかと思ったんです。恋愛感情がないのがはっきりしてるので、他のところで恋愛しても別にいい。枯れないように、お互い不倫をしようっていう目標を立てようと思っているんですけど」

キャラではなく“普通の人”になる

能町は、世の中が“当たり前”としている「普通」に抵抗しているように見える。そうではない「普通」もあるのだと、路地裏にある細い道を開拓するように「普通」を拡げている。

テレビでの振る舞いが象徴的だ。

テレビでは「分かりやすさ」が重視され、分かりやすいカテゴリーやキャラクターに収めようとする。だが、能町は過剰な女性言葉を使わないなど、「オネエ」というカテゴリーに入れられるのを拒否している。実際に今は、NHKの番組出演の影響で「相撲好きの人」と認識されることが多いという。そういう人のほとんどは能町のバックグラウンドを知らない。

23時前の番組には出演しないことをルールにしている能町。NHKの相撲番組に解説者として出演するときのみが例外だ。

「私のように男から女になった場合、テレビに出ると、絶対にその部分しか取り上げられないんです。テレビってやっぱりいろいろパワーがあるから、どうしてもどこか演技したり、キャラ付けしないといけない。それできれいな人は、きれいどころのオネエであって、あんまりきれいじゃないお笑いどころの人は、元男ネタでイジられる。ホントにそこには行きたくなくて。まず溶け込んでみたかったんですよね。特殊なものとして扱われるのが嫌だから。」

「最初に男から女になろうってなった時、ネットとかで情報をいろいろ探しても、言っちゃ悪いですけどお手本になる人が誰もいなかったんですよ。私はこの両極端、どっちも無理だと思って。そういうキャラには寄らず “普通の人”にならなきゃって思ったんです」

テレビにおいて「普通の人」を貫くのには強い意志が必要なのではないだろうか。使命感があるのか尋ねると、こう返ってきた。

「使命感というよりは子供っぽい正義感な気がします。人を一面だけで判断してばっさり切り捨てるのが嫌なんです。どんな人にも子供時代があって、いろんなことがあって今に至る。だから凶悪犯罪者であっても、生い立ちとかを知りたくなる。この間もちょっとSNS上で論争になった相手にふと『好きな音楽、何ですか?』って聞いたんです。そしたら『北欧メタル』って、意外な答えが返ってきて。そういうのを聞くとホッとするんです。相いれない部分もあるけど、相手も普通の人間だなって」

いろんな「普通」があったほうが生きやすい。大通りでも商店街でも路地裏でも、人はどこを歩いたっていいのだ。

「人にプロフィールを聞くのがすごく好きです。根掘り葉掘り知りたくなっちゃって。だからプロフィールを謎めかしてる人はあんまり好きじゃないんですよね(笑)」


能町みね子
1979年北海道生まれ、茨城県育ち。2006年、イラストエッセイ『オカマだけどOLやってます。』でデビュー。『くすぶれ! モテない系』『トロピカル性転換ツアー』『言葉尻とらえ態』など著書多数。最新刊は『お話はよく伺っております』。現在「週刊文春」などでコラムやイラストを連載。


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