空中からのカンニング防止、ダンサーと踊る空飛ぶ物体――。無人飛行機「ドローン」は今まさに発展途上のテクノロジーだ。アマゾンが商品配送に活用することを発表し、技術革新の文脈として期待が高まっている一方、首相官邸や姫路城への落下・激突が報じられるなど、安全性への課題もある。日立コンサルティングの経営コンサルタントで「ドローン・ビジネスの衝撃」の著者、小林啓倫氏は、こうしたドローンの可能性に期待を込めて、ドローンは"空の産業革命"だと語る。
(Yahoo!ニュース編集部/THE PAGE)
ドローン活用
さまざまな可能性を秘めたドローンに、ビジネス界も当然注目する。調査会社の「シード・プランニング」が行ったドローン関連市場の成長予測では、「産業用無人飛行機・ヘリコプター」について、2015年は日本国内で16億円の市場があり、7年後の2022年までに406億円に拡大するとしている。
2013年には米オンライン通販大手のアマゾンが、ドローンを商品配送に活用すると発表したことが注目された。商品配送は、ドローン活用の主要な分野だ。日本の中でも数社が活用を研究している。だが、小林氏は「現時点では、私たちが住んでいるところにドローンが飛んできて、ものを届けてくれるレベルには残念ながらなっていない」と語る。
A地点とB地点を結んでドローンで配送するということは現状でも可能だが、例えば電線をかいくぐって、家の庭に降り、かつ庭の犬を避けて玄関先に届ける、というような、障害物を避けるということはまだ難しいのだという。
活用例は配送だけにとどまらない。建設現場での「測量」だ。建設機器メーカーのコマツは、さまざまなデータを収集・統合することで最適な施工計画を作成することを目指している。しかし、その大前提となる測量で、早く正確なデータを取ることが課題になっていた。そこへドローンを投入すると、空から建設現場を撮影し、測量して3次元モデル化することで、人間なら1、2か月かかるような規模の測量でも、わずか数時間で終わらせることができるという。
エンタメ分野でも活用例が目立つ。音楽のプロモーションビデオで空撮映像が使われたり、バラエティ番組では、芸能人のバンジージャンプするシーンを撮ったりする例がある。女性アイドルグループ「Perfume」のコレオグラファーとして知られるMIKIKOさんが率いるダンスイベントでは、3機のドローンと人間のダンサーが一緒に踊り、共演している。
音楽プロモーション映像でドローンが使用された事例。YouTube「OK Go - I Won't Let You Down - Official Video」より
研究開発中の事例もある。マイクロソフトリサーチと米セントジョージ大学は、ジャングルで蚊を採集するドローンの開発に取り組んでいる。エボラ出血熱や鳥インフルエンザ、最近韓国で流行したMERS(中東呼吸器症候群)などのような「新興感染症」(EID)が国際社会のリスクとなる中で、こうしたEIDの予防研究が目的だ。完全に自立型で動くことができるドローンは、人間が立ち入ることができない場所や、危険な場所での作業が期待されている。
「衝撃」の意味
定着しつつあるドローンという呼称だが、無人飛行機を英語で表す場合、正式にはUAV(Unmanned Aerial Vehicle)、UAS(Unmanned Aircraft Systems)、RPAS(Remotely Piloted Aircraft Systems)などと呼ばれる。ドローン(Drone)とは「雄バチ」を意味する単語で、無人飛行機に使う場合には俗称でしかなかった。ところが、近ごろは「ドローン」という新しいジャンルが生まれつつあるように見えると小林氏は見立てる。
小林氏が提唱するドローンは"空の産業革命"という表現には、2つのテーマがある。「空」と「ロボット」だ。
「空」とは、実は人間にとって利用しづらい空間なのだという。これまで人間は、飛行機に乗って空を飛ぶか、地上を歩くしかなかった。ところがドローンの登場によって状況が一転する。空という空間を、配送のために使ったり、撮影のために使ったり、さまざまな活用ができるようになった。
また、小林氏は「ドローンの本質は"空飛ぶロボット"」だと説明する。未来の世界ではロボットが私たちの生活にどんどん入りこんでくると予想されてきたが、2015年現在でも、例えば、産業用ロボットが工場の中で働いたり、お掃除用ロボットが家の床の上を走り回ったりするのにとどまっている。だが、自律的な飛行が可能であり、ロボットとしての側面があるドローンの活用が広がれば、来るべき「ロボットの時代」の先駆となる可能性があるという。
著書のタイトルである「衝撃」には、この2つの側面を合わせ、「私たちの社会や生活に非常に大きなインパクトに与えるという意味を込めた」と語る。
規制と課題
しかし、新しい技術にはトラブルも付き物だ。4月には首相官邸の屋上にドローンが落下する事件が発生。ドローンの飛行に対して規制を求める声が上がる中、9月にはドローン規制法(改正航空法)が成立、12月に施行された。
規制法は、(1)夜間飛行を禁じ、日中に飛行させる、(2)周囲を目視で確認する、(3)人が多く集まる祭りやイベント会場では飛ばさない――など。また、高さ150メートル以上は飛行禁止とする細則も公表されている。
こうした規制について、小林氏は「それほど過激な法律ではなく、諸外国の規制と比べても妥当」と語る。「逆に言えば、いままでグレーゾーンがあったので、どこまで業務として使っていいか、ドローンを飛ばしていいか、測りかねた部分がある」。まったく想定外で規制のない状態に、ある程度の「線引き」がされ、この枠内であれば活用が認められるようになったため、「ビジネスがやりやすくなった」と話す業者もいるという。
とはいえ、ドローンをめぐる課題はまだまだ多い。9月の茨城県常総市の鬼怒川氾濫では、ドローンによる被害状況の空撮映像が話題になった。被害状況の把握に役立つ映像ではあったが、ここにも課題があるという。
「ドローンはかなり高度を出して飛んでいたので、上空を飛んでいる自衛隊や消防のヘリコプターとぶつかる可能性があったのではないか、という話がある。またあの映像はドローンでしか撮れないものだったのか、ヘリコプターからの映像でも良かったのではないか、という部分もある」
また、プライバシーの問題もある。空を飛ぶドローンの場合、これまでに考えられなかったような撮影行動が可能になる。例えばタワーマンションの上層部に住んでいるような人は、窓からカメラで撮影されることを想定して生活してはいない。そのため、そういった事態が発生した場合、住人は大きな嫌悪感を抱くと考える。そうした「想定外の事態」が今後次々と生まれ、議論が繰り返されることになる。
「いまは一歩一歩、手探りで運用ルールを作っていっているところで、ルールづくりは始まったばかり」だと小林氏は語る。
ドローン・ビジネスの未来
これからどんどんドローンが商用活用され、たくさんのドローンが空を飛ぶ時代が訪れるかもしれない。小林氏は現在、ドローンを自由に活用できる社会にすべく、ドローン専用の「管制システム」のようなものをつくる動きが活発になっているという。
例えばドローンが配送する際、「ここからここまでは飛行OK」「その時間帯は別ルートを通って」などのように各ドローンの位置を把握し、飛行ルートなどを割り振るシステムだ。このように、空飛ぶロボットでもあるドローンをめぐって構築した社会制度やルール・システムは、そのまま来るべき未来の「ロボット時代」に適用できると語る。「そうなると、いかに効率的なロボット利用システムを作れるか、が今後の未来の私たちの生活に何倍も大きく関わってくる」と小林氏は未来を見据える。
インタビュー動画(全編)
小林啓倫(こばやし・あきひと)
日立コンサルテイング経営コンサルタント。1973年生まれ。システムエンジニアを経て、米バブソン大学でMBAを取得。著書に「ドローン・ビジネスの衝撃」「IoTビジネスモデル革命」など。