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伊藤圭

悔しい気持ち、ぶれない演技――林遣都26歳が描く俳優人生第二幕

2017/02/17(金) 09:52 配信

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中学3年生のときの修学旅行で訪れた渋谷でスカウトされ、2007年に映画『バッテリー』に主演し、数々の映画賞を総なめにした林遣都も、もう26歳になる。いや、演技をしている林を見ていると、まだ26歳かとも感じる。

2016年は、映画『HiGH&LOW THE MOVIE』で、ド派手な赤い法被で存在感を示し、ピースの又吉直樹による同名小説を原作としたNetflixオリジナルドラマ「火花」では芸人の主人公を演じ、日本国内にとどまらず、海外でも高い評価を受けたほか、NHKでの放送もスタートする。

そして2017年、NHKの連続テレビ小説「べっぴんさん」出演や映画「しゃぼん玉」主演など、すでにその活躍から目が離せない。

右も左もわからず入った芸能界で、やりたいこともわからず、ただがむしゃらだったときのことを振り返り、林は「普通の男だった」と語る。

そんな彼が、周りの俳優を見て「悔しくてたまらなかった」という時期を経て、どう今の林遣都にたどり着いたのか。その道のりを振り返ってもらった。(ライター・西森路代/Yahoo!ニュース編集部)

撮影:伊藤圭

「青春の真っただ中、放課後一人東京に行くのも嫌だった」

今年3月に公開の映画「しゃぼん玉」で林は、親に見捨てられ、通り魔や強盗傷害などの犯罪を繰り返しながら生きてきた主人公の伊豆見を演じる。映画では冒頭から、林の鬼気迫る演技で始まる。

(C)2016「しゃぼん玉」製作委員会

「伊豆見の生い立ちや背景が観客にまだ何も知らされていない状態で、彼がそれまでにどういう生き方をしてきたのかを、表情や声や動きで想像させないといけない。こういう役はやりがいがありますし、嘘のつけない作品だなと思いました」

大先輩の市原悦子と共演し、林の提案が採用されたシーンもあるという。

「伊豆見の箸の持ち方がぎこちなくて、市原さん演じるスマに叱られるシーンがあるんです。僕が伊豆見の人物像を考えて監督や市原さんにこのシーンを入れることを提案したのですが、市原さんも、それを受けてお芝居をしてくれました」

今でこそ、さまざまな難役も演じられる若手俳優の一人となった林だが、滋賀県の高校に通いながら映画に出ていたときは、右も左もわからなかったという。

「修学旅行でスカウトされて、こんなチャンスは滅多にないからと思って事務所に入ったものの、青春の真っただ中、放課後一人東京に行くのも嫌だったし、演技なんてまず無理だろうと思っていました」

しかし、オーディションで合格し、映画『バッテリー』に出演。その後も、スポーツものの作品に関わることが多くなった。

「高校時代の3年間は、ボクシングの映画に出るとなったら大阪のジムに通ったり、駅伝の映画に出ることになったら大学の駅伝部に交じって練習したり……本当に大変でした」

悔しい気持ちを大事に、演技にぶつけてきた“ひねくれ者”

こうして学生時代は、等身大の、スポーツに賭ける青年の役が続いた林。若手俳優の取材を続けていると、学生時代のイメージから大人の俳優に変わるときに、どう生まれ変わるのかで悩む人は多い。林の場合はどうだったのだろう。

「その頃は、映画やドラマが好きってわけでもなくて、本当に田舎の高校生で、『普通の男』だったんです。だから、目の前にあるものをやっているうちに、徐々に学生から大人の俳優に変わっていったんです」

こだわりなく、全ての球を確実に打ち返すことで、自然に次に進んでいたのだ。しかし、いつまでも『普通の男』ではいられない。

撮影:伊藤圭

「不安な時期や悩む時期が次にやってきて、完全に『ひねくれ者』でした。同世代の人の演技を見ると、悔しくてたまらない時期があって。でも、その頃はわからなかったけど、後で考えると、この悔しい気持ちを大事にして、へたくそでもいいから、演技にぶつけてやってきたのがよかったと思います。とにかく、『誰か見てくれ』『誰か見てくれ』と思いながらやっていました。毎日が戦いでした」

がむしゃらに演じた時代には、おのずとがむしゃらに演じてぴったりくる役も多かったようだ。『悪の教典』では、男性教師に想いを寄せる生徒役を、吉田修一原作の『パレード』では、金髪の男娼役などを演じた。

「今でも、お話をいただければ、どんな役でもやりたいんです。最近、撮影をしているときが本当に楽しいんですよ。『この役は林遣都にしか演じられない』ってネットで書いてあると本当にうれしい。やっぱり誰かが見てくれているというのは、一番の喜びなので」

林遣都の俳優人生、第二幕

ネット検索は「普通にします」とのことで、最近は『HiGH&LOW』の反響の大きさに驚いているようだった。しかし、どんな役でも演じるという林がなかなかやったことがないのは、意外にも、甘いストーリーだ。

「学生時代にキラキラした恋愛ものはほとんどやってないんで、年下の俳優の友達が学園物をやっていると、うらやましかったりもします(笑)」

撮影:伊藤圭

2016年は、前出の『HiGH&LOW』や「火花」などの話題作で結果を残し、林の俳優人生の第二幕が開けたと言ってもいいだろう。

「以前はやりたいものが何なのかわからなかったけど、こうして続けて来て、『これをやりたかったんだ』と思えるような作品や、信頼できるスタッフさんや共演者に出会えて、あきらめずにやってきて良かったなと思います。ありがたい一年でした」

では、「普通の男」から、「ひねくれ者」になって、今はどんな心境なのだろうか。

「悔しいって思いはあるにはあります。でも今はちょっと違ってきて、誰かの演技を見て、この人すごいって素直に思えるし、吸収したいなと思えるようになりました。本当に今更なんですけどね(笑)」

そう語る林の顔は、「普通の男」でも「ひねくれ者」でもなく、次の5年、10年に新たな足跡をどう残して行ったらいいのか、ゆったりと見据えているように見えた。

そこには、デビュー作『バッテリー』のときの純朴な少年の影も残しているのに、それでいてほかの26歳よりも経験を積んだ、ぐっと大人びた雰囲気も醸しだしていた。

彼がどんな役も演じられる所以は、こうしたところにあるのかもしれない。

林遣都

はやし・けんと
1990年12月6日生まれ。2007年、映画『バッテリー』主演で俳優デビュー。第31回日本アカデミー賞新人俳優賞、第81回キネマ旬報ベスト・テンなど高い評価を受け、以来多くの話題作に出演している。
近年の出演作品は、映画『花芯』『にがくてあまい』、TV『べっぴんさん』『火花』『精霊の守り人」(NHK総合)
待機作に『アオゾラカット』(NHK BSプレミアム)、映画『野球部員、演劇の舞台に立つ!~甲子園まで642キロ~』(2017年秋公開)、舞台『子供の事情』(作・演出:三谷幸喜)がある。
2017年3月4日(土)、主演映画「しゃぼん玉」公開。

ヘアメイク:SHUTARO(vitamins)
スタイリスト:菊池陽之介

編集協力:プレスラボ

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