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「ごみ焼却施設は余っている」――ごみ行政の構造的課題

2016/02/09(火) 14:17 配信

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日本のごみは減り続けている。ピーク時には5500万トンに迫る勢いだったが、いまでは4000万トンの半ばまで減少している。私たちが生活し、産業活動をする限り、ごみはいつまでも出続ける。だが、ごみを捨てた後、そのごみがどうなったのかまで気にかける人は多くない。身近なのに意外に知らない「ごみ=廃棄物の世界」。環境問題を25年間追い続けている元朝日新聞記者で「ルポ にっぽんのごみ」の著者、杉本裕明氏は、日本のごみ処分は「焼却至上主義」だといい、ごみ焼却施設は余っている状態だと硬直化したごみ行政を批判する。(Yahoo!ニュース編集部/THE PAGE)

ごみが足りない?

杉本氏は「いまの日本にはごみが足りない」という。焼却施設の数が過剰になり、燃やすためのごみが足りない状況だというのだ。ごみには、家庭から出る家庭ごみと商店やビルなどから出る事業系ごみからなる「一般廃棄物」、そして、工場などの事業活動から出る「産業廃棄物」がある。杉本氏が「足りない」と指摘するごみとは一般廃棄物のことだ。

日本がバブルに突入した時代、ごみは右肩上がりに増え続けた。そのころの日本のごみ処理は「燃やして埋める」のが基本だった。そのため各地の自治体は、焼却施設と埋立処分場の整備に追われた。しかし、バブルの崩壊によって、その大前提は崩れることになる。

バブル崩壊後の景気低迷により、経済活動が停滞。また、1991年に成立した「リサイクル法」でリサイクルが促進され、各自治体がごみ削減に取り組んだことで、ごみの総排出量は、2000年の5483万トンをピークに減少トレンドに入り、2013年には4487万トンにまで減った。

イメージ:アフロ

環境省が毎年公表する「日本の廃棄物処理」によると、ごみの焼却量は2001年の4063万トンから下がり続け、2013年には3373万トンに。一方で、焼却施設の1日あたりの焼却能力は20万2700トン(2001年)から18万2700トンと約1割しか減っていない。

杉本氏によると、2013年度に全国で燃やしたごみの量は3373万トンなのに対し、現在日本にある1172の焼却施設で、年間どれだけのごみを燃やせるかを計算すると、実際に燃やした量の46%増し、つまり焼却能力には約1.5倍の余裕があることになるという(※年間270日間稼働したと仮定して計算)。

グラフ:THE PAGE

杉本氏は「ごみがこれから減るトレンドが始まっているのに、各自治体は焼却施設を作り続けた。それがどこかで交差する。それが始まっている」と指摘する。

背景には構造的な課題

東京では、23区清掃一部事務組合の予測以上にごみが減り続け、清掃工場を維持するために、ごみの確保が“課題”となった。中でも1日に1800トンの焼却能力を持つ大規模施設である「江東清掃工場」で状況は深刻で、ごみ確保のために本来は搬入禁止だった県外からとみられるごみも受け入れていたという。

一方で、ごみが減り続ける現状に合わせて、焼却施設を休廃止した自治体もある。横浜市では、「栄工場」(2005年)、「港南工場」(2006年)を廃止、2010年には「保土ヶ谷工場」を休止した。3工場で1日当たり3600トンの焼却能力があったが、それでも現状、まだ3割以上の余裕がある。

名古屋市の「南陽工場」は3つの炉を持ち、1日に1500トン焼却できる。しかし、現在稼働しているのは1炉だけ。つまり、500トン分しか動かしてない。杉本氏は「こんなところが全国にいっぱいある」と語り、構造的な問題が背景にあると指摘する。「自治体は補助金がたくさんほしい。だから“身の丈”より大きめの施設が欲しくなる。プラントメーカーも焼却施設が売れれば儲かるので自治体に攻勢をかける」。

名古屋市南陽工場

ドイツではごみは燃やさない?

杉本氏は「焼却」に偏重した日本の「ごみ行政」を今後も続けるのか、と問いかける。海外に目を転じると、環境先進国のイメージが強いドイツでは、複数の選択肢を持って、ごみ問題に対応している。

容器包装ごみの回収・リサイクルの責任を製造者に負わせる「拡大生産者責任」を世界に先駆けて導入し、高いリサイクル率を誇る。ドイツでは年間のごみ排出量の46%を資源ごみとしてリサイクルしている。

ただ、けっして焼却処理を否定しているわけではない。ドイツでもごみは燃やしている。日本と異なるのは、ごみ焼却によるエネルギー回収率の高さだ。

ドイツでは、焼却量は日本の半分ほど(2013年は1756万トン)だが、個々の施設の規模が大きく、発電と熱回収を合わせたエネルギー回収率は40%を超える。日本は小さな焼却施設が多く、発電設備を持つ施設は3割弱。しかも人里離れた場所に立地することが多いので、地域に熱供給しているケースは少ない。

「ごみ」の行方を知る

「家庭にとってもごみ問題は分別するところで止まっている」と杉本氏はいう。分別されたごみは市町村などの自治体によって適正に処分され、適正にリサイクルされていると思っている人が多いだろう。しかし、実際に自分が出したごみがどんな風に処理されて、どんな風に活用されているのか、あるいは活用されていないのかを知れば、「いまのごみ処理の方法でいいのか考えると思う」と力を込める。

杉本氏は、ごみの分別やリサイクルが手段ではなく目的化していると現状を分析する。「ごみを分別したり、リサイクルしたりするのは『手段』であり『目標』ではない。目標は、資源循環であり、資源効率性。リユースもそうだし、限りある資源を大事に使っていくべき」

生活に身近なごみだからこそ、「自分が出したごみの行方」を知ることが、意見や考えを持って行動する第一歩になる。杉本氏は、「わが町ではごみはどうなっているのか」と関心を持って調べてもらいたい、と呼びかける。

杉本裕明(すぎもと・ひろあき)
元朝日新聞記者。廃棄物、地球温暖化など環境問題を取材。現在、NPO法人「未来舎」代表。

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