「野球がうまくなりたい」―福井ミラクルエレファンツの“ギラギラくん”・寺田祐貴は向上心の塊
■「ギラギラくん」が現れた
BCリーグの現場では、常に「ギラギラくん」を探す。
「なんとしてもNPBに行きたい!」という“熱”を持った選手は、全身から“ギラギラ感”を放射している。
「NPBに行きたい」―。よく耳にする。しかし、その思いが全身から迸るような選手がどれほどいるかと問われれば…残念ながら、そう多くはない。
昨年、福井ミラクルエレファンツにはNPB行きを渇望する若武者がふたりいた。お互いに刺激し合い、死に物狂いで野球に取り組んでいた。まさにギラギラしていた。
ふたりは無事、NPBドラフトで指名され、現在、片山雄哉選手は阪神タイガースで、松本友選手は東京ヤクルトスワローズで、それぞれ奮闘している。
今年はそんな「ギラギラくん」になかなか巡り会わなかった。
が、いた!ここへきて、目に飛び込んできたのだ。「野球がうまくなりたい」というその一心で、周りの目など気にせず突き進む「ギラギラくん」が。
その名は寺田祐貴。福井に入団して2年目の19歳だ。
■福島の岩村明憲監督に自ら話しかけた
野球界において、まったく面識のない大先輩…それもメジャーでも活躍してきた超一流選手に対して、まだその世界に足を踏み入れてもいない若造が話しかけるなんて、そうそうできることではない。
いや、ほとんどの選手がしないし、まずできるとも思わないだろう。
しかし、いた。そんなことができちゃう選手がいたのだ。その驚きの行動に出たのが、寺田祐貴選手である。
福井の本拠地のひとつである丹南球場に、福島レッドホープスを迎えたときのことだ。福井の練習が終わり、代わって福島が練習を始めたときだ。ふと見ると、寺田選手が福島の岩村明憲監督に打撃指導を受けている。身振り手振りも交え、岩村監督もそうとう熱が入っている。
「岩村明憲」といえばヤクルトスワローズで活躍したあと海を渡り、メジャーを経て再び日本球界に復帰したスター選手だ。2015年からは福島で選手兼任監督として、2018年からは監督に専任して、BCリーグでもその存在感はひときわ輝いている。
そんな超一流選手に教わることができるなんて…。しかも“生徒”は寺田選手ひとりだけ、マンツーマンという贅沢な空間なのである。
終わって訊くと「自分からいきました」と、笑顔でこともなげに言う。えげつない強心臓の持ち主だ。繰り返すが、普通はできない。
「どうしても教わりたくて」。それだ。ただ純粋にバッティングがうまくなりたいのだ。福島との試合は年に1度だけ。寺田選手としては、この希少なチャンスを逃すわけにはいかなかった。
すると、その日の試合でいきなり左中間へ三塁打を放った。さらには四球、敵失で全打席出塁し、仕上げは右翼越えの本塁打だった。これがなんとBC初ホームランである。
手応えは「打った瞬間」だったそうだが、「高校以来打ってないので、違ったら嫌だから打球を見ないようにしてたし、不安だから全力で走った」と初々しい。
一塁を回ったところで審判が手を回しているのが目に入り、やっと確信できた。最高の初アーチだった。
勇気を振り絞り、教わりにいってよかった。こんなにすぐ成果が顕れるとは…。
■ルーキーイヤーは苦戦した
磐田東高校の1年先輩に読売ジャイアンツの加藤脩平選手がいる。「加藤さんを見にきたスカウトの方が“ついでに”僕のことを見てくれてはいたけど…」。しかし高3時、ドラフトで指名されることはなかった。
社会人野球も希望したが、左の長距離砲が飽和状態だったことや即戦力を求められていたことなどから、どこからも声がかからなかった。
ところがひょんな縁から、福井の前監督・北村照文氏に見初められ、入団することになった。ルーキーイヤーの昨年は33試合に出場したが、おもに代打や代走、守備固めで、スタメン出場は10試合ほどだった。
「最初はやる気も根拠のない自信もあったけど、5月、6月と月を重ねていくと壁にブチ当たって、どうしたらいいんだろう、何からすればいいんだろうって考えていて…」。答えが見つからないままシーズンは終了した。
打率は .139と、まったく歯が立たなかった。対戦投手のレベルが上がったことや木のバットへの対応に苦慮したこと、体力的にもまだまだついていけていなかったことなど、要因は多々あった。
昨季が終了したとき、田中雅彦監督との面談で「来年も今年と同じだったらクビや。変わった姿を見せてくれ」と言われた。そこでシーズンオフはアルバイトをしながら必死で練習した。
しかし3月のキャンプインしょっぱなでケガをしてしまった。右足首の捻挫だった。完治するまで無理はできなかったが、「このままじゃ去年と一緒だ。今年は絶対に変わったというのを見せたい」との強い思いから、無理をしてでもオープン戦に出場した。
オープン戦1打席目にヒットが出て、「去年とは感覚が違う」と手応えを感じた…はずだった。が、シーズンに入ると結果は出ず、結局、昨年との違いを見せることができないでいた。
■大松尚逸選手との出会い
そんな矢先、元NPBの大松尚逸選手(千葉ロッテマリーンズ―東京ヤクルトスワローズ)が入団してきた。同じ左打者だ。しかも寺田選手にとっては子どものころからの憧れの選手だった。
「僕、西武ファンだったけど、ロッテ戦で大松さんがよくホームラン打つのを見ていた。大松さんが(福井に)来るって聞いて、これは教わるしかないって思った。『成績は残してないんですが、将来的にホームランバッターになりたいんです!』って言いました」。
すぐにでも教えてもらいたかったが、まずはレギュラークラスの選手が先だ。寺田選手に順番が回ってきたのは5月ごろになったが、そこから“大松塾”で熱心に習った。
大松選手は段階を踏んで教えてくれる。最初に指摘されたのは「右肩が回って中に入っている。だから目線がブレる」ということだった。
そこから本格的な指導が始まった。「下半身の使い方を教わった。自分の体がどう動いているか、とか。体が全然使えていないことがわかった」。
指摘はさらに続く。
「キレもなくて、軸足が蹴れていなかったし、ただ下半身が回っているだけで捻じれがない、下半身の力が伝わっていない状態だった」。
そこで長い天秤棒のようなものを両肩に担ぎ、体の使い方を教わった。
「意識としては両膝の間に拳を入れて、その拳を潰す感覚。軸足で回転して、力をしっかり前に伝えるように」。
効果は徐々に顕れだした。打球が飛ぶようになったのだ。体が使えていなかったときと比べて、断然疲れるようになった。使えるようになった証拠だ。
■ひとつずつクリアしていった
これができるようになると、次のステップに進んだ。
「次はバットを返すこと。体の中でヘッドを返すことを教わった」。
昨年1年間、田中雅彦監督ともバットを内から出す練習に取り組んできたが、バットが出てこなくなっていた。悪癖はわかっているが、なかなか修正できないのだ。
「右脇が空いてしまうから、ヘッドが下がってバットが出てこない。体が先に回転してしまう」。
そこで極端にバットを出す練習をして、感覚を体に覚え込ませた。ほぼティー打撃のみで、1日のノルマの3~400球を消化するべく、ひたすら打った。
1ヶ月ほど経ったころ、ようやくできるようになってきた。試合でも少しずつ結果が出るようになり、自分でも成長していることを感じられるようになった。
ただ、これはまだ基礎の段階で、目指すべきはもっと上のレベルだ。「上(半身)と下(半身)を両方意識するというのが、なかなかできない。上を意識すると下ができなくて、下を意識すると上ができない」ということや、「前膝が伸びるので、早く開いてしまう」という、修正すべき点はまだまだあった。
しかしこれも7月の声を聞くころにはかなり修正でき、このころから試合で長打が出始めるようになった。
■新たな壁
すると今度は「顔のブレ」という問題が出現した。
「足を上げたとき、顔がキャッチャーのほうに動いてブレてしまう。自分では同じタイミングのつもりがズレる。顔が動く反動で打っている」。
そこで再び天秤棒を用い、顔がブレないよう特訓した。自分でもいろいろ試した。だが、これがなかなかうまくいかず悩んでいた。
そんな最中(さなか)だった、福島との試合が行われたのは。
「そうだ!岩村さんから何かヒントをもらえないだろうか」。大松選手が挨拶に赴いたのを見て、会話するふたりのもとに行き、アドバイスをお願いした。
「顔を動かさないようにしたいんですが、うまくできる方法はないですか?」
その質問に対して岩村監督はまず「足を上げるタイプか、上げないタイプか」と問うてきた。
「足を上げたい」と答えると、いろいろな案を出してくれ、「この中で一番合うのをやったらいい」と自分で選択するように言われた。
寺田選手に響いたのは、「軸足である左足の太ももの内側を意識して、指で土を掴む感覚」と、「右手と左足に目が付いてると思って、そこから見る感覚」だ。
「それを試合でやってみたら、打席での下半身の安定感が全然違った。バットがスムーズに、出したいところに出せた」。
それがホームランになったと目尻を下げる。
たとえば“終着地点”が同じでも、ハマる言葉や感覚は人によって違う。大松選手から教わったベースがあったから、岩村監督のアドバイスがうまく落とし込めたのだろう。今の寺田選手にはしっくりきた。
しかしそれを、その直後の試合ですぐに実践でき、結果まで出してしまうのはたいしたものだ。結果が出たことでまた、「何かきっかけが掴めた気がする」と、気持ちに余裕が生まれた。
■先輩以上の「ギラギラくん」に
今後、自身に課すのは「アベレージを残すこと」だという。成績のムラをなくし、安定した数字を出すことを目標にしている。
そして昨年は約5キロ減った体重を、このあとキープするよう心がけている。「NPBは143試合ある。こんな70試合くらいでバテていたらダメ」と、自らムチを入れる。食事も自炊し、量をかき込んでいる。
昨年、もっとも間近で片山、松本両選手の奮闘を見てきた。
「練習の鬼だなと思っていた。ふたりで一緒にプロに行こうっていうのが見えた。今年、加藤さんと片山さんは支配下にもなって、ほんとにすごい。自分の身近な先輩がどんどん上に上がっていく。自分はもっとやらないと!」
ギラギラした先輩たちのように、いや、寺田選手はそれ以上にもっともっとギラギラ感を放っていく。
(撮影はすべて筆者)
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