友だちだけどライバル。京都翔英高の同級生捕手、山本祐大(DeNA)と石原彪(楽天)の現在地―前編
■京都翔英高からプロ入りした同級生捕手
ライバルで友だち。お互い気にしていないようで、でも絶対に負けたくない相手。そんな同級生の二人がいずれもプロ野球選手になった。
横浜DeNAベイスターズの山本祐大と東北楽天ゴールデンイーグルスの石原彪。京都翔英高の同級生で野球部のチームメイト。そして同じポジションを争うライバルでもあった。
高校時代、正捕手の座に着いたのは石原選手だった。山本選手は練習試合や石原選手が故障離脱したときなどにマスクをかぶることはあったが、おもにセンターが主戦場だった。3年夏の甲子園も中堅手として出場している。
先にプロの世界に入ったのも石原選手だった。ドラフト8位でイーグルスに入団した。一方、山本選手は大学に進学予定だったが入学せずに取りやめ、独立リーグでキャッチャーとしてのスキルを磨いた。そして1年遅れてベイスターズから9位指名を受けた。
その二人がプロの世界で初めて相まみえる…はずだった。3月21、22日のイースタン・リーグでの2連戦は、残念ながら雨天およびグラウンドコンディション不良でいずれも中止となってしまった。
そこで二人の“現在地”を、本人の言葉やファーム首脳陣の評価を織り交ぜ、前後編で紹介する。
まずは二人それぞれに聞いた。
■横浜DeNAベイスターズ・山本祐大(京都翔英―滋賀ユナイテッド)
新人合同自主トレ初日にインフルエンザでダウンしたものの、復帰してからは驚異のスピードで周りの評価を上げていった。
春季キャンプ中の練習試合、そしてイースタン、いずれの“開幕戦”にもスタメンマスクを任されたほか、半数以上のゲームで捕手として先発出場をしている。
「成長はまだまだ全然ですけど、キャッチャーとしてもっともっと考えだして、キャッチャーに対しての奥の深さがわかってきたという面では、少しは成長したかもしれないです」。
そう語る山本選手の顔つきは、ちょっぴり精悍で大人っぽくなったような気がした。
技術面でも教わることばかりだ。手足の長い、いわゆるキャッチャー体型ではない山本選手だが、「下半身の使い方。今まで使えなかった部分を使うように取り組んでいます。足の運び…そういうのを意識しただけで、こんなに違うんやというのがありました」とプロの指導に感嘆する。
「ノックの足の運びひとつにしても、スローイングやブロッキングに生きてくる足の運びを練習している」。一つ一つの動きが単独ではなくすべてに連動していること、またそれぞれの動きが他の動きを生かすことを体感しているという。
そして現在はストロングポイントを伸ばすことを大切にしていると語る。山本選手のストロングポイントは「肩」だ。「そっちに自信があれば、他も自然に上がってくる。ストロングポイントは落ちないようにしたい」。こういった思考もすべて、新沼慎二バッテリーコーチに叩き込まれている。
また、先輩からも盗めるものは盗む。現在、ファームには7年目の高城俊人捕手がいる。「ブロッキングの入り方がうまい。一つでも取り入れられたら自分のレベルアップにつながる」と、傍でつぶさに観察しているそうだ。
2度の“開幕マスク”を任せてもらったことについては「早い段階で経験値を上げてやろうという新沼コーチの心意気を感じる」と感謝し、「まだまだ応えられるだけの技術も精神も達してないけど、2年目、3年目以降、『おもろい選手やな』と思われるように1年目が終われたらいいなと思う」と今シーズン、しっかり応えていくことを誓う。
バッティングに関してはまだヒットは出ていないものの、自分のバッティングはしっかり貫いている。「強く振ることとタイミングを早くとることを意識しています」。体も大きくなったからか、重心も低くどっしりしている。
「ちょこんと当てにいくようなバッティングじゃなく、一発もあるようなスイング…あ、一発を狙ってるわけじゃないけど、そういうスイングを。しっかり振れるようにはしています」。
まだ何もわからなかったドラフト直後は「一日も早く1軍に上がりたい」と決意を述べていたが、現在、「1軍」をどのように感じているのか。
「そりゃ上がれるものなら上がってみたい気持ちはあります。でも、今上がっても恥ずかしい思いをするだけ。自分のレベルが足りないことは絶対にわかる。今の段階では経験を得られるところが少ない」。冷静に自身の足元が見えている。
その上で「しっかり体を作ってケガのないようにして、キャッチャーの基礎をやっていきたい。焦ったりということはないし、2年後、3年後に上がって居続けられるように、今があると思っています」と、改めて土台を固めることに専念するつもりでいる。
■東北楽天ゴールデンイーグルス・石原彪(京都翔英)
プロ2年目を迎えた。昨年は入団前に左手有鉤骨の手術をしたこともあり、リハビリからスタートした。
また、シーズン中にも左足の甲を痛めた。「1年目はケガが多かった…」と、14試合の出場(捕手11試合)に終わったルーキーイヤーを、石原選手はこう振り返る。
ケガをすると気持ちも萎えて、つい練習も「しんどいな」と思ってしまうこともあった。しかし今年の石原選手ははじまりから違った。
1月。新人時代と違ってチームの合同自主トレはなく、自分で行き先を探さねばならない。大先輩の藤田一也選手が毎年、石原選手の生まれ故郷である京都市内で自主トレを行っていることを聞き、参加させてもらえるようお願いした。
藤田選手はじめ福山博之投手、岡島豪郎選手、そして同じく2年目の森原康平選手という年上ばかりの中に入れてもらえることになった。
先輩たちからは学ぶことばかりだった。ノックでの足の運び、また体の使い方やトレーニングの仕方も根本から教わった。ランメニューでは先輩たちの心肺機能の高さに驚かされ、自分に足りないものも理解した。
「ウェイトも藤田さんと同じメニューをやらせていただいていて、上半身、下半身を交互にしてます。初日は体幹がプルプルしてたけど、今はしなくなりました!」。自主トレ途中で、嬉しそうに話していた。
内野手の藤田選手とはポジションは違うが、「投げ方とか、キャッチャーとしても生きる。足の運び方もそう。いろんなことを吸収できています」と、得られるものはすべて得て帰ろうと必死だった。
また、野球以外のことも学んだ。大人として、社会人としてのルールやマナー、人への気遣いなど、これまで知らなかったことをきちんと言葉にして伝えてもらった。
「今年は何か違うなというのを見せていきたい」。石原選手の決意は、公私両面にわたる。
そこから迎えたキャンプ、そして教育リーグ、シーズン。明らかに今までの自分とは違うことを実感している。
「我慢強さが身についた」と言い、どれだけしんどい練習でも歯を食いしばって食らいつく。弱音を吐くことはなくなった。
さらに「ちょっとずつ周りが見えるようになった」と自覚し、先輩ピッチャーに対しても、昨年は自分から言えなかったようなことが少しずつ言えるようになった。捕手としては大切なことだ。
そして、これまでは気がつかなかった先輩への気遣いも、徐々にできるようになってきたという。
自主トレ中には「今年はとにかく守備を中心的にやりたい。まず守れないと(試合に)出してもらえない。守れて、それから打てるように。今年はそうしていきたい」と今季への決意を語っていた。
とはいうものの、石原選手といえば豪快なバッティングも魅力だ。「去年の秋から河野コーチにずっと見てもらって、だいぶバットが振れるようになった。飛距離も伸びました」。人懐っこい笑顔で語る。
「強いスイングで強く振りきることと、ボールをしっかり見る。マジで基本です!」。弾んだ声から、状態が上がってきていることを伺わせる。バッティングでのアピールも楽しみだ。
「試合を重ねていくことで課題が出てくる。その課題を次の試合で生かして…。ミスは絶対にあるので、同じミスをしないように。それを段々こなしていけば、力もついてくると思うので」。
ケガなく取り組めている今季、一気に飛躍したい。
山本祐大と石原彪。今季へ懸ける意気込みはどちらも並々ならぬものがある。お互い切磋琢磨し、意識し、刺激し合って高みを目指していく。
《後編へ続く》⇒後編
(表記のない写真の撮影はすべて筆者)
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