独立リーグ初!ドラフトで3選手の支配下指名を勝ち取った石川ミリオンスターズの戦略
■同一チームから3選手の支配下指名は独立リーグ初
10月26日に行われたプロ野球ドラフト会議において、3人の選手が支配下指名を受けたチームがある。独立リーグ・BCリーグの西地区(ADVANCE-West)に所属する石川ミリオンスターズ(以下 石川)だ。
支配下でのドラフト指名は石川にとって初めてのことで、しかも同一チームから3人が支配下指名されるのは独立リーグ初の快挙である。
寺田光輝投手(横浜DeNAベイスターズ・6位)、寺岡寛治投手(東北楽天ゴールデンイーグルス・7位)、沼田拓巳投手(東京ヤクルトスワローズ・8位)。下位指名ながら、いずれも即戦力としておおいに期待されている3選手だ。
■ここ3年で10人の選手をNPBへ
石川はここ3年で、NPB(日本野球機構=いわゆるプロ野球)に10人の選手を輩出している。ドラフトでは一昨年、長谷川潤投手が読売ジャイアンツから育成8位で指名を受け、3月に支配下登録された。
昨年は安江嘉純投手が千葉ロッテマリーンズ(同1位)に、大村孟捕手が東京ヤクルトスワローズ(同1位)に、坂本一将内野手がオリックス・バファローズ(同4位)にそれぞれ指名された。
外国人もここ3年間にネルソン・ペレス外野手が阪神タイガースと、アウディ・シリアコ内野手が横浜DeNAベイスターズと契約し、また、かつて広島カープに在籍した三家和真外野手も石川でプレーした後、今年から千葉ロッテマリーンズで支配下選手として活躍している。
球団創設1年目に内村賢介選手が東北楽天ゴールデンイーグルスに育成1位で指名され、その後、打撃投手やブルペン捕手、通訳など裏方も含めると、実に24人の人材をNPBに送り出している。
これほど多くNPBに輩出できるのはなぜか。石川ミリオンスターズの代表取締役・端保 聡氏に聞いた。
■ミリオンに入りたいという選手が続出
まず選手の獲得について、端保氏はこう話す。「ウチはね、『来てください』って誘いにいかないんですよ。ウチに入りたい、ここからNPBを目指したいんだという選手が集まってくる」。スカウトはいっさいしなくとも、選手自らが売り込んでくるそうだ。
こうして毎年NPBに指名される選手が続出するとなると、今後ますます石川に入団したいという選手は後を絶たないだろう。実際、今年のドラフト後「どうしたらミリオンに入れますか?」という問い合わせの電話やメール、手紙がこれまでより多く寄せられている。
選手を獲得するときに重要視するポイントがあると端保氏はいう。故障歴だ。いま現在の体の状態だけでなく、過去の故障歴もヒアリングし、今後への影響をくまなくチェックする。
選手の体を預かる片田敬太郎フィジカルパフォーマンスコーチが目を光らせ、クリアした選手でないと、ミリオンブルーのユニフォームに袖を通すことはできない。
また、渡辺正人監督はじめ首脳陣もNPB経験者ならではの目で、伸びしろも含めNPBで活躍できるであろう選手かどうか、厳しく判定する。ここがポイントだ。判定基準は「BCリーグで活躍できそうな選手」ではない。
根底には「独立リーグは夢を叶える手助けをする場所ではあるが、夢を諦めさせる場所でもある」という考えがある。可能性のない選手をみだりに獲得したりしないし、いつまでもいたずらに拘束したりもしない。
■NPBで通用する選手を育てる
フロントと現場の方針も一貫している。現場を預かる渡辺監督も、「社長からはとにかくNPBにいける選手を作ってくれと。そのように育ててくれと言われている」と力を込める。NPBにいくことをイメージした指導方針を立てているという。
だからといって勝たなくていいわけでは、もちろんない。見にきてくれるファンに勝利を届けるのは大前提である。
しかし、ときには個の特性を伸ばすための采配をすることもある。作戦上、バントや右打ちが有効な場合であっても、初球から思いきりスイングさせる。NPBのスカウトが視察に訪れているときならば、なおさらだ。
「ちまちまとバントさせて、それでNPBの目に留まりますか。小細工よりも、NPBで通用する選手を育てたい。強い投球、強い打球…そういう魅力ある選手になるよう、歴代の監督も指導してくれています」(端保氏)。
球団内ではそこを明確にし、決してブレることはない。
■優勝するつらさ
そもそも石川は強い。今年はチームとしての成績は振るわなかったが(西地区5チーム中、前期が最下位、後期が4位)、これまでの成績は秀逸だ。
過去11年間で地区優勝9回、地区年間優勝6回、さらにリーグ優勝4回、そして独立リーググランドチャンピオンにも2度輝いた。昨年は前後期とも優勝し、地区年間優勝もしながら、NPBに計5人の選手を送り込んでいるのだ。
しかし、たとえ独立リーグで日本一になったところで県内においての話題性はそこまで高くなく、それほど多くの祝福も受けない。
「優勝することが恩返しだと思っていたんですが、そうでもない。それよりも優勝することで運営費や人件費、遠征費など経費が余分にかかる。勝てば勝つほど自分の首を絞めるんです」(端保氏)。
こういうことだ。優勝すると「地区チャンピオンシップ」、「BCLチャンピオンシップ」と進み、最後には四国アイランドリーグとの「独立リーググランドチャンピオンシップ」が待っている。ポストシーズンにかかる経費も当然、球団持ちである。つまりレギュラーシーズンの経費に加え、支出が大幅に増大する。
「優勝したからといって、お客さんが増えるわけではないのが現実なんでね…」。勝ち進めば進むほど、財政面では却って厳しくなる。
■地元・石川における野球の活性化を目指す
初年度にリーグ優勝し、四国とのグランドチャンピオンシップに進んだ。そこでそのことに気づいた端保氏は発想を転換させた。球団のビジネスとして、NPBに選手をどんどん送り出そう、と。
NPBに輩出すると、その当該球団から「成功報酬金」という名目で、決められたパーセンテージの金額が支払われる。これは大きな収入である。
また、NPBに指名され、メディアやスポンサーに挨拶まわりをすることで、「おらが町のヒーロー」の誕生に地元は盛り上がり、各所で笑顔の輪が広がる。
「今、金沢の学童野球の登録人数が約800人なんですよ。2007年には約1,400人いたのに、10年間でこんなに減っている。これが地方の現状。このままでは減る一方なんです。でも身近なところから野球選手が誕生したら、野球をやりたいって子が増えると思う」。端保氏は地元における野球振興も同時に描いている。
自身も少年時代に野球を始め、星稜中学・高校でプレーした球児だった。「ウチからNPBにいった選手が活躍して、オフに里帰りしてくれたら…」。
子どもたちにとって憧れられる存在をどんどん生み出すことで野球に興味を持たせ、野球離れを食い止めたい。その子どもたちには、ゆくゆくは石川でプレーしてもらい、石川からNPBに送り出したい。そんな好循環を作っていきたと考える。
「地元の子が入ってきてくれるようになったんです。今後、甲子園で投げてた地元の子が1年間ウチでプレーしてNPBへ入る、というようになってくれたら嬉しい」。そうして地元の野球を活性化させていきたいのだ。
スポーツチームである以上、勝ちに向かって邁進していく。しかしそれとともに地元のために広い視野に立って球団経営を進めていく。そこは応援してくれるファンにも、石川ミリオンスターズという球団の在り方への理解を求めている。
「後退はできない」と端保氏は誓う。「昨年が育成3人、今年は支配下3人。今後もっと増やしていかないと。そして星稜からNPBにいった選手の数を超えたい」。掲げる端保氏独自の目標数値がおもしろい。ちなみに星稜中学・高校からは、ここまで18人の選手を輩出している。
超えるにはあと8人。果たして何年後に達成されるか。
■夢はミリオンからメジャーリーガーの誕生
ただ、やみくもに送り込めばいいというわけではない。もっとも願うのは、「NPBにいった選手が、ずっと活躍し続けること」だ。「そこは重い責任を背負っていると思っています」と、端保氏は表情を引き締めた。
多大なる責任と自覚を持って、来年もまたNPBに送り出せる選手を育て上げる。そして「いずれウチからメジャーに行ってほしいなぁ…」と、大きな夢も描いている。
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