野球のおもしろさをもっと伝えていきたい―BCリーグとアシックスの取り組み
■BCリーグ×アシックスの「ベースボールラボ」
今年のプロ野球オールスターゲームのテレビ中継では、スタッツキャスト(トラックマン)を使用して話題になった。
ピッチャーの投げる球の速度だけでなく回転数や回転軸まで出てくる。バッターの打った球も速度に加えて角度なども数字で表された。新しい野球のおもしろさが伝わってきた。
そういったことが誰でも体験できるイベントが開催された。プロ野球独立リーグのルートインBCリーグとアシックス社がタッグを組んで取り組む「ベースボールラボ」がそれだ。BCリーグの試合開催日に、来場者にさまざまな体験をして楽しんでもらう。
野球の競技人口減少が危惧されて久しい。プロ野球の入場者数は右肩上がりだ。しかし観戦はするが、実際にプレーする人口が減っているのだ。そこで、もっと野球を身近に感じてもらい、実際に投げて打ってが楽しいということを感じてもらいたいという思いで始めたのだ。
ピッチングのスピードガン計測は、投げるとすぐに投球の速度が目の前に表示される。バッティングではスイングスピードや打球の飛び出し角度などが瞬時に出てくる。
また、親子でグラブ作りを体験するコーナーもある。
今年の夏も全国各地のBCリーグ本拠地において、野球の楽しさを伝導して回った。
■アシックス社は今春から侍JAPANとダイヤモンドパートナーに
8月最後の土曜日、守山市民球場での滋賀ユナイテッドBC対福井ミラクルエレファンツの試合でも、このイベントが行われた。
試合開始前、球場にやってきたファンは興味津々だった。子どもはもちろん、大人もやりだすとムキになる。表示された数字を見ては、何度も何度も投げる、打つ、を繰り返す。
もっと速い球を投げたい、もっと遠くに飛ばしたい―純粋な向上心からだ。
担当のアシックス・ベースボール事業部、マーケティング部マーケティングチームのマネジャー、山田裕也氏はこう語る。
「昨年からアシックスがBCリーグをサポートするようになって、BCリーグ各球団の本拠地でこの『ベースボールラボ』を開始しました。野球を楽しんでもらいたいという思いと、BCリーグをブランド化したいという思いがあって、ほかとは違うことをやろうということで始めたんです」。
さらに「野球の競技人口が減っている中、地元に応援できるチームがあるのはとてもいいことだと思うし、BCはNPB(日本野球機構)より身近な存在。BCの試合を見て野球をやりたいと思ってくれたら嬉しいですね」と、BCリーグをバックアップする意義を明かす。
今年4月から侍JAPANのダイヤモンドパートナーとして日本代表全世代のユニフォームや道具、チーム用品を受け持っているアシックス社は、そのさらに1年前からBCリーグともオフィシャルパートナーを結び、さまざまなステージから野球振興に寄与しているのだ。
■「ベースボールラボ」と「親子でグラブ作り」
今回のイベントのおもな内容は「ベースボールラボ」と「親子でグラブ作り」だ。
「ベースボールラボ」ではさまざまな数値がひと目でわかる。投球速度、バッティングのスイングスピード、打球の飛び出し角度や速度…。
「野球を、これまでの感覚的なスポーツから数値化していこう、と。子どもさんたちは楽しんでくれているし、親御さんも数字で見ることで伸ばしていくところや弱点がわかり、納得してくれます」と山田氏。
「親子でグラブ作り」では、用意された作製途中のグラブを親子で完成させる。これがなかなか難しいようで、参加者はみな四苦八苦している。しかしそこに、親子のコミュニケーションも生まれる。
「グラブは実際にもほぼ手作り。その大変さがわかってもらえて、道具を大切にするようになってくれれば」という願いもあるという。
山田氏は語る。「ボクらは学生時代、毎日グラブとスパイクを磨くのは当たり前だった。それくらい思い入れがあった。最近は…」。磨かれていないグラブを目にすることが多いという。「だから大事にしてもらいたいという思いを、このイベントで伝えているんです」。
■野球の普及や振興に対する理念が一致
このイベントに同行しているBCリーグ・リーグ事業部長の梶原 駿氏からも説明してもらった。
「今まではメーカーさんからはユニフォームなどを買って、いわば道具のやり取りだけだった。けれどアシックスさんと野球に対してこれまでと違うアプローチをしていこう、道具だけでなく野球の普及や振興を考えていこうと、という話になったんです。単純にメーカーさんとリーグの付き合いではなく、一緒に包括的に野球に取り組みたい、野球に対して新しいことをしたいという両者の理念が一致しました」。そこで昨春、オフィシャルパートナーという形で手を結んだという。
イベントで行っている「ベースボールラボ」での計測は、「これまで感覚的でしかわかっていなかったことが、数値で見るとわかりやすい」という効果がある。
先述したようにスイングスピードや打球の飛び出し角度、またスピンの強さ、ボールのどこにバットが当たっているか、などが一瞬で計測できるのだ。
たとえばよく言われる「振り遅れている」とか「ミートしている」などが、実際に数字で見ることによって、どういうことなのかがわかりやすく伝わる。すると、ではどうすればいいのかというところにたどり着く。
「ヒットとホームランの違いはなんだろう」という疑問にも、打球の角度という数値が明確に答えてくれる。
「今までと違う見方ができる。スイングスピードは速くてもミートが弱いとか、ヒットは打てるのにホームランは出ないのはなぜかとか、数字で見ることでその子の特性がわかりやすくなる。親の方が興味津々で見ている。確実に野球が変わってきています。最新の野球はここまで進んでいるということを見てほしいですね」と手応えを口にする梶原氏。
こういったイベントだけでなく、BCリーグ・新潟アルビレックス傘下の野球塾では、積極的にこのスタッツキャストをプログラムに取り入れて、日々の練習を行っている。
バッティングだけでなく守備にも活用し、ボールへの反応やその速度、捕ってからの速さ、さらには正確性…出てきた数字から考察する。
「子どもたち自身が自分の弱いところがわかる。いいところをどんどん伸ばせるし、弱点の克服にも取り組みやすいですね」。
またデータ化することで「経年の成長度合いがよくわかる」と、十二分に生かしているという。
「今後、BCの選手にもNPBにいけるよう科学的なアプローチで育成していけたら」。ひとりでも多くNPBに輩出するため、リーグとしてできるだけのバックアップをしていく。
■もっと野球に興味をもってもらいたい
「野球に対する興味、関心をもってほしい」という思いはBCリーグも同じだ。
特にBCリーグに所属するチームは地方に点在する。「東京ではこういう機械で計測してもらえるチャンスは少なくないと思うけど、地方ではなかなかない。今後はこういうものの簡易版を一般の人にも使ってもらえるようにしたい」と、BCリーグ各球団の本拠地で開催することの意義を説き、さらなる展開も描いていると梶原氏は語る。
今回のイベント会場では、侍JAPANのユニフォームとともにBCリーグ各チームのユニフォームも展示している。もちろん、すべてアシックス社製だ。
これも各地で注目を集めた。侍JAPANのユニフォームは広島カープ・鈴木誠也選手が着たもので、本人のサイン入りだ。
また、BCリーグのユニフォームは、その地ではなかなか見られない遠方のチームのものもある。
来場者は手に取ったり羽織ったりしながら、嬉しそうにカメラに収めていた。
「アシックスさんも経費を持ち出しでやってくれているんです。こういうことはBCしかやっていない。これからもパートナーとしてお互いに協力し合って、野球振興に取り組んでいきたい」。
独立リーグとして、野球界においてBCリーグの果たす役割は、今後ますます大きくなっていきそうだ。
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