後期優勝を狙う石川ミリオンスターズに死角なし!武田勝監督の手応え(BCリーグ)
6月22日から、BCリーグは後期に突入している。西地区(ADVANCE―West)では前期終盤、3チームの激しいデッドヒートが繰り広げられた。
優勝したのは信濃グランセローズ。2位は富山GRNサンダーバーズ、3位が石川ミリオンスターズで決着した。それぞれ首位から0.5ゲーム、1ゲームという僅差だった。
後期に入り、スタートダッシュを見せているのが石川ミリオンスターズだ。6試合を終え、1分けを挟んで無傷の5連勝である。
前期を振り返って、そして後期に向けた展望などを武田勝監督に聞いた。
■「20勝」の目標を達成
前期は最後の最後で惜しくも優勝を逃した。しかし武田監督は涼しい顔だ。
「当初、チーム全体で目標にしていた20勝というのは達成できた」と、まずは開幕前に掲げたハードルをクリアしたことを喜ぶ。
昨年前期は16勝16敗2分けの3位だった(後期は13勝19敗2分けの4位)。それに対して今年の前期は20勝14敗2分けで、しっかり“貯金”を作った。たしかに大きな飛躍である。
「チーム力が上がった証拠だと思う。選手たち個々に意識が変わってくれて、楽しみながらも『勝ちたい』というのが出てきたのが結果につながっている。ほんとに野球を楽しんでプレーしてくれているのが見えた」と相好を崩す。
前期、武田監督がチームに徹底させたことがある。
「守備からリズムを作って攻撃に入ろう」ということだ。その言葉は度々、選手の口からもこぼれるようになった。
「やっぱり断然少なくなったのはエラー。守備に対する意識とか、守り勝つ野球とか、そういうのがちょっとずつ芽生えてきた」。
武田監督が目指す野球を選手が理解し、浸透してきている。それがここへきて、形となって顕れている。求めてきたことを選手たちが理解し実践してくれている、そのことが嬉しいのだ。
■役者が揃った投手陣
石川は今、戦力が充実している。
先発の柱である永水豪投手は7勝1敗で防御率1.51はリーグ2位だ。
なんといっても完投能力に優れ、これまで4連続を含む6完投(間に延長戦があり、その試合も九回まで投げている)。
そしてそのうち3試合連続を含む4試合で完封勝ちを収めている。
そのほか読売ジャイアンツから帰ってきた長谷川潤投手が復調し、内田幸秀投手、野口稔陽投手といった先発陣の駒が揃う。後期の5勝はすべて先発に勝ちがついているというのが、安定感を顕している。
さらには、いわゆる“谷間”といわれるところにも、飯野元汰投手や近藤俊太郎投手らが台頭しようとしている。
最後を締めるクローザーには、矢鋪翼投手がどっしりと構える。そこへ繋ぐ中継ぎ陣も、有吉弘毅投手をはじめ多士済々である。
「まずは最低5回投げきることっていうのをやってもらいたい。先発投手の最低限の仕事という意味では、本人たちもそれは感じてくれてやっている」。
武田監督の当初の要望どおり、先発陣が大崩れすることはほぼない。
「なんとか矢鋪につなぐまでの中継ぎ陣というのが、これからの課題になってくる。やっぱり終盤になればなるほど、1つの四球の重さやヒットの重さっていうのがある。それを乗り越えてくれるピッチャーがひとりでも多く出てくると、(後期に)21勝目っていうのが見えてくるかもしれない」。
逆にいえば、リリーバーにとって大きなチャンスでもある。
■“縁の下の力持ち”・喜多亮太捕手
そして投手陣の好投の要因にこの選手の名前を挙げた。
「喜多のおかげ。盗塁を阻止してくれるので、ピッチャーが余裕を持ってバッターと勝負できている。だから深さが出てきた」と、今年から加入した喜多亮太捕手の功績を讃える。
「バッターに集中して投げられているっていうのが、ちょっとずつみんなに顕れてきている。これまでのように自分を探しながら、『盗塁されちゃいけない』、『四球出しちゃいけない』っていう迷いがない。それくらいキャッチャーって大事なポジションなんで」。
「相手の機動力を阻止するだけでも、1つ前で勝負できるっていうこと。相手が常に得点圏にいると、すべてを変えなきゃいけない。守備隊形もそう。首脳陣にも余裕ができる」。
得点圏にランナーを背負うということは、配球はもちろん、守備位置や作戦などすべてが変わってくる。心理的にもまったく違う。
それはつまり「表面的に変わったというより、実は相手に自分たちの野球をさせてないっていうこと」だという。「そのちょっとした積み重ねが、1勝1勝っていう流れになっている」とうなずく。
■各々の状況判断で機動力を使う
攻撃に目を転じると、それぞれが状況によってするべき自分の役割を理解し、全うしようとしている。
足が武器である神谷塁選手が走りまくるのは当然のことだが、それ以外の選手も相手の隙を逃さない。
6月25、26日の対福井2連戦ではチーム合計10コの盗塁を決めたほか、バッテリーエラーでも瞬時に次の塁を陥れるシーンが目立った。
「逆に言えば、やられていたことをやれるようになった。機動力も使えるようになった」と武田監督も、してやったりの表情だ。
「まず失敗してもいいから、成功体験をすることのほうが必要。自分のタイミングとか、こう弾いたときに自分の足ならこうだとか、まずはアウトになってもいいから、やってみない限りその先はないので。どんどん行けという指示は、山出(芳敬 野手総合コーチ)から出ている」。
重視しているのはサインの有無にかかわらず、選手個々の状況判断だ。「やっぱサインだけだとロボットになっちゃうから(笑)」と、選手それぞれに任せている部分も少なくないという。
そこまで俊足ではない選手もスタートを切る。喜多選手も常にチャンスを窺っている。
「喜多も隙を突く野球っていうのをずっとやってきてるんで、ほんとの盗塁というよりは相手のミスを誘う盗塁。逆にああいうやつが走れば相手が動揺する」。
集中力を研ぎ澄ませ、相手のちょっとした動きを見逃さない。
「スマートな野球だけじゃなくなってきた。相手のミスにつけこんで、先先をいけるような野球ができるようになってきたっていうのが大きい」。
選手の意識が上がってきたことに、武田監督もほくそ笑む。
■4番・5番の主軸の働き
足攻だけではない。主軸の成長にも手応えを感じている。4番・今村春輝選手、5番・小林恵大選手だ。
今村選手については「実はホームランだけじゃなくて四球を取れているっていうのが一番大きい」と選球眼のよさを評価する。今村選手の四球数は32で、これはリーグでも6番目に多い。
「1、2番が作れなかったチャンスをもう一回コイツが作ってくれて、下位につなげるっていう役割も備えているので、ただ打つ4番ではなくてチャンスメイクしにいく4番でもある」と今村選手の出塁がキモになっているという。
実際、今村選手は.414と高い出塁率を誇っている。
驚くのは「そんなにホームランは期待していない」ということだ。
「出塁することのほうが僕は期待しているので。ホームランはほんと“副産物”のようなもの。だから逆に言えば大きい。相手チームからすると、その一発って痛い」。
ホームランありきではない。しかし長打率.468の長打力も欠かせない魅力ではあるのだ。
そしてそれらは、後ろに好調な小林選手が控えているからこそ叶えられているともいえる。
「小林も去年と違って、ある意味プレッシャーをうまく感じながらバッターボックスに立ってくれている。去年はいろいろ悩みがあったと思う。『走られてしまう』とかキャッチャーで悩んで、それがバッティングに影響していたんで。今年はファーストをやってることで、のびのび打ってくれている」。
ここまで打率.296、4本塁打、打点26。生き生きと打席に入る小林選手に目を細め、「この4番・5番っていうのは、たぶん変わらないと思う」と期待を込める。
■今村春輝選手がNPBにドラフト指名されるためには…
今村選手に今後、求めるのは「選球眼がよくて出塁率がいい、ホームランもある。となると3つ目は、チームバッティングでしょうね」という。
「1、2番が作ったチャンスを逆に軽打でライト前とか。四球も大事だけど、やはりボディブローのような1点を大事に取っていくようなチームバッティングができると、よりNPBというのが見えてくるかもしれない」。
NPBへ行くためには何が必要か―。
チームの勝利とともに、愛弟子たちをNPBへ後押しすることは、武田監督にとっても大事な案件である。
■ここという大事な試合に勝てるように
さて、今後はどう戦っていくのだろうか。
「今村のように一発も打てる打者も出てきてくれて、なおかつ守備でしっかり土台もできた。そのミスの少ない野球が前期20勝につながった。ミスはあるけど、相手より少なくしていこうってことは常に言っている。それと、状況判断もこれからは選手個々にもっと必要となってくる」。
選手それぞれが意識を上げていくことが重要だということだ。
「これからの課題は、大事な試合に勝てるようなチームを作ること。ここっていうときにプラスできるように。20勝はできたけど、あと1この上乗せとか。負けてはいけない戦いに最低でも引き分けとか、計算できるようなチーム力が必要になってくる」。
前期終盤、絶対に負けられないという厳しい戦いを経験したことで、選手たちは間違いなく自信を深めている。
「やっぱりここ一番の緊張感を、これまで味わったことがない選手が多い。それを前期、味わえた。後期はそれを糧にしてというか、それを大事に、もう1こ上のレベルを目指してやってほしい」。
何事も経験しないとわからないものだと、武田監督は強調する。
「絶対にそう。失敗とかミスとか全部やって成長してくれないと、ほんと気づけないことなので。野村(克也)さんがよく言ってた、『“失敗”と書いて“せいちょう(成長)”と読む』と。そのとおりだと思う。前期、失敗もいいときもあったけど、それを融合させて後期に活かしてほしい」。
社会人時代の恩師である野村克也氏の言葉を引用し、選手たちに説く。
前期に“経験という財産”を手に入れたミリスタナインは、この後期、新たな境地に足を踏み入れていくことだろう。
(数字は7月3日現在)
(撮影はすべて筆者)
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