BCリーグの石川、福井が阪神タイガース・ファームとの交流試合で得たものとは
■BCリーガーにとってNPBとの交流試合とは
NPBのチームと試合ができる―。それは独立リーグの選手たちにとって、願ってもないことだ。
どんな球を投げるんだろう。どんなバッティングをするんだろう。自分が目指す世界の選手がどのようなプレーをするのか、またそれに対して自分はどう対応できるのか。
腕試しの場でもあり、自身の“現在地”を知る機会でもある。さらにはNPB関係者にアピールするチャンスでもあるのだ。
今年もBCリーグの石川ミリオンスターズ、福井ミラクルエレファンツが阪神タイガースのファームと交流試合を開催した。
■ミリスタナインにとっての“ラッキーハプニング”
まず5月21日、金沢市民球場での一戦。数日前からミリスタナインは口々に「阪神、誰が投げるんですか?」と楽しみにしていた。
タイガースの先発は岩貞祐太投手だった。インフルエンザで離脱後、23日ぶりの復帰登板とはいえ、開幕ローテ投手であり、1軍で通算25勝挙げている。こんな好投手と対戦できる絶好機はなかなかない。
しかし意気込みとはうらはらに1安打1四球のみの出塁で、あとは完全に抑え込まれてしまった。
岩貞投手が予定どおり3回で降板したあとは、福永春吾投手が2回、石崎剛投手、歳内宏明投手、尾仲佑哉投手、齋藤友貴哉投手がそれぞれ1回ずつで繋いだ。
ところがその4投手に対しても安打が2本と四球が2つだけで、歯が立たなかった。
そんな試合中、ハプニングが起こった。タイガースが使用する一塁側ブルペンの照明が点かなくなったのだ。しかたなく途中から両チームともに三塁側ブルペンを共用することになった。
よって、タイガースのリリーフピッチャーたちが石川側から登場するという珍しいシーンが見られた。
そしてこれは、石川の選手たちにとっては“超サプライズギフト”となった。「見たい」と熱望していたNPB投手陣のピッチングを間近で見ることができたのだ。
この日のゲームピッチャーたちは1軍でもバンバン投げているメンバーだ。そのスピード、キレ、コントロールに石川の選手たちは興奮を隠しきれない。「すげぇ!」「やばい!」「速っ!」「ボールが消える!」と三塁側ブルペンで口をそろえ、大盛り上がりだった。
■勝ち負けではない大きな意義
試合は0-7で石川の完封負け。散発の3安打だった。しかし武田勝監督は勝ち負けではなく、もっと大きな意義があったことを明かす。
「今後のBCリーグでの戦いにおいて生かしてほしいっていう意味での試合だった。NPBに行きたい選手も、自分たちにまだ何か足りないものを感じてくれたと思う」とうなずく。
「1年を通して活躍できる力がないとプロには行けないということも、あらためて感じたと思う。ほんといい経験になった。今回だけじゃなくて、ファイターズ戦(6月18日)もあるので、プラスになってくれればいいかなと思う。勝ち負けじゃなくて、“ほんとのプロ”と対戦できるというね」。
さらに、自軍の選手の「足りないもの」について言及する。
「体つきも全然違うし、わかりやすいでしょ。テクニックとか技術はそんな変わらないと思う。ひとつのミスとか、当たり前のことを当たり前にやってるのがNPBだと思うので、それを気づいてほしい」。
■矢鋪翼投手が石崎剛投手に訊きたかったこと
もちろん選手も重々理解している。石川のクローザー・矢鋪翼投手は「どんなに速い球を投げても、しっかり低めに集まっていた。コースも高さも間違えない。そういうところをしっかり見習っていきたい」と感嘆の言葉をもらした。
自身は先頭を四球で歩かせたものの、1回を無失点で役目を果たしたが、「気持ちの張り方が違った。でも抑えたから楽勝とかじゃなくて、もう一回リセットして明日から頑張りたい」と、より気を引き締め直していた。
試合前から石崎、齋藤両投手のピッチングを見たいと口にしていた。試合中、降板後の石崎投手が三塁側ブルペンにやってきたが、特に会話はなかったそうだ。
しかしタイガースのバスが去ったあと、しきりに「石崎さんにいろいろ訊きたかったなぁ」とつぶやく矢鋪投手。「どうしたらあんな速い球が投げられるのかとか、トレーニングのこととか…」と繰り返す。
後日、石崎投手は「全然話しかけてくれればよかったのに」とは言ったが、やはり試合中とあって、そこは憚られたようだ。
今後、試合以外のそういう交流の場があってもいいのではないだろうかと感じた。
■この経験を活かす
4番・今村春輝選手は4打席、音なしだった。「球の質とか全然違った。岩貞さんの初球、チェンジアップを空振りしたけど、まっすぐの軌道から落ちた。福永さんもまっすぐが150近く出て、スライダーは手元で曲がってた」。興奮気味に話す。
「でも、あのボールを打たないと、その世界に行けないということ。BCで結果出したからといって、上では通用しない。上の世界で通用するものを身につけないと。感じるもの、得るものがたくさんあった」。
今村選手にとっても、実り多き一戦だったようだ。
そんな選手たちの様子を見た武田監督は「刺激になってくれればいい。こうやってNPBが協力してくれるというのは、今後BCリーグのためになる。ミリオンスターズだけじゃなくてほかのチームもこうやっていい経験ができて、お互い発展してくれればいいかなと思う」と笑顔を見せていた。
武田監督自身も選手たちが今後、この経験をどう活かしていくのか楽しみにしている。
■片山雄哉捕手にとっては凱旋試合
翌22日は福井ミラクルエレファンツがフェニックススタジアムに阪神タイガースを迎えた。
タイガースのルーキー・片山雄哉選手にとっては古巣凱旋となる。本人も楽しみにしていたが、それ以上に福井の首脳陣、選手、球団職員やボランティアスタッフ、そしてずっと応援し続けているファンが待ちに待っていた(片山選手については次の記事で詳しく)。
片山選手はフルマスクで小野泰己、石井将希、牧丈一郎の3投手を完封リードし、打っては決勝タイムリーで古巣に恩返しした。
■片山雄哉選手をぴったりマークの坂本竜三郎捕手
この片山選手の一挙手一投足をつぶさに見つめていた選手がいる。福井のルーキー・坂本竜三郎捕手だ。自ら希望して、片山選手が着けていた背番号22を受け継いでいる。
「僕ね、片山さんの動きをずぅっと見ていたんです」。試合後、はにかみながらそう明かした坂本選手。
「片山さんはピッチャーにジェスチャーで伝える。その動きが大きいので、ピッチャーも投げやすいんだなって思って…。真似じゃないけど、自分なりに工夫してやってみた」。
これを手放しで喜んだのが、田中雅彦監督だ。
「僕も自分のメモのところに『片山のジェスチャーを見てるか』ということを書いて、竜にあとで『気づかなあかんやろ、しっかり見とけよ』みたいなことを言おうと思ってたけど、竜は僕に言われなくても見て、やっていた。それが嬉しくて」。
まるで我が子がはじめて自転車に乗れたかのように、目を潤ませ気味に感激している。
実は以前から、坂本選手には「ピッチャーに自分の意志を伝えるのに、指だけじゃなくてジェスチャーでも」という話はしていたという。
けれど「実際にどこまでどういうふうにしたらという感じやったと思う」と、田中監督もどう教えていくか思案していた。
「片山のしぐさを見て、すごい心打たれた部分があったと思う。二回くらいからいきなり出しはじめた」と、その変貌ぶりに驚く。
「初回は何もわからないから、いつもどおりの『濱田(先発・濱田俊之投手)さんを気持ちよく投げさそう』みたいな感じやったけど、二回に濱田に対して大きなジェスチャーをしはじめた。たぶん、はじめて」。
「見ろ」と言われる前に自分の意思で観察し、それを即実行したことが嬉しくてたまらない。
だから、さらなる課題も与えた。「あのキャッチング見ろよって。お前のキャッチングはピッチャーのストライクをボールにしてるし、上から捕りにいったらバッターの反応も見れないって。いつも言ってることだけど、できてる選手のを見ると、もっとこう動かないといけないんだなと感じたと思う」。
それもまた、坂本選手は吸収したに違いない。
■タイガース・小幡竜平選手との“同級生対決”
そんな伸び盛りの若武者に、タイガースベンチも注目していた。山田勝彦バッテリーコーチは「あの子、いいねぇ。19歳に見えないよ」と讃え、ルーキー・小幡竜平選手に「同い年なんだから負けるな」と塁上で勝負させた。
七回一死から中前打で出塁した小幡選手は、次打者の2球目にスタートした。「絶対に刺してやろう!」と坂本選手も意気込んだが、1テンポ遅れセーフにしてしまった。
そのあと、片山選手、島田海吏選手にも走られ、計3盗塁を許したのは、捕手として反省材料だ。
しかし完全に抑え込まれていたタイガースバッテリーに対して、坂本選手の「なんとかしよう!」という気概は存分に伝わった。
最終打席、二死二塁からショートへのゴロで一塁へ果敢にヘッドスライディングを敢行。ここも遊撃手・小幡選手との“竜竜対決”となったが、こちらは坂本選手に軍配が上がった。
「あれだけ塁に出るのが難しい感じやったので、なんとか次のバッターに繋げたい、その姿勢を見せないとって思って」。この気持ちだ。
はじめてのNPBとの対戦を振り返り、「ピッチャーのキレ、野手の動きが全然違った」と衝撃を受け、「すごく勉強になったし、去年ここにいた人がNPBに行って頑張ってるのも、すごい刺激になった。負けてられないっていう気持ちが芽生えた」、そう言って目を輝かせる。
「BCとNPBの違いを肌で感じられた。もっともっとスキルアップできるように頑張りたい!」
今後への大きなモチベーションが生まれたようだ。
■澤端侑選手も収穫大
もちろん坂本選手だけではない。昨年はケガでタイガース戦に出場できなかった澤端侑選手も、この試合で大きな収穫を得た。
「緊張した。自分の力を出しきることができなかったのが、悔しい。やっぱり球の質、コントロールが全然違った。打てそうで打てない」。
先頭打者としてゴロが3つと三振が1つ。出塁すらできなかったことに唇を噛む。
しかし「打てなかったコースが、なんで打てなかったかわかっているので、そこは練習から取り組んでいきたい」と、自己分析は完了している。あとは実践あるのみだ。
澤端選手もまた、昨年「1番・ショート」で活躍し、東京ヤクルトスワローズからドラフト指名された松本友選手の後に続くべく、日々鍛錬を積んでいる。
■「勝ち」はできなかったが、「価値」があったと振り返る田中雅彦監督
0―4で敗れた試合後、田中監督は口を開いた。
「今日はいつも以上に集中して、守備なんかすごくいいプレーがいっぱい出た。慣れないポジジョン守らせた選手もいたけど、自分を一生懸命アピールしようとしていた。いつも求めてる、『いい意味で野球を楽しむ、真剣勝負を楽しむ』というプレーができていた」。
しかしその一方で、課題が色濃くなったことも実感している。打線は先発の小野投手に5回パーフェクトを許し(球数はわずかに56球)、終盤に3安打したのみだった。
「打つほうに関しては、もちろん一生懸命やってはいるけど、今日の小野のようなピッチャーに対して前に飛ばない、アプローチしていけてない。そんな中で、明確に何かやった選手はいたのか。たとえば打席の中でバットを短く持つとか、打席の位置を変えるとか。そういう部分は見られなかった」と嘆く。
「試合の中でのアプローチの仕方というのも、これから練習で必要になってくる。こういうピッチャーと戦うときに、そういう引き出しがなかったら戦えないから。経験させてもらって、またしっかりやらなきゃいけないなというのが明確にできたんで、すごくいい意味のある試合になった。めちゃくちゃよかった、試合ができて。今日の試合はほんと価値がある」。
心から感謝していた。
そしてその感謝の思いは、タイガース側も抱いている。
2戦を戦い終えた平田勝男監督は、「我々は恵まれた環境でやれる幸せを痛感している。選手だけじゃなく、BCの監督やコーチも含めて、ひたむきさや真摯な姿勢を感じた」と語った。練習中から自軍の選手たちにもそれを説き、ハッパをかけていたようだ。
お互いにとっていい機会となったこの交流試合。これからも数多く開催されることを願う。
(表記のない写真の撮影はすべて筆者)
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